怪人さんは世知辛い

春夏秋冬

読切(脚本)

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〇川沿いの公園
  オフィス街近くの、とある公園。
タキオン「・・・・・・・・・・・・」
  怪人タキオンは
  公園のベンチに座りながら
  メールを待っていた。すると──
  ぽーん
  メールの着信音が響く。
タキオン(来たっ!!)
  待望のメールに、タキオンは内容確認。
  そこには無慈悲な文章が記されていた。
  怪人タキオン様。
  慎重な選考の結果
  誠に残念ながら
  不採用とさせていただきます。
  大変恐縮ではございますが
  何卒ご了承いただければ幸いです。
  末筆ながら、貴殿の今後益々のご活躍を
  お祈り申し上げます。
タキオン「またお祈りメールかあああっ!!」
  嘆く怪人タキオン。
  遠巻きに胡乱な視線を向ける会社員。
  公園の訪問者たちの視線を感じ──
タキオン「あ、何でもないです。すみません・・・」
  腰の低い怪人。
  とりあえず離れていく会社員たち。
  ひとりになった怪人は
  小さくため息ひとつ。
タキオン「はぁ・・・これで何件目か・・・」
  38件目である。
  ノンストップ就職失敗な
  怪人タキオンであるが
  何故そんなことになっているかと言えば
  所属していた秘密結社が壊滅したからだ。
タキオン「・・・どうしよう・・・」
  思わず空を仰ぎ見る。
  怪人特例雇用保険と
  怪人特例福祉金の支払いは今月まで。
  就職支援の宿舎も、それに合わせて
  出ていかなければならない。
「なんで祈りメールしか来ないのか・・・」
  その理由を知るため
  少し時間をさかのぼる。

〇個別オフィス
モブ面接官・その1「それでは面接を始めさせて貰います」
タキオン「はい!」
モブ面接官・その2「あ、立って返事をして いただかなくても大丈夫です」
タキオン「うっ、すみません つい気合が入って」
モブ面接官・その1「はははっ、まぁまぁ。 元気なのは良いことです」
  ハ○ーワークに紹介された会社の面接。
  今度こそはと気合を入れていた。
タキオン(今度こそ、就職を掴み取る!)
  気合と期待で一杯な怪人タキオンに
  面接官は質問をしていった。
モブ面接官・その1「えー、それでは前職について お伺いしたいんですが」
モブ面接官・その1「秘密組織オーバーヘブンに 勤めていらしたそうですが」
モブ面接官・その1「これは具体的に何をしている 職場だったんでしょうか?」
  履歴書を確認しながら問う面接官に
  怪人タキオンは言い切った。
タキオン「秘密結社なので答えられません!」
モブ面接官・その1「いや、あの、それでは 判断できないと言いますか・・・」
モブ面接官・その2「答えられませんか? 守秘義務があるのでしたら──」
タキオン「いえ秘密結社のポリシーです」
  一瞬の無言が過ぎる。
モブ面接官・その1「あー、ポリシーですか・・・ いやまぁ、そういうのも大事ですが・・・」
モブ面接官・その2「それでは判断できませんよ。 言えない理由でもあるんですか?」
タキオン「余計なことを喋ると 抹殺指令が出ます!」
  またもや沈黙が過ぎ──
モブ面接官・その1「それはまた、ブラックですねぇ・・・」
タキオン「? いえ、組織のイメージカラーは レインボーでした」
モブ面接官・その2「そういうことじゃないんですよ!」
  さすがにツッコミを入れる面接官。
モブ面接官・その2「詳しく話して貰えないと 面接にならないじゃないですか」
モブ面接官・その1「待ちなさい」
  止めに入る人事部長。
モブ面接官・その1「そういうのはリテラシー的に 突かない方が良い」
モブ面接官・その2「リテラシーですか」
モブ面接官・その1「うん、リテラシー」
モブ面接官・その2「じゃ、しょうがないですね」
  そういうことになった。
モブ面接官・その2「えーでは、他のことを聞きます。 得意なことを教えて貰えますか?」
タキオン「一撃必殺が出来ます!!」
モブ面接官・その2「いや、それは・・・」
モブ面接官・その1「うちは営業が出来る人が 欲しいんですよねぇ」
タキオン「営業、ですか・・・」
モブ面接官・その2「人と触れ合う職種は嫌ですか?」
タキオン「あ、いえ、その・・・」
タキオン「幼稚園のバスをジャックする とかはしたことあります!!」
モブ面接官・その1「いや、それは」
モブ面接官・その2「コンプライアンス的にダメでしょう」
モブ面接官・その1「そうそう。 コンプラ的にアウトだよねぇ」
タキオン「ダメ、ですか・・・」
モブ面接官・その1「まぁ、前職で色々と あられたんでしょうけど」
モブ面接官・その2「切り替えて貰わないとダメですねぇ」
タキオン「・・・そうですか」
モブ面接官・その1「あ、前職に誇りやこだわりを 持ってるのは良いんですよ」
モブ面接官・その1「ただちょっと、職種が違いますから」
タキオン「・・・・・・」
  返す言葉もないタキオン。
  その後も面接が続き──
モブ面接官・その1「それでは、後日結果を ご連絡させていただきますね」
タキオン「はい。 よろしくお願いします!!」
  ──てなことがあった数日後。

