見ちゃった!

春瀬川モモチ

読切(脚本)

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〇部屋の扉
  きっかけは、借りていた漫画を返しに、兄の部屋に入った時だった。
「トントン・・・」
ユイハ「兄さん? 入るよ〜」
  ・・・返事はない
  ドアプレートに書かれていた「勝手に入るな」の文字。
  しかし、幼い私は、その警告に対する理解がまだできていなかった。
ユイハ(いいでしょ・・・家族だし・・・)

〇男の子の一人部屋
ユイハ「・・・ 兄さん、本、返しに来たよ?・・・」
兄「・・・」
  兄はヘッドホンをつけており、さらにパソコンの画面に夢中で聞こえていない様子だった。
ユイハ(またか・・・ 勝手に返そ・・・)
  兄は昔から、何かに夢中になると他のことが見えなくなる。
  それを知っている私は、特に兄のことを気にせず、漫画を返しに本棚に向かった。
ユイハ(・・・)
  ふと、兄の方に視線を向けた。
ユイハ(!?)
  兄のズボンは下ろされており、下半身が露わになっている。
ユイハ「〜・・・」
  親の裸ならまだしも、兄の裸は見慣れなかった私は、居た堪れなくなってさっさと部屋から出ようとした。
ユイハ「・・・」
  しかし、好奇心もあった。
  兄はパソコンで何を見ているのだろう、どうして半裸なのか・・・
  私は好奇心に負け、兄が見ている画面をこっそり見た。
ユイハ「・・・」
ユイハ「?・・・」
ユイハ「!?・・・」
  兄が夢中になっていたのは・・・
  ジャンルで言えばノベルゲームの──
  エロゲだった。

〇女の子の部屋
ユイハ「・・・」
  その夜、私はさっきのことが気になって眠れなかった・・・
ユイハ(・・・)
  あんなものが存在してもいいんだと思った・・・
  下ネタが大好きな男子同級生も触れない禁忌を垣間見た気がした・・・
ユイハ「う・・・んん・・・」
  それと同時に、単純にストーリーが気になっている自分もいた・・・
  あの赤髪のヒロイン、レナはあの後どこに行ってしまったんだろう・・・
  不穏な言葉を残していったけど・・・
  怪物になってしまった主人公の妹・・・名前なんだっけ・・・はあれからどうするんだろう・・・
ユイハ「・・・」
ユイハ(き、気になる〜・・・)

〇男の子の一人部屋
  翌日・・・の夜
兄「・・・」
ユイハ「・・・ ま、漫画、借りにきた・・・」
ユイハ(は、入って来ちゃった・・・ 昨日と同じ時間に・・・)
兄「・・・」
  兄は相変わらずエロゲに夢中でこちらに気づいていなかった。
ユイハ(ホッ・・・ 気づかれてない・・・)
  そして・・・
  私も兄の後ろから画面を見る・・・
ユイハ(よかった・・・前からあんまり進んでない・・・)
ユイハ(・・・)
兄「・・・フフッ」
ユイハ(ぷっ・・・)
兄「え・・・」
ユイハ(え〜・・・ そんな・・・)
兄「・・・」
ユイハ(うわっ・・・ えっちなシーンだ・・・)
ユイハ「う〜 でも我慢・・・」
兄「・・・ふう」
ユイハ(あ、あれ? もう終わりか・・・せっかく我慢したのに・・・)
ユイハ(・・・ わっやばっ はやく出ていかないと!)
兄「・・・?」
兄(気のせいか・・・)

〇女の子の部屋
ユイハ「あ、危なかった〜」
ユイハ「ふ〜・・・」
ユイハ「あっ・・・ 結局漫画借りれてないじゃん・・・」

〇黒背景
  それから・・・毎日夜になったら兄の部屋にエロゲを見に行くようになった。

〇男の子の一人部屋
兄「・・・!」
ユイハ(だめだよ・・・ サナは兄さんを助けようとしただけなんだよ・・・ 理念は同じなのに戦い合うなんて・・・)
兄「・・・」
兄「・・・!」
ユイハ(あっ・・・ 兄さん、いい選択した! カッコいい! 半裸だけど!)
  コンコン・・・
ユイハ「!?」
兄「・・・」
母「入るよ〜 ちょっと用が・・・」
兄「・・・」
母「ちょ、ちょっと! 何してんのよアンタ!」
兄「・・・」
母「うう〜・・・信じられない〜 こんなハレンチなこと、いつの間に覚えたのよ〜・・・ ママショック・・・」
「・・・」
ユイハ(あ・・・危なかった〜 ロッカー空いてて助かった・・・)
ユイハ「それにしても・・・」
兄「・・・」
ユイハ「全く気づいてない・・・ ホントすごいな・・・」

