エピソード1(脚本)
〇黒
「母親『ほら、もうお別れしなさい』」
「少女『でも・・・』」
「母親『もうすぐ10歳になるんだから。 ぬいぐるみ遊びは卒業しないとね』」
「少女『・・・はい』」
長い時間ぬいぐるみを抱きしめて迷っていた少女は、結局母親の言葉に従ってぬいぐるみをゴミ捨て場に捨てた。
「少女『ばいばい』」
少女は目に涙を滲ませながら、母親に手を引かれて去っていく。
先程まで少女の腕の中に抱かれていたぬいぐるみは、ゴミの中に紛れて遠ざかっていく少女の背中を見つめていた。
「ぬいぐるみ『ボクをおいていかないで』」
ぬいぐるみの心の声はもう少女には届かない。
大好きだった少女の温もりはぬいぐるみの中から消えていく
「ぬいぐるみ『友達だって・・・。 ずっと一緒だって言ったのに」
「ぬいぐるみ『どうしてボクをおいていくの?』」
。。。
〇地球
同時刻。
地球には恐るべき脅威が迫っていた。
遠い銀河より来襲した宇宙人。
地球侵略を目論む彼らの宇宙船が地球のすぐ近くまでやって来ていたのだ。
〇コックピット
素晴らしい。
こんな辺境宇宙でこれほど美しい惑星が見つかるとは。
Zee幹部「この惑星。 是非とも我々の商品にしなくては」
星間侵略商社Zee(ズィー)。
人が住める惑星を見つけては先住民を皆殺しにして星を支配し、
居住権を他の宇宙人に売りつけて金を儲けている悪の組織。
この男はそのZeeの幹部である。
Zee幹部「ふふふ。 この惑星はきっと高く売れるぞ」
Zee幹部「しかし、先住民の数がいささか多すぎるな。 早急に皆殺しにしなければ」
Zee幹部「いつも通りこの種子をばらまいてやるとするか」
Zee幹部「これは我がZeeの科学力で作りあげた【怪人化】の種子だ」
Zee幹部「この種子と結合したものは強力な戦闘力を持つ怪人へと姿を変え、破壊衝動が暴走してあらゆる知的生命体を殺す」
Zee幹部「この惑星の規模だと百個もばらまけば数年で全ての先住民を皆殺しにできるだろう」
Zee幹部「ゆけ! 我がZeeの誇る怪人の種子達よ!」
〇黒
「ぬいぐるみ『さびしいよ。 どうしてボクを捨てたの?』」
「ぬいぐるみ『・・・え? ・・・・・・なに?』」
「ぬいぐるみ『う、うわぁぁぁぁ!!』」
〇空
〇空
〇空
〇公園の入り口
〇公園の入り口
名無し「・・・・・・はぁ」
名無し「ボクはどうなってしまったんだろう?」
名無し「ボクはイヌのぬいぐるみ」
名無し「大好きなあの子に捨てられて、ゴミ捨て場にいたはずなのに・・・」
名無し「気がついたらこんな姿になってここにいる」
名無し「ボクはどうすればいいんだろう?」
名無し「・・・あの子に会いたいな」
名無し「でも、ボクはもう捨てられてしまったんだ」
名無し「!!」
名無し「なに?・・・・・・胸が苦しい」
【憎め】【殺せ】【復讐しろ】
【皆殺しだ】
『世界を滅ぼせ!!』
怪人化プログラム
第二段階・・・・・・開始。
名無し「う、うわぁぁぁぁぁ」
〇黒
アヴァンド「嫌だ。 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁ!!」
???『・・・ぃちゃん?』
???『お兄ちゃん、大丈夫?』
〇公園の入り口
名無し「え? ボクはどうなって・・・?」
名無し「体の内側からとても怖いモノが溢れだしてきて、」
名無し「ボクは違うナニカに支配されて、ボクでなくなってしまうような気がして・・・」
少女「お兄ちゃん、大丈夫?」
気がつくと、目の前には小さな女の子がいた。
名無し「キミは誰? お兄ちゃんって、ボクのこと?」
少女「あのね。 公園で遊んでたら、お兄ちゃんのことを見かけてね」
少女「とても苦しそうだったから、声をかけたの」
少女「はい。汗、びっしょりだよ。 これでふいて?」
女の子はボクにハンカチを差し出してくれた。
怖いモノに心が支配されそうになった時、この子の声が聞こえた気がする。
この子に呼ばれたおかげでボクはまだボクでいられるのかもしれない。
名無し「ありがとう」
ボクは女の子からハンカチを受け取った。
少女「えへへ。 どういたしまして!!」
少女「あのねあのね。 この子はわたしのお友達なの!!」
女の子は腕の中に抱いているぬいぐるみをボクに見せた。
名無し「・・・似てる」
少女「え? なにが?」
女の子が抱いているぬいぐるみは、姿が変わる前のボクにそっくりだった。
