読切(脚本)
〇渋谷のスクランブル交差点
イクス「いてっ!」
イクス「ここは・・・」
地球・夜ノ架(やのか)市
人々「ざわざわ・・・」
イクス「あれは地球人・・・か?ということは、地球?」
地球人「k○@□x・・・」
イクス「何言ってるか分かんねえ。言語を揃えよう」
地球人「またあれ、異星人じゃない?」
地球人「やだっ、こっち見てる!逃げましょ!」
地球人「怖い、不気味・・・」
地球人「襲われたくない・・・」
イクス「・・・誰が襲うかっつの」
人々が去っていく・・・
イクス「地球か。俺、やっぱり“ホール”に落ちたんだな。最悪だ」
イクス「妙に息苦しい。地球の空気が合わないんだろうな」
イクス「エナジーはまだある。帰る時に必要だが、少しくらい使ってもいいな」
イクス「俺の周りだけ空気を調節しよう」
イクスは透明なオーブを纏った
イクス「ふう。多少は息がしやすくなった」
イクス「まずは何か食べるか。たくさん食べて寝て、エナジーをたくさん作ろう。そうしたら星に帰れる」
イクス「こんな場所、俺みたいなやつがいても居心地が悪いだけだ」
地球人「不気味・・・」
地球人「怖い!」
イクス「ふん。地球なんてこっちから願い下げだ。空気だって汚いし」
イクス「さて。食い物はどこにあるんだ?」
イクス「地球に関する本は何冊か読んだが、来るのは初めてだからな」
イクス「ええと、店・・・?店で金?を渡してから食うんだったか。店ってどこに・・・」
イクス「ん?なんだこの匂い」
???「美味しいクレープですよ~バナナにイチゴ、チキンもありますよ~」
イクス「あれか?でも、どう見ても花だよな・・・?くれーぷ?」
シャム「いらっしゃいま・・・あっ!?お兄さん!」
イクス「・・・」
シャム「お兄さん、異星人でしょう!?」
イクス「わっ!?突撃してきた!なんだお前!?」
シャム「すごいすごい!!嬉しいなあ!」
シャム「異星人だ!ははっ、会えて嬉しい!」
イクス「やめろ、勝手に手を掴むな!なんなんだお前は!」
シャム「僕も異星人なんですよ!お揃いですね!」
イクス「お前が?どう見ても地球人だろ?」
シャム「お兄さん、何か透明なオーラを着てます?」
イクス「!見えるのか?」
シャム「ほんのり見えます」
イクス「地球の人間には見えないはず」
イクス「ということは。お前は地球人じゃない、のか・・・?」
シャム「さっきから言ってるじゃないですか。僕は異星人です」
シャム「僕の名前はシャム。故郷の星はγ・・・っと、宇宙番地5785号と言った方が分かりますかね?」
イクス「いや分からん。他の星には興味がない」
シャム「へえ。お兄さんの星では、お兄さんみたいな人がたくさんいるんですか?」
イクス「イクスだ。俺の星では、そうだな・・・少なくとも俺は普通だったよ。変な目で見られることもない」
シャム「それはいいですね。みんなと同じって」
イクス「故郷なら普通だろ」
シャム「そうとも限りませんよ。僕は違いましたから。見ればわかると思いますけど」
イクス「なにが?」
シャム「僕は地球人そっくりでしょう」
イクス「どう見ても地球人だ」
シャム「でもね、僕の星には『地球人そっくりな人はいない』んです。なぜか僕だけが、この見た目で生まれた」
イクス「何?」
シャム「僕は故郷じゃ、変わり者だったんです。僕だけ違う見た目で、変な目で見られて、いつも不気味がられて・・・」
イクス「・・・」
シャム「今は違います!ほら、地球にいれば僕は普通でしょう!?みんなと同じ!これがどんなに嬉しいことか!!」
イクス「・・・じゃあお前は自分でホールに落ちたのか?」
シャム「はい!・・・ホールの先は必ず地球に繋がってるって聞いて、僕はホールを探し続けたんです」
イクス(そう。ある日突然、宇宙に小さな穴が開いた)
イクス(その穴、”ホール”は・・・数多ある惑星のどこかに、突然開く)
イクス(誰かが気まぐれで、惑星にぷすっと針を突き刺すように)
イクス(真っ暗なホールに落ちると、必ず地球に出る。なぜかは分からないが・・・)
イクス(ホールに落ちたやつが自力で帰って来て言ったんだ。穴の先は地球だったって)
シャム「僕は地球人に見た目がそっくりだから。地球に行きたかったんです」
イクス「変な奴だな。地球なんて、ただ生き物が多いだけだろ」
イクス「俺はこんな場所、嫌で仕方ないぜ」
シャム「イクスは帰りたいんですか?」
イクス「ああ。エナジーを溜めたらすぐに帰る」
イクス「地球の奴はエナジーもないんだろ?気色悪い生き物だよな。小さくて弱くて」
シャム「・・・」
イクス「何でお前がそんな顔をする。お前は地球人じゃないだろ」
シャム「でもほとんど同じです」
イクス「どこが?お前はエナジーもあるんだろ?地球人とは違う」
シャム「確かにそうですが・・・そうじゃなくて」
イクス「?」
シャム「僕は小さくて、弱くて、気色悪いですか?」
イクス「は?」
シャム「見た目だけだと、僕は地球人と変わらない」
シャム「貴方も、僕の故郷の人と同じことを言うんですね。気色悪いって」
イクス「・・・」
シャム「あ、すみません、つい・・・ええと、クレープ作りましょうか。僕のお店ですし、お金はいりませんから」
イクス(小さい家?でごちゃごちゃやり始めたぞ・・・?)
