溶け込む怪人(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
快翔「・・・・・・ごちそうさまでした」
「────次のニュースです︎」
「今日午前5時、〇〇町にて怪人の通り魔事件が起きました。犯人は現在逃走しており、特徴は顔が赤く────」
母「あら、結構近いわね」
快翔「はぁ・・・またかよ」
うんざりするようなニュースを朝から見る羽目になり、俺のテンションはだだ下がりだ。
快翔(こういう奴らのせいで、善良な怪人の肩身まで狭くなるんだよ)
快翔「勘弁してくれよ・・・」
父「まったく、こういう事件はいつになってもなくならないものだな」
父「お前はこんな風になるなよ」
こういった話を聞くと、父は決まって俺に聞き飽きた説教をしてくる。
快翔「はいはい、分かってるって」
快翔(やっぱり怪人と人間の共存って難しいのかな)
そして毎回、俺は永久に解決しないであろうことを考えてしまう。
快翔(一体どうすれば────)
母「快翔、あんたそんなにのんびりテレビ見てていいの?」
快翔「やべっ!学校行ってきます」
〇田園風景
快翔「やっべー、急がないと」
俺の名前は快翔、怪人だ。
怪人というものは人間よりもはるかに強く、凶暴で、
多くの怪人は人間社会に溶け込めず、人間を排他している。
だから、一部の怪人はああいった事件を起こしてしまうのだ。
しかし、俺たちは違う。
〇おしゃれなリビングダイニング
俺の両親も怪人だが、人間のフリをして力を抑え、
怪人であることを隠して暮らしている。
少し変わっている類の怪人だ。
〇田園風景
だから俺も両親と同じように、人間の姿になって怪人ということを隠し、人間として生活している。
そのおかげで、こうしてうまく人間社会に溶け込み、平和に暮らすことが出来ている。
快翔(まったく、みんな俺達みたいに上手くやってほしいものだよ)
ちなみに、人間は怪人を嫌い、差別する人が多いため、
俺が怪人だとバレたら終わる。
快翔(まぁ、流石にそんなことは起こらないと思うけど)
田んぼの稲が朝日と相まって鮮やかな小金色に輝いている。そんな田んぼを横目に、自転車でガタガタな道の上を走り抜ける。
全身に受ける風が心地良い。
しばらくすると、一面田んぼだらけの道とは打って変わって、両手に住宅街が広がる坂道に差し掛かった。
快翔(怪人の姿だったらこんな坂道も余裕なんだろうな・・・)
快翔(なーんてな)
快翔(───はぁーー疲れる)
〇教室
快翔「おはよー」
「おはよー!」
勇斗「お前遅刻してんじゃん(笑)」
快翔「いいや、先生来てないからギリギリセーフだ」
快翔「というか、先生遅くない?」
蓮「あぁ、今日はいろいろと忙しいみたいで、ホームルームは遅れるみたいだよ」
快翔「ラッキー!」
こいつらは俺の親友。
勇斗はとにかく元気な奴で、そのうえ面白くて、どんな人でも仲良くなれるような性格をしている。
蓮は勇斗と対照的に、いつも冷静で落ち着いている。だが、たまに出る天然な発言が俺の笑壺にハマるのだ。
もちろん、2人とも人間で、
俺が怪人であることにも気づいていない。
勇斗「そういえばさー、ここの近くで怪人が事件起こしてたよなー」
蓮「そのニュース見たよ、物騒な世の中だよね」
勇斗「まったく、とんだ迷惑だよな」
快翔「・・・はは、ほんとだよな」
快翔(なんだか・・・裏切ってるみたいで、申し訳ない気分になる・・・)
勇斗「───それよりさ!昨日の水タウ見た?」
快翔「・・・あぁ!!見た見た、最後の話ヤバかったよな!」
蓮「どんな話だったの?」
勇斗「お前見てないのー?なんかシロちゃんが──」
ガッシャーン
「へっ!?!?」
ひとりでに窓が破裂したかと思えば、ガラスの破片が足元に散りばめられる。
突然のことに驚いて固まっていると、大きな影が俺達の頭上を覆う。
すると、赤くて巨大な犬の化け物がこちらを見下ろしていた。
友人A「か、怪人!?」
快翔(いや、ここ3階だぞ・・・?)
友人B「すごい跳躍力・・・」
驚くほど冷静な俺達だったが、悠長なことを考えている間に、俺たち以外のクラスメイトは教室からとっくに逃げており、
標的は俺達だけになっていた。
怪人「・・・あぁ!?」
友人B「・・・・狙われ・・・てるね」
怪人「てめぇぶっ殺してやる!!!!」
そう言うと、怪人は蓮目掛けて拳を大きく振り上げる。
快翔「────おらぁ!!」
考えるより先に体が動いていた。
怪人「ぐぁ!?」
適当に放った俺の拳が、あいつのみぞおちにクリティカルヒットする。
怪人「痛ってぇ・・・クソっ!!」
怪人「お前も怪人かよ!!変装してんじゃねぇよ!!!!」
怪人「覚えていやがれ!!!!クソが!!」
なんて捨て台詞を吐いたあと、唸るような声と共にあいつは去っていった。
快翔「た、助かった・・・」
「・・・おぉ〜〜」
快翔「──────はっ!?」
胸をなで下ろしたと同時に、ようやく俺の姿が変わっていることに気がついた。
快翔「まじかよ・・・・・・」
さっきよりも鼓動が早くなる。
快翔(2人に俺が怪人だってバレてしまった・・・)
快翔(幸いこの2人しか目撃者はいない・・・ ど、どうする!?殺すか!? ──って、そんなことするわけないだろ!?)
沈黙の中、俺の頭の中だけがぐるぐると騒がしく思考を巡らせていた。
快翔「あぁ・・・終わった」
勇斗「・・・お前もなの!?」
快翔「・・・・は??」
「実は、」
「俺達もなんだよね」
快翔「・・・・・・」
快翔「はあ!?!?」
外のパトカーのサイレンと共鳴するかのように、俺の叫び声が教室に響く。
さっきまで人間だった者が二体、揶揄うような笑みをこちらに向けている。
案外、怪人は人間社会にうまく溶け込めているのかもしれない。
「人間社会に溶け込む怪人」の「怪人」の部分は他のいろんなものに言い換えることができそう。自分だけだと思っていたのが意外と身近な人もそうだったりすることって多いのかも。快翔と二人の友人の絆はこれを機会にますます強くなりそうですね。
人間社会に溶け込めている怪人達はリスペクトがあるのを感じますね。さすがに同級生3人がみんな怪人だったとは、びっくりでなんだかホッとしました。
予想外のハッピーエンドで、とっても幸せなそれでいておもしろくて思わずクスッとしてしまう、楽しいすてきな結末でした。怪人もびっくりでしたね!