「榊原 蒼」の人生(脚本)
〇ビルの屋上
蒼「...疲れた」
蒼「ここから飛び降りて死ねばこの会社の評判も下がる」
蒼「あいつらの言いなりになって生きるのはもうごめんだ」
蒼「じゃあな、クソども!!」
ぽんっ
蒼「っ、誰だ!?邪魔すんじゃ──」
怪人教会・幹部「やぁ、こんばんは」
蒼「死...神?」
怪人教会・幹部「君を救いに来たよ」
蒼「俺に救いなんていらないっ」
怪人教会・幹部「...」
怪人教会・幹部「殺したいほど憎いやつを殺せる力」
怪人教会・幹部「欲しくないか?」
蒼「...ほんとにあるのか?」
怪人教会・幹部「我々に協力をすると言うなら」
蒼「おもしれぇな、その話乗ってやるよ」
怪人教会・幹部「そう言ってくれると思ったよ」
怪人教会・幹部「さぁ私についてこい」
──突然不思議な魔法陣が出てきた
蒼「殺してやる、あいつらみんな!」
怪人教会・幹部「では行くぞ」
〇魔界
蒼「...ここは」
怪人教会・幹部「我々のアジトだ」
怪人教会・幹部「まずお前にこの鎧をやろう」
怪人教会・幹部「着てみろ」
蒼「承知した」
数分後
蒼「これでいいか?」
怪人教会・幹部「ああ」
怪人教会・幹部「この鎧は人の生命力を使う代わりに使用者の力を底上げする」
蒼「技とかはあるのか?」
怪人教会・幹部「「スキル」と言えば確認できる」
蒼「...スキル」
ヴンッ
蒼「なるほど、結構あるな」
怪人教会・幹部「明後日の正午に全ての人間を殺しに行く」
怪人教会・幹部「だから支度を──」
蒼「ちょっとまて、全員?子供とかもか?」
怪人教会・幹部「当たり前だろう」
怪人教会・幹部「そして我々の理想郷を作り上げるのだ」
蒼「...」
怪人教会・幹部「支度をしておくように、いいか?分かったな?」
蒼「...あぁ、承知した」
〇黒
俺の人生はくそだった
父親の浮気が発覚して俺が6歳、妹が2歳の時に離婚
母親は鬱になり俺たちの世話をしなくなった
小・中学校は何とか卒業できたが妹が勉強出来るだけの金はほとんど無かった
着古した服に風呂もまともに入れない生活
学校ではいじめの的だった
中学を卒業してからは妹のお金を作るために一日中バイトした
高校になんて行ってる余裕はない
妹は酷い家庭環境にも関わらずとても優しくていい子に育った
妹は、俺の支えだった
妹がいたから辛くても頑張ってこれた
そんなクソみたいな日々でもバイトは何とか安定してきて生活にも少しばかりの余裕ができた
そう思ってた数ヶ月後
妹は殺された
俺がバイトに行ってた時、母親の無理心中で
妹が抵抗したあとはそこら中にあった
だが胸を一突きで刺されたら助かる人もいないだろう
妹の誕生日に買ってあげた白いワンピースは鮮やかな薔薇の色で染まり
その目には涙がつたった跡があった
それからのことはよく覚えてない
もう、どうでもよかった
ただ、何となく生きて、上司や同僚の嫌がらせを受け、結局クソな日々だった
やる事やって早く...死にたい
〇魔界
決行日前日
怪人教会・幹部「蒼、準備は出来たか」
蒼「準備ったって何すればいいんだよ」
怪人教会・幹部「スキルの確認でもしてきたらどうだ」
蒼「確かに結構あったもんな...」
蒼「分かった、行ってくる」
〇田舎の公園
──数時間後
蒼「実践がしたくて外に出てみたけど」
蒼「このスキル外に出る時に使えるな」
蒼「相手が視認する姿を変えられるスキル、」
蒼「まれに通用しない人もいるらしいが大丈夫だろう」
蒼(他人視点)「今の俺の姿はこんな感じか?」
「お兄ちゃん!まってー!」
蒼(他人視点)「沙耶?!」
千紗「私も一緒に隠れる!!」
たける「おい千紗!かくれんぼで同じとこ隠れたら見つかっちまうだろー」
千紗「一緒がいいの!」
蒼(他人視点)「あぁ、そうだよな、沙耶な訳ないよな」
蒼(他人視点)「...場所を移すか」
〇黒
蒼は公園を出たあとも散歩を続けたが思い出すのは
昔の楽しかった頃の記憶だった
公園でふと蘇った妹の声は耳にこびりついて消えず
あの女の子を妹と重ねてしまっている自分に
嫌気がさした
〇土手
蒼(他人視点)「結局散歩してもスッキリしなかったな」
千紗「うわーん」
蒼(他人視点)「っ、さっきの子?!」