イクス「おおっ!?水を掴んでる!?」
シャム「クレープの生地ですよ。焼くと固まるんです。面白いですよね」
イクス「おっ、おお!?なんだ、何がどうなってる!?」
シャム「包装紙を巻いてっと・・・完成!」
シャム「はいどうぞ。美味しいですよー」
イクス「これ、やっぱり食い物なのか?」
シャム「貴方の星だとどういうものを食べてたんですか?」
イクス「木の実とか小動物」
シャム「料理は?」
イクス「そういう行為があることは知ってるが」
シャム「これもそうですよ。さあ、食べてみてください」
イクス「ど、どうやって?」
シャム「上からがぶっと!」
イクス「ん?あ?」
イクス「がぶっ」
イクス「うお!?なんだこりゃ!?あ、甘っ!!」
イクス「なんだこの白いのは、べ、べたべたしてる!」
シャム「生クリームです。美味しいですか?」
イクス「分かんねえよ・・・食い物の味とか、あんま気にしたことねえし」
シャム「そうですか、残念。僕は大好きなんですけどね、クレープ」
イクス「そうかよ」
シャム「ここのクレープ屋、元々やってた人が入院することになっちゃって。僕が代わりにお店を引き継いだんです」
イクス「ニュウイン?よく分かんねえ」
シャム「地球のことを色々教えてくれたのがその人だったんです。しばらく会ってないんですけどね」
イクス「会いたいのか?」
シャム「ん、でも、会えないです。病院に異星人は入れませんから」
イクス「なんでだよ」
シャム「異星人に襲われた患者がとても多いんです。トラウマになってる人ばかりだから」
イクス「お前なら入れるんじゃないのか」
シャム「いえ。身分の証明ができないので」
イクス「やっぱ地球ってめんどくせえ」
シャム「僕にとっては楽しくて嬉しいことの方が多いです」
イクス「・・・」
イクス「ん?なんか騒がしくないか?」
「きゃー!わー!」
「ひえぇっ!異星人だー!」
「助けてくれー!」
イクス「何事だ?」
轟音が響いている
異星人「ハハハッ!地球ってのは脆いよなあ!全部破壊してやるぜぇ~!!」
イクス「異星人!エナジーを使って大暴れしてやがる」
シャム「止めましょう」
イクス「お前があれを止めるのか?」
シャム「止めないと!怪我人がたくさん出ます!」
イクス「怪我人が出たところでお前に何の関係があるんだよ」
シャム「イクス。地球人と僕たちの大きな違いはどこか知っていますか」
イクス「はあ?」
シャム「確かに地球人は弱くて小さい生き物です。エナジーもないから、生身じゃ戦えない」
イクス「弱すぎるだろ」
シャム「だからこそ、お互いを助け合って生きてるんです。僕だって強くはないけど、できる限り助けたい」
シャム「僕も・・・人に助けてもらえたことが、すごく嬉しかったから!」
イクス「おいっ!無茶すんな!とにかく逃げた方が・・・はっ!」
異星人「異星人がいるじゃねえか!ラッキー!」
シャム「もうこんなことはやめろ!・・・うぐっ!」
異星人「お前も異星人か?にしては細い首だなァ~!弱い弱い!地球人そっくりだ!」
イクス「手を離せ!俺が相手する」
イクス「帰る時のためにエナジーは使いたくなかったんだが・・・」
異星人「おっ!やる気になってくれたか!いいねえ!やろうぜぇ!」
異星人「オラッ!」
イクス「ぐっ!」
イクス(まずい、こいつ結構強い!?)
