傳きの聖斬(かしずきのせいざん)

kakiken

父になった死神(脚本)

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〇二階建てアパート
  ナナの声「ちょっとパパ!」

〇アパートのダイニング
風来ナナ「パパ、またお水を冷凍庫にしまってる!」
風来サトル「昨日ナナ、冷凍庫に水を入れていただろ?」
風来ナナ「あれは氷を作るために容器に水を入れていたの」
風来サトル「水と氷、よくわかんねえんだよな」
風来ナナ「大丈夫? あの事故以来、パパ何か別人になったみたい」
風来サトル(そりゃそうさ。別人なんだからな)

〇黒背景
  死神族の俺が事故死した風来サトルに乗り移ってから一週間が過ぎた。
  風来ナナは風来サトルの娘。つまり私はナナの父親になったわけだ。
  ナナの母親はナナの出産の際に死んだ。だからナナは父親の手で育てられていた。
  しかし今は俺がナナに育てられている状態であった。

〇学校脇の道
風来ナナ「ララララ~ララララ~」
風来サトル「ナナはいつも歌っているな」
風来ナナ「パパも一緒に歌おうよ!」
風来サトル「・・・」
風来ナナ「パパ?」
風来サトル「・・・」
風来ナナ「パパ、何をキョロキョロしているの!」
風来サトル「え? ああ、大丈夫だよ」
風来ナナ「交番までの道、覚えている? 私も一緒に行こうか?」
風来サトル「大丈夫、もう覚えたよ」
風来ナナ「いけない遅刻しちゃう! じゃあ学校行くね。パパ、仕事頑張ってね!」
風来サトル「ああ。ナナも勉強頑張れよ」
風来サトル「・・・」
  俺は周囲に怪しい気配を感じていた。
  それは人間のものでは無かった。そうだとすれば考えられるのは一つだけだった。

〇街中の交番
守田巡査「最近遅刻しなくなったな。関心、関心」
風来サトル「おはようございます。今日も悪い奴をたくさん捕まえてやりますよ」
守田巡査「お前変わったな。あの事故で命拾いして、すごく勇敢になったな」
風来サトル「風来サトルって弱い人間だったんですね」
守田巡査「えっ」
風来サトル「あ、いや」
老人「すいません、道を尋ねたいのですが」
守田巡査「はい、はい」
風来サトル「あっ、俺が案内しますよ」

〇裏通りの階段
老人「まだ到着しないのかね?」
風来サトル「もうたどり着いているだろ?」
老人「はあ?」
風来サトル「あんたの目的はこの俺だろ?」
老人「何を言っているのかね?」
風来サトル「あんたの体には影がない。つまり生身の人間ではないってことだ」
老人「なるほど。今度人間に化ける時は影を入れるとしよう」
風来サトル「さっさと姿を見せやがれ!」

〇黒
マテラス「エルマ! 保安部隊長が直々にお出ましか」
エルマ「犯罪者のお前が人間の世界で犯罪者を捕まえているとは、笑うに笑えないな」
エルマ「お前の任務は死んだ人間の魂の回収。そんな単純な任務すらできないのか?」
マテラス「風来サトルの魂の回収には少し時間がかかると報告をしたはずだが」
エルマ「人間に乗り移って何をするつもりだ?」
マテラス「約束してしまったんだよ」

〇ショッピングモールの一階
  あの日、爆発事故に巻き込まれて風来サトルは死んだ。
  私は任務通りに風来サトルの魂の回収しようとしていた。

〇荒廃したショッピングモールの中
  私が風来サトルの魂を回収し、引き上げようとした時だった。
風来ナナ「パパを助けて」
  風来ナナは風来サトルが身を挺して守ったことで一命を取り留めていた。
風来ナナ「お願い、パパを助けて」
マテラス「お前、俺が見えるのか?」
風来ナナ「もうすぐパパの誕生日なの。私パパの誕生日を祝ってあげたいの」
マテラス「それは無理な願いだ。ここで死ぬのがこの男の運命だ」
風来ナナ「だったら私の命と交換して。私が死ぬから」
マテラス「何?」
風来ナナ「パパは誕生日を祝ってもらった思い出が無いの」
風来ナナ「生きていれば、パパはいつか誰かに誕生日を祝ってもらえるから」
マテラス「お前、面白い奴だな」
マテラス「よし、わかった。特別にお前の命とこの男の命を引き換えてやろう!」
  俺はナナの魂を抜き取ろうとした。
  しかしナナの魂は不思議な力に邪魔をされて回収することが出来なかった。
  俺はナナとの約束を守るため仕方なく風来サトルの体に魂を戻そうとした。
  しかし風来サトルの魂は元の体に留まる力を失っていた。
マテラス「どうすればいいんだ」
風来ナナ「早く、早くパパを助けて」
マテラス「誕生日を一緒に祝えたらそれでいいんだな」
風来ナナ「うん」
マテラス「こうなったら仕方あるまい」
  こうして俺は風来サトルの体に乗り移り、風来サトルとして生きることとなった。