ボクは女の子の問いかけには答えずに、女の子とぬいぐるみを交互にみた
名無し「キミとこの子はお友達なの?」
少女「うん!! いつも一緒だよ!!」
女の子の言葉に胸が痛む。
ボクの大好きなあの子もそう言ってたのに。
名無し「でも、キミもいつかはこの子を捨てるんでしょ?」
少女「そ、そんなことしないもん!!」
少女「わたしとこの子はお友達だから!! ずっとずっと、一緒にいるんだもん!!」
名無し「そんなこと言って、みんなぬいぐるみを捨てるんだよ」
名無し「もうお姉さんなんだから、ぬいぐるみは卒業だって」
少女「そんなこと・・・ないもん」
名無し「ボクは知ってるんだ」
名無し「友達だって・・・ ずっと一緒だって言ってたのに、ゴミ捨て場に捨てられたぬいぐるみを」
少女「そ、そんな・・・」
女の子はボクの言葉にショックを受けたみたいだ。
少女「わたしはこの子を捨てたりしないもん!!」
少女「大人になってもずっと一緒にいるんだもん!!」
名無し「そんなの信じられないよ」
〇公園の入り口
その時、公園の反対側から悲鳴が聞こえてきた。
『誰か助けてくれぇーー』
『怖いよー』
『早く逃げてぇーー』
『ば、化け物だー』
〇公園の入り口
少女「え、なに?」
女の子が驚いて、そちらに視線を向ける。
ボクも遅れて、悲鳴が聞こえてくる方を見た。
虫の怪人「ぎゃぎゃぎゃ♪ オラオラ、死ねー人間どもー」
そこには異形の化け物がいた。
化け物は逃げ惑う人間達を追いかけ回して、暴力をふるっている。
『ぎゃあぁぁー』
『た、助けてくれー』
『誰か救急車をーー』
公園にいた人達が化け物に襲われて次々と倒れていく。
沢山の人が、圧倒的な暴力の力でなす術もなく血を流して地面に倒れていく。
ボクはアレがなんだか知っている。
ボクを内側から支配しようとしてたモノ。
それはあの化け物と同じモノだ。
ボクもあの化け物と同じモノになるはずだった。
同じモノがボクの中にもいるからわかるんだ。
あれは人間を滅ぼす怪人だ。
少女「お、お兄ちゃん。 怖いよ」
女の子がボクの腕にぎゅっとしがみつく。
この子を守らないと。
名無し「逃げるんだ。 早く!!」
ボクは公園の出口を指指してそう言った。
少女「お、お兄ちゃんは?」
名無し「ボクはいいから!! 早くいけ!!」
少女「う、うん!!」
ボクに背中を押されて、女の子は慌てて公園の出口へ走っていく。
遠ざかっていく女の子の背中を見てボクは安心する。
だけど・・・気づいてしまった。
ボクの足元に、
あの子の腕の中からこぼれ落ちたぬいぐるみが取り残されているのを。
名無し「なんだ」
名無し「やっぱり捨てるんじゃ・・・ないか!!」
名無し「ああぁぁぁぁぁぁ!!」
〇黒
【憎め】【殺せ】【復讐しろ】
【皆殺しだ】
【世界を・・・滅ぼせ!!】
〇公園の入り口
オレハ、怪人にナッタ。
怪人の姿に変わったとたん、頭の中に情報が流れ込んでくる。
オレハ、星間侵略商社Zee(ズィー)の怪人。
コノ惑星の人間をスベテ滅ぼす。
強力な破壊の力を手に入れたオレの名前は・・・・・・
愛スル者に捨てられた虚ろなる魂の怪人。
アヴァンド「【アヴァンド】だ!!」
虫の怪人「あーん?」
虫の怪人「そこにいるのは、もしかしてお仲間か?」
アヴァンド「ソウダ。 オレモ、Zeeの怪人だ」
虫の怪人「そりゃいいや。 一緒に人間をぶっ殺そうぜ♪」
アヴァンド「アア。 ソレもいいな」
オレハ、地面に倒れている人間の背中を思い切り踏みツケタ。
『ぎゃぁぁー』
アヴァンド「人間の苦しむ声が響きわたる。 ソレが今のオレには快感ダッタ」
頭の中では種子からの命令ダケガ、繰り返されている。
【憎め】【殺せ】【復讐しろ】
【皆殺しだ】
虫の怪人「あ? なんだこりゃ?」
虫の怪人「けっ。 人間の持ち物かよ」
振り返ると、怪人は女の子が置いていったぬいぐるみを踏みつけていた。
虫の怪人「うりゃうりゃ♪ このゴミクズが♪」
〇黒
その光景を見て、一瞬、怒りの感情が浮かんだがもうオレには関係無いコトダ。
オレは、再び人間どもを攻撃する。
『やめてーーー!!』
〇公園の入り口
聞き覚えのある声に目をやると、そこには怪人の足にしがみついて、ぬいぐるみを守ろうするあの女の子の姿があった。
少女「返して!! わたしのお友達・・・」
虫の怪人「なんだ、このガキぃ? 死ね!!」
ガキィィィン!!