〇川沿いの公園
タキオン「いつになったら就職できるんだー!!」
  という状況になっていた。
タキオン「・・・はぁ」
  先行きの見えなさに
  ため息をついていると──
比奈「あの──」
  スマホを持った女性に声を掛けられた。
タキオン「はい?」
比奈「違ってたら、ごめんなさい。 怪人さん、ですよね?」
タキオン「ええ、そうですが」
比奈「わー、すごい。 本物だー」
タキオン「・・・え?」
比奈「あの、動画撮らせて貰っても いいですか?」
タキオン「動画?」
比奈「はい。私、配信してて。 素材捜してたんです」
比奈「そしたら怪人さんが いるじゃないですか」
比奈「これは撮れ高好さそうだぞって 思って声を掛けさせて貰ってるんです」
タキオン「・・・いや、俺なんかを撮って 意味があるのか?」
タキオン「取り立てて特徴ないぞ」
比奈「そんなことないです!!」
比奈「私、怪人さん始めて見ました」
比奈「みんなもきっとそうです!!」
比奈「だからきっと怪人さんを見たい人は 他にも一杯いるはずです!!」
タキオン「・・・そういうものか?」
タキオン(最近の子は、怪人を見ないのか・・・)
  軽くジェネレーションギャップを食らう
  怪人タキオン。
タキオン(時代だなぁ・・・)
  などとへこんでいると──
比奈「お願いします!! 最近私のチャンネル伸び悩んでて──」
比奈「いま以上に視聴者数稼げたら 企業案件も来るかもしれないんです!!」
タキオン「・・・企業案件!?」
比奈「はい!!」
タキオン「・・・配信とやらに出れば 企業アピールになるかもしれんのか?」
比奈「世界中に配信されますから きっと目に留まると思います!!」
タキオン「そうか・・・」
タキオン「分かった。 配信とやらに出させて貰おう」
比奈「ありがとうございます!!」
  というわけで配信に協力することにした
  怪人タキオンであった。

