被り物じゃありません

キタジマ

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〇幻想
  小さい頃読んだ物語。
  ある所に貧しくて蔑まれていた女の子がいた。
  ある時、彼女は勇気を出して国の舞踏会に行った。
  だけど周りからいじめられドレスを破かれそうになる。
  その時突如、白馬の王子様が現れて女の子を助け出し、そして出会った二人は最後に結ばれるという話。

〇街中の道路
  ダッダッダッダ。
  でも現実の私は自分の意見を言う勇気すらない地味なただの人。
  だからせめて目立たず生きていこうって思ったのに・・・。
内田鈴香(入学初日から遅刻だなんて洒落にならないよ〜)
  昨日の夜、新しく始まる高校生活の不安で眠れなくなってしまったのが原因だ。
内田鈴香(うう、早く信号変わってよ〜)
子供「うえ〜〜ん」
  ふと横を見ると、子供が泣いていた。
内田鈴香「え!? えっと、ど・・・どうしたの?」
子供「今日から小学生なのに、グスッ、学校までの道、わからなくなっちゃった・・・」
内田鈴香「・・・どこの小学校?」
子供「グスッ・・・中山小」
  中山小学校までの道はわかるが、高校とは完全に反対側だ。
  この子を送っていたら遅刻は免れない。
内田鈴香(でも・・・放っておけないよね・・・)
内田鈴香「じゃあお姉ちゃんと一緒に・・・」
  すると突然、目の前に男性が走ってきた。
内田鈴香「え・・・?」
  顔を見上げると、そこには首から上が馬である青年の姿。
  彼の姿を見て固まってしまった私をよそに、彼は突如子供を背にして走り出した。
内田鈴香「え!? ・・・ちょっと・・・!」
  彼は信号を渡り中山小へ向かって行く。
競馬新聞を持ったおっさん「・・・!?」
  彼はグングンと速度を上げていく。
内田鈴香(・・・あ・・・この気持ち・・・)
  彼は周りの人を次々と抜いていく。
競馬新聞を持ったおっさん「・・・行け・・・!」
内田鈴香(もしかしてあの人が・・・)
  途中においてあった自転車も飛び越えた。
競馬新聞を持ったおっさん「・・・差せ!」
内田鈴香(いや、間違いない! あの人が私の・・・)
  最後の一人と並んだ。
競馬新聞を持ったおっさん「そこだ! 差せええーー!」
  そして彼は、最後の一人を抜いていった。
内田鈴香(白馬の・・・いや! 栗毛の王子様だ!)
競馬新聞を持ったおっさん「よっしゃああああー!」

〇教室
内田鈴香(なんとか学校は間にあったけど・・・まさか隣の席だなんて・・・!)
馬神謙一「・・・・・・」
  先ほどの自己紹介で聞いた。彼の名前は馬神謙一くんと言うらしい。
女子「ねえねえ、見てあの人」
内田鈴香「・・・?」
女子「わかる。めちゃくちゃ・・・」
女子たち「カッコいい〜!」
  馬神くんは女子たちの目線を独り占めしていた。
女子「見てあのサラサラとしたタテガミ。 同じ人間とは思えないわ」
女子「あのキラキラとした目もたまらないわ」
女子「それより、あのすらっと伸びた鼻筋よ。 他の男子と比べてみて? ハナ差何センチ?」
  女子たちがきゃっきゃっと騒いでいる。
内田鈴香(わ〜、馬神くんってモテるんだ・・・。 できたら・・・話してみたいな・・・)

〇大きな木のある校舎

〇教室
内田鈴香(うう・・・やっぱり話せないままお昼休みになっちゃったな・・・)
  隣を見ると馬神くんは前の席の音無豊くんと席を付け合わせていた。
内田鈴香(馬神くんは友達できたんだ。すごいな)
馬神謙一「!!??」
  馬神くんが風呂敷を開けるとそこには人参が一本入っていた。
音無豊「どうした? 馬神?」
馬神謙一「・・・・・・」
音無豊「もしかして・・・人参苦手なのか?」
  馬神くんは、悲しそうに頷いた。
音無豊「そうか。・・・じゃあ交換しようぜ」
  音無くんはおかずの箱を手渡した。
馬神謙一「!!」
音無豊「いいよ。その代わり人参くれよ」
  馬神くんは嬉しそうにおかずを口にする。
内田鈴香(ふふ。よかったね、馬神くん)
内田鈴香(それに音無くんも人参オンリーでご飯食べててすごいな)
女子「ねえちょっと」
内田鈴香「え? ・・・!?」
  気がつくと私の周りを女子が囲んでいた。

〇教室の外
  ガンッ!
  女子の一人が私を壁に押し付ける。
女子「ねえ、ちょっと。 気軽に馬神くんのこと見ないでくれる?」
女子「そうよ! 隣の席だからって仲良くなれるなんて思わないで?」
内田鈴香(え? え?)
女子「馬神くんを狙ってる人なんていっぱいいるの」
女子「あなたみたいな地味な子が可能性あるなんて思わないで頂戴」
内田鈴香(ど、どうしよう! これは間違いなく、いじめだ!)
内田鈴香(うう・・・怖いよ。 誰か・・・誰か助けて・・・!)
  パカラッパカラッ。
内田鈴香「え? ・・・」
  足音に目を向けると馬神くんがこちらに向かって走ってくるのが見える。
女子「う、馬神くん!?」
  馬神くんはそのまま走ってきて、私の前で立ち止まり、しゃがみ込んだ。
内田鈴香「え? え? なに? ・・・きゃっ!」
  馬神くんは私を背中に乗せて走り出した。
女子「ちょっと! 馬神くん! 待ってー!」

〇街中の道路
  女子たちに追われている中、馬神くんは私を背にしたまま速度を上げていく。
女子「ちょっと〜! 馬神く〜〜ん!」

〇パドック
実況「さあ14頭連なって、残り800m!」
  私は馬神くんに担がれたまま第三コーナーに差し掛かっていた。
内田鈴香(馬神くんの背中、暖かい・・・)
内田鈴香(こんなところまで私を連れてってくれたし・・・)
実況「さあ、馬群が狭まっていく!」
内田鈴香(思えば馬神くんは、朝の子供の時も今も、いつも誰かのために走っているんだな)
実況「第4コーナーを曲がった!」
内田鈴香(そんな馬神くんの背中におぶってもらってる・・・)
内田鈴香(それだけで私は幸せだな・・・)

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