3か月の命だとしても(脚本)
〇黒
吸血鬼。
生き血を啜り人に仇なす存在。
伝説上の怪物だと信じていた──あの日までは。
〇高級マンションの一室
如月冬牙「どうし・・・て」
〇血しぶき
血の海にいたのはかけがえのない人たちだった。
〇高級マンションの一室
そこで笑っていたのは──。
〇ビルの裏通り
如月冬牙「うわぁぁあああ!!」
神島刹那「とう・・・が。冬牙!」
如月冬牙「・・・刹那さん」
神島刹那「起きた? ・・・うわ、真っ青」
如月冬牙「・・・この間のこと、思い出して」
神島刹那「ああ・・・家族、殺されたんだっけ」
神島刹那「・・・つれぇよな。ま、無理すんな」
如月冬牙(・・・何もできなかった。俺は)
〇高級マンションの一室
数日前
ロード「ちっ・・・男かよォ、さっさと死ねエ!」
如月冬牙「やめ・・・ろ」
如月冬牙(死にたくない・・・!)
如月冬牙「誰だ!?」
現れたのは異形の存在。
デスサイズ「クソッ、ひでぇ」
エアレイド「・・・ここまでだ、吸血鬼」
ロード「はーん、テメェらが『カミカゼ』かア・・・?」
ロード「ぶっ殺してやるウ!」
コウモリ「チチッ」
ロード「あン? なんだ?」
拳を鳴らしながら臨戦態勢に入る吸血鬼だが、その肩にコウモリが止まる。
ロード「帰ってこいだア・・・? チッ、真祖サマは気が短けエ」
ロード「命拾いしたなア? あばよっ!」
デスサイズ「逃すかっ!」
エアレイド「放っておけっ!」
デスサイズ「けど──」
エアレイド「人命優先だ・・・お前、怪我は?」
如月冬牙「えっ、あ・・・」
如月冬牙(敵、じゃない?)
如月冬牙「無い、です。あなたたちは──?」
デスサイズ「俺ら正義のヒーロー!」
デスサイズ「ほらほら、テレビでいるっしょ? 人造人間!」
エアレイド「茶化すな、デスサイズ。俺たちは吸血鬼特別対策官──『カミカゼ』だ」
如月冬牙「カミカゼ・・・」
『カミカゼ』。確か昔の特攻隊の名前だったはず。
デスサイズ「殉職率100パーだからな。そう言われてんの!」
エアレイド「・・・必ず、お前の仇は取って──」
如月冬牙「あの・・・」
デスサイズ「ん? 何?」
如月冬牙「俺も・・・入らせてください!」
〇ビルの裏通り
如月冬牙「刹那さん。俺、刺し違えてもアイツを・・・」
殺す、そう告げようとしたとき。
オペレーター「もぉ〜! 初陣から暗いのナシ! アタシも付いてる、絶対死なせないよっ」
如月冬牙「蓜島さん・・・繋がってたんだ」
〇研究機関の会議室
同時刻、作戦本部
蓜島希。彼女は俺たちをバックアップするオペレーターだ。
彼女は作戦本部にいるためイヤフォンからの音声だけだが、前向きな性格が伝わってくる。
〇ビルの裏通り
神島刹那「おっと、俺も忘れんなよ? 敵なんてそっこーお陀仏だって!」
如月冬牙「ははは・・・」
暁隼人「・・・少しは危機感持て、刹那」
如月冬牙「隊長・・・!」
神島刹那「隼人さん!」
俺たちの前に現れたのは、隊長である暁隼人。眉間に皺を寄せているが面倒見の良い先輩だ。
暁隼人「・・・先程司令部から伝令があった。オペレーター概要を」
オペレーター「はーい! 今日の作戦はあ~、逃走中の吸血鬼4体の殲滅です!」
オペレーター「ターゲットがいるのは、目の前の18階建ての廃ビルだよ。吹き抜けだから落下に気をつけて~」
オペレーター「強い吸血鬼反応があるのは最上階。もしかして高等吸血鬼(ヴァンパイア・ロード)?」
オペレーター「あとあと〜その下の階ににも吸血鬼反応アリ! そっちは3体だよ!」
如月冬牙「合計4体・・・」
神島刹那「まっ、気楽に行こう、な?」
暁隼人「はぁ・・・緊張感に欠ける」
