エスケイプ・サンクチュアリ

穂橋吾郎

#5 エスケイプ(脚本)

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穂橋吾郎

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〇東京全景
放送「みなさま、落ち着いた行動をお願いいたします」
放送「お近くにお困りの方がいましたら、互いに助け合い、節度ある行動を・・・」
男性「どけよ、遅ぇんだよ!」
女性「うっせぇんだよ、じじい。前が詰まってんだよ!」
少年「ママ―、どこー!」
男性「早く逃げねえと、また・・・うわ!」
  ゴゴゴゴッ!

〇研究室に改装された教室
蕪木研二「誰か、誰かいないか! ドアが開かないんだ、外から開けてくれ!」
星野倫太郎「同じことです。ここにいても、地の果てまで行っても、違いは無い。みんな滅びます」
蕪木研二「うるさい、黙れ!」
星野倫太郎「30年前、地球は自らの死期を悟ったんです。 そして、バックアップをとることにした」
星野倫太郎「地球の記憶を保存した人間。 新しい世界のアダムとイブ」
星野倫太郎「それが僕とイズです」

〇魔法陣のある研究室
  瓦礫に押しつぶされ、研究主任が死んでいる。
  陣の中でイズは祈るような姿勢でいる。
イズ「【英語】 ありがとう。今までお世話に──」
イズ「きゃっ!」
  陣がグラッと傾き、イズの体が宙に浮いた。
イズ「倫太郎・・・」

〇研究室に改装された教室
星野倫太郎「少し前から、陣と交流できるようになっていたんです」
星野倫太郎「陣に触れると、頭にノイズみたいなものが流れて、それがだんだんと『彼』の言葉なんだと理解できるようになった」
蕪木研二「彼・・・? いったい何の話だ、誰のことを言っている?」
星野倫太郎「地球、世界、宇宙、神。 あるいはそれら全部」
星野倫太郎「『彼』と呼んでいるのも適当です。 『彼女』でも『それ』でも、なんでもいい」
蕪木研二「全部デタラメだ。君の妄想だよ!」
星野倫太郎「すべて『彼』が教えてくれたんです。 今日、地球が滅びることも」
蕪木研二「うそだ、そんな荒唐無稽な・・・」
蕪木研二「やはり君はとっくの昔に頭がおかしくなっていたんだ!」
星野倫太郎「なるほど、そうかもしれません・・・」
星野倫太郎「頭がおかしくなければ、地球の滅亡を見届けるなんて、冷静でいられるはずないですよね」
蕪木研二「・・・なあ、教えてくれ。 なぜ、君たちが選ばれたんだ!」
星野倫太郎「僕たちが選ばれた理由、それは・・・」
蕪木研二「・・・・・・」
星野倫太郎「単なる、偶然です」
蕪木研二「・・・は?」
星野倫太郎「僕は悪ふざけの魔法陣を描いて。イズは、村祭りで披露する踊りの練習のために、地面に円を描いて」
星野倫太郎「どっちもたまたま、地球との回路ができやすくなっていただけなんです」
蕪木研二「偶然。ただの偶然・・・」
星野倫太郎「地球にとって都合のいい時に、円の上にいた。ただそれだけなんです」
蕪木研二「そんな、バカな。なら私はいったい、なんのために・・・」
星野倫太郎「蕪木さん・・・」
蕪木研二「う、う、うああああああ!」
蕪木研二「あああ、くそ、くそっ・・・」
星野倫太郎「誰にも分らなかった。どうしようもなかったんです」
蕪木研二「はあ、はあ・・・」
星野倫太郎「大丈夫ですか?」
蕪木研二「・・・・・・」
蕪木研二「・・・ふふふ。私は、間違ってなかったよ」
星野倫太郎「え?」
蕪木研二「30年の研究で、陣についてわかったことは『陣については何もわからない』ということだけ。その通りじゃないか」
星野倫太郎「ええ、そうですね」
蕪木研二「偶然って、ふっ、そんなのありかよ」
  蕪木は床に転がっていたウィスキーの瓶を取り上げ、一口飲んだ。
蕪木研二「君らは助かるんだな?」
星野倫太郎「はい」
蕪木研二「イズとも会えるのか?」
星野倫太郎「はい」
蕪木研二「そうか。・・・おめでとう」
星野倫太郎「・・・ありがとうございます」
  ゴゴゴゴゴッ!
蕪木研二「ああ、やっと解放される。出口のない研究だったからね。さすがに疲れたよ」
星野倫太郎「蕪木さんが担当で、僕は幸せだったと思います」
蕪木研二「ふん。そんなこと、誰が担当だったとしても同じこと──」
  蕪木の言葉を遮るように、瓦礫が落ちてきた。
  すぐにあたりを、瓦礫が埋め尽くした。
星野倫太郎「・・・さようなら、蕪木さん」
  陣が斜めに傾き、倫太郎の体が宙に浮く。
  と、次の瞬間、辺りを炎が包み、強い閃光が走った。
  倫太郎はまぶしさに、思わず目を閉じた。

〇宇宙空間
  倫太郎が目を開けると、地球は跡形もなくなっていた。
  倫太郎は陣に囲われ、宇宙を漂っている。
  陣は宇宙を貫く筋のように見えた。
星野倫太郎「・・・ん?」
  遠くに、同様の筋が見えた。
星野倫太郎「イズ・・・? イズ!」
  と、遠くの筋が一点に向かって消失した。
  見ると、巨大な渦が目の前に迫っていた。
  ブラックホールである。
星野倫太郎「う、うわああああ!」
  倫太郎はブラックホールの中へと吸い込まれていった。

〇湖畔
  陣の中で倫太郎が倒れている。
星野倫太郎「ん・・・。ここは・・・」
  倫太郎が辺りを見回していると、スッと陣が消えた。
星野倫太郎「あ」
  地面には何も残っていなかった。
星野倫太郎「・・・うん」
  倫太郎は丘の方へと歩き出した。

〇草原

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