時計塔のある町

松路 ふな

毒花の棘(脚本)

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〇上官の部屋
  数日前
  パルプ家屋敷 当主の部屋
ミカロフ「これはどういった騒ぎでしょうか。 パルプ家当主、グリン=パルプ様」
パルプ家当主「何、とは? 先程述べた通りだが?」
  ミカロフの問いかけにグリン・パルプは至極面倒臭そうに答えた。ふんぞりかえりながら髭をいじる姿には風格のカケラもない。
  グリン・パルプはパルプ家の当主ではあるが、彼に当主となる素質があった訳ではない。
  それでも彼が当主へと登りつめた原因はパルプ家の有能で有力な跡継ぎ候補者が軒並み毒や原因不明の自殺に倒れたことにあった。
  グリン・パルプ本人は事件への関与を否定しており証拠もないが、裏では密かに彼が手を回したのではないかと噂されていた。
パルプ家当主「古くからの家柄の者は、耳まで古くなってしまったか?」
ミカロフ「・・・・・・・・・」
パルプ家当主「そんなに睨まないでくれ! 軽いジョークだよ、ジョーク。ハハッ 君はジョークも分からないのかい?」
パルプ家当主「君には今日から我が娘、サラドガ・パルプと共に住んでもらう。 君たちの家は既に用意しておいた」
ミカロフ「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」
パルプ家当主「そう言われても困るな、ミカロフ君。 君の父上にも許可をもらっているんだよ」
  パルプ家の当主は勝ち誇った笑みを浮かべて一枚の紙を机の上に置いた。
ミカロフ「なんだって!?」
  ミカロフは半ば奪い取るようにして置かれた紙を手に取る。
  何度眺めてもそれは日頃町内の書類で目にした父の字に相違なかった。
ミカロフ「確かに・・・これは父の字だ・・・」
  信じられない、とセルベの署名を見つめるミカロフにパルプ家当主は鼻を鳴らした。
パルプ家当主「我々が君の家に押し入っても、君の父上は何もできなかっただろう? 彼は君を売ったのだよ。村民の食糧と引き換えにね」
パルプ家当主「でも、君が来たからこれからも食糧の配給は続けさせてもらうよ」
パルプ家当主「そして君がサラドガと結婚したら、もちろん村への援助は倍にさせてもらおうじゃないか」
ミカロフ(村への援助・・・)
ミカロフ(なるほど、父を脅したのか。狙いは血筋を強固にすることだな。 たかが俺の結婚で村が安定するなら、それでも悪くは・・・)
ミカロフ(・・・なぜ、今ノアの顔が?)
パルプ家当主「ご納得いただけたかな? できてない?それならこれから実感してもらおうか。ホラ、君の花嫁の登場だ」
パルプ家当主「入ってきなさい、サラドガ」
サラドガ「失礼いたしますわ」
  熟れた桃が蕩けるような甘い声でやってきたのはピンクの髪に赤い瞳をした少女だった。
サラドガ「サラドガと申します」
  ただ歩いただけでも誰もが振り替えるような愛らしさを持つ少女は、うっとりとした顔で頬を赤く染め──
サラドガ「ずっとお慕いしておりましたわ、ミカロフ様・・・♡」
  けれど毒花のように底知れない妖しさを魅せるのだ。

〇上官の部屋
  かと思うと少女は無邪気に駆けてきてミカロフの手を取った。
サラドガ「さぁ、私たちの邸宅へ参りましょう? お父様が用意してくださいましたの。きっとお気に召すと思いますわ」
ミカロフ「いや・・・待ってくれ、邸宅?」
  成人の儀の前に結婚の話が来るのはそれほど珍しいことではない。しかし婚前に邸宅を用意するなど普通に考えてありえない話だ。
  ミカロフがパルプ家当主を見ると、当主はにたりと口の端を上げた。
パルプ家当主「きちんと書類にも書いているぞ?」
パルプ家当主「”ミカロフ=アイディオが成人の儀を迎えずとも、本日よりパルプ家の用意した邸宅にて──」
パルプ家当主「サラドガ・パルプと共に生活することとする” と」
ミカロフ「なん・・・はぁ・・・わかった。従おう」
  ミカロフは抗議をしようとしたが、父の署名もあるのだ。自分が何を言ったところで覆りようもないだろう。
サラドガ「それでは参りましょう」
サラドガ「失礼いたしますわ、お父様」
  サラドガは話が済んだことを確認し、屋敷を案内する、ともう一度ミカロフの手を取った。

