宵の人斬りと狐っ娘

イシガキパン

読切(脚本)

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〇城下町
  閑散とした、宵闇に濡れる住宅街の一角。三日月が微笑む、夜深々としたその中に、二つの朧げな人影が写っていた。
影「度し難いな少年よ・・・誰ともしれぬ民草一人の為に、どうしてそう死に急ぐのか・・・」
少年の影「ハァ・・・ハァ・・・クソッ・・・!!」
  一つの影は大柄で、片手には一本の日本刀を携えていた。刃面に波打つ白銀は月光に映え、ある種芸術作品としての体を成している。
大男「・・・まだやるか阿呆め。私は何も貴様を亡き者にしようなどとは考えていないと、何度言えば解る?」
  もう一方の影も同様に日本刀を握りしめ、鬼気迫る勢いで、眼前の大男へ繰り返し斬りかかっている。
少年「やぁっ!!たぁっ!!」
  大男とは対照的に小柄な体は相応に疾く、方向、角度を何十通りと切り替え、絶えず男の首を絶たんと刀を突き立てる。しかし、
大男「全く、面倒な餓鬼だ」
少年「・・・!!!」
  大男はほとほと愛想が尽きたように、向かってきた刃を強く跳ね除ける。
  疲弊仕切った挑戦者の腕力は大男のそれに比べればあまりに脆弱で、刀は勢いのままに掌から抜け出し宙を舞い、
  傍の草っぱらに突き刺さった。
大男「念の為聞いておくが、ここから無様に命乞いをする予定は?」」
少年「・・・・・・やるなら早くやれっ!!」
大男「そうか、残念だ」
  両手を地に伏せ膝を付き、無防備になったその首に、大男は躊躇なく刃を立てる。痛みを感じる暇も作らぬ、彼なりの敬意の印だ。
大男「悪く思うなよ、これもまた天命だ」
  瞬く間に振り上げられた刀の穂先は、まるで男が辿る道を暗示するように、ただ赫々と光る月光を指していた。
  体の全体重をかけるように振り下ろされたその刃は、人間の反射速度が捉えうる範囲を優に越えている。
  これならば、皮肉は愚か頑強な骨でさえ一度に断ち切ってしまえるだろう。
  刀が風を切り、音と速さを競い合うその刹那。僅か一秒と経たずに死神の鎌は、男の丸裸な首根っこを捉え肉薄する筈だったのだ。
  ―――彼女が数コンマ、遅れていたのならば。
大男「!!?・・・っぐ!!」
  流石とも言うべきか、大男は突然の来客に、刀を無理やり振り上げる事で間一髪応対してみせた。
  処刑執行に気を注いでいれば、一見華奢なその少女の二の脚が、きっと大男の首を瞬く間に消し飛ばしていただろう。
???「これを受けるとは流石じゃのう。やはり悪知恵の働くだけの猿ではないようで、ワシ嬉しい〜」
大男「・・・・・・」
  キツネ目の少女は振り上げた足はそのままに、相対する大男の咄嗟の対応を褒め称える余裕を見せていた。
  他方、大男は先程とは打って変わって険しい表情で、体の毛穴から汗が滝のように噴き出させ刀を握っている。
  死線を抜けてきた歴戦の強者で無かろうと、この1場面を見るだけで両者の力量の差を理解出来るだろう。
大男「何が目的だ・・・!『九尾の狐』!!」
九尾の狐「なに、私はその小童と、お主の首が欲しいだけじゃよ?」

コメント

  • 大男がその名を既に知っているほど「九尾の狐」は恐れられている存在なんですね。少年の命も奪うということは、助けに来たわけでもないんだ。人間ではない妖怪か何かでしょうか。気になります。

  • 地の文で伝えんとするところと、キャラクタービジュアルやエフェクトで視覚的に伝えようとするところの分業が効果的ですね。緊迫感がより伝わってきました

  • 冒頭から緊迫した雰囲気が伝わり、簡潔な記述からも状況が理解でき、最後に狐娘の圧倒的な存在感がすべて吹き飛ばしたのも見事な感じでした。

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