あの夏の日に(脚本)
〇空
─── Presented by『TapNovel』 ───
あの日
人間が一生のうちに
聞くであろうセミの鳴き声を
「エイジくん!エイジくん!」
「反応がない! 窓を割るしかない!!」
全て聞いた気がした
〇アパートのベランダ
「まだ息をしてるぞ!!」
「エイジくん!がんばれ!! 必ず助かるからな!!」
微かに聞こえた
おじさんの声──
助かるんだ、俺──
死なせて欲しかったな
〇黒
──── ナイトメア・ラプソディ ────
〇空
「暑っちぃ~」
〇公園のベンチ
「なぁメア~」
「何度あんの今日・・・」
宵寝メア「32℃」
「人類の生活できる気温じゃねぇよ」
宵寝メア「最近では涼しい方ですよ」
「嘘だろ・・・ お前イカれてんじゃねぇの」
宵寝メア「裏戸さんには言われたくないです」
宵寝メア「頭の先から足の踵までイカれてる人には」
裏戸エイジ「つま先だけ残すんじゃねぇよ」
宵寝メア「もうお昼ですよ 早く”荊木さん”の家に行きましょう」
裏戸エイジ「途中にワークマンねぇかな?」
「ありません」
裏戸エイジ「ほら今あんじゃん 脇んとこにファン付いてんの」
「ブゥーンってさ、風くる作業服、なぁ」
「なぁ聞いてる?」
〇アパートの玄関前
宵寝メア「ごめんくださ~い」
宵寝メア「荊木さ~ん」
宵寝メア「留守かな?」
裏戸エイジ「室外機回ってんぞ 居留守だな」
裏戸エイジ「通報者は?」
宵寝メア「管理会社です 複数の住人からクレームが」
宵寝メア「というより”相談”ですね 『ヤバいんじゃないか』と」
裏戸エイジ「よっぽどだな」
裏戸エイジ「立ち会いで鍵開けて貰おう モタモタしてたら手遅れになる」
宵寝メア「そうですね 早く”ヒロトくん”助けてあげないと」
裏戸エイジ「いや俺が」
宵寝メア「おい」
裏戸エイジ「クラクラしてきた」
宵寝メア「まったくもう」
荊木ヒロト「どうしよう・・・」
〇警察署の入口
「”堀米”ですが」
〇散らかった職員室
堀米コウヘイ「はぁ!?」
警察官「ですので コチラも対応に困っておりまして」
警察官「『堀米刑事を呼べ』の一点張りで」
堀米コウヘイ「勘弁してくれ オレ昼飯まだなんだぜ?」
警察官「申し訳ありませんが、お願いします」
堀米コウヘイ「ったくアイツらは・・・」
〇住宅街の公園
裏戸エイジ「だから怪しいモンじゃねぇって!」
巡査「キミより怪しい人間なんか 警察学校の教科書にも出てこないよ!」
裏戸エイジ「さてはお前、新人だな!?」
裏戸エイジ「この地域の人間は みんな見て見ぬフリするんだぞ!」
巡査「それはキミが ギネス級に”関わりたくない人”だからだ!」
宵寝メア「あの・・・すいません」
宵寝メア「私たち『児童相談所』の者なんです」
宵寝メア「ホントに怪しい者では・・・」
裏戸エイジ「堀米さん呼べよ! お前じゃ話になんねぇ!」
堀米コウヘイ「お前らさぁ・・・」
堀米コウヘイ「わざとオレの昼休み潰してないか? いっつもいっつもさぁ」
裏戸エイジ「ちゃんと新人教育しとけよ!」
堀米コウヘイ「あ、キミ、もういいよ」
巡査「た、助かります ご足労頂き有難うございます」
宵寝メア「お騒がせして 申し訳ありませんでした」
裏戸エイジ「ちゃんと覚えておけよ! 次、俺にカラんできたら”燃やす”からな!」
巡査「なにを言ってるんだコイツは・・・」
堀米コウヘイ「はいはいはい」
堀米コウヘイ「初見でお前を見逃してたら もはや日本の治安はオシマイだっての」
堀米コウヘイ「車に乗れ その格好で街中を練り歩くな」
裏戸エイジ「俺は嫌だって言ったんだ! 夜にしようって!」
堀米コウヘイ「夜にお前見たら 警察の威信をかけて取り押さえるわ」
〇車内
堀米コウヘイ「で?」
堀米コウヘイ「今回はヤバそうなワケ?」
裏戸エイジ「ちょっとコンビニ寄ってくんねぇ? すぐにポカリ飲まないと死ぬ」
堀米コウヘイ「うるせぇ死んでろ強盗犯スタイルが」
