最終話・まごころを、君に(脚本)
〇川沿いの公園
メグミ「ううっ・・・・・・!」
タケル「えっ?! ちょ、ちょっと、大丈夫?」
メグミ「なんか、急に気分悪い・・・・・・熱中症かも・・・・・・」
メグミはふらつき、その場に倒れ込む。
通行人「熱中症ですか?! とりあえず、日陰へ移動させたほうが・・・・・・」
タケル「そっ、そうですね」
タケル、通行人と一緒にメグミを日陰へ移動させる。
通行人「なにか、冷たいものを買ってきましょう」
タケル「すいません、ありがとうございます! メグミ、メグミ? 聞こえる? メグミ?」
メグミの返事はない。苦しそうに息をしている。
通行人「これは救急車を呼んだほうがいいかもしれませんねぇ・・・・・・」
タケル「そっ、そうですね、えーっと110、じゃない、119・・・・・・」
タケルが狼狽えながらも電話を掛けようとする。その時だった。
通行人「・・・・・・うっ、うわーっ!!」
タケルが顔を上げると、通行人の視線の先、人びとが何かから逃げるようにこちらへ走ってくる。その奥に、一体の怪人が。
タケル「うわっ、メグミが倒れとるのに、怪人まで出てきよった!」
タケル「こうなったら、ここは彼氏の俺が命に代えても──」
タケル、怪人の前に立ちふさがる。
タケル「──ッッ、やるんかッ、コラッ!」
怪人はタケルの挑発など意に介していない様子。そして悠然と、倒れているメグミを指さし──
怪人「──ゴゴガ、ギガギガガ?」
タケル、ファイティングポーズをとったまま、戸惑う。
怪人「──ゴゴガ、ギガギガガ?」
タケル「・・・・・・えっ?」
怪人「・・・・・・ドウカシマシタカ?」
タケル「・・・・・・『どうかしましたか』?」
怪人、頷く。
タケル「えっ、あの・・・・・・メグミ、やっ、彼女が、急に倒れまして・・・・・・熱中症かもしれないなと・・・・・・」
怪人、持っていたセカンドバッグから何かを取り出そうとする。
タケル「ヒッ・・・・・・あっ、ペットボトル・・・・・・」
怪人、よく冷えたペットボトルの水をタケルへ突き出す。
タケル「あっ、ありがとう、ございます・・・・・・」
怪人、さらにもう一本ペットボトルを取り出す。
怪人「──脇ノ下ニ、挟ンデオグトイイ・・・・・・」
タケル「うわっ、めっちゃ優しいやん、この人・・・・・・」
タケル、なんとかミサキに水を飲ませる。ミサキは苦しげな様子。
怪人「──病院ニ、連レデ行ッタホウガイイダロウ・・・・・・」
タケル「あっ、そ、そうですね、そうだ、電話っ」
怪人「──今ハ、新型コロナモアル。救急車ガ、ナカナカ来ナイ、ニュースデ見タ・・・・・・」
怪人、いきなりミサキをお姫様抱っこ。そしてタケルに背を向ける。
怪人「──掴マレ。ソノホウガ、速イ」
タケル「うわっ、めっちゃかっこええやん、この人・・・・・・あっ、はい!」
タケル、恐る恐る怪人の背中に乗ろうと、肩の部分の突起を掴む。
怪人「アカン!」
タケル「えっ、なに?! うわっ!」
怪人、勢いよく立ち上がる。タケルはその反動で振り落とされる。
怪人「いや自分アカンわ、そこは掴んだらアカンわ」
タケル「いやっ、えっ、あっ、そうなんですか?」
怪人「いや自分、こういうのはじめてか? いきなり初対面でそこ掴むことってあるか? えっ何、俺と自分、そんな仲ええか? なあ?」
タケル「いやっ、えーっ、すんません、なんか掴みやすかったんで・・・・・・」
怪人「せやかてここ掴むて、なあ? えっなに、自分、初対面の人のここ掴まんやろ? 普通。そんなんやったら普通、警察呼ばれるやろ?」
タケル「いやっ、ここが何なんかちょっとほんま分からないんですけど・・・・・・ほんと、すんません!」
怪人、不服そうにタケルをみて、溜息。
怪人「まあ悪気ないんやったらええけどさあ・・・・・・ほんまな? あかんぞ、ほんまに」
タケル「・・・・・・めちゃくちゃ怒られるやん、えっなんなん、あの角(つの)」
怪人「ひょっとして、このナリやからってさ、『うわっ怪人や、角(つの)触ったろ!』とかさ、ちょっと舐めてない?」
タケル「いやっ、そんなことは、全然。全然舐めてないっす。はい」
怪人「まあまあええよ、ほな・・・・・・ ──掴マレ。ソノホウガ、速イ」
タケル「そのキャラ設定なに? ・・・・・・うわっ、めっちゃ背中のイボみたいなん刺さる、痛っ、痛い!」
タケル、苦戦しつつなんとか怪人の背中にしがみつく。
怪人、さっそく猛スピードで走り出す。
タケル「めっちゃ速い・・・・・・これなら病院まで直に着く! メグミ、もうちょっとだ!」
