緑色のオムライス

青木翠

読切(脚本)

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〇理科室
誠昌(まことあきら)「なぁ椒! 自白剤とか作れないか?」
椒芽依(はじかみめい)「・・・は?」
  化学室に現れるなり突飛な要求をしてきた昌(あきら)に芽依(めい)は顔をしかめた。
誠昌(まことあきら)「実は気になってた子に告白したんだけどまだ答えがもらえなくってよぉ~~」
椒芽依(はじかみめい)「そこで自白剤と」
誠昌(まことあきら)「イエ~ス。天才の椒ならできるよな!?」
椒芽依(はじかみめい)「無理。嫌。不可能。諦めな」
誠昌(まことあきら)「そこを何とか! 俺とお前の仲だろ!?」
椒芽依(はじかみめい)「・・・お前と私、そんな仲だっけ」
誠昌(まことあきら)「お前に弁当分けたり、国語の試験のカンニング手伝ってやったのは誰だよ!」
椒芽依(はじかみめい)「・・・あぁ~・・・うん・・・」
誠昌(まことあきら)「恩を仇で返すのか!? この冷血女!」
椒芽依(はじかみめい)「はいはい。分かった三千円で作ってやる」
誠昌(まことあきら)「高っ!? ぼったくり!」
椒芽依(はじかみめい)「あ、そ。じゃあこの話終わり」
誠昌(まことあきら)「ぐぬ・・・背に腹は代えられん・・・!」
椒芽依(はじかみめい)「・・・まいど。ちょい待ってて」
  何故かエプロンを身に着け、芽依は化学室の奥へ去って行く。

〇理科室
  20分後、昌の前に置かれたのは──緑色のオムライスだった。
誠昌(まことあきら)「なにこれ」
椒芽依(はじかみめい)「自白剤だけど」
誠昌(まことあきら)「嘘つけ! 何だこの怪しいオムライス!? 薬ですらねえだろ!」
椒芽依(はじかみめい)「うっざ・・・依存性と毒性0にしてやったのに。じゃあ捨てとくね、これ」
誠昌(まことあきら)「待て待て待て! わかった買う買う!」
  昌はオムライスを急いでラップに包み、袋に押し込んだ。
誠昌(まことあきら)「・・・効果なかったら三千円返せよ?」
椒芽依(はじかみめい)「はいはい返す返す。さよならまたね」

〇学校の屋上
女子生徒「どうしたの昌君? 私まだ返事は・・・」
誠昌(まことあきら)「これを食べて欲しいんだ! 頼む!」
女子生徒「何? この・・・オムライス?」

〇理科室
  三日後──
誠昌(まことあきら)「おい椒(はじかみ)っ!」
椒芽依(はじかみめい)「・・・うっさ。ここで大声出すな」
誠昌(まことあきら)「あのオムライスだけどよ・・・!」
椒芽依(はじかみめい)「クーリングオフは受け付けてな──」
誠昌(まことあきら)「すっげぇな!? OKもらえたぜ! しかも美味いんだってな!」
椒芽依(はじかみめい)「・・・そ。感謝してね。天才のこの私に」
誠昌(まことあきら)「あぁ! マジで感謝だ! 神様!」
椒芽依(はじかみめい)「阿保らし・・・ふふっ・・・」
誠昌(まことあきら)「あぁ~ところで・・・神様にまたお願いがあるんだけど、さ」
椒芽依(はじかみめい)「また作れって? 自白剤を?」
誠昌(まことあきら)「頼むっっ! お前だけが頼りなんだ!」
椒芽依(はじかみめい)「呆れた・・・用途は?」
誠昌(まことあきら)「今友達が揉めててやべぇんだ! お互い本音を言わないとこのままじゃ・・・」
椒芽依(はじかみめい)「・・・ま。なんでもいいけどさ」
  芽依は溜め息をついて三千円をひったくった。