蒼(他人視点)「ど、どうしたの?」
千紗「迷子にっ、ぇぐっ、なっちゃったのっ」
蒼(他人視点)「えっと、お兄さんがお家までついて行ってあげるよ」
千紗「ほんと!ありがとうお兄ちゃん!」
──そう言って笑う顔は妹にそっくりだった
〇通学路
蒼(他人視点)「そろそろ着くかな」
千紗「お兄ちゃんはいつもなにしてるの?」
蒼(他人視点)「え、あぁ特に何もしてないよ」
千紗「そうなの?じゃあ明日一緒にかくれんぼしようよ!」
蒼(他人視点)「明日...」
千紗「ね!いいでしょ?」
蒼(他人視点)「う...わかったよ、約束な」
千紗「わーい!明日の1時半にしゅーごーね!」
蒼(他人視点)「うん、分かっ─」
千紗「ちさの家見えた!お兄ちゃんありがと!」
千紗「ばいばーい!」
蒼(他人視点)「...嵐のようだったな」
蒼(他人視点)「...スキル→転移魔法」
ヴンッ
〇魔界
ヴンッ
蒼「はぁ、やっと帰ってきた」
蒼「やはりスキルを使うと疲れる...」
怪人教会・幹部「おい、明日の決起集会をやるぞ」
怪人教会・幹部「着いてこい」
蒼「分かった、今行く」
〇城の会議室
怪人教会・幹部「さぁ皆の者、遂に明日が来るぞ!」
「「うぉぉおおお!!」」
怪人教会・幹部「全ての人間を!皆殺しに!」
蒼「ひとつ意見がある」
怪人教会・幹部「なんだ」
蒼「...やはり、皆殺しはよくないと思う」
怪人教会・幹部「ここに来て何を言う!!」
怪人教会・幹部「まさか裏切りか!」
蒼「あ、いや、そんな訳じゃ...」
蒼「っと、その、何でも...ない」
怪人教会・幹部「そうか、安心したぞ」
怪人教会・幹部「...皆の明日の配置を指示する」
蒼「明日...か」
怪人教会・幹部「──は──で、──は──だ!それぞれ配置に着くように」
「「「はっ!!」」」
そして、いよいよ当日がやってきた
〇黒
蒼「...やるしかない、やるしかないんだ...!!」
〇オフィスのフロア
ドォォォォン
課長「うっ、うわぁっ、なんなんだ!」
同僚「誰だっ!」
蒼「...榊原蒼と言ったら分かるか?」
課長「榊原っ!!」
課長「こんな事して許されると思ってるのか!」
蒼「...黙れ」
同僚「そうだ!お前の分際で──」
蒼「黙れと言ってるだろ!!」
「ひっ!!」
蒼「よくも散々コケにしてきてくれたな...」
蒼「お前らを、殺す」
課長「そっそれだけは、やめてくれっ」
同僚「お、お前にできるわけがないだろ」
ビュンッ
同僚「痛っ、」
同僚「う、うわぁっ!ほっぺから血がっ」
蒼「こんなもので済むと思ってるのか」
課長「悪かった!謝るから許してくれっ!」
同僚「つい最近生まれた娘がいるんだっ」
同僚「俺がいなくなったら家族が...!」
蒼「そんなこと俺に関係な──」
蒼「...」
〇黒
その時ふと思い出したのは
妹との会話だった
〇土手
沙耶「ねぇお兄ちゃん」
蒼「どうした?沙耶」
沙耶「もしお父さんがいたらこんな生活じゃ無かったのかな」
蒼「っ沙耶...」
沙耶「もっと幸せで、家族みんなで笑いあって」
沙耶「お兄ちゃんとも学校に行けて...」
蒼「俺が親父の代わりにならなくちゃ駄目なのにごめんな」
沙耶「...なーんてね!」
蒼「沙耶、無理しなくても──」
沙耶「引き止めてごめん!これからバイトなんでしょ?」
沙耶「ほら!行った行った!」
蒼「わ、分かったよ...」
沙耶「行ってらっしゃい!お兄ちゃん」
〇オフィスのフロア
蒼「もし親父がいたら俺たちは幸せになってたのだろうか」
蒼「そうだとしてもし俺がこいつらを殺したらその家族は...」
蒼「...気が変わった」
同僚「え...?」
課長「た、助かった!?」
蒼「スキル→悪夢」
その場にいる人は全員倒れ唸り出した
同僚「う、うぅん、こないでくれぇ...むにゃむにゃ」
課長「これは違うんだ、許してくれぇ...」
蒼「...スキル→筋肉痛」
蒼「スキル→免疫力ダウン」
蒼「スキル→育毛効果ゼロ」
蒼「スキル→蚊に刺されやすさアップ」
蒼「...なんかスッキリしたな」
蒼「よし、下に降りるか」
そうして蒼は会社を出た
〇荒廃した街
蒼「うわっ、なんだこれ!」
そこには他の怪人が荒らした街と
