その任務、お任せください!

さんまる

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〇貴族の応接間
エレイド・ルーゼンハルト「お戻りですか、父上」
ユリウス・ルーゼンハルト「ああ、今日はお前の誕生日だからな」
エレイド・ルーゼンハルト「日々戦線をハシゴし、 休暇となれば国境を回って兵を鍛え上げ」
エレイド・ルーゼンハルト「それでも足りぬと友好国まで出向き戦闘訓練を主導するほどにお忙しい父上が」
エレイド・ルーゼンハルト「わざわざ私の誕生日だからと三年振りに皇都へお戻りになったと?」
ユリウス・ルーゼンハルト「ハハ、粘着質な物言いに愛の重みを感じるよ!」
エレイド・ルーゼンハルト「で、いかがなさいましたか?」
ユリウス・ルーゼンハルト「言っただろう、お前の15の誕生日だからな 誕生日プレゼントを渡しに来たんだ」
エレイド・ルーゼンハルト「・・・ありがとうございます」
エレイド・ルーゼンハルト(すでにいらないな)
ユリウス・ルーゼンハルト「いいか、よく聞け」
ユリウス・ルーゼンハルト「これは、300年前に失われたと言われていた皇家の宝だ」
エレイド・ルーゼンハルト「うわ・・・髪の毛、ですか?」
ユリウス・ルーゼンハルト「そうだ」
ユリウス・ルーゼンハルト「帝国の歴史に大きく貢献した、戦姫エシェレーネ様の髪だ」
エレイド・ルーゼンハルト(500年前の祖先の髪の毛・・・ 普通にこわ気持ち悪いな・・・)
エレイド・ルーゼンハルト「まさかそれを、くださるのですか?」
ユリウス・ルーゼンハルト「ああ これを飲み込みなさい」
エレイド・ルーゼンハルト「いやいやいやいやご冗談を」
ユリウス・ルーゼンハルト「この父がわざわざ冗談を言うために帰省すると思うのか?」
エレイド・ルーゼンハルト「普通はそれくらいフランクに帰ってくるものでは?」
エレイド・ルーゼンハルト「・・・飲み込めというからには、 何か効能でも?」
ユリウス・ルーゼンハルト「察しがいいな!さすがは我が息子」
ユリウス・ルーゼンハルト「これには、我々が一生かかっても使い切れない量の魔素が含まれている」

〇荒廃した街
「500年前に隣国で起きた大災害、 『魔素嵐』を鎮めるために向かった戦姫様は」
「平穏を取り戻すのと引き換えに 膨大な量の魔素にその身を捉われ、包まれ、そして同調した」

〇貴族の応接間
ユリウス・ルーゼンハルト「お戻りになる頃には、 白絹のようだった御髪が漆黒に変化していたそうだ」
ユリウス・ルーゼンハルト「──そして、魔素は魔力の源」
ユリウス・ルーゼンハルト「剣と魔法で鉄壁を築く我が家門のように、 大きな力を必要とする人間は大勢いた」
ユリウス・ルーゼンハルト「かつての恩恵を後世に残すため、戦姫様は御兄弟に切った髪を託したと言われている」
ユリウス・ルーゼンハルト「それが──」
エレイド・ルーゼンハルト「この漆黒の御髪だと・・・」
エレイド・ルーゼンハルト「もっと、遺伝的に繋ぐとか──」
ユリウス・ルーゼンハルト「そら!一息でいけ!」
エレイド・ルーゼンハルト「ちょっま、心の準備が!」
エレイド・ルーゼンハルト「というか衛生面とか!」
「ウワーーッ!!!」

  どうにか飲み下して、
  溢れんばかりの魔素が数日かけて体に馴染んだ頃──
  私は、怪人性をも手に入れてしまった

〇武術の訓練場
エレイド・ルーゼンハルト(高熱を出して寝込んだあの数日間は本当に辛かった)
エレイド・ルーゼンハルト(何しろ500年モノだからな 魔素だけでなく、変な病原菌もいたに違いない)
エレイド・ルーゼンハルト(そして同時に、私の中に怪人性が芽生えてしまった)
エレイド・ルーゼンハルト(メリットは、強靭な肉体へと変化する怪人化くらいなもの デメリットは・・・)
エレイド・ルーゼンハルト(魔法が扱えなくなったこと!!)
エレイド・ルーゼンハルト「っ、はあ・・・」
エレイド・ルーゼンハルト「今日はもう終わりにしよう」
デイル・バーレル「かしこまりました」