神島刹那「力抜くのも大事っスよね? 冬牙もなんか言えって!」
如月冬牙「・・・ノーコメントで」
神島刹那「あっ、裏切りやがったな? こいつぅ~」
暁隼人「・・・これより吸血鬼殲滅作戦を開始する」
神島刹那「って無視かよッ! はーいはい、俺も準備おっけ!」
オペレーター「ではカミカゼ部隊──行動開始します!」
〇渋谷スクランブルスクエア
俺たちはビルの指示されたポイントまで駆け上がる。
〇廃ビルのフロア
暁隼人「指定位置に到着。戦闘体制に入るぞ。オペレーター、バイタルチェックを」
オペレーター「了解ですっ!」
オペレーター「暁隼人・・・コードネーム、エアレイド」
オペレーター「神島刹那・・・コードネーム、デスサイズ」
オペレーター「如月冬牙・・・コードネーム、ファング」
オペレーター「──3名とも異常ナシ!」
如月冬牙(これが俺の・・・ロザリオ)
それは、先端が杭のように尖っていた。中央には『February.28』と刻印されている。
如月冬牙(この日に・・・俺は死ぬ)
覚悟して『カミカゼ』になったが──死ぬ日が決まっているのは気が重い。
神島刹那「なになに〜? やっぱ怖え?」
如月冬牙「べ、別に・・・怖くない!」
暁隼人「あまりからかってやるな・・・安心しろ、痛みは一瞬だ」
神島刹那「・・・そっちのが脅しですって」
如月冬牙「はは・・・っ、あれは──」
吸血鬼「うぁぁぁ・・・」
吸血鬼。生き血を啜り、人類に仇なす怪物。3体の化け物が俺たちを睨む。
神島刹那「出迎えごくろーさん。ちゃちゃっと片付けますか!」
如月冬牙「ああ!」
俺たちはロザリオを一斉に胸に構えた。
〇黒
如月冬牙「我ら罪人のために」
如月冬牙「この刹那、死を迎えるときも、お祈りください──」
如月冬牙「ぐッ──」
ロザリオを心臓に突き刺す。鋭い痛みが胸に広がった。
鉄の杭は体から貫通し、心臓から炎のように闇が噴き出し、俺を包んでいく。
〇廃ビルのフロア
俺たちは人ならざる姿に変貌する。吸血鬼を殺せる唯一の戦士。
強大な力を望んだが故に、代償に命を捧げたもの──それがカミカゼだった。
ファング「かかってこい──ヴァンパイア!」
〇廃ビルのフロア
吸血鬼「ぉぉぉおお!!」
ファング「・・・来たなっ!」
心臓目がけ飛びかかってくる吸血鬼。俺は身を躱し、攻撃を避ける。
ファング「壁が・・・抉れて──?」
一撃でこの威力。俺は気を引き締めて相手を睨む。
デスサイズ「ファングっ、大丈夫か? ・・・っと!」
エアレイド「・・・集中しろ。隙を突け」
ファング「分かった!」
吸血鬼「ぐぉぉぉぅぅ!」
闇雲に腕を振るう吸血鬼。
右手を上半身を捻り避け、左手を短剣で受け流す。
吸血鬼「ンギィッ!?」
ガチンとぶつかり合った反動に、吸血鬼は一瞬の隙を見せた。
ファング「失せろ・・・ヴァンパイアっ!」
俺は短剣を胸に突き刺し、吸血鬼の心臓を抉り取る。
吸血鬼「ぁ・・・ぅ・・・」
吸血鬼は短く呻き、灰になった。
ファング「・・・死んだか」
俺は短剣に付いた血を払う。まだ手には生暖かい感触が残っていた。
ファング「2人は・・・?」
隼人と刹那──エアレイドとデスサイズを探す。
デスサイズ「灰にしたぞ! いやぁ〜、燃やす手間省けて楽!」
エアレイド「こちらも。オペレーター、反応は?」
オペレーター「はいはいっ吸血鬼3体の消滅を確認! お疲れ様──って、ロードの反応?! 皆避けてっ!」
3人「!?」
〇廃ビルのフロア
俺たちはそこから飛び退いた。すぐに天井から衝撃を感じる。
ロード「フン、避けたか・・・猟犬ども」
ファング(・・・! こいつだ・・・俺の仇・・・!)
