イヌ娘のヲタ返し(脚本)
〇川沿いの原っぱ
私がまだ小さかった頃の話
その日は雨だった
子犬だったハルはダンボールに入れられた状態で河川敷に捨てられていた
──さみしい
ハルの目はそう訴えているようで放っておけなかった
私はハルを家に連れて帰った
〇明るいリビング
元々、両親も動物好きだったので、ハルを家族として迎え入れることになった
ハルは私によく懐いた
私たちはいつも一緒に遊んでいた
引っ込み事案な私には今も昔も友達はいない
だけど、ハルがいたから寂しくなかった
──なのに
〇黒背景
──ハルは、病気で亡くなった
〇女性の部屋
ハルがこの世を去ったのは三月。ちょうど一ヶ月前だ
私は大学三年生になった
キャンパスも変わったので、今は実家を離れてアパートで一人暮らしをしている
・・・まぁ実家にはハルの思い出がたくさんあって辛いっていうのが一番の理由だけどね
今は部屋で子供の頃から好きなアニメ『犬耳魔法少女セイラ』を鑑賞しながらお酒を飲んでいるところだ
七海「ハルぅ・・・寂しいよぉ」
七海「飲まずにはいられないよぉ・・・ぐすん」
ピンポーン
七海「ぐすん・・・配達かな?」
七海「はーい」
がちゃ
ハル「こんにちは、七海ちゃん」
七海「えっ?」
七海「犬耳・・・誰?」
ハル「私です。ハルですよ」
七海「・・・えっ?」
七海「ど、どういうこと?」
ハル「犬耳少女として生まれ変わったんです」
ハル「私、亡くなる前に願ったんです」
ハル「──もっと七海ちゃんのそばにいたい」
ハル「私を拾って育ててくれた恩返し、まだできてない」
ハル「七海ちゃんに恩返ししたいなって・・・そう思ったんです」
ハル「そしたら、何故か犬耳少女の姿で生まれ変わったんです!」
ハル「また七海ちゃんに会えて嬉しいです」
七海「そ、そんなことって・・・うぅっ」
ハル(七海ちゃん、感動して泣いてる)
ハル(私と会えたのが嬉しかったのかな)
ハル(えへへ。心優しいご主人さまに、いっぱいご奉仕して恩返しするぞ──)
七海「犬耳魔法少女セイラちゃんだ!」
ハル「へ?」
七海「もしかして私を喜ばせようと思ってその姿に!?」
ハル「ち、違います~!」
七海「オタク心を理解した最高の恩返しかよ!」
ハル「なんか思ってたのと違う!」
ハル「感動の再会の場面ですよね!?」
七海「たしかに二次元のセイラちゃんとは会ってるから再会とも言えるか」
ハル「だからハルですってば!」
ハル「私は七海ちゃんに恩返しを・・・って酒くさっ!」
ハル(もしかして酔っ払ってる?)
七海「ハル!」
ハル「ひゃいっ!」
七海「あなたに恩返しを命じます」
ハル「恩返しの恐喝されてる・・・」
ハル「でもでも、私がんばって恩返ししちゃいます!」
七海「ねね、これ着て!」
ハル「これは・・・」
七海「セイラちゃんのコスプレ衣装」
ハル「なんで持ってるんですかぁ!!」
七海「こんなこともあろうかと!」
ハル「どんな事態を想定してたんです!?」
七海「着替えてくれる?」
ハル「うー、これも恩返しなのかな・・・仕方ないですねぇ」
七海「ちょ、目の前で着替えないで!」
ハル「え?」
七海「推しの生着替えを見るなんて私のオタク道に反する!」
ハル「何度も言いますけど、私はハルですからね!?」
七海「あっちで着替えてー!」
ハル「わかりましたよぅ・・・」
〇女性の部屋
ハル「ど、どうですか?」
七海「ぶふっ」
ハル「わー!」
ハル「鼻血でてるぅぅ!」
七海「セイラちゃん・・・握手会はいつですか?」
ハル「握手より止血ー!」
〇女性の部屋
ハル「・・・落ち着きました?」
七海「セイラちゃん・・・しゅき」
ハル「むー。ハルって呼んでくださいよぅ」