宵寝メア「保護対象は 荊木ヒロトくん──10歳の子です」
宵寝メア「アパートの住人から 怒鳴り声と泣き声が酷いと」
宵寝メア「管理会社に複数のクレームが」
堀米コウヘイ「典型的だなぁ、父親か?」
裏戸エイジ「父子家庭だとよ 母親が逃げた」
宵寝メア「新型コロナの影響で 2年ほど前に父親が失業して以来 生活保護で暮らしています」
堀米コウヘイ「学校は? 給食は食えてんだろ?」
宵寝メア「今・・・夏休みです」
堀米コウヘイ「あ・・・そうか あったなぁ、そのシステム」
裏戸エイジ「そもそも半年くらい前から 不登校だってよ 近所の住人も姿を見ていない」
宵寝メア「おそらく・・・」
裏戸エイジ「”一緒”だ」
裏戸エイジ「”俺”と」
堀米コウヘイ「見られたくない事情がある、か」
〇古い畳部屋
堀米コウヘイ「荊木さ~ん 入りますよ~」
堀米コウヘイ「留守だな・・・」
大家さん「あ、あの・・・なにか事件ですか?」
堀米コウヘイ「なにもご存知ないので?」
宵寝メア「管理会社が 報告していなかったようですね」
裏戸エイジ「日本人の美徳だからな」
裏戸エイジ「見て見ぬフリは」
大家さん「あたしゃ初めて見たよ・・・ これが”ブイチューバー”ってヤツかい」
堀米コウヘイ「ねー すごいよねー ホントにこのまんま動いてんだねー」
裏戸エイジ「ゆるキャラブームの再燃だ」
堀米コウヘイ「ゆるいのはテメェの倫理観だけだ」
宵寝メア「おかしいですね さっきまでエアコンが・・・」
堀米コウヘイ「察して逃げたか? 父親に脅されてるケースっぽいな」
裏戸エイジ「調べ方に」
コツがあんだよ
「・・・」
風呂場、便所、あと、
・・・布団
裏戸エイジ「なんだこのシミ」
堀米コウヘイ「・・・”膿”だ」
堀米コウヘイ「だいぶ化膿してる外傷があるな」
宵寝メア「大変・・・!」
裏戸エイジ「どこへ逃げたと思う?」
堀米コウヘイ「怪我した子供が 騒ぎにならず逃げ込める場所だな」
「学校の保健室!」
〇モヤモヤ
誰か助けて
〇モヤモヤ
痛いよ
痒いよ
どうして僕だけ
おとうさん・・・
痛い・・・
痛い
いたい
ごめんなさい
〇車内
堀米コウヘイ「最初にお前らが訪問してから どれくらい経ってる?」
宵寝メア「1時間以上は・・・」
裏戸エイジ「あの新米ヤロウのせいだ」
堀米コウヘイ「全面的に裏戸のせいだな」
本部より各車両!
月読第三小学校より110番!
近隣を警ら中の車両は急行せよ!
繰り返す──
堀米コウヘイ「手遅れパターンか?」
裏戸エイジ「・・・」
裏戸エイジ「救急車呼んどけ」
宵寝メア「ヒロトくん・・・!」
〇大きな木のある校舎
堀米コウヘイ「保健室か?」
裏戸エイジ「行くぞメア!」
宵寝メア「あっ!ちょっと裏戸さん!」
堀米コウヘイ「救急車呼んどくか?」
〇保健室
先生「うぅ・・・」
宵寝メア「大丈夫ですか!?」
先生「かはッ!」
宵寝メア「なに・・・このケガ」
裏戸エイジ「”穴”だ」
裏戸エイジ「鋭い”何か”が身体を貫通してる」
先生「ヒロ・・・ト・・・く・・・」
宵寝メア「しっかりして! すぐに救急車が──」
裏戸エイジ「メア、救急車が来るまで頼む!」
宵寝メア「無茶しないでよ!」
宵寝メア「出血を止めなきゃ・・・!」
宵寝メア「・・・」
宵寝メア「お願い・・・」
宵寝メア「『ユダ』」
宵寝メア「・・・血が止まった」
宵寝メア「やっぱり このケガ・・・」
宵寝メア「”トラウマ”だわ」
宵寝メア「ヒロトくん・・・」
〇黒
”発症”してる
〇渡り廊下
巡査「ガハッ」
裏戸エイジ「さっきの新米!」
巡査「ば、化け物が・・・」
裏戸エイジ「もう少しで救急車が来る!」
裏戸エイジ「あとは・・・」
裏戸エイジ「任せろ!」
〇学校の体育館
「来ないで!!」
裏戸エイジ「ヒロトくん・・・だな」
裏戸エイジ「ヒロトくん・・・」
荊木ヒロト「ゴメンナサイ・・・」
荊木ヒロト「オトウサン・・・」