目の前に現れたのは、あのとき家族を殺した吸血鬼だった。
長い槍状の獲物を携えている。
デスサイズ「残念! ・・・くたばんのはテメェだっ!」
デスサイズは大鎌を構え、そしてロードに容赦なく振るう。
ロード「はンッ、おっせえよ!」
細い槍が大鎌をいとも簡単に弾き返す。先程の相手とは桁違いの強さだった。
デスサイズ「・・・返されたっ!? エアレイドっ!」
エアレイド「ああ、援護する!」
散弾銃を手に持ちロードに応戦するのはエアレイド。
ロード「はー、ぬるい。大したことねエな、お前ら」
ファング(全部弾いた!?)
ファング(けど・・・俺の武器なら)
ファング「はぁぁぁあああ!!」
ロード「馬鹿か! テメェはよオッ!」
ファング「が、あああぁぁあああアアア!!」
俺の腹に槍が貫通する。血飛沫が飛び散り、ロードの頬を濡らす。
エアレイド「貴様!!」
エアレイドは銃を構えロードに標準を定めるが・・・
ロード「辞めときな、蜂の巣になんのはコイツだぜ?」
エアレイド「ぐっ・・・」
ファング(くそ・・・いっそ──道連れに!!)
ファング「がっ・・・かはっ・・・ぐぅ──」
俺は腹に突き刺さった槍を掴み、ロードを持ち上げる。
ロード「なッ? テメェ──!?」
ファング「死ねぇぇぇええ!!」
そして──槍をごとロードを突き落とした。
デスサイズ「ファングゥぅぅッーー!!」
刹那の悲鳴を聞きながら、下へ落ちていった。
〇ビルの地下通路
如月冬牙「・・・生きて、る?」
数十メートル上から落下したが無傷だった。
如月冬牙「アイツは・・・!?」
ロード「・・・図に乗んじゃねエ! ガキィ!!」
如月冬牙「いつの間に──!? クソっ!」
俺は咄嗟に銃を構え発砲するが──。
ロード「効くかッ!」
吸血鬼は銃弾を避けることすらしなかった。
そして、持っていた長槍で俺の心臓を貫く。
如月冬牙「ぐぁっ──!」
ロード「さっさと死ねッ! 虫けらッ」
如月冬牙「がっ・・・! テメェにだけ、はっ!」
ロード「何だその面ア? 言いてえことでもあんのか、あ゛っ?」
如月冬牙「──なぜ、殺した・・・俺の・・・か、ぞく・・・」
ロード「・・・あン?」
如月冬牙「・・・バラバ、ラにされた・・・忘れ、たとは・・・言わせねぇ・・・」
ロード「・・・はははっ! お前、あん時のガキか!」
ロード「生き延びたくせに、殺されにくるってかア!? 傑作!」
如月冬牙「お・・・し、えろ」
ロード「ンなもん、楽しいからに決まってんだろオッ!」
如月冬牙「ぐぁああああああ!!」
ロード「死ね、運のツキだ」
俺は無言で銃を構える。
ロード「馬鹿か ? んなもん効くかよッ!」
如月冬牙「・・・的はお前じゃねぇ」
ロード「はア?!」
俺は背後にあるガス管に向けて弾を放った。
ロード「なッ──!?」
銃弾は瞬く間にガスに引火し、爆風で俺たちは宙に打ち上げられる。
ファング「覚悟しろっ!」
その隙に変身する。俺の体は闇に包まれて──再びカミカゼに変貌した。
〇渋谷スクランブルスクエア
爆風に飲まれ、俺たちはビルの外に飛び出る。
ロード「ちッ、この程度──」