〇川沿いの公園
ヒーロー「待てィ!」
見るからにヒーロー然としたものが、タケルたちの前に現れる。
タケル「うわっ、今度はヒーローっぽいひと出てきた! アカン、ややこしくなる!」
ヒーロー「無辜の市民を人質に取るとは・・・・・・許せん!」
タケル「いや違うんです! この人は、僕たちを助けてくれて・・・・・・」
ヒーロー「黙れ小僧ッ!」
タケル「黙れ小僧?」
ヒーロー、じりじりと間合いを詰めていく。
タケル「あかん、この人ぜんぜん話きいてくれへんやんけ、どないしよ・・・・・・」
怪人「──ゴゴギゴ、ゼッジュウゴゴナンデグ」
タケル「うわっ、こんなん絶対伝わらんやん! クソッ、どうすれば・・・・・・」
ヒーロー「・・・・・・熱中症なんですか?! その人」
タケル「一発で通じた! えっ、逆に何で?」
ヒーロー「だったら僕、今日は車で来てるんで、それで病院まで行きましょう!」
タケル「えっ車で来てるんですか? バイクとかじゃなくて?」
ヒーロー「やっ、何かと荷物が多いんで、車のほうが都合いいんですよ」
タケル「あっ、そうなんすね」
怪人「──ワカリマス」
タケル「いま分かります言うた?」
〇ホテルの駐車場
タケル「えっ、ヒーローの車、ハイエースなんや・・・・・・」
タケルたち、ヒーローのハイエースに乗って、病院へ移動。
〇大きい病院の廊下
病院で処置を受けるメグミ。顔色も先ほどより良くなっている。
メグミ「タケルくん、助けてくれてありがとう」
タケル「いや、僕は何も、助けてくれたのはあのふたりで・・・・・・あれっ、どこに」
タケル、病室を出て二人を探す。
〇病院の入口
ヒーローと怪人、病院から立ち去ろうとしている。
タケル「待ってください!」
タケル、二人に追いつく。ヒーローと怪人、振り返る。
タケル「今日のこと、おふたりに助けていただき、なんとお礼を言えばいいのか・・・・・・」
ヒーロー「ヒーローとして、当然のことをしたまでだ・・・・・・」
タケル「黙れ小僧とか言っとったやんけ・・・・・・いやでも、本当に、ありがとうございました!」
ヒーローと怪人、静かに頷き、そのまま立ち去ろうとする。
タケル「・・・・・・あ、あの! せめてお二人のお名前だけでも・・・・・・」
ヒーロー、振り返り、
ヒーロー「──失われし片翼が一柱、現世(うつしよ)ならぬ光輪を戴くもの。"白銀"・ガイゼリウス──」
タケル「えっ、うし・・・・・・こうりんの・・・・・・ガイ・・・・・・?」
ヒーロー「・・・・・・」
ヒーロー「──失われし片翼が一柱、現世(うつしよ)ならぬ光輪を戴くもの。"白銀"・ガイゼリウス──」
タケル「うわっ、二回言った・・・・・・あっ、ありがとうございます、ガイ・・・・・・んウスさん!」
ガイゼリウス、静かにタケルに近づき、肩を強く殴る。
タケル「痛った!」
ヒーロー「ガイゼリウス!」
タケル「ガイゼリウスさん! ・・・・・・なんやこいつどこがヒーローやねん・・・・・・腹立つなぁ・・・・・・」
ガイゼリウス、満足げに頷き、立ち去ろうとする。
怪人もそのあとに続こうとする。
タケル「あのっ、それで、あなたの名は・・・・・・?」
タケル、怪人の名を聞く。
ガイゼリウスと怪人、立ち止まる。
怪人、ややあってから、
怪人「──ゴグゴ・ガゴギ・・・・・・」
タケル「ゴグゴ・ガゴギ・・・・・・」
怪人「──ゴグゴ・ガゴギ!」
タケル「えっ? ゴグゴ・ガゴギ・・・・・・?」
怪人「・・・・・・」
怪人「──野久保直樹」
タケル「あっ、野久保直樹さん・・・・・・」
野久保直樹、静かに頷く。
ガイゼリウスと野久保直樹、タケルに会釈し、そして立ち去る。
タケル「野久保直樹・・・・・・めっちゃ普通やん・・・・・・」
ガイゼリウスと野久保直樹、ガイゼリウスのハイエースに乗り、病院を後にする。
タケル「しかも一緒の車で帰るんや・・・・・・」
フランス料理店かと思って入ったら味噌汁が出てきたような笑撃が…。ツノつかまれて怒る時だけカタコトから流暢な関西弁になる野久保直樹。名前をしっかり言わないとどついてくるガイゼリウスさん。ハイエースで去っていった後、仲良く屋台で一杯やりながら「お疲れ〜」「ゴガギゴゴ…」が目に浮かぶ。
ヒーローと怪人って戦う場面があるのが一般的という固定観念がどこかにすっ飛んでいきました! なんかいいですねえ、こんな社会に生きてみたいです。
怪人が面白すぎる!言葉が分かりづらいところから、ハッキリと喋ったりする。しかも、タケルに駄目押しとかする。怪人の名前がまさかの名前。(爆笑)