エピソード1(脚本)
〇繁華な通り
20XX年
〇住宅街の公園
〇住宅街
ザッザッザッ・・・
隊長「この家だな」
隊長「突入する」
〇クリスマス仕様のリビング
子ども「パパー!ママー!!」
父親「こ、子どもを返してください・・・!!」
母親「どうして・・・うちは『クリア』してるはずですよ!?」
隊長「ご主人は先月の『チェック』で『不適合』となった」
母親「そんな・・・!!」
父親「すまない・・・!!抜き打ちの『チェック』だったんだ・・・体調が悪くて・・・!!」
隊長「『不適合者』は子どもを育てることは許可されていない」
隊長「この子は我々が『保護』する」
子ども「やだーーー!!パパ、ママ、助けて!!!!!!」
父親「くっ・・・子どもは渡さん・・・!!」
隊長「──抵抗は許されない」
子ども「イヤー!!パパー!!」
隊長「愚かな落ちこぼれめ」
Y8810「・・・」
隊長「撤収するぞ」
Y8810「はっ」
母親「よくも・・・!!」
Y8810「・・・」
母親「びくともしないなんて・・・ 怪物・・・バケモノ・・・!!」
母親「なによ・・・殺しなさいよ・・・それがアンタたちの仕事なんでしょう!?」
隊長「Y8810?何か問題が?」
Y8810「──いえ、何も」
ザッザッザッ・・・
〇荒廃した国会議事堂の広間
Y8810「・・・」
Y8810(血が止まらない・・・)
Y8810(・・・このまま、血が止まらなければ・・・死ねるのか?)
イヤー!!
パパー!!ママー!!
Y8810(もう嫌だ・・・人を傷つけるのは・・・)
〇近未来の手術室
仁科ヒトミ「おい」
仁科ヒトミ「起きろ」
Y8810「ここは・・・」
仁科ヒトミ「処置室だ。止血は済んだからとっとと失せろ」
Y8810「なんで助けた・・・!!」
仁科ヒトミ「はあ?」
Y8810「俺はもう・・・嫌なんだよ!! こんな存在でいるのが耐えられない・・・」
仁科ヒトミ「へえ・・・洗脳が解けちゃってるのか」
仁科ヒトミ「いつからだ?」
Y8810「もう半年ぐらい経つ・・・ 急に頭が冴えて・・・ものを考えられるようになった」
仁科ヒトミ「『食事』はしてないのか?」
Y8810「『食事』すると・・・頭がボーッとするから・・・最近はほとんど食べてない」
仁科ヒトミ「アハハハ!!根性あるな!! ──正解だ。あれにはお前たちの脳機能を制限させる成分が入ってるからな」
仁科ヒトミ「まあ、入れたのはあたしだけど」
Y8810「なっ・・・」
仁科ヒトミ「おとなしく思考を奪われていたほうが楽なのに」
仁科ヒトミ「今からでも遅くない・・・楽になればいい」
Y8810「バカにするな!!」
仁科ヒトミ「フフ・・・じゃあどうしたいんだ? 死にたい?消えたい?協力してやってもいいぞ」
Y8810「なんだと・・・」
仁科ヒトミ「天才科学者はヒマなんでね」
Y8810「・・・」
Y8810「なりたい・・・」
仁科ヒトミ「ん?」
Y8810「人間に・・・なりたい・・・」
仁科ヒトミ「そうきたか」
Y8810「無理なのは・・・わかってる・・・ 笑えよ!!」
仁科ヒトミ「ぜんぜん楽勝だが?」
Y8810「──え?」
〇田園風景
ミーンミンミンミンミン・・・
〇グラウンドの隅
「はい、直ったよ」
子ども「ありがとー!!用務員のおじさん!!」
桜庭ハヤト「おじ・・・」
