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神社巡り

エピソード1(脚本)

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〇古びた神社
亀井「この神社も・・・もうボロボロだのぉ~」
亀井「そろそろぉ・・・潮時かのぉ~」
  年月は無情である・・・人も建物も朽ち果てていく・・・
福本「権蔵さん!!権蔵さんじゃないかい!?」
亀井「だ、誰じゃあんたは・・・?わしは権蔵なんて名前じゃないぞぃ・・・」
福本「いや!!あんたは権蔵さんだよ・・・ハハハハハ・・・」
亀井「(この爺さんボケているのか・・・?関わるのはよそう・・・)」
福本「久々の再開じゃ・・・わしの家によっていってくれ・・・!!」
亀井「いや~わしは忙しいので失礼するよ・・・」
福本「そう言わずに来てくれ~ほらほら~」
  ボケた爺さんはわしの否定を受け入れなかった・・・強引に手を引っ張って連れていく・・・

〇小さな小屋(ガムテープあり)
福本「さあ~入ってくれ・・・」
  爺さんが連れてきたのは小さな掘立小屋だった・・・寂しい老後を送っているのだろう・・・
福本「さあ~やってくれ・・・」
  わしは爺さんの悲惨な有様に悲しみが込み上げた・・・きっと誰にも相手にされずここでひっそり暮らしているのだろう・・・
亀井「ああ・・・いただくことにするよ・・・」
福本「何年振りかのぉ~権蔵さんはあんな所で何をしてたんだい・・・?」
  わしの名前は権蔵ではない・・・この爺さんとも初めて会う・・・しかし否定するつもりはもう無かった・・・
亀井「活気があった頃のあの神社を思い出して来てみたんじゃよ・・・思いで深い場所なんでのぉ・・・」
福本「ここら辺もずいぶん変わってしまったからのぉ・・・過疎化で人も年々減っていく一方じゃ・・・」
亀井「時代の移り変わりという事なのかのぉ・・・悲しい事じゃの・・・」
福本「悪い事ばかりでも無いぞぃ・・・人が居なくなったおかげで自然が増えてきておる・・・」
亀井「しかし、わしらの青春の場所は無くなっていくんじゃの・・・」
福本「青春なんてまだまだこれからじゃい・・・わしはまだ諦めとりゃせんぞ!!」
  わしはこの爺さんの事が本当に不憫に思った・・・
福本「実は出会い系サイトで出会ったピーコちゃんと明日デートなんじゃよ・・・」
亀井「ピーコちゃん・・・?」
福本「ああ・・・送られできた写真を見たがとっても可愛い20才の女子大生じゃよ・・・」
  わしは悪い予感しかしなかった・・・この爺さんは騙されている・・・
  ボケ始めて・・・家族もおらず・・・出会い系で騙される・・・なんて悲惨な老後なのだろうか?
亀井「ああ・・・良かったの・・・」
  わしは何も言わなかった・・・

〇飲み屋街
福本「ハハハハハ・・・」
  爺さんは楽しかったのか、かなり盛り上がっていた・・・わしはこの爺さんが哀れでならなかったので付き合っていた・・・
福本「権蔵さん、次はあそこに入ろう・・・」
亀井「ああ・・・」
  この福本という爺さんの哀れな姿は今のわしと何処か重なっていた・・・
謎の男「ご同行願います!!」
福本「あっ!」
謎の男「ま、待てー!!」
  福本は男の姿を見るなり一目散で逃げ去った。

〇川沿いの原っぱ
  次の日、わしは福本という爺さんの事が気になり河原まで足を運んでいた・・・謎の男に追われていたことも気になった・・・
福本「やあ、権蔵さん・・・昨日は悪かったのぅ・・・」
亀井「昨夜は追われていたようじゃのぉ・・・」
福本「なぁに、権蔵さんが気にすることは無い・・・」
  わしは福本が尚更不憫に感じた・・・老後の資金がままならずに借金に手を染めたのではないだろうか?
  不憫な老後を送りながらもめげずに生きている事に感心した・・・
福本「今日はピーコちゃんとデートなのだよ・・・権蔵さんも一緒に来てくれ・・・」
亀井「ああ・・・わかったよ・・・」
  わしは不憫な福本が騙されていくのを黙って見ていることは出来なかった・・・

〇ハチ公前
福本「まだかのぅ・・・」
「あ、あの・・・」
ピーコ「福本さんね・・・?」
福本「あ、ああ・・・」
ピーコ「ピーコです・・・よろしくぅ~」
  福本の前に現れたのは20才の女子大生ではなかった!!40才は超えた水商売風の女性だった!!
  写真とは似ても似つかなかった・・・
  福本は言葉も出ず鯉の様に口をパクパクさせている・・・目線は直視することなく辺りを彷徨っていた・・・
福本「よ、よろしく・・・」
ピーコ「それじゃ~デートに行きましょうか?」
福本「ちょっと待って・・・今日は友達が付き添ってくれてるんだ・・・」
ピーコ「デートに友達を連れてきたの!? チッ!!まあ・・・良いわ・・・」
亀井「権蔵です・・・よろしく・・・」
ピーコ「まずはランチよ!! 私の知ってる店に行きましょう・・・」

