8話 大好きなお兄ちゃん❶(脚本)
〇黒
お父さんはよくみこたちを殴った。
「泣くな!喚くな!」
お父さんはみこじゃなくて、みこを教育できていないお兄ちゃんを殴った。
みこがお使いができなかったり、声を出して笑ったりすると殴るお父さん。
「言って聞かなかったら殴ってもいいんだよ!!!」
みこは、震えが止まらなくて、泣き止めなくて、怖くて怖くて
そのたびにお兄ちゃんが守ってくれた。
お兄ちゃんは、みこの王子様。
みこを守ってくれる、みこだけの王子様。
〇二階建てアパート
でもある時急にみこたちは、お父さんと離れて施設に行くことになった。
お兄ちゃんが学校の友達に言われて児相に電話したらしい。
施設に入ることになったのは、怖かったけどお兄ちゃんがいたから大丈夫だった。
雄太「大丈夫だよみこ」
雄太「ずっとお兄ちゃんがついているし、お前を守ってやるからな」
お兄ちゃんはそう言ってみこの手を握った。
みこのお兄ちゃん、大好きなお兄ちゃん。
みこ「うん!雄太お兄ちゃんがいればみこはどこでも生きていけるよ」
雄太「兄妹でこれからも支え合って生きていこうな」
〇ダイニング
お母さん「これからうちだと思っていいからね〜」
お母さん「私のことは、お母さんと呼んで甘えていいから」
まつり「雄太君、この家について色々教えてあげる!」
お母さん「まつりは面倒見がいいからね、色々教えてもらいな!」
まつりという女の子は、雄太お兄ちゃんの手を握って笑った。
お母さん「みこちゃんも、お姉ちゃんができてよかったね〜」
まつり「可愛い!雄太君の妹ってこの子なの?よく似てるね!」
そして、まつりという女の子は私にも手を伸ばしてきた。
みこ「お兄ちゃん......」
雄太「どうしたんだよみこ」
私はお兄ちゃんの後ろに隠れた。
嫌だ、とか触らないで、とか言ったらもしかしたらお兄ちゃんに怒られるかもしれないと思ったからだ。
お父さんは、捕まった。
私たちはこれからここで生きていかなくてはいけない。
ボスがおばさんで、次に偉いのがこの女。
また追い出されたら雄太お兄ちゃんに迷惑がかかる。
雄太お兄ちゃんにベタベタしてムカつくけど、この女とは仲良くしておこう。
みこ「私、恥ずかしくて......こんなに素敵なお母さんとお姉ちゃんができて幸せなの」
お母さん「まぁまぁまぁ!この子は!可愛いわ〜」
まつり「私もみこちゃんみたいな可愛い妹ができてすごく嬉しいよ!よろしくね!」
みこ「よろしくお願いします......」
〇黒
それからはとにかく癪に触ることが多かった。
〇ダイニング
まつり「雄太君ー!一緒に勉強しよう!」
雄太「勉強〜?」
雄太「俺、家のこととかあって勉強とか頭に全然入ってこなくて、一緒に勉強したら多分イライラするぞ」
まつり「だからこそ、でしょ!」
まつり「私もここにきてやっと勉強するようになったんだから!」
まつり「私が勉強教えてあげる!大丈夫大丈夫!」
みこ「あ、お兄ちゃん」
雄太「みこ、これから俺まつりと勉強するから......」
まつり「ごめんね、みこちゃん」
みこ「うん......」
〇ダイニング
まつり「それでね!雄太がね!」
お母さん「まつりは本当に雄太君が大好きだねえ」
まつり「ちょ、ちょっと!お母さん、違うってば!」
お母さん「ええ〜?二人ともチビたちの世話ちゃんとしてくれるしいい夫婦になれると思うけど?」
まつり「も、もう!そういうんじゃないって!」
まつり「雄太に施設に来るようにアドバイスしたのは、私だけどそれは、二人を救いたかっただけで......!」
みこ「雄太......?」
まつり「あ、みこちゃん!」
お母さん「あ、みこちゃんも気づいた?雄太、だって〜」
お母さん「お兄ちゃんとらないでやりなよまつり」
まつり「もう、そんなつもりないってば!みこちゃんのお姉ちゃんは、みこちゃんも大好きだからね!」
みこ「......」
みこ「まつりお姉ちゃん、ありがとう」
みこちゃん、も、大好き?
雄太君から、雄太?
心底気色が悪い。胸焼けがするほどに鬱陶しい。
〇家の廊下
まつり「トイレトイレ〜」
みこ「まつりお姉ちゃん」
まつり「わ!!び、びっくりした!」
まつり「どうしたの?みこちゃん」
まつりお姉ちゃんはすぐ私のところに駆け寄ってきた。
みこ「私、お兄ちゃんが大好きなの......とらないでほしいの」
みこ「お願い......まつりお姉ちゃん」
まつり「だ、そんなの、大丈夫に決まってるよ!」
まつり「みこちゃんは、お兄ちゃん大好きだもんね!」
みこ「うん、みこお兄ちゃん大好きなの」
みこ「だから絶対に絶対に絶対に絶対に絶対にとられたくないの」
まつり「と、とるなんて......そんなつもりないよ」
みこ「本当?......お姉ちゃん、約束してね」
まつり「う、うん......」
みこ「よかった、まつりお姉ちゃんはやっぱり私の思っていた通りの優しいお姉ちゃんだ!」
まつり「もちろん!私はみんなのお姉ちゃんなんだから!」
みこ「じゃあ、今度恋愛相談に乗ってよ」
まつり「恋愛相談?」
みこ「そう、私と雄太お兄ちゃんが上手く行くように」
みこ「まつりお姉ちゃんは、みこに協力してくれるよね?優しいみんなのお姉ちゃんだもんね?」
まつり「......」
ニコニコしていたまつりお姉ちゃんだったけど、私が鼻先まで背伸びして目を合わせたら黙った。
みこ「お兄ちゃんのことなんて、なんとも思ってないもんね?」
まつり「えっと、みこちゃん......実は」
何か言おうとしたまつりお姉ちゃんを遮ってみこは続けた。
みこ「お兄ちゃんとみこをここに連れてきたのは、暴力を振るうお父さんから救うためだったんでしょ」
みこ「でしょ?お兄ちゃんが好きだったからじゃなくて、救うためだったんだよね?」
まつり「うん」
みこ「だったら好きじゃないってことだよね?みこは、お兄ちゃんしかいないから......」
みこ「協力してよ、お姉ちゃん」
まつり「......うん、うん!」
まつり「もちろんだよ、みこちゃんはお兄ちゃんのことが大好きだもんね!」
まつり「お姉ちゃんが、れんあいそうだん、に乗ってあげる〜」
みこ「約束したからね、約束守ってくれなきゃ......」
私はくるりとお姉ちゃんに背を向けて部屋に戻ろうとした。
まつり「くれなきゃ......?」
〇黒
バタンと扉を閉めた私は、ぼそりとつぶやいた。
みこ「言って聞かなきゃ殴ってもいいんだよ」
みこちゃんの心の闇がむき出しの話でしたね。。。ここからあの事件へと発展していくのかと考えたら、闇に飲まれたような存在ですね