桜庭ハヤト「まあいいか」
桜庭ハヤト「・・・君も何か直してほしいの?」
ミヤビ「・・・」
桜庭ハヤト「あ・・・」
「おいコラァ」
カズ「うちの可愛いミヤビに何かしたのか!? ああ!?」
桜庭ハヤト「えっ、いや、僕は何も・・・」
カズ「用務員さんよお~ あんたシティから来たんだよな?」
桜庭ハヤト「・・・ええ、まあ」
カズ「俺はこのムラによそ者が住み着くのは歓迎してねえからな」
カズ「ちょっとでも変なマネしたら 追い出してやるからな!!覚悟しとけ!!」
校長「カズ、よしなさい」
カズ「げっ、校長先生」
校長「彼はシティのスパイなんかじゃないよ」
校長「私が保証する。信用できないかね?」
カズ「・・・フン!!」
校長「すまないね」
校長「彼も不安なんだよ」
校長「いつこのムラに『不適合』狩りが来るか・・・妹のミヤビちゃんと引き離されるんじゃないかとね」
桜庭ハヤト「・・・俺がその『狩る』側だったと知ったら許せないでしょうね」
校長「なんのことかな、『桜庭ハヤト』くん」
校長「さて・・・見回りを続けるとするよ」
桜庭ハヤト「・・・」
ミーンミンミンミンミン・・・
チチチ・・・
桜庭ハヤト「平和だ・・・」
桜庭ハヤト「うっ・・・!!」
桜庭ハヤト「グッ・・・発作が・・・ 頭が・・・割れる・・・!!」
仁科ヒトミ「おおーやってるな」
桜庭ハヤト「グッ・・・ア・・・」
仁科ヒトミ「ホラ、薬」
桜庭ハヤト「ハア・・・ハア・・・」
桜庭ハヤト「どうにかならないのか・・・これ・・・」
仁科ヒトミ「人間化手術が成功したのはお前が初めてだからなあ」
仁科ヒトミ「正直、こんなに副作用があるとは思わなかった」
仁科ヒトミ「メンゴ!!」
桜庭ハヤト「・・・」
仁科ヒトミ「さっき校長にも聞いたが、なかなか馴染んでいるようだな」
桜庭ハヤト「ああ。このムラの人たちは良くしてくれてるよ。みんなのびのび暮らしてる・・・」
仁科ヒトミ「今のところは、怪人部隊の『狩り』はシティ周辺でしか行われてないからな」
仁科ヒトミ「みんな、シティで行われてることはどこか他の国のことのように他人事だ」
仁科ヒトミ「のどかでうらやましいものだな」
桜庭ハヤト「なんだか含みがある言い方だな」
桜庭ハヤト「平和に暮らすことの何が悪いんだ?」
桜庭ハヤト「俺はずっとこういう暮らしがしたかったんだ・・・誰も傷つけず、人を助けて・・・」
桜庭ハヤト「!?」
〇ボロい校舎
カズ「か・・・怪人・・・!!」
隊長「子どもを全員ここに並べろ。 今すぐにだ」
カズ「・・・!!」
校長「私が責任者だ。 教育機関への『狩り』は禁止されているはずでは?」
隊長「フン・・・こんな田舎、一軒一軒回るのは効率が悪いだろうが」
隊長「地方のムラは免除されるとでも思っていたんだろうが、甘かったな」
怪人「さあ、サッサと来い!!」
子ども「キャー!!」
ミヤビ「・・・!!」
カズ「や、やめろ!!ミヤビはやめてくれ・・・身体が弱いんだ!!」
隊長「ミヤビ・・・? これがあのリストに載っていた子どもか・・・」
隊長「──連行しろ」
カズ「待て、やめてくれ!!!!」
隊長「抵抗は許されない」
カズ「ぐっ・・・クソッ・・・」
隊長「・・・」
隊長「なんのマネだ、貴様」
桜庭ハヤト「ハァ・・・ハァ・・・!!」
桜庭ハヤト(びくともしねえ・・・!!)
