悪の血筋(脚本)
〇高層ビルのエントランス
千景(すごい)
千景(有名な怪人がたくさん来てくれてるよ)
千景(お兄ちゃん・・・)
〇葬儀場
兄、藤代恭一の訃報は突然だった
廃虚ビルからの転落、即死だったらしい
警察は、事件と自殺の両方で
捜査を進めると言っていたが
どちらでもおかしくはない
なにせ兄は”怪人”だったから
千景(何かに巻き込まれたのか)
千景(1人で、悩んでいたのか)
千景(何でこんな事に)
父「あれ」
父「君達は、恭一の」
フォーレンジャー レッド「はい、恭一さんのバディの フォーレンジャーです」
フォーレンジャー ブルー「こんな時に恐縮ですが」
フォーレンジャー イエロー「ご相談したいことが」
父「何だね?」
〇ホテルのレストラン
母「どうしても怪人が必要ってこと?」
父「ああ」
父「恭一は、ある会社の個人情報流失計画に 加担していたようだ」
父「実行予定は今夜」
父「そこに怪人がいないのはまずいだろう」
父「ヒーローに倒されるまでが仕事だからな」
母「でも、誰が恭一の代わりをやるの?」
母「あなたヘルニアで無理じゃない」
父「くっ」
父「裕生、今回だけ頼めないか?」
従兄弟の裕生「そんな急に無理に決まってるだろ!?」
従兄弟の裕生「直系の血筋じゃないんだし」
従兄弟の裕生「正直、適任は千景しか」
母「千景が?」
従兄弟の裕生「あのさ」
従兄弟の裕生「この際だから言うけど」
従兄弟の裕生「怪人、もうやめれば?」
従兄弟の裕生「そういう家も多いし」
従兄弟の裕生「無理して続けなくても」
父「・・・・・・」
千景「いいよ」
千景「今回は私がやる」
従兄弟の裕生「いいのか?」
千景「うん、でも私も同じ意見」
千景「あとで今後の事話そう」
千景「石、貸して」
父「ああ」
父「すまないな、千景」
〇オフィスのフロア
その夜
「よし」
女「情報データのコピーは完了」
女「順調ね」
怪人 烈火「あぁ」
女「あなた」
女「今日はやけに静かなのね」
女「別にいいけど」
女「さぁ、あとはここを燃やして」
〇オフィスのフロア
「そこまでだっ」
フォーレンジャー ブルー「動くな!」
フォーレンジャー レッド「お前らの悪事はお見通しだ!」
女「なっ、フォーレンジャー!?」
フォーレンジャー ピンク「行くわよ」
怪人 烈火「くっ」
女「くそっ!!!」
女「こっちも反撃よ!」
女「烈火!?」
怪人 烈火「いや」
怪人 烈火「ここまでだ」
女「は!?」
女「え、ちょっと!?」
〇オフィスの廊下
「烈火--!???」
怪人 烈火「はぁ」
「千景ちゃん」
怪人 烈火「すみません」
怪人 烈火「上手く、演技できなくて」
フォーレンジャー イエロー「そんなことないよ」
怪人 烈火「あの女の人はどうなるんです?」
フォーレンジャー イエロー「彼女とはこの先ゆっくり話して」
フォーレンジャー イエロー「自分の行いと向き合ってもらう」
フォーレンジャー イエロー「無事に事件を防げてよかった」
フォーレンジャー イエロー「辛い状況のなか、ありがとう」
フォーレンジャー イエロー「もう帰って大丈夫だよ」
千景「はい」
〇黒
正義のヒーロー
悪の怪人
長く続く争いに疲弊を感じつつあった
両者だったが
その関係は1970年に大きく変化した
〇古い本
善・悪協同平和条約
決して一般人が知ることのない水面下で
正義、悪、国の三者の同意により
それは締結した
正義・悪間の争いの禁止
バディシステムの義務化
犯罪未然防止による収益化の流れ
全50項目で成り立つこの条約
まとめるとこうである
〇古い本
正義代表「正義と悪はバディを組み」
悪の代表「悪事を企むターゲットを見つける」
悪の代表「悪はそこに接触し、計画を掌握する」
「緻密な情報共有を行い」
悪の代表「最終段階を迎えたところで」
正義代表「正義は悪を倒す演技をし」
正義代表「計画を阻止する」
正義代表「そして」
正義代表「ターゲットの更生に向けてケアを行う」
悪の代表「互いの力と役割を犯罪未然防止に役立て」
正義代表「国からの報酬を得る」
いまや正義と悪はビジネスパートナー