〇銀行
比奈「はい、というわけで──」
比奈「銀行の前までやってきました!!」
タキオン「何故に銀行?」
比奈「絵面がシュールで受けるかなぁって」
比奈「動画タイトルは 怪人さんと銀行に来ちゃいました!!」
比奈「というのでやってみようかと」
タキオン「・・・普通すぎないか?」
タキオン「お昼下がりに 銀行で怪人を見ることぐらいあるだろう」
比奈「ないです」
タキオン「・・・ないのか」
  断言されてへこむ、怪人タキオン。
比奈「それじゃ撮影始めましょう」
  それはそれとして撮影を進める。
  その時だった──
比奈「うひゃあっ!!」
比奈「なに!?」
タキオン「爆発したな」
  怪人タキオンの言うように
  銀行が爆発した。
比奈「な、なんてことなの──」
比奈「絶好の撮影チャンスだったのに 撮れてない!!」
タキオン「そこか? 気にするところ」
比奈「なに言ってるんですか」
比奈「こんな確実に撮れ高が保障されてるの めったにないんですよー!!」
  割とヒトデナシなことを言う。
タキオン「たくましいな」
  感心する怪人タキオン。すると──
怪人プロミネンス「邪魔だ!! どけっ!!」
比奈「うひゃあっ!!」
  爆発した銀行から
  1人の怪人が現れた。
タキオン「あっ」
  怪人を見て間の抜けた声を上げる
  怪人タキオン。
比奈「ひょっとしてお知り合いですか?」
タキオン「同業他結社の山田・プロミネンス君だ」
怪人プロミネンス「山田は止せっ!!」
怪人プロミネンス「というか貴様──」
怪人プロミネンス「誰かと思えば、タキオンではないか」
怪人プロミネンス「国に潰された秘密結社の生き残りが こんな所で何をしている!!」
比奈「動画撮影です」
タキオン「うむ」
怪人プロミネンス「うむ、じゃねぇよ」
怪人プロミネンス「お前何してんだ。 それでも怪人か?」
タキオン「いや、組織も潰れたんで 次の職を探すためにだな──」
怪人プロミネンス「怪人が真っ当に職探しするな!!」
タキオン「え? いや、じゃ、どうすれば?」
怪人プロミネンス「そんなもの決まってるだろう」
  炎弾を手の平から生み出し
  銀行の残骸を爆発させるプロミネンス。
怪人プロミネンス「怪人の力を振るい 思うがままに生きれば良い!!」
タキオン「・・・・・・」
  無言のまま
  何も言い返さない怪人タキオン。
比奈「いや、そこは言い返しましょうよー」
タキオン「そうは言ってもな・・・」
タキオン「向こうは秘密結社勤めなわけで」
タキオン「未だ無職の俺が言える事など・・・」
比奈「え? そういう問題なんですか!?」
タキオン「いや待て、そうは言うがな──」
タキオン「俺が真っ当な勤め人に どうこう言える立場では・・・」
比奈「えーと、秘密結社に勤めてるかどうか 関係あります?」
タキオン「あるだろ。 社会的ヒエラルキーから考えて」
タキオン「秘密結社に属してない怪人など 下の下の下」
タキオン「ふ、ふふっ・・・そう俺は 怪人社会から外れたアウトローなのだ」
比奈「怪人ならアウトローでも 別に良いような・・・」
  慰めるように声を掛けると
  それをかき消すような笑い声が響いた。
怪人プロミネンス「く、くくっ・・・ ふははははっ!!」
怪人プロミネンス「何を言う出すかと思えば 下らん!!」
怪人プロミネンス「貴様、未だそんな些事に囚われているのか」
怪人プロミネンス「組織に飼われ満足するなど愚か」
怪人プロミネンス「力ある怪人ならば 組織など抜け出し独立するもの!!」
比奈「え? じゃ、銀行爆破したのは?」
怪人プロミネンス「私が組織を立ち上げるための 資金を借りに来たのだ!!」
比奈「借りに来たんだ・・・」
怪人プロミネンス「そうだ。だが職も担保もない者に 貸せぬと言われたので爆破してやった」
タキオン「お前も無職なんじゃないかっ!!」
怪人プロミネンス「ぐあっ!!」
  文字通り目にも止まらぬ速さで
  殴り飛ばす怪人タキオン。
タキオン「同じ無職なら俺は強いぞ!!」
比奈「いや、胸を張って言うことじゃ・・・」
比奈(あ、でも、これはこれでいけそうかも)
  ちゃっかり撮るのであった。
  その後、警察やら来て一悶着すると──
比奈「ひょっとしたら、この映像を見て 雇いたい人が出るかもしれませんよ」
タキオン「むっ、そうか」
比奈「ヒーローな怪人として みたいな感じで」
タキオン「・・・ヒーローは勘弁してくれ」
  そう言いながら一抹の期待をする
  タキオンであった。そして後日──

〇川沿いの公園
タキオン「宿舎追い出されたあぁぁ・・・」
  社会の冷たさを実感中の
  怪人タキオンであった。そこに──
比奈「あ、いたいたー」
タキオン「・・・あ、この前の」
タキオン「誰だっけ?」
比奈「そういや名前、言ってませんでしたね」
比奈「比奈って言います」
比奈「それより怪人さん 行く当てないんですよね?」
比奈「だったら、うちに来ませんか?」
タキオン「・・・え?」
比奈「この前の動画、バズっちゃって」
比奈「だからシリーズで行こうかと 思ってるんです」
タキオン「・・・それって」
比奈「怪人さんを雇いたいんです」
比奈「同居してる方が経費で落とし易いし 一緒に暮らしません?」
比奈「住む所も食事も用意します。 お給料は・・・最初はこれぐらいで」
  ちょっと豪華な
  お小遣いぐらいの額だった。しかし──
タキオン(背に腹は、変えられん)
タキオン「よろしくお願いします」
比奈「はい、よろしくお願いします」
  こうして、微妙にヒモっぽい感じに
  転がり込むことにした怪人タキオン。
タキオン(あぁ、世の中という奴は──)
タキオン「世知辛い」
  色々と噛み締める
  怪人タキオンであった。

コメント

  • 現代社会と”怪人あるある”に対する作者さんのパロディ精神が炸裂したストーリー、畳み掛けるように笑いどころが襲ってきて面白かったです。同業他結社って言いにくい。プロミネンスさんはすぐにビルの解体業者になれそうですね。

  • いまどき人間でも彼のように律儀に元の勤め先へのリスペクトを忘れない人も少ないかもしれません。本当に素直で正直な怪人ですね。これから彼女とどんな活躍するのか楽しみです。

  • 秘密結社でも雇われ怪人じゃ、職が無くなっちゃえばただの無職…。きっと何かしら必要になりそうなところは多そうですし、なんか応援したくなってしまいますね笑

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