七海「あの決め台詞やって?」
ハル「・・・小さい頃、七海ちゃんがよく真似っこしてたやつですか?」
七海「それです!じゅるり!」
ハル「よだれ!ばっちぃ!」
七海「お願い!これも恩返しだと思って!」
ハル「ううー、それを言われると弱い・・・」
ハル「一回だけですよ?」
ハル「悪事は絶対許さない!」
ハル「犬耳魔法少女セイラ、悪い人をいっぱいもふもふさせちゃいます!」
七海「きたぁぁぁぁ!」
七海「セイラたぁぁぁん!」
ハル「これで満足ですか?」
七海「最後にしっぽの決めポーズ!」
ハル「・・・ふりふり」
七海「ごふっ」
ハル「吐血した!?」
七海「死因は尊死。凶器は推しのファンサの供給過多・・・!」
ハル「何言ってるか全然わかんないですよ!?」
七海「落ち着け、私」
七海「推しは見守るべき存在。こんなにイチャイチャしたらダメ!」
ハル「え・・・」
ハル「私、また昔みたいに七海ちゃんといっぱい遊んでイチャイチャしたい」
ハル「・・・だめ?」
七海「あ、まって尊すぎて逝っちゃう」
ハル「魂が抜けかけてる!?」
ハル「七海ちゃん、しっかりしてー!」
七海「・・・ぐーぐー」
ハル「寝ちゃった・・・お酒の飲み過ぎですよぅ」
ハル「はあ」
ハル「私はセイラじゃなくてハルなのに・・・もっと昔みたいに名前を呼んでよ」
ハル「・・・七海ちゃんのばか」
〇女性の部屋
七海「・・・あれ?」
ハル「起きました?」
七海「ごめん、寝ちゃってた・・・」
七海「あのさ・・・」
七海「本当にハルなんだよね?」
ハル「むっ」
ハル「どーですかねー」
ハル「七海ちゃんはハルよりセイラちゃんのほうがいいんでしょーねー」
七海「そんなことない」
ハル「え?」
七海「可愛いおめめ。ふりふりの尻尾」
七海「あなたはハルだよ」
七海「私の大好きな・・・大切な家族だよ」
ハル「だ、抱きつかないでくださいよぅ」
ハル(えへへ・・・なんだか胸がぽかぽかする)
ハル(うれしいな)
ハル(さっきまで少し不安だったけど)
ハル(優しくて、涙もろい・・・私の好きな七海ちゃんのままだ)
ハル「七海ちゃん」
七海「なーに?」
ハル「その、昔みたいに頭なでてください・・・だめ?」
七海「いいよ」
七海「こっちおいで?」
ハル「はい!」
ハル「七海ちゃん、大好き!」
七海「私もハルのこと、だーいすき!」
七海「また仲良く一緒に暮らそうね」
ハル「はい!」
七海「・・・ところで私もお願いがあるんだけど」
ハル「なんですか?」
七海「第五話の必殺技シーン再現して!?」
ハル「ええー!?」
ハル「またセイラちゃんですかぁ!?」
七海「お願い!」
七海「可愛いよセイラたん、はあはあ」
ハル「やだっ!」
ハル「七海ちゃんのことなんて知りません!」
七海「いいじゃんよぉ!」
七海「ねー、おねがぁぁぁい!」
犬を飼っている人なら誰でも、犬が人間になって喋る姿を一度は想像したことがありますよね。でも動物は話さないからこそ人間の気持ちに寄り添ってくれる存在なんだというのも事実。ハルはたまたまセイラちゃん似の姿で戻ってきたから、七海に別の意味でスペシャルな恩返しができて、それはそれでよかったです。
私もワンコが居るので七海がハルちゃんを思う気持ちに親近感を感じて、ちょっとウルっとしてしまいました🥲
せっかく生まれ変わって来てくれたのだから、全力でハルちゃんと楽しい時間を過ごして欲しいし、いつまでもずっと一緒に過ごせたら良いなあと思います🥹
オタク道を突き進む、芯を曲げない感じが個性的で良かったです!
感動の再会なのに!いや、思い出したのか!ってまた戻った!と思わずツッコミながら読んでしまいました!