荊木ヒロト「ゴメンナサイ!!ゴメンナサイ!!」
「ゥガッ!!」
〇体育館の舞台
裏戸エイジ「カッ・・・ハ・・・」
裏戸エイジ「なる・・・ほどな」
裏戸エイジ「これが”弾丸”か・・・」
〇学校の体育館
〇体育館の舞台
〇学校の体育館
裏戸エイジ「ヒロトくん落ち着いて!!」
裏戸エイジ「俺は敵じゃない!!」
荊木ヒロト「ゴメンナサァイッ!!」
裏戸エイジ「──ウッ!!」
裏戸エイジ「くっ・・・」
裏戸エイジ「ヒロトくん・・・! 大丈夫だから・・・!!」
裏戸エイジ「怖くない・・・もう大丈夫だから・・・」
荊木ヒロト「オトウサン!! ユルシテクダサイ!!」
裏戸エイジ「ぐああぁぁ・・・」
裏戸エイジ「マズい・・・傷口が」
裏戸エイジ「クソ・・・だから昼間は嫌だって!」
裏戸エイジ「腕が焼ける──!!」
裏戸エイジ「やめろ・・・『イカロス』・・・!!」
「裏戸さん!」
宵寝メア「まさかヒロトくん!?」
裏戸エイジ「メア頼む!!」
裏戸エイジ「早く『ユダ』を!!」
荊木ヒロト「ゴォメンナサァ──イ!!」
裏戸エイジ「傷口から『イカロス』が暴発しそうだ!! ヒロトくんを燃やしちまう!!」
宵寝メア「お願い・・・『ユダ』」
宵寝メア「アハハハハハッ!!」
宵寝メア「さぁ、聴かせて・・・」
宵寝メア「あなたの『ありがとう』を・・・!!」
裏戸エイジ「戻った・・・」
宵寝メア「ねぇ・・・ちょっと・・・」
宵寝メア「言いなさいよ・・・」
裏戸エイジ「あ、やべぇ」
宵寝メア「私に言えよォォオオオッ!!」
裏戸エイジ「痛ッてぇ!!」
宵寝メア「『ありがとう』って言えよ!! テメェよぉォォォオオオッ!!」
裏戸エイジ「ありがとうございます! ありがとうございます!! ありがとうございますってば!!」
宵寝メア「ウフフ・・・」
宵寝メア「私のおかげよ・・・」
宵寝メア「忘れないで・・・」
宵寝メア「忘れたら・・・」
──殺す
宵寝メア「うっ・・・」
宵寝メア「かなり重症みたい」
宵寝メア「”吐き出さない”と・・・」
裏戸エイジ「・・・今夜だな」
〇屋根の上
ヒロトの父親を探すぞ
〇大きな木のある校舎
堀米コウヘイ「お疲れさん」
裏戸エイジ「たまには手伝ってくれよ」
堀米コウヘイ「無茶言うな」
堀米コウヘイ「近隣に規制線を張るだけでも ありがたいと思えよ」
裏戸エイジ「今、俺に”礼”を求めんな・・・」
裏戸エイジ「荊木ヒロトだ」
堀米コウヘイ「毎度毎度 事故扱いにすんのタイヘンなんだぞ?」
裏戸エイジ「頼むよ」
裏戸エイジ「”トラウマ”を悪化させないためにも」
堀米コウヘイ「最悪な脅し文句だな」
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Dickinsonさんこんばんは!
凄く面白かったです
ヒーロー自信が子供の頃のトラウマを抱えている被害者であることでつらい過去を経て強くて優しい大人になったんだな、と思いました。変身後はすっごく強いけトラウマそのモノで、戦う痛々しさもとても魅力的です
あとギャグ、毒効いてる感じがおしゃれですね
ブイチューバー、扇風機みたいなぶいーんてまわるやつ、ポカリのみたい、ゆるいのは倫理観、笑いました👍
ダークファンタジーって刺さるとスルメのように噛み続けられる魅力がありますよね。最近観た特撮がアマゾンズで、あの雰囲気(綺麗事が通らないリアリティや弱肉強食の描写)が好きな者としてはこの作品は美味しかったです。先生の立ち絵は、怪我をしているイメージを伝えるために選んだのかな?と思いました。読者が置いてけぼりにならないよう、工夫が凝らされていると感じました。長文ごめんなさい…
すごいです🙌映像を観ているみたい…!流れるように読み進めていきました✨
飄々と力を使いこなしているようなエイジやメアちゃんが、結局はまだトラウマに囚われているというのが何とも切なくて心に残ります。