〇男の子の一人部屋
ユイハ(・・・)
ユイハ(そんな・・・ でも、よかった・・・ 最期に思い、伝えられたんだ・・・)
兄「・・・」
兄「グスッ・・・」
ユイハ(兄さんも、泣いてる・・・)
ユイハ(そうだよね・・・ 多分一番好きなキャラだっただろうし・・・ 頻繁にえっちシーン出てくるし・・・)
兄「めっちゃいい・・・」
ユイハ「わかる・・・」

〇女の子の部屋
  そして私は兄に気づかれることなく、最終章まで見届けることができた。
ユイハ(いい話だった・・・本当に・・・)
  しかし、そのことによって一つの「厄介な欲」が私の中で生まれた・・・
ユイハ「この良さ・・・共有したい・・・」
  普段は読んでいる漫画やアニメを友達と話し合っている私は、このエロゲの話も誰かと話し合いたいと思った。
  しかし、学校でエロゲをやっている人なんてまず間違いなくいない。
  となると、話し合える人は遊んでいた当事者、兄だけである。
ユイハ「いや〜無理でしょ・・・」
  しかしこのエロゲの話をするということは、兄がやっていたところをこっそり見ていたことを白状することになる。
  それはいくらなんでも失礼な話だし、恥ずかしすぎる。
  最悪絶交されるだろう。
  とはいえ・・・私が大人になっても、多分エロゲの話なんてできる機会はまずないだろう・・・
  激しくうずまくこの気持ちは、そっと心の中にしまっておくしかないのだろう・・・
  そう諦めるしかなかった。
ユイハ「・・・」

〇女の子の部屋
ユイハ「・・・」
ユイハ「あっ、そうだ」
ユイハ「・・・検索っと」
ユイハ「・・・え!?」
ユイハ「アニメ化!? 今やってるの!?」

〇明るいリビング
ユイハ「お母さ〜ん テレビ使うね〜?」
母「いいわよ〜」
ユイハ「・・・ おお、ホントにやってる・・・」
ユイハ(・・・へえ〜 最初はこうなってたんだ)
ユイハ(あ〜、ここら辺から見始めたんだな〜)
ユイハ(・・・ おもしろ・・・)
ユイハ「ん・・・」
ユイハ(ここは・・・ 兄さんの選択の方がよかったな・・・)

〇男の子の一人部屋
ユイハ「漫画返しに来たよ〜」
兄「おう、面白かったか?」
ユイハ「うん。はやく続きが見たい・・・」
ユイハ「そうだ、兄さん、「ギルティコード」って"アニメ"知ってる?」
兄「おっ!?」
兄「あ〜・・・あれだろ。 エロゲが原作の・・・ 見てるよ」
ユイハ「ぷっ・・・」
ユイハ「へえ〜あれって原作、そうなんだ。 最近見たから誰かと話したいなーと思って・・・」
兄「そうか・・・ 実は・・・俺もだ」
ユイハ「・・・♪」
ユイハ「じゃあ、何のキャラ好き?」
兄「あ〜好きなキャラか〜・・・」
ユイハ「待った、当ててみる。 ・・・リーン」
兄「スッゴ! よく当てたな! 正解なんだけど」
ユイハ「・・・フフッ」
兄「でも・・・そのキャラってまだアニメに出てきてなかったような・・・」
ユイハ「えっ・・・」
  〜fin〜

コメント

  • たかがエロゲ、されどエロゲ。ストーリーやキャラクターに感銘を受けてファンになるチビッコもいるんだと思うと作者も気が抜けませんね(?)。このようなストーリーを見ると、デジタルネイティブな子供たちの感覚はいろんな意味で大人と違ってくるんだろうなあ、と実感しました。

  • お兄さん(半裸ver)の背後からコッソリ見るドキドキ感、エロゲを見るというドキドキ感、そしてエロゲのストーリー自体によるドキドキ感、それらが混じり合った感じが面白すぎます!

  • 兄さん、夢中になりすぎてお母さんに見つかってしまったのは災難でしたね😅
    私も、兄のエロゲをこっそりプレイしていた事があるので、気持ちわかります!w

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