子ども「用務員のおじちゃん・・・!!」
桜庭ハヤト「子どもたちを放せ・・・!!」
隊長「・・・」
桜庭ハヤト「ガッ・・・」
隊長「抵抗は許されない」
桜庭ハヤト「く・・・そ・・・」
隊長「愚かな人間どもだ・・・」
〇平屋の一戸建て
集会所──
〇実家の居間
「ううっ・・・あの子達・・・雨に濡れてないかしら・・・」
カズ「ミヤビ・・・ちきしょう・・・」
校長「・・・時が満ちたのかもしれないな」
カズ「え?」
〇古い畳部屋
桜庭ハヤト「ハッ・・・」
桜庭ハヤト「子どもたちは・・・」
仁科ヒトミ「連れて行かれたよ」
桜庭ハヤト「クソッ・・・」
桜庭ハヤト「なあ、あんたなら裏から手を回して、なんとかできないのか?俺のときみたいに──」
仁科ヒトミ「無理だな」
仁科ヒトミ「この国にとって、子どもは貴重な『資源』だ」
仁科ヒトミ「私個人がちょろまかしたりできるレベルのものじゃない」
桜庭ハヤト「そんな・・・」
仁科ヒトミ「まあ忘れることだな」
桜庭ハヤト「え?」
仁科ヒトミ「お前はこれからも平和に暮らせるよ。怪人に立ち向かったことで株も上がったんじゃないか?ナイスパフォーマンス!!」
桜庭ハヤト「俺はそんなつもりじゃ・・・!!」
桜庭ハヤト「ぐっ・・・」
仁科ヒトミ「なんだ・・・また発作か?」
桜庭ハヤト「グアアッ・・・」
仁科ヒトミ「ホラ、飲め」
仁科ヒトミ「多めに置いていってやるよ。 しばらくはもつだろう」
仁科ヒトミ「せいぜい平和な暮らしとやらを満喫するがいいさ──じゃあな」
桜庭ハヤト「・・・飲まなかったら」
仁科ヒトミ「ん?」
桜庭ハヤト「グッ・・・このまま・・・もし薬を飲まなかったら・・・怪人に戻るのか?」
仁科ヒトミ「・・・へえ。なぜそう思った」
桜庭ハヤト「なんとなくだが・・・そんな感覚がある・・・俺が俺でなくなるような・・・」
桜庭ハヤト「ウウッ・・・」
仁科ヒトミ「半分正解ってとこかな」
仁科ヒトミ「お前の臓器、器官は人間と同じものに造り変えてある──だが細胞レベルではそうじゃない」
仁科ヒトミ「発作は、お前のなかの怪人細胞が人間としての器官を無理やり怪人レベルではたらかせようとして起こってるんだろう」
仁科ヒトミ「それを薬で抑えなければ・・・」
桜庭ハヤト「・・・その細胞とやらが・・・俺の身体を怪人に戻そうとするってことか?」
仁科ヒトミ「理論上はな」
仁科ヒトミ「飲まないのか?苦しいだろう」
桜庭ハヤト「ハアハア・・・力が必要だ」
桜庭ハヤト「グッ・・・怪人の力があれば・・・ 子どもたちを・・・助けに・・・」
仁科ヒトミ「アハハハ!!そうくるか!!」
仁科ヒトミ「お前は本当におもしろいな!!」
桜庭ハヤト「俺は・・・誰にも傷ついてほしくない・・・!!!!」
桜庭ハヤト「ウウッ・・・ うおおおおおおお!!!!」
〇キャンプ地
隊長「土砂崩れ?」
怪人「ただいま復旧を急いでおります」
隊長「フン・・・まあ良い。 ムラの人間たちが追ってくることもないだろうからな」
隊長「子どもが大事だと言いながら、意思も力も持たない無能者たちよ・・・」
〇トラックの荷台
子ども「うう・・・寒いよ・・・」
子ども「お父さん・・・お母さん・・・」
ミヤビ「・・・」
怪人「おい。見張りの交替の時間だ」
怪人「了解」
Y8810「・・・みんな。ケガはないか?」
子ども「え・・・!?なんだよオマエ!?」
Y8810「静かに。 そっとこのトラックを降りるんだ・・・」
子ども「い・・・イヤー!!さわらないでー!!」
子ども「近寄るな、バケモノ・・・!!」
怪人「どうした?」
怪人「おい・・・なぜ子どもたちの手錠を外してる!?」
Y8810「──!!」
怪人「な・・・にを・・・」
Y8810「ハア・・・ハア」
ミヤビ「・・・用務員さん?」
子ども「え・・・!?コイツが・・・!?」
「おい、なんだ今の音?」
Y8810「みんな、森の奥へ走れ!!!!」
Y8810「ここは俺が食い止めるから・・・!!!!」
ミヤビ「・・・わかった」
ミヤビ「行こう!!」
Y8810「ハア・・・ハア・・・」
Y8810(身体が思うように動かない・・・ でも・・・やるしかない・・・!!)