異星人「何焦った顔してんだよ!まだ行くぜ!」
イクス「くそっ!」
異星人「苦しそうだなあ!お前を倒して食って・・・俺は強くなるんだ・・・!ハハハハッ!」
イクス「食って強さが変わるわけ、ねえだろ!」
異星人「お?同族を食ったことがねえのか?」
イクス「なに・・・?」
異星人「教えてやるよ!実はな、エナジーが多い奴を食えば食うほど強くなるんだぜ!」
異星人「実際、俺は強いだろ!?ハハハハ!」
イクス「・・・信じられねえ奴だ」
異星人「さっさとくたばって餌になりやがれ!」
イクス「うっ・・・防げるか・・・?」
シャム「やめろーっ!」
シャム「ううっ!」
イクス「なっ!?」
イクス「お前、何で俺を庇って・・・!?」
異星人「おいおい弱いのはいらねえんだよ。全く、無駄なことしやがって」
イクス「てめえ・・・」
異星人「何怒ってんだ、所詮は他人だろ?」
イクス「シャム、大丈夫か?死んでるんじゃねえだろうな」
シャム「・・・」
異星人「無視すんなよ。次はお前の番だ!」
「!?」
何かが飛んできて異星人の体に巻き付いた!
異星人「なっ、なんだ!?鎖?こんなもん簡単に」
異星人「あれ、嘘だろ、エナジーが使えねえ!」
異星人「ふざけんなっ!くそっ!!」
警察「警察だ!それは対異星人用の拘束具だ。大人しくついてきてもらおう」
イクス「警察?」
警察「そこの異星人。お前は我々の敵か?」
イクス「俺は・・・」
警察「倒れているのは地球人か?治療が必要なら我々が預かろう」
イクス「こ、こいつは、俺の知り合いで。少し気絶してるだけだ。問題ない」
警察「分かった。地球にいる間は悪さをするなよ。後悔するぞ」
異星人「うがああ!離せええ!!これを外せっっ!!」
イクス「連れて行かれた・・・地球の警察?って強いんだな」
イクス「おい、シャム、いつまでぶっ倒れてんだよ」
シャム「・・・」
イクス「おい・・・」
イクス「地球は楽しいんだろ。こんなとこで死んでんじゃねえよ」
イクス「!シャムの体に、まだ微かにエナジーが残ってる」
イクス「俺のエナジーを使えば!だが根こそぎ渡すくらいでないと・・・」
――エナジーとは。地球外惑星の人間たちが持つ、特異な力である
自在に扱える便利な道具であり、攻撃手段であり、癒しの力にもなる
異星人にとってエナジーは”もう一つの自分の肉体”のようなものだ
イクス(エナジーを使い切ったらどうなる?俺は死ぬのか?)
イクス「――俺は、死ぬのが怖いか?」
イクス「いや。怖くねえ。俺の星じゃ日常茶飯事だ!」
イクス「戻ってこいシャム!俺を踏み台にするつもりで生きろ・・・!」
イクス「うおおお・・・!!」
〇店の入口
数日後
シャム「お腹すいた」
イクス「分かってる。まず店に入ったら、挨拶?」
シャム「いくぞー!」
レストランの店員「いらっしゃいませー!」
イクス「待て!!勝手に行くな!」
シャム「大丈夫だよイクス。何とかなるから!」
イクス「俺は何とかならねえんだよ!あー、こ、こんにちは。二人、入れますか?」
レストランの店員「地球人の方が同伴しているのなら入店できますよ。こちらへどうぞ」
イクス「ありがとう、ございます」
〇テーブル席
シャム「イクス、何食べる?」
イクス「・・・」
イクス(俺はエナジーを全て失くした。もう星には帰れない)
イクス(お陰でシャムは生き返った。だが、代わりに)
シャム「イクス、これは何?」
イクス「メニュー表。これを見て食べ物を選ぶ、らしい」
シャム「じゃあ全部食べよう!」
イクス「無理に決まってんだろ!」
イクス(シャムは記憶を失くした。故郷のことも覚えていない。無邪気な子供みたいだ)
地球人「異星人!?でも友好的なタイプね、ああ、びっくりした」
イクス(地球人と一緒にいれば、異星人でもあまり嫌がられない)
イクス(まあ、シャムも異星人なんだが。どうせだ、この外見を利用させてもらおう)
シャム「イクス、これは何!?」
イクス「あ?これは、ああ・・・クレープだ」
シャム「食べ物?美味しい?食べたことある?」
イクス「・・・ああ、美味しいよ。すごくな」
最初は地球という場所に文句タラタラだったイクスが、シャムと出会って仲良くなったら地球人や食べ物にも興味を持った。ということは、異星でも異国でも私たちの心を捉えるのは「場所そのもの」ではなく「現地の人の心」なのかも。お互いに助け合うことを覚えたイクスはもう立派な地球人ですね。
優しさがすごく伝わってきました。
星、という規模はスケールが大きい分可能性は無限大。
生まれも育ちも違う異世界人が、こうして命をかけて守るってのは、胸が熱くなりました!
シャムという存在がとても愛しく感じました。本来のシャムではなくなっても、イクスは悪用することなく共に地球人社会になじもうとしたところにも好感がもてました。