〇貴族の部屋
  サラドガ、ミカロフの寝室
サラドガ「最後に、ここが私たちの寝室ですわ」
  庭、書斎、食卓・・・と順に順に邸宅を巡った後、1番最後にミカロフが案内されたのは自分とサラドガの寝室だった。
ミカロフ「あ、ああ・・・」
ミカロフ「君は・・・その、いいのか? ほとんど会ったこともない俺との結婚だなんて・・・しかも婚前に寝室まで同じだなんて・・・」
サラドガ「──ええ。私、町で何度かミカロフ様を拝見していましたの」
サラドガ「その時のミカロフ様は農作について農民と議論なさっていました。 町の問題を真摯に考える姿を見てずっと恋心を抱いていましたわ」
サラドガ「ですので、お父様が縁談を持って来てくださって私ほんとうに・・・夢でも見ているような心地ですのよ」
ミカロフ「・・・そうか・・・」
サラドガ「ミカロフ様は、どう思っていらっしゃるのですか・・・?」
  偽りを言うことは容易い。しかしミカロフは自分の中の整理のつかない心持ちをしまっておいたままにはできないと直感していた。
ミカロフ「・・・悪いが、俺はまだ決心ができていない。だがこれから君と過ごすことになるのだから・・・努力はしようと思う」
サラドガ「はい・・・!」
  そうして一言二言交わし書斎へ行くミカロフを──
サラドガ「・・・・・・・・・」
  サラドガはただ、笑顔の仮面を貼り付けて見送っていた。

〇上官の部屋
  ──そして現在 パルプ家当主の部屋
パルプ家当主「セルベの息子が我が家へ来て数日だが、計画はどうなっている?」
サラドガ「それが、まだ・・・どうにも受け入れられないらしく・・・」
パルプ家当主「・・・使用人から聞いた通りだな」
パルプ家当主「たかが男1人を誘惑できないなどお前はどうなっている? 今まで何のためにお前に教育を施したと思っているんだ?」
サラドガ「も、申し訳ございません、お父様・・・」
  サラドガが眉を下げはらはらと涙を流す姿を見て、当主は少し気が晴れたようだ。葉巻タバコに火をつけ腹をさすっている。
パルプ家当主「ふん・・・まあいい」
パルプ家当主「まぁ、あれがあればいくらセルベの息子でも耐えられんだろう」
パルプ家当主「サラドガ・・・今夜は、わかっているな?」
サラドガ「はい。お父様」

〇貴族の部屋
  サラドガ・ミカロフの部屋
  庭で軽く運動をとった後、着替えを取りに戻るとやけに寝室の方が騒がしく、使用人たちがあれやこれやと動き回っている。
  不思議に思って中を覗くとサラドガが使用人に部屋の模様替えをさせていた。
サラドガ「やっぱりここの調度品がお気に召さなかったのよ。派手なものはお好きでないんだわ」
ミカロフ「え? いや、そういうわけでは・・・」
  部屋に入って弁解しようとするミカロフを押しとどめサラドガは続ける。
サラドガ「いいえ、ご遠慮なさらずに。 ミカロフ様は心の準備もする間もなく我が家へ来た身」
サラドガ「せめて部屋だけは、おくつろぎになれる空間を作りたいのです」
  サラドガはそう言うと部屋の中の使用人たちを見回した。
サラドガ「さあ、あなたたち。話は聞きましたね? 用意してもらって申し訳ないのだけれど、今すぐ部屋の模様替えをしてちょうだい」
  メイドたちが作業に取りかかるのを見てサラドガはミカロフに向き直った。
ミカロフ「ええと・・・それでは、俺は書斎に戻るので・・・」
サラドガ「それじゃあ私も一緒に行きますわ。あなたたちは寝室をよろしくね」
  ミカロフがパルプ家に来て数日、サラドガはミカロフの書斎にまで同行するようになっていた。
  初めはミカロフも渋い顔をしていたが、意外にもサラドガは妨害をすることなくただ静かにミカロフが仕事する様を眺めていた。
とある執事「それでは私たちも・・・」
サラドガ「いいのよ。あなたたちが皆来ると部屋の片付けが大変でしょう?だから、ハンナについて来てもらうわ」
サラドガ「ねぇハンナ、いいでしょう?」
とあるメイド「はっ、はい!」
サラドガ「さぁ、行きましょう」

〇屋敷の書斎
  ミカロフの書斎
サラドガ「ねぇ、ハンナ。 スミレの砂糖漬けと紅茶を持って来てちょうだい」

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コメント

  • サラドガちゃん!!!!!

    最初は何というか、あー出た出たお色気キャラ、と思ってしまったんですが、後半からの怒涛の展開✨
    どうなるのやら分かりませんが、また、続きを読みに参ります!!!!!

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