怪人は”悪役”にしかすぎない
〇並木道
千景「疲れた」
千景(本当にあんな悪役みたいなこと するんだ)
〇黒背景
怪人は、その大半が世襲
”石”により力は受け継がれて
能力は”血筋”が物を言う
藤代家の”烈火”は、炎を操る怪人
兄は、19代目だった
〇並木道
千景(怪人の事、お兄ちゃんに任せっきりだった)
千景(こんな人に言えないような役割)
千景(本当は嫌だったんじゃ)
「千景ちゃん、待って!」
フォーレンジャー イエロー「よかった、追いついて」
フォーレンジャー イエロー「駅まで一緒に帰らない?」
千景「イエローさん・・・」
フォーレンジャー イエロー「私、詳子っていうの」
フォーレンジャー イエロー「よかったら名前で呼んで」
千景「え」
フォーレンジャー イエロー「歳も、恭一君と同じだし」
フォーレンジャー イエロー「ね?」
千景「じゃあ」
千景「詳子さん?」
フォーレンジャー イエロー「うん!」
〇ゆるやかな坂道
詳子「──あの時は」
詳子「恭一君の能力が大活躍でね」
千景「・・・よかった」
詳子「え?」
千景「兄は、楽しくやってたんですね」
詳子「恭一君は」
詳子「自分で命を絶ったりしないと思う」
千景「どうしてそう言い切れるんです?」
詳子「あなたに、見てもらいたいものがあるの」
〇公園のベンチ
詳子「私、フォーレンジャーの SNS担当なんだけど」
詳子「最近妙なコメントがあって」
烈火は裏切者
許さない
ヒーローは無能
俺が奴を始末する
千景「何これ」
詳子「もちろん、恭一君を含め皆に報告してある」
千景「兄は、恨まれてたの?」
詳子「問題はこれ」
もう全てが嫌だ
あのビルで人生を終わらせる
千景「ビル?」
千景「しかも、このコメントの日付」
詳子「そう」
詳子「恭一君が亡くなった日」
詳子「恭一君も、このアカウントを 気にしていたから」
詳子「この人物が 関わってるんじゃないかと思って」
詳子「千景ちゃん」
詳子「警察に怪人のことは話せない」
詳子「だから」
詳子「私達で事件の真相を突き止めない?」
千景「はい、ぜひ」
千景「私も兄に何があったか知りたい」
千景「他の怪人にも力を借りて見ます!」
〇白いアパート
〇女性の部屋
千景「ごめんね、忙しい時に」
圭「いや、俺にできる事は協力するよ」
千景「これ」
千景「警察から返ってきたお兄ちゃんの服なの」
千景「圭君の能力で何か分かる事ないかな?」
圭「やってみるよ」
怪人 犬神「・・・・・・」
怪人 犬神「──ん?」
怪人 犬神「何だ? かすかに、小麦の匂いがする」
千景「小麦?」
怪人 犬神「ああ」
千景「粉なんて付いてないのに」
千景「さすがだね」
千景「犯人に繋がるかも。ありがとう」
怪人 犬神「千景」
怪人 犬神「犯人が分かったら俺にも教えろ」
怪人 犬神「殺すなら手伝うから」
千景「え?」
千景「そんな事、しないよ」
怪人 犬神「何でだ?」
怪人 犬神「恭一は死んだんだぞ」
怪人 犬神「犯人は同等の報いを受けるべきだ」
千景「でも」
怪人 犬神「・・・俺達怪人には特別な力があるのに」
怪人 犬神「いつまでこんな馬鹿みたいな悪役を 続けるんだろうな」
怪人 犬神「何をした所で、世間からは 悪としか認識されないんだ」
怪人 犬神「それならいっそ 屑みたいな人間でも始末した方が」
怪人 犬神「よっぽど存在意義がある気がするよ」
千景「そんなことしたら」
千景「本当の悪だよ?」
怪人 犬神「本当も何も」
怪人 犬神「条約ができる前は悪だったんだろ」
怪人 犬神「怪人の血筋に生まれたときから」
怪人 犬神「悪だったんだよ」
怪人 犬神「千景、次はお前がゼストスを継げ」
怪人 犬神「俺と同じ考えの怪人も多い」
怪人 犬神「協力して、この馬鹿みたいな 条約を壊そう」
千景「困るよ、そんなこと言われても」
千景「私は」
千景「お兄ちゃんの死の真実を知りたいだけ」
怪人 犬神「・・・・・・」
圭「悪かったよ」
圭「じゃあ、帰るな」
千景「うん」
〇店の入口
〇レトロ喫茶
詳子「小麦?」
千景「はい」
千景「犬より優れた嗅覚の怪人が調べたので 間違いないはずです」