Y8810「グアッ」
隊長「お前・・・逃亡兵Y8810か」
隊長「驚いたな。捕まりに来たとは」
Y8810「・・・あんたは洗脳されてるんだ!!こんなことはもう止めろ!!」
隊長「ハハハハハハ!!!!」
隊長「洗脳?お前ら下等兵と一緒にするな」
Y8810「なっ・・・」
隊長「こんなに崇高な仕事はない・・・ 美しいこの国に不要な汚れを取り払う力を、俺たちは与えられてるんだ」
隊長「なぜわからない」
Y8810「ぐああっ・・・!!」
隊長「なぜ理解できないのだ!? 自分の役割・・・ 世界のことわり・・・」
隊長「受け入れよ!!」
Y8810「い・・・嫌だ・・・ 俺は嫌だ・・・!!そんな世界は・・・!!」
隊長「愚か者め。死ね」
隊長「!?」
カズ「オラアアアア!!!!!!」
隊長「クッ・・・人間・・・!?」
〇キャンプ地
「て・・・敵襲ーーー!!」
怪人「辺りを囲まれています・・・!! 数、およそ百近いかと・・・!!」
隊長「馬鹿な・・・」
怪人「ここはいったん撤退するべきかと──」
隊長「ぐっ・・・おのれ・・・」
隊長(Y8810は陽動だったというのか? 単独行動ではなかった・・・?)
隊長「この私をコケにするとは・・・ 覚えていろ・・・Y8810・・・」
〇森の中
Y8810「ハア・・・ハア・・・」
ミヤビ「用務員さん!!」
カズ「ミヤビ、近寄るな!!怪人だぞ!!」
ミヤビ「死なないで・・・用務員さん・・・」
〇田園風景
〇グラウンドの隅
ミーンミンミンミンミン・・・
カズ「おいコラァ」
カズ「キリキリ働け、怪人ヤロウ」
桜庭ハヤト「す、すみません・・・」
カズ「ったく、なんで俺がお前の監視役になんか──」
仁科ヒトミ「ふうん?立候補したように見えたがな」
桜庭ハヤト「え?」
仁科ヒトミ「死にかけのお前を殺そうとするムラの人たちを、自分が責任をもって監視すると言って黙らせていたよ」
カズ「フン!!」
カズ「あ~俺はこれから野暮用があるからな。いいか!!妙なマネはするなよ!!」
桜庭ハヤト「・・・」
桜庭ハヤト「俺は甘かった」
桜庭ハヤト「奴らは、俺がこのムラの人たちと共謀して反乱を起こしたと考えたはずだ」
桜庭ハヤト「俺の勝手な判断のせいでみんなが・・・」
校長「見くびってもらっちゃ困るな」
校長「我々も、ただのどかに暮らしていたわけではないぞ」
校長「いつでも反撃できるように準備はしてきた」
仁科ヒトミ「あんな武器やこんな武器も揃えてますもんね~」
仁科ヒトミ「まいどありです☆」
桜庭ハヤト「アンタ、まさか武器まで横流ししてんのか・・・」
校長「闘うよ・・・我々は」
校長「近隣のムラとも話をつけてきたところだ」
桜庭ハヤト「・・・俺も、闘わせてください」
校長「いいのかね、桜庭ハヤトくん」
校長「君は人間になりたかったんだろう?」
仁科ヒトミ「今回は人間の姿に戻れたが、これからもそうだという保証はないぞ?」
桜庭ハヤト「いいんです」
桜庭ハヤト「俺は、もう逃げない」
「闘って・・・勝ち取ってみせる」
「平和な世界を・・・!!」
仁科ヒトミ(楽しみだよ)
仁科ヒトミ(いつまでお前が『人間』でいられるか・・・)
ハヤトはイソップ童話のコウモリのような存在ですね。人間になれば怪人に襲われ、怪人になれば人間に襲われる。そんな中で必死に自分の存在意義を掴もうと葛藤する姿が見応えありました。ヒトミ先生のトリックスターとしての役回りも物語のスパイスになっててよかったです。
続きを感じさせる展開もありつつ、テンポ良く読めました!
タイトルの怪人名、気づくとふふっとしちゃいますね。
とても面白かったです😆
ストーリーに引き込まれ、夢中になっていたので気づいたら最後まで読み切っていましたー!