人間たちが抵抗した跡があった
蒼「幸い死者は出てないようだな...」
蒼「!!」
蒼「1時半!約束の時間!」
蒼「でもさすがにこんな状況で...」
そう思ったが心のざわつきは増す一方だった
蒼「くっ、いくか」
蒼「スキル→移転魔法!!」
〇田舎の公園
怪人教会メンバー「グハハハハ!」
怪人教会メンバー「みんな死ねェ!!」
千紗「うわぁぁん!」
蒼「千紗っ!」
蒼「間に合えっ、スキル→飛速火球!!」
怪人教会メンバー「グァァッ」
千紗「お兄ちゃん!!」
蒼「千紗!逃げろ!!」
怪人教会メンバー「貴様っ!人間を庇うのか!!」
蒼「罪のない人間を襲うのは間違っている!!」
怪人教会メンバー「ホォ...」
怪人教会メンバー「なら先に貴様を殺すとしようか...」
蒼「望むところだ、お前を殺す!!」
「はぁぁぁぁっ!」
ドォォォォンッ
眩い光とともに互いの力がぶつかりあった
〇田舎の公園
千紗「お、お兄ちゃん...」
蒼「よかった...ごほっ」
蒼「無事だったんだな...」
千紗「ちさは大丈夫だけどお兄ちゃんが!」
蒼「俺のことは...大丈夫だから、ごふっ」
千紗「かくれんぼっ、ひっく、、出来なくてごめんねっ」
蒼「...体が重い」
千紗「お兄ちゃん、わたしほんとはね──、だから──」
蒼「目が掠れてきた、耳も遠くなってもうほとんど聞こえない」
千紗「おに──ちゃん、ごめ──」
蒼「力を使いすぎたのか」
千紗「あ──がとうっ」
〇黒
視覚と聴覚がほぼ無い状況でも
女の子がそばにいて自分のために泣いてくれていることは分かった
蒼「最悪な人生だった」
蒼「妹も幸せにできない」
蒼「ちっぽけな人生だったかもしれない」
蒼「でも、この子のおかげで...心が暖かくなる」
蒼「最後に...この子に出来ることを...」
蒼「...スキル→精霊加護」
蒼「千紗、お前は幸せに──」
蒼の体は光に包まれ
そして
消えていった
〇ソーダ
沙耶「私は前世の記憶がある」
沙耶「いわゆる転生者だ」
千紗「今の私は千紗」
「私が死んでからお兄ちゃんがどうなったのかは分からなかった」
「会いたかったけど会う方法も無かった」
「ある日公園で遊んでたら変な鎧の人を見つけて」
「何故かその人を見てるとお兄ちゃんのような気がしてならなかった」
「急いで追いかけたが」
「間に合うはずもなく迷子になってしまった」
「だが運良く鎧の人が助けてくれて」
「同時にお兄ちゃんだと確信した」
「優しくてお節介」
「自分を優先させないで人を思いやるのが」
「お兄ちゃんだった」
「そんなお兄ちゃんは私を守って死んだ」
「最後の力を振り絞って、」
「私に”加護”なんかつけて」
「ほんとに馬鹿だ」
「私は精霊に守ってもらいたい訳でも」
「普通の幸せが欲しかった訳でもない」
「ただ、お兄ちゃんのそばに居たかった」
「私はお兄ちゃんが居るだけで幸せなの」
「ほんとに大馬鹿者」
「私を置いてって死なないでよ」
「...でも、」
「お兄ちゃんが守ってくれた命と私を見守ってくれる精霊さんがいる」
「だから私にはやらなくちゃいけない事がある」
「世界一幸せになるんだ」
「そして、おばあちゃんになって天国に行った時」
「お兄ちゃんに言うんだ」
「ありがとって、私幸せだったよ!って...」
「私、お兄ちゃんの人生はちっぽけでも何でもなくてすっごいものだったんだって証明する」
「だから、安心して休んでていいよ」
「お兄ちゃん、ありがとう」
「私、幸せになるよ」
蒼は転生した妹の命を救うことができたと同時に、自分の人生の最期を意味あるものに変えたことによって、自分自身のことも救えたんじゃないかと思います。ちっぽけな人生なんかじゃなかったですね。
感動的なお話でした。
お兄ちゃんも妹も、両者がお互いのことを思っている様は、見ていて幸せになってほしいと願ってしまいます。
しかしスキルは地味に嫌な効果だなぁ笑
死んでしまいたかった主人公が悪の道をたどろうとする過程で、亡くなった妹からの魂のメッセージを受け取ったかのように、その方向性を変えたところが嬉しかったです。結局、命を落としてしまったけれど、再度大切な人と強い絆を結べて美しいフィナーレでした。