〇教室
男子生徒「何なんだよ昌・・・急に妙なオムライス食わせてきて・・・いや美味かったけどさ」
誠昌(まことあきら)「話は後! ほらアイツと話してこい!」
男子生徒「いや何で・・・待て、今ならなんかスッと本音を言えるような気が・・・?」
誠昌(まことあきら)「さぁさぁ行ってこい!」

〇理科室
  『オムライス』の効果に味を占めた昌は、その後も何度も芽依と取引を続けた。
椒芽依(はじかみめい)「・・・まいど。今用意するから」
誠昌(まことあきら)「いっつも助かる。ありがとうな椒」
椒芽依(はじかみめい)「ねぇ。お前ソレに頼りすぎてない?」
誠昌(まことあきら)「駄目か? 皆が本音を話し合える環境ってすっげえ幸せだろ・・・?」
誠昌(まことあきら)「相手が嘘ついてるかどうか疑わなくていいんだぜ?」

〇大学の広場
  一年が経ち、芽依も昌も高校を卒業した。
  違う大学に進学した二人は、徐々に疎遠になり連絡を取ることも、勿論『オムライス』のやり取りもなくなった。が──
  大学三年生になった芽依が研究のためにゼミへ向かっていると。
誠昌(まことあきら)「三年ぶりだな! 椒!」
椒芽依(はじかみめい)「・・・昌? 何でここに・・・?」

〇大衆居酒屋
  久々の再会を祝って二人で乾杯することになった。
  昔話や近況の話に花が咲くが、昌が机に『三千円』を置いた事で芽依は黙りこんだ。
椒芽依(はじかみめい)「まさか・・・また作れって? 今更?」
誠昌(まことあきら)「頼むよ。アレが今どうしても必要なんだ」
椒芽依(はじかみめい)「・・・はぁ、馬鹿らし。わざわざこっちの大学に来たのはそういう事」
  芽依は指を三本立てた。
椒芽依(はじかみめい)「あと三千円上乗せ。今お金ないの」
誠昌(まことあきら)「お、おいおい。本格的にぼったくるなぁ」
椒芽依(はじかみめい)「・・・・・・」
誠昌(まことあきら)「わかった、わかった。今の俺からすれば六千円くらい安いもんよ!」
椒芽依(はじかみめい)「まいど。作って明日郵送するから」
誠昌(まことあきら)「助かる~。いや、実は高校の頃からの彼女と破局の危機でさ・・・」

〇黒
  三年前と同じ取引が始まり、昌は以後何度も『真実』を求め、その度芽依は金を得た。
誠昌(まことあきら)「バイト先の先輩と揉めてよ~」
  何度も何度も。
誠昌(まことあきら)「いや両親がケンカしててさぁ」
  何度も何度も何度も。
誠昌(まことあきら)「アイツがきな臭くて」
誠昌(まことあきら)「念のためにな?」
  何度も何度も何度も何度も何度も。何度も。
誠昌(まことあきら)「無いと不安でよ」
誠昌(まことあきら)「あるに越したことないだろ?」
誠昌(まことあきら)「一応さ・・・」
誠昌(まことあきら)「ちょっと野暮用で」

〇マンションの共用廊下
  ──そして。
誠昌(まことあきら)「待ってたぞ芽依。オムライスを」
椒芽依(はじかみめい)「あき、ら・・・?」
  いつの間に昌の顔は痩せこけ、眼付は鋭くなっていた。
誠昌(まことあきら)「オムライス」
椒芽依(はじかみめい)「今朝の何時だと思って・・・!」
誠昌(まことあきら)「アレが手元にないと不安なんだ。さぁ」
椒芽依(はじかみめい)「いい加減にしろ昌! 本来あんなものなくたって人は生きていけるんだよ!」
誠昌(まことあきら)「椒には感謝してる。嘘にまみれたこの世界で俺だけが『真実』を知れるんだ!」
椒芽依(はじかみめい)「お前・・・まさか」

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