〇黒
マテラス「これが今に至る経緯だ」
エルマ「死神族の掟には背いて人間の娘の約束を優先するとは理解不能だな」
マテラス「理解などしなくても構わない。ただ風来サトルの誕生日まで待ってくれ」
エルマ「聞けない願いだな。最後にもう一度チャンスをやろう。風来サトルの魂を回収しろ!」
マテラス「嫌だと言ったら?」
エルマ「お前を消すまでだ!」
エルマ「マテラス、覚悟しろ!」
マテラス「それはこっちのセリフだ!」

〇黒
エルマ「行くぞ!」
マテラス「今度はこっちの番だ!」
エルマ「食らえ!」
マテラス「その程度かい、隊長さんよ!」
エルマ「ぐああ!!」
マテラス「忘れたのか? 俺は保安部隊にいた時、武勇では無敵だったんだぜ!」
エルマ「くっ」
マテラス「さて、とどめをさしてやろう!」
「そこまでだ!」
マテラス「誰だ!」
エルマ「そ、その声はザイナ様」
マテラス「ザイナって、死後の世界の支配者のザイナか?」
エルマ「口をわきまえろ、無礼者め!」
「ザイナの声「エルマが歯が立たないとは、さすがの強さだな、マテラスよ」」
マテラス「姿を見せたらどうだ? あんたも俺を消しにきたんだろ、相手になってやるよ!」
エルマ「図に乗るな、マテラス!」
「ザイナの声「マテラスよ、私はお前の願いを叶えてやってもいいと思っている」」
マテラス「ほ、本当か!」
「ザイナの声「マテラス、お前に特別任務を命じる」」
「ザイナの声「その任務を遂行したならば、お前の背信行為は不問に付してやろう」」
マテラス「俺は何をすればいいんだ?」
「ザイナの声「邪心族を成敗しろ」」
マテラス「邪心族の成敗?」
「ザイナの声「邪心族は人間の心を邪に染め、独裁者や凶悪犯罪者を操っている」」
「ザイナの声「人間の命を弄ぶ行為は死後の世界を司る我々にとっても看過できない」」
「ザイナの声「これは死神族最強の武勇者であるお前に相応しい任務のはずだ」」
マテラス「あんたは俺の事をよくわかっている。いいだろう、その任務引き受けた!」
「ザイナの声「では早速の指令だ。お前のいる場所の近くに邪心族のトドラーがいる」」
「ザイナの声「トドラーに操られた人間がこれから無差別殺人を起こそうとしている」」
「ザイナの声「マテラスよ、トドラーを見つけ出し成敗するのだ」」
マテラス「トドラーだな、わかったぜ!」
エルマ「ザイナ様、本当にマテラスをお赦しになられるのですか?」
「ザイナの声「邪心族の邪術に我々は手も足も出ない。マテラスが勝てると思うか?」」
エルマ「なるほど、厄介者を消すために厄介者を利用するということですか」

〇街中の道路
  俺は人間からにじみ出る邪気を頼りにトドラーを探した。
  しかしほとんどの人間の心には邪気があるため見分けることが出来なかった。
風来サトル「何か手がかりでもあれば」

〇SHIBUYA109
風来サトル(無差別殺人ってことは人の集まる場所に現れるはずだ)
風来サトル「あっ!」
  凄まじい邪気を感じた。俺はその邪気の方に向かった。

〇渋谷の雑踏
風来サトル「おい、そこのお前!」
風来サトル「見つけたぞ、トドラー!」
男「トドラー? 何ですかそれ」
風来サトル「いいから来い!」
男「何だよ、離せ!」
  男はいきなりナイフを振り回し襲い掛かって来た。
風来サトル「やはりトドラーが操る人間か!」
  俺は一瞬で男を取り押さえた。
  そして男の魂を抜き取り仮死状態にした。
  すると魂に取りついていたトドラーが姿を現した。