〇ホテルのレストラン
  連れてこられたのは場違いな感じが否めないレストランだった・・・
ピーコ「さあ、エスコートして下さる・・・?」
  福本の顔からは笑顔が消えていた・・・
  ピーコという女は席に着くなり狂ったように注文を始めた・・・
  上品とは言えない食べ方で料理をガツガツと平らげた・・・
ピーコ「ところで福本さんは今の生活は満足かしら・・・」
  ピーコは料理を食べ終わると唐突に話を切り出した・・・
ピーコ「私たちのセミナーに参加すれば巨万の富を得ることができるわ・・・」
  ピーコの目的はマルチ商法の勧誘だった・・・如何に簡単にお金を稼ぐ事ができるかを切々と語っていく・・・
福本「ほう・・・なんてすばらしい・・・」
亀井「なっ!?」
  福本はやはりボケているのだろうか・・・?ピーコの話に簡単に引っかかってしまった・・・
亀井「ふ、福本・・・!?」
ピーコ「とにかくこの商品を購入してセミナーにいらっしゃい・・・」
福本「お値段はいくらですかな・・・?」
ピーコ「20万円よ・・・ ローンでも宜しいわよ・・・」
福本「ちと、お高いですな・・・でも、それで巨万の富が手に入るなら・・・」
  福本は躊躇いもなく現金を渡そうとした・・・
亀井「ちょっと待て・・・そういうものは結論を直ぐに出してはいかん!」
亀井「家に持ち帰って充分に検討してから結論を出すもんじゃ!!」
福本「そう言われるとそうじゃのう・・・」
ピーコ「チッ!!」
  ピーコは「余計なことを言いやがって!!」と言わんばかりに私を睨みつけて店を足早に出て行った・・・
  何はともあれ福本の被害を最小限に抑えることができた・・・福本は騙されていたとも思っていないだろう・・・
  きっとこんな事を繰り返して惨めな老後にたどり着いてしまったのだろう・・・
  福本はそれを幸せだと感じているのかも知れない・・・わしは何も言わなかった・・・

〇街中の道路
福本「ピーコちゃん何故だか怒って帰ってしまったのぅ・・・」
亀井「ああ・・・そうじゃのう・・・」
  わしは福本の行き末を心配していた・・
  先にあるのは悲惨な末路だろう・・・しかし本人は絶望など全くしていない・・・
  このまま本人の好きに人生を歩ませた方が幸せなのだろうか・・・?
謎の男「今日は逃がしませんよ!!」
福本「あっ!」
謎の男「無駄です・・・」
福本「うぅっ・・・」
謎の男「お戻りください・・・会長・・・」
亀井「か、会長・・・」
謎の男「ご家族が心配しておられます・・・戻りましょう・・・」

〇総合病院

〇病室
福本「ハハハ・・・捕まってしまったわい・・・」
福本「また不自由な生活に逆戻りじゃ・・・ハハハ・・・」
  福本は大きな会社の会長だった・・・病を拗らせて長い間、入院しているらしい・・・
  あの哀れに見えた生活は福本の理想の自由な生活だったのだろうか・・・?
亀井「福本・・・お前さん・・・」
福本「おっと!何も言わないでくれよ・・・」
  わしはそれ以上何も言わなかった・・・病室では弱々しく見える福本を元気付けようと他愛のない話に花を咲かせた・・・

〇病室(椅子無し)
  3日後・・・病室に行くと福本の姿は無かった・・・奇麗に片づけられた病室には1通の手紙が残されていた・・・
  福本からのわし宛の手紙だった・・・

〇古びた神社
  権蔵さん・・・この手紙を読む頃、わしはこの世には居ないじゃろう・・・
  短い間だったが色々ありがとうな・・・
  あんたとの出会いは本当に楽しかったよ・・・
  自由な暮らしをしてみたいと病院を抜け出したが、あんたが居なければこんなに楽しい思い出は作れなかったろう・・・
  最近になってわしは自分の寿命が残り僅かな事を知りました・・・
  入院生活で自分の人生を振り返った時、自分の人生は滑稽なものに思えての・・・
  病院を抜け出して残りの人生を好きに生きてみたいと思ったんじゃ・・・
  あんたが権蔵さんじゃない事は本当はわかっていたよ・・・
  あんたは若い頃親友だった権蔵さんにそっくりだったんじゃ・・・
  初めて見た時、権蔵さんと思わず叫んで権蔵さんで押し通したよ・・・ビックリしたろう・・・
  きっと思い出と言えるものがそれしか無かったからあんたを権蔵さんにしたかったのかもな・・・?
  嘘だとわかっていながら長い事わしに合わせてくれてありがとう・・・救われた気持ちだったよ・・・
  いつかどこかでまた酒でも飲みたいのぉ・・・あんたがこっちに来たら一杯やろうや・・・
  名も知らぬ大切な親友へ・・・本当にありがとう・・・福本より・・・
亀井「福本さん・・・わしの名前は亀井じゃよ・・・」
亀井「そろそろ潮時かのぉ・・・向こうでの楽しみも増えたしのぉ・・・」
亀井「成仏するか・・・また逢えると嬉しいのぉ・・・」
  END

コメント

  • 表向きは福本が人生でやり残した自由な生活に亀井が付き合ってあげたストーリーですが、亀井の側から見れば、成仏できずに彷徨っていたこの世への未練を福本が断ち切ってくれた物語として読むこともできますね。死ぬときは一人というけれど、この二人は最後の最後に出会えた真の友と二人で旅立つことができたようで羨ましいです。

  • 思いやりと配慮で構築された、優しい2人の関係性を描いた物語ですね。そもそも人間関係って、互いの優しい気持ちがベースになるものだと思い返させてくれますね

  • 福本さんへの亀井さんの優しい配慮に心温まりました。実は二人とも成仏できるように彷徨っていて、神社の前で出会ったのかもしれませんね。きっとまた天国でいい友達になれそうですね。とってもいいお話でした。

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