〇上官の部屋
リオン・アルベルト「エレイド副団長〜!」
エレイド・ルーゼンハルト「久し振りだなリオン」
エレイド・ルーゼンハルト「また何か掴んだのか?」
エレイド・ルーゼンハルト(リオンは優秀な諜報部隊員だからな)
リオン・アルベルト「ふふん、今日は副団長にお土産です!」
エレイド・ルーゼンハルト「土産?」
エレイド・ルーゼンハルト(土産話ということか?)
リオン・アルベルト「じゃん!こちらはエシェルさんです!」
リオン・アルベルト「役所で見掛けて気になっちゃったのでこっそり後をつけて逃げづらいように路地へ入ったところでスカウトしてきました♡」
エレイド・ルーゼンハルト(こいつの粘着質は大概だな・・・)
エレイド・ルーゼンハルト「スカウトと言っても、 魔法騎士団に入るには試験が──」
エシェル「わたしは現在無職ですが、 リオン卿がお試しでも良いと仰るので付いてきただけに過ぎません」
エシェル「任せたい諜報任務があると伺いましたが、 どうなさいますか?」
エレイド・ルーゼンハルト「リオン、魔法士役所での魔力検査の結果は?」
リオン・アルベルト「それはもう花丸満点大合格〜って感じです♡」
エレイド・ルーゼンハルト「・・・ではエシェル嬢」
エシェル「エシェルとお呼びください」
エレイド・ルーゼンハルト「エシェル」
エレイド・ルーゼンハルト「君には、皇都で頻発している行方不明事件の解決に向けて、情報収集を手伝ってもらいたい」

〇西洋の城

〇城門の下
リオン・アルベルト「魔法騎士団第二部隊の主な任務は、 諜報、隠密、背後取りって感じかな♡」

〇西洋の城
エシェル(情報収集か・・・ 第二部隊の任務内容なら戦闘になることも無さそうだし 年寄りの腕慣らしには丁度いいな)
エシェル「さて・・・」
エシェル「500年振りの我が国は、どんな顔をしているのかな」

〇上官の部屋
リオン・アルベルト「副団長、エシェルのことですが」
エレイド・ルーゼンハルト(こいつ、ナチュラルに呼び捨てか)
エレイド・ルーゼンハルト「何か気になる点でも?」
リオン・アルベルト「声を掛ける前から俺に気付き、 わざと路地に入ったようでした」
エレイド・ルーゼンハルト(ふざけているようだが、 リオンが一度隠密に徹すれば並大抵の人間では気付けない)
エレイド・ルーゼンハルト「役所に登録手続きをしに来る新人魔法士としては、 能力があり過ぎる、か?」
リオン・アルベルト「はい いかがなさいますか?」
エレイド・ルーゼンハルト「リオン」
エレイド・ルーゼンハルト「魔法士役所での副業はしばらく休むように エシェルの行動を逐一報告してくれ」
リオン・アルベルト「御意」
エレイド・ルーゼンハルト「二面性は私達の嗜みだが・・・ 彼女はどうかな」

〇街の全景
エシェル(うわーーーっ!! 通りを挟んで両側全ての店で食べ物を売っているだと!?)
エシェル(人間の数も多く活気にあふれているし)
エシェル(あっちは魔法士の店か!?)
エシェル(なっ、皇宮上空を翼の生えた白馬が飛んでいるぞ!?)
リオン・アルベルト「・・・・・・・・・」

〇街の全景
エシェル(これらは全て、兄上達や後継の功績なのだな)
エシェル「・・・わたしは今の世で、 どのように生きるべきか」
エシェル(・・・そろそろ始めるとしよう)

〇街の全景
エシェル「・・・・・・・・・」
エシェル(皇都の端にある森──)
エシェル(その奥深くに人が集められている)
エシェル(まったく・・・)
エシェル「こんなにも簡単に見つけてしまっては、 張り合いがないじゃないか」