詳子「さすが怪人ね」
詳子「ありがとう、情報を絞ってみる」
千景「・・・・・・」
詳子「千景ちゃん?」
千景「あ、はい?」
詳子「何か、あったの?」
千景「詳子さん」
千景「怪人の意味ってなんでしょうか?」
詳子「え」
千景「”悪の怪人”の血筋に生まれて」
千景「当たり前に生きてきたけど」
千景「なんか分からなくなっちゃって」
千景「皆から恨まれて、嫌われて」
千景「兄がやってきたことって」
千景「意味があったのかな」
詳子「光があるところに」
詳子「絶対影があるように」
詳子「きれいな感情だけで人は生きられない」
〇モヤモヤ
抑えきれない怒り
激しい妬み
苦しみ、痛み
そういったやり場のない感情を
受け止めて
寄り添う事ができるのは
ヒーローじゃなくて
怪人なのかもしれない
〇レトロ喫茶
詳子「未然に事件を防ぐという システムの途中に」
詳子「わざわざ悪の怪人が関わるのは」
詳子「悪によって救われる人もいるからだと思う」
千景「救う?」
千景(悪が、怪人の存在が)
千景(誰かを救うなんて考えたこともなかった)
詳子「なんて」
詳子「恭一君の受け売りだけどね」
千景「お兄ちゃんが!?」
詳子「うん」
詳子「彼は、怪人として悪役として」
詳子「いつも誰かを救おうとしていたよ」
千景(知らなかった)
千景(お兄ちゃんが)
千景(そんな思いで怪人をやっていたなんて)
詳子「もしかしたら」
詳子「今回の件も、そうなのかもしれない」
千景「え?」
詳子「恭一君は誰かを救いたかったのかも しれない」
詳子「だからこそ、真相を突き止めて」
詳子「私達で恭一君の思いを引き継ごう」
千景「はい」
千景「ありがとう、詳子さん」
〇荒廃したビル
千景(何か手掛かりがあるとしたらここだ)
千景(探そう、それで真実がわかったら)
千景(お兄ちゃんの分も)
千景(私が烈火を継ぐ)
「ちょっと」
男「何してるんです!?」
千景「あなたは!?」
男「このビルの管理人です」
男「先日事故があって 今ここは立ち入り禁止なんですよ」
千景「あの」
千景「私被害者の妹で」
男「え!?」
千景「い、遺品を探したくて」
男「はぁ、仕方ない」
男「少しだけですからね」
千景「ありがとうございます!」
千景「よし」
千景(まずはビルの近くを)
千景「え」
男「・・・・・・」
〇黒背景
痛い
〇ボロい倉庫の中
千景「う」
千景「ここは?」
千景「何これ」
男「気が付いたか」
千景「管理人さん?」
男「馬鹿だな、そんなの嘘だよ」
千景「どういうこと!? 外して!」
男「だめだ」
男「だってお前は」
男「烈火の妹だって言うからな」
千景「なんで」
千景「烈火の事を知ってるの?」
男「決まってるだろ」
男「あいつは俺が殺したんだ」
千景「・・・・・・」
千景「兄に、何の恨みが?」
千景「あなたはきっと勘違いしてる」
千景「兄は悪じゃない」
千景「悪役にならなきゃいけない 立場だったの」
男「それだよ」
千景「え」
男「俺は騙されたんだ」
男「半年前、俺は」
男「会社を爆破して、死ぬつもりだった」
〇屋上の倉庫
そんな俺に協力してくれたのが
烈火だった
〇ボロい倉庫の中
男「俺達の爆破計画は ヒーローによって阻止されて」
男「烈火は傷を負い、消えた」
男「その後、俺の仕事環境は改善された」
男「でも、違うんだよ」
男「俺は救ってほしかったんじゃない」
男「壊したかったんだよ」
男「どうにかして、もう一度烈火にあって 計画を実行したかった」
男「烈火に見つけてほしくて ヒーローのSNSにもわざとコメントした」
男「でも、全然だめで」
男「最後の望みをかけて 俺達が出会ったあのビルに行った」
男「・・・っふ」
男「どうなったと思う?」
千景「え?」
〇屋上の倉庫
藤代 恭一「バカな真似はやめろ」
男「誰だよお前」
藤代 恭一「俺は」
男「帰れよ、待ってる人がいるんだ」
藤代 恭一「くっ・・・」
藤代 恭一「烈火は来ない」
男「は?」
藤代 恭一「もう憎むのはやめて 自分の人生を生きるんだ」
男「お前、まじで何なの?」