打ち上げられた吸血鬼は、俺に向かって矛先を向ける。だが──。
エアレイド「下がれっ、ファングッ」
ファング「・・・! はいっ!」
翼を広げて、空中を滑走するエアレイド。マシンガンをロードに標準を合わせる。
ロード「ぐっ──!」
不意打ちでだったのか、全ての弾は捌ききれない。苦痛に顔を歪めるロード。
デスサイズ「お返しだ! 喰らいなッ!!」
ビルから飛び降り、大鎌を振りかぶるのは、デスサイズ。
ロード「バカな──!? がっ、はぁッ!」
デスサイズ「いけっ、ファング! 仇をっ!」
ファング「ああ! ・・・祈りは済ませたか? ヴァンパイアっ!」
ロード「テメェ、なんぞに・・・!!」
ファング「死んで詫びろ──グレイ ・ツペリシュ!!」
剣に電撃が集まり吸血鬼を断罪する刃となる。そして──。
ロード「ぐっ、ああああぁぁアア!!」
俺はロードの心臓を貫き潰す。奴は瞬く間に灰になった。
〇ビルの屋上
如月冬牙「終わった・・・」
如月冬牙(皆・・・仇、討てたよ)
神島刹那「はぁ〜ヒヤヒヤしたぜ、無茶しやがって〜」
暁隼人「・・・無事で何よりだ」
如月冬牙「刹那さんに隊長! ・・・すみません、勝手に・・・」
神島刹那「ぜーんぜん、あんぐらい気にすんな」
暁隼人「冬牙、もう思い残すことは無いか?」
如月冬牙「えっ、それは・・・」
神島刹那「だから! 言い方!」
神島刹那「はぁー、多分こうっしょ? 『仇打ち終わったけどこれからどうする』って?」
暁隼人「・・・そんなものだ」
如月冬牙「俺は──」
仇を討つために、残りの人生を捧げた。それが復讐の唯一の手段だったから。
如月冬牙(けど・・・それだけじゃ駄目だ)
如月冬牙「これからも・・・奴らを殺す」
如月冬牙「・・・俺みたいな奴、1人で十分だから」
命ある限り、戦い続けると誓ったのだった。
〇通学路
男性「かはっ──」
真祖「はぁ、おいしくないわねぇ」
干からびた男を乱暴に地面に投げつける。残り滓には用はない。
コウモリ「チチ・・・チッ」
コウモリが私の肩に乗ってきた。おおよそ『カミカゼ』のことだろう。
真祖「あーあ、アイツ死んだのねー。ざーんねん」
真祖「それにしても・・・新しいカミカゼ・・・気になるわぁ」
真祖「・・・ふふっ、冬牙くんって言うんだぁ。・・・楽しみ」
女は舌なめずりしながら、夜闇に溶けていった。
ヴァンパイアと怪人の対決はありそうでないモチーフで、興味深く拝読しました。緊迫の戦闘シーンがダイナミックかつ細かい動きまでよく分かる描写で、感心すると同時に引き込まれました。最後に意外な姿のラスボスが登場しましたが、意味深な発言もあって続きが気になるところです。
カミカゼと名付けられた部隊ですが、彼らは自らの強い意志でその任務を担っていたのがよかったです。家族が何かの犠牲になって、医者や警察官を志願する人のように、彼も仇を討つためだけでなく、世の人の為にと気持ちが変わっていく様子がとてもよかったです。
家族の仇のためにカミカゼ部隊に入るところから仇を打つところまで、自分ならどうするかなあと考えながら読ませて頂きました。同じ目に合わせないためにもこれからも頑張ってほしい!とも思いました!