気がつくと体が勝手に飛び出して女の子を守っていた。
そして、そのまま怪人を遠くへ突き飛ばす。
虫の怪人「ぐわぁぁぁ」
少女「ごめんね。ごめんね」
オレは、ボロボロになったぬいぐるみを抱きしめる女の子に問いかける。
アヴァンド「ナゼ、戻ってきた?」
少女「この子を見捨てるなんてできないもん!!」
アヴァンド「オレの知るぬいぐるみは友達に捨てられた」
アヴァンド「人間はぬいぐるみを捨てる」
少女「その子だってきっと迎えに来たよ!! 捨てたことを後悔して、」
少女「わたしみたいに泣きながら迎えに行ったと思う!!」
少女「だって友達だもん!!」
友達に捨てられたオレは、そんな言葉を簡単には信じられない。
だけど、
オレは・・・ボクは。
もう一度、あの子に・・・。
虫の怪人「てめぇ。 ふざけやがって!!」
虫の怪人「ぶっ殺す!!」
吹っ飛ばした怪人が怒りの表情で戻ってきた。
ボクに敵意の視線を向けてくる。
虫の怪人「その前に目障りなお前からだ!!」
少女「きゃあ!!」
怪人の拳が女の子に向けて振り下ろされる。
アヴァンド「やめろ」
ボクはその攻撃を受け止めた。
虫の怪人「・・・Zeeを裏切って人間に味方するのか?」
アヴァンド「人間は殺さない」
アヴァンド「代わりにお前を殺す!!」
ボクと怪人は女の子から距離をとって戦闘態勢に入る。
種子から戦闘用データが脳内に送られてくる。
アヴァンド「【グレズリークロー】」
そう呟くと、ボクの右腕が巨大な針の形に変わる
【ダッシュ】
ボクは怪人へ向かって高速移動しながら標準を定めた。
アヴァンド「【ストライク】」
猛スピードで繰り出されたボクの右腕が怪人の胸部を指し貫いた。
虫の怪人「ぐわぁぁ!!」
胸の奥にある種子を貫かれた怪人は、跡形もなく爆散した。
アヴァンド「破壊完了」
脳内から破壊衝動が消えていく。
ボクの体は人間体に戻っていた。
少女「お、お兄ちゃん?」
驚いている女の子にそっと近づいて頭を撫でる。
名無し「あのままゴミ捨て場で待っていたら・・・」
名無し「あの子は迎えに来てくれたのかな?」
ボクがぬいぐるみだったことを知らない女の子には意味のわからない質問だと思う。
でも、女の子は満面の笑みで答えてくれた。
少女「うん!! 絶対迎えに来たと思うよ」
〇黒
アヴァンド「あの日、あのままゴミ捨て場にいたらあの子は迎えに来てくれたのか?」
その答えは、今はもうわからない。
アヴァンド「ボクは星間侵略商社Zee(ズィー)の怪人。 【アヴァンド】。 この惑星の人類を滅ぼすための兵器だ」
だけど・・・
ボクはまだあの子の・・・
人類の友達なのかもしれない。
Zeeの怪人はボクを入れて残り99体。
怪人達が人類を滅ぼしてしまう前に、
その答えを探す旅に出ようと思う。
名無し「もう一度あの子に会いたいな」
完
このお話ではぬいぐるみでしたが、現実社会では生きている犬猫がゴミのように捨てられて処分されていますよね。「あの子に会いたい」と飼い主を思いながら保健所で待っている子もいるでしょう。「自分も待ち続けていたらあの子は戻ってきただろうか」というアヴァンドの問いかけに胸が痛くなりました。
昔持っていたぬいぐるみ達。
たまに実家に帰った時に懐かしい〜って見たりしますが、当時はいつも一緒にいたなぁ。
物にも命があるってのは、間違いではないのかもしれません。
人間の持つ純粋さは掛けがえのないものですね。たかがぬいぐるみ、されどぬいぐるみ。私はいい大人ですが、ぬいぐるみと一緒に育ち、今でも彼らの中に魂を見出して接している一人です。このお話には100セント共感しました。