〇上官の部屋
エシェル「公子様、夜遅くに失礼致します」
エレイド・ルーゼンハルト「エシェルか」
エレイド・ルーゼンハルト「情報は鮮度が命だ、遠慮はいらない それで、何か掴めたのか?」
エシェル「はい 立ち入り禁止区域の森に30人が囚われておりました」
エレイド・ルーゼンハルト「なに!?」
エレイド・ルーゼンハルト(失踪報告を受けている人数よりも多い!)
エシェル「老若男女、貴賤も問わず集められているようですね」
エシェル「皆一様に目隠しをされ檻に入れられ、 眠らされていました」
エシェル「周辺にそれ以外の人間の姿はありませんでしたが、容疑者の特定はできています」
エレイド・ルーゼンハルト「一体どうやって?」
エシェル「公子様もご存知の通りの方法かと」
エレイド・ルーゼンハルト(魔法を使ったのだろうが・・・ そう万能な力ではないことを踏まえると、やはり彼女の実力は相当なものなのか?)
エレイド・ルーゼンハルト「証拠はあるのか?」
エシェル「証拠も何も・・・」
エシェル(?)
エシェル(もしかして知らないのか? わたしを『試す』ための任務だとばかり・・・)
エシェル「・・・・・・・・・」
エシェル「公子様もご覧になれば、 証拠になり得ますか?」
エレイド・ルーゼンハルト「まぁ、そうだな?」
エレイド・ルーゼンハルト(直接状況を見れば犯人が分かるということか?)
エシェル「では公子様──」
エシェル(この力が後世に引き継がれているのなら、 わたしが教え導くのは当然のこと)
エシェル(・・・わたしが始めたことなのだから)
エシェル「怪人化なさいませ」

〇上官の部屋
エレイド・ルーゼンハルト「何故それを・・・!」
エシェル(やはり知らないようだ)
エシェル「──わたしには、と言いますか、 怪人性を持つ者には簡単に分かることです」
エシェル「ひとつのグラスに種類の違う酒を注ぎ、 彩りが層を成したものをご覧になったことは?」
エレイド・ルーゼンハルト「ああ、あるが」
エシェル「この世界もそのようにできています」
エシェル「わたし達がこうして生きている層と、 もう一つの層──」

「そこには膨大な量の魔素が存在し、 こちらの層での歴史を全て、魔素が記憶しています」
「その『記憶』は、 怪人性特有の強靭な肉体を以てすれば、 読み取ることも書き換えることも可能なのです」

〇上官の部屋
エレイド・ルーゼンハルト「記憶を・・・」
エシェル「記憶とはつまり情報のこと」
エシェル「わたしの収集する情報とは、 どうしようもなく現実、過去であり真実でしかないのです」
エシェル「ご理解頂けましたでしょうか」
エレイド・ルーゼンハルト「・・・ああ」
エレイド・ルーゼンハルト(信じ難いことではあるが)
エシェル「さて、参りましょうか」
エレイド・ルーゼンハルト「・・・君は怪人化しないのか?」
エシェル「はい 怪人性を持ち合わせてはおりますが、 怪人化は出来ませんので」
エレイド・ルーゼンハルト「・・・この件が片付いたら、 君のことを『見て』もいいだろうか」
エシェル「どうぞご随に」
エシェル(心の内を覗くことは容易では無いし、 わたしが『誰であるか』なんて気にするだけ無駄だしな)
エシェル「公子様、お手を」
エシェル(500年前の人間なんて、 いないも同然なのだから)

〇森の中
エレイド・ルーゼンハルト「ふぅ・・・」
エレイド・ルーゼンハルト(拐われた人々は無事治療院へ送り届けた)
エレイド・ルーゼンハルト(魔法を使えなくても、 自らの責務を全うできるこの力──)
エレイド・ルーゼンハルト(もっと怪人化や魔素について、詳しく知る必要があるな)
エレイド・ルーゼンハルト(その為にも、この件の解決を急がねば)
エシェル「おや、犯人が現れたようですよ」
エレイド・ルーゼンハルト「随分都合がいいな!?」
ケイル・ロスタ「生贄が全員消えている!!」
ケイル・ロスタ「クソッ!お前らがやったのか!?」
エシェル「・・・容疑者の名前はケイル・ロスタ 家は子爵家、職は皇宮近衛騎士ですね」
エレイド・ルーゼンハルト「まさか本当に・・・」
エシェル「面識がおありでしたか」
エレイド・ルーゼンハルト「皇子殿下の護衛に就いているところを 何度か見掛けたことがある」
エレイド・ルーゼンハルト(まさか皇子殿下がこの件に関与しているなんてことは無いだろうが・・・)
エレイド・ルーゼンハルト(犯罪者が皇族のすぐ近くをうろついているとなれば大事だぞ・・・!!)
エシェル「では公子様、 あの者を引っ捕らえてしまってください」
エレイド・ルーゼンハルト「構わないが、君は?」
エシェル「わたしは、魔法騎士団第二部隊が非戦闘員だとお聞きしたのでお手伝いをしているまでです」
エシェル(戦闘は干渉する情報が多岐にわたる 怪人化出来ない体で無理をすれば、また長い眠りにつく羽目になるからな)
???「エシェルさん!違いますよ~!」