藤代 恭一「俺が」
藤代 恭一「俺が烈火なんだ」
藤代 恭一「悪の、怪人なんて」
藤代 恭一「いないんだよ」
男「・・・はっ、ふざけやがって」
藤代 恭一「粉と炎を合わせた粉塵爆発」
男「なんで」
男「俺と烈火の計画を知ってるんだ!?」
男「ほ、ほんとにお前が烈火なのか?」
男「全部、俺をだましてたのか!?」
男「俺の憎しみが分かるって」
男「協力するって言ったのに!」
男「・・・うっ」
藤代 恭一「・・・ごめんな」
男「くそ、くそっ」
男「お前なんか死ねっ!!!!」
藤代 恭一「おい、何を!?」
藤代 恭一「やめろ、押すな!」
「うわああぁぁぁ」
〇ボロい倉庫の中
男「はははは」
男「簡単に落ちたよ」
男「まさか怪人が人間だったとはな」
千景「なんて事を」
男「次はヒーロー達だ」
男「お前を人質にしてあいつらを 始末してやる!」
千景「うっ」
千景「いいかげんにしなさいよ!」
男「あ?」
千景「兄は」
千景「あなたを救いたくて」
千景「恨まれるって分かってても」
千景「ほっとけなくて」
千景「なんでそれが分かんないの!?」
男「黙れっ!」
男「救うとか、気色悪いんだよ!」
男「怪人のくせに偽善者ぶってんじゃねーよ」
千景「う」
〇黒背景
こんな奴を救う為に
お兄ちゃんは死んだの?
〇黒
怪人として誰かを救おうと
私達で恭一君の思いを
生まれたときから
そう──
そう、悪だったんだ
こんな屑は、消せばいい
〇ボロい倉庫の中
男「はぁ、はぁ」
男「もういい」
男「この女は先に処分して」
男「ん?」
男「え」
男「な、なんで烈火が」
〇ボロい倉庫の中
男「なぜだ」
男「あ、熱い」
「助けて」
「うわぁぁぁ」
〇ボロい倉庫
フォーレンジャー レッド「ここだ!」
フォーレンジャー ブルー「確かに」
フォーレンジャー ブルー「半年前製粉会社の爆発を 阻止した事があったな」
詳子「あのターゲットは製粉工場勤務だった」
詳子「その時持ち出した小麦粉を 隠していたのがこの廃倉庫」
詳子「何か手掛かりがあるかもしれない」
フォーレンジャー ピンク「ねえ」
フォーレンジャー ピンク「なんか焦げ臭くない?」
フォーレンジャー レッド「急ぐぞ」
〇古い倉庫の中
怪人 烈火「・・・・・・」
詳子「千景ちゃん?」
詳子「この炎、あなたが?」
詳子「一体何があったの!?」
怪人 烈火「・・・詳子さん」
怪人 烈火「私」
怪人 烈火「お兄ちゃんみたいになれなかった」
詳子「どういう、こと?」
怪人 烈火「救う必要ないって」
怪人 烈火「思っちゃったの」
詳子「え」
怪人 烈火「私は・・・悪だった」
「イエロー! そっちはどうだ!?」
詳子「・・・っ」
詳子「こっちは何もない! すぐ合流する」
怪人 烈火「なんで・・・」
詳子「逃げて」
詳子「早く逃げて!」
〇炎
千景「はぁっ、はぁ」
千景(逃げなぎゃ・・・早く)
〇古い倉庫
〇川に架かる橋の下
千景「はぁっ」
千景「ここまでくれば」
千景(あいつは)
千景(たぶん助からない)
千景(・・・これからどうなるんだろう)
千景「・・・っ」
千景(泣くな)
千景(これでいいんだ)
〇黒
私は、悪だ
だから
これでよかったんだ
重厚な正義と悪のお話、とても面白かったです^^システム化されたものに人が組み込まれると生じる歪み…色々と考えさせられました。
ヒーロー番組の悪役の方もきっと複雑な気持ちなんでしょうね! 子供の頃めちゃくちゃ悪役を恨んでいたので少し罪悪感が…笑
遅ればせながら…
単純な正義と悪では括りきれない人間の描写が考えさせられます😭
千景と詳子たちが本当の敵対関係として再開する日が来てしまうのか…とか考えると切なくなります😭
受賞、おめでとうございます🎉
ヒーローと怪人の協定。おそらく苦労の末にやっとたどり着いた共存の形だとしても、ずっと悪側をやらされる怪人から不満分子が出てきたのはムリからぬことですね……
兄の仇、どうしようもないやるせなさ、許せずに一線を超えてしまった千景のその後も、それを見逃してしまったイエローの葛藤も気になりました。
改めて佳作受賞、おめでとうございます!