〇黒
トドラー「ちょっと死神族のキミ、どうして邪心族の邪魔をするんだい?」
マテラス「特命によりお前を成敗する」
トドラー「成敗? またまた、ご冗談を」
マテラス「冗談などではない。覚悟しろ!」
トドラー「僕が言う冗談とは、君が僕に勝てると思っていることだよ。ありえないことだからね」
マテラス「冗談かどうかは戦えばわかるぜ!」
トドラー「やれやれ、仕方ありませんねぇ」
マテラス「これでも食らえ!」
トドラー「おっと危ない。いい太刀筋だね。接近戦では分が悪いようだね」
トドラー「次はこっちの番だね」
トドラー「銃弾を剣ではじき返すとはすごいね」
マテラス「関心している場合か?」
トドラー「あらら。素早いね。いつの間にか背後を取られたみたいだ」
マテラス「お気楽な奴め。消えてもらうぞ!」
マテラス「う、腕が動かない」
トドラー「僕の邪術、凄いだろ?」
マテラス「ううっ、ううっ」
トドラー「君の体はもう君の意思では動かないよ」
トドラー「そうだ、その自慢の剣で君自身が斬られるのがいいかもね」
マテラス「う、腕が勝手に動く。このままでは首を斬られてしまう」
トドラー「悪あがきしても無駄だよ。君は消えるしかないんだから」
トドラー「ん?」
  どこからともなくナナの歌声が聞こえて来た。

〇渋谷のスクランブル交差点
風来ナナ「ララララ~ララララ~」
風来ナナ「ララララ~ララララ~」

〇黒
  ナナの歌声がトドラーの邪術を消し去った。
マテラス「よし、体が動くようになった!」
トドラー「一体何が起こったんだ?」
マテラス「トドラー、覚悟しろ!」
トドラー「な、なぜだ。邪術が使えない」
トドラー「うわ~」
  俺はトドラーを消し去った。

〇黒
エルマ「ザイナ様、マテラスが勝ってしまったようです」
「ザイナの声「まあよい、マテラスには負けるまで邪心族と戦わせるとしよう」」

〇渋谷のスクランブル交差点
風来ナナ「ララララ~ララララ~」
風来サトル「ナナ!」
風来ナナ「パパ!」
風来サトル「助かったぜ、ありがとうな」
風来ナナ「助かった? 何のこと?」
風来サトル「いや、いいんだ。とにかくナナの歌声は最高だよ!」
風来ナナ「パパ嬉しそうだね、何か良いことあったの?」
風来サトル「まあな。でもナナ、どうしてこんな場所にいたんだ?」
風来ナナ「この近くにおいしいケーキ屋さんがあるから、ケーキ作りの見学に行くところなの」
風来サトル「ケーキ?」
風来ナナ「今度のパパの誕生日のケーキ、私が手作りするんだ」
風来サトル「ああ。そうだ、誕生日だったな」
  ナナからは邪気が全く感じられない。
  純粋なナナの心がトドラーの邪術を打ち破ったのだろう。
風来ナナ「ありがとう」
風来サトル「えっ?」
風来ナナ「パパが戻って来てくれたこと」
風来サトル「ナナ・・・」
  もしかするとナナは俺の存在に気づいているのかもしれない。
  俺はこのままナナの父親でいたいと思うようになった。
風来サトル「パパはこれからもずっとナナと一緒にいるから」
風来ナナ「うん!」
風来ナナ「ララララ~ララララ~」
風来ナナ「ねえパパも一緒に歌って!」
風来サトル「えっ・・・ラ、ラ、ララ、ララ~」
風来ナナ「ララララ~ララララ~」
  ナナの歌声があれば、俺は無敵だ!
  傅きの聖斬 『父になった死神』完

コメント

  • ナナは最初からマテラスの姿が見えていたし、魂を抜き取ることもできなかったから特別な存在なんですね。それがストーリーにどう生かされるかと思ったら邪心のない歌声で敵の技を封じるとは。愛情を持って傅くにふさわしいナナに出会ってマテラスも幸せな居場所を手に入れましたね。

  • 本当のお父さんじゃない中身だったとしても、お父さんは一人しかいませんよね。
    本当に心優しい子で、本当のお父さんが少し不遇に感じてしまいますが…。

  • 人種を越えたすばらしい愛情物語でした。純粋な魂に触れると、だれでもがその偉大さを前に本来の力さえ失ってしまうという現象、どんなたとえよりも明確でした。

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