〇森の中
リオン・アルベルト「第二の任務は諜報、隠密、背後取りって言ったでしょ〜?」
リオン・アルベルト「それってつまり──」
リオン・アルベルト「こういうことですよ♡」

〇森の中
ケイル・ロスタ「ぐあッ!!」
「・・・・・・・・・」
エレイド・ルーゼンハルト「まぁ──」
エレイド・ルーゼンハルト「そういうことだ」

〇上官の部屋
エシェル「ケイル・ロスタは自供しましたか?」
エレイド・ルーゼンハルト「ああ」
エレイド・ルーゼンハルト「だが、訳の分からない内容でな」
エレイド・ルーゼンハルト「『500年前に滅ぼされた祖国の恨みを晴らすため』だとか」
エレイド・ルーゼンハルト「『嵐を起こすため』なんて繰り返している」
エレイド・ルーゼンハルト「供述内容から心神耗弱と言えないこともないが、私達があと少し遅ければ全員の命が危うかった上に」
エレイド・ルーゼンハルト「爵位持ちとはいえ、皇族に被害が及ぶ恐れもあった 重い処罰は免れないな」
エシェル「・・・左様でございますか」
エレイド・ルーゼンハルト「それから──」
エレイド・ルーゼンハルト「本件の解決は君の手柄に依るところが大きい」
エレイド・ルーゼンハルト「エシェル、君さえ良ければ、 魔法騎士団への正式な所属を考えてくれないか?」
エシェル「・・・・・・・・・」
エシェル「わたしに居場所を与えるからには、 何かお望みがあるのでは?」
エレイド・ルーゼンハルト「単に能力を買われたとは思わないんだな」
エレイド・ルーゼンハルト「望みというか・・・」

〇西洋の城
「我が家門は代々、 国防の要として帝国の盾であり剣にもなる存在だということを証明し続けてきた」

〇上官の部屋
エレイド・ルーゼンハルト「私が三年前に得た怪人性は デメリットの方が大きいとばかり考えていたが・・・」
エレイド・ルーゼンハルト「君のおかげで、 この血に恥じない私になれる道が見つかった」
エレイド・ルーゼンハルト「それに、せっかく出会えたんだ」
エレイド・ルーゼンハルト「もう少し付き合ってくれたら嬉しい 同じ怪人性を持つ者同士、な」
エレイド・ルーゼンハルト「それに君、いま無職だろ」
エシェル(こいつ・・・)
エシェル(わたしが誰であるかを知ったら、 跪くのはお前の方だぞ)
エシェル「公子様、わたしの素性をお調べになるのでは?」
エレイド・ルーゼンハルト「そのつもりだったんだが・・・」
エレイド・ルーゼンハルト(怪人性に詳しく、 実際にその力を有しているが)
エレイド・ルーゼンハルト(他人を助けるために力を使い、 戦闘任務をやりたがらない事情はあるようだが、恐らく『できない』わけでは無い人物)
エレイド・ルーゼンハルト「そうだな・・・」
エレイド・ルーゼンハルト「また今度でもいい気がする」
エシェル「はい?」
エシェル(こんなに緩くて大丈夫なのか? ちょっと心配になってくるな・・・)
エシェル「・・・では主君、 あなたの背中はお任せください」
エレイド・ルーゼンハルト「え、取らないよな?」
エシェル「さて」
エシェル「どうでしょうね」

コメント

  • エレイドが髪の毛を飲んだことでエシェルだけでなく他にも時空の歪みが生じているような展開でしたね。エレイドとエシェルのラブ(含有量1%)がこの先増加するようなことがあったら、先祖と子孫なのにどうなっちゃうんだろうか。

  • 500年前の先祖の髪の毛を飲むって、なかなか斬新。
    能力も引き継がれて、国を守る役割を担う。
    エーシェルが、その髪の毛の持ち主だと知ったら…展開が面白そう。

  • 髪の毛を飲み込むという新手の手法で、ミシェレーネ、ミシェルを呼び起こせたようですね。まだお互いが気づいてはいなけど、何百年もの時を超え、めぐりあった同家系の二人が、これからどのように融合していくのか楽しみです。

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