読切(脚本)
〇森の中の小屋
そこは都会から遠く離れた離島。そこに暮らすのは自然を愛す生き物と一握りの人々。そして人とは違う生物が一緒に暮らしていた
その一角の切り開けた場所に、古びたホテルとも云えるような表現があう建物がある
それはさしずめ森のリゾートと云うのが正しいのか。見事な光景である
そこから少し離れた場所で木の丸太で作られた椅子に腰かける小さな少女と初老の女性
爽やかな風と鳥のさえずり、そして心地よい日差しがその二人を包み込む。女性は絵本を手に少女に物語を読んでいた
〇丘の上
果歩「昔々、あるところに怪人という生き物がいました。その生き物は少し怖い姿をしていて人々からは怖がられていました」
果歩「それでも人間と怪人は普段の生活を共にしていました」
麻衣「え?一緒に住んでたの?」
果歩「そうね。犬や猫とは違うけど普通にいたのね」
麻衣「え?どんな姿なの?」
果歩「こんな感じ」
果歩は絵本の中から怖そうな怪人を選んで麻衣に見せた
麻衣「うわ!怖い””」
麻衣は両手で顔を覆った
果歩「怖い?じゃ辞めようか!?」
麻衣「え?知りたい。どんなだったのか」
果歩「そう。じゃ先を読むわよ」
麻衣はワクワクしながら果歩が見せる絵本を見ていた
果歩「ある日、人間の警察が一人の怪人を捕まえました。そして地面に上から覆いかぶさると怪人は身動きが取れなくなりました」
怪人A「息ができない・・苦しい・・」
麻衣「言葉をしゃべれるの?」
果歩はニッコリとわらって麻衣を見た。そしてその先を続けた
果歩「警察は構わずそのまま体重をかけ続けある装置を手にすると、怪人の首の後ろに・・・」
『ドン!』
麻衣「うわ!!?」
果歩「警察は小さな機械を怪人に埋め込んだのでした」
麻衣「えっ?なんでそんな事するの?怪人さん、何か悪いことしたの?」
果歩「ん~、それを言っちゃうと物語がわかっちゃうから先を読むね」
麻衣「あ、ごめん」
その光景を少し離れた木陰で眺めている黒い姿があった
〇けもの道
果歩「その何日か前、怪人が人間を襲う事件がありました。でもそれは前から何回も起こっていて人間の警察は」
果歩「その犯人を捜していましたが分からず、とうとう似ている怪人全部に、その行動を制限する小さな機械を埋め込む事を決めました」
麻衣「でも全部の怪人さんが悪いわけじゃ無いでしょ!」
果歩「そうね。でも前から人間と怪人はそんなに仲良しでは無かったから」
麻衣「仲良くすれば良いのに」
果歩「麻衣は仲良くなりたい?こんな姿でも?」
麻衣「わからない。最初は怖いかも知れないけど、怪人さんだって成りたくて怖い姿になった訳じゃないでしょ」
麻衣「麻衣だって人間の女の子に生まれて良かったって思うけど、怪人に生まれていたかもしれないし」
果歩「良い意見ね」
麻衣はニッコリと笑う
果歩「じゃ先を読むね。その小さな機械を埋め込まれた怪人は下位人として人間に仕える生き物になりました」
果歩「言葉を奪われ行動する場所も制限され奴隷と同じ扱いになりました」
麻衣「それって酷くない?犯人は別かも知れないのに、似ているだけで制限するなんて。だってパパからも教えられたよ」
麻衣「人間はみんな一緒だって。誰が上でも下でもないって」
果歩「まあ怪人だけどね。人間ってね、臆病なんだと思う。怖い物は無くなるようにしたいし、」
果歩「それでいて強がりで何かを自分の物にしたいって欲望がある。だから人間同士の争いも無くならない」
麻衣「麻衣はみんなと仲良くなりたい。怪人さんだって下位人さんだって関係ない」
果歩「麻衣はやさしいな」
麻衣はニッコリと笑う
果歩「人間の下位人となった怪人は自分の生活を奪われて特定の人間に使われました」
果歩「警察が多くの怪人を捕まえた事で人間を襲う事件は無くなりました。めでたしめでたし」
麻衣「えっ?おわり?」
果歩「ん、おわり。この絵本はね。でも続きの絵本があるけど」
麻衣「知りたい、これでおわりなんて怪人さんが可哀そう!!」
果歩「そう言うと思ってココにあります」
麻衣「わーい、読んで読んで」
〇大樹の下
果歩「人間の奴隷となった怪人はある時、自分の首に埋め込まれている機械は主人が持っている小さな機械に支配されている事を知りました」
果歩「そしてその小さな機械を奪って逃亡しました」
麻衣「逃亡?」
果歩「ああ、そこから逃げるってことね」
麻衣「そう」
果歩「人間はライフルを手に怪人を追いかけて湖にたどり着いたところでライフルを撃ちました」
果歩「それは怪人の背中に当たって、怪人はそのまま湖の中に沈んでいきました」
麻衣「えっ?酷くない?奴隷にしていた人間の方が悪いのに、殺すなんて」
果歩「そうね。本当に醜いのは人間なのかもしれない。生き物を殺して焼いて食べて。魚もとって食べて」
果歩「この世界でいろんな生き物を支配して」
麻衣は険しい表情を見せる
果歩「人間は湖に沈む怪人を見届けると去っていきました。怪人は深く沈んでいくとその姿は見えなくなりました」
果歩「その事件があってから怪人は少しずつ消えていき、今では奴隷となった下位人はいなくなりました。それから・・」
麻衣「それから?」
果歩「今では怪人は湖の深いところで、海神となり人間の行いが度を越さないように見張っていると、誰かが噂するようになりましたとさ」
果歩「めでたし、めでたし」
麻衣「めでたし、じゃないよ。それで終わり?」
果歩「終わり。この絵本、文章がほとんど無くてあとは絵だけ。ほら」
果歩は麻衣にその絵本のページをめくると怪人の姿が次々と描かれていた
〇森の中の小屋
果歩と麻衣の姿を屋敷の中から眺める一人の男性は、その微笑ましい光景を穏やかな表情で眺めていた
しかしその少し先に木陰から二人を見ているような人間らしき影が確認できる
男性はとっさに別の部屋に移動し、物置からライフルを手にすると、その大きな屋敷から外に出て二人の場所へ急ぐ
〇木の上
正「麻衣!果歩!」
二人はライフルを手にして駆けてくる正を見て驚く
『バキバキバキ!!』
二人はその音がする上の方を見ると、古い大きな木の枝に乗っていた動物の重みでその枝が折れて二人の所に落ちてきた
それを見ていた黒い影が勢いよく木陰を飛び出し麻衣と果歩に駆け寄る
正はそれを見てとっさにライフルを発射
それは二人に駆け寄る黒い影の上部に命中した
しかし黒い影は構わず二人を抱え込み丸太から離すと、折れた枝が二人の座っていた丸太の椅子に直撃した
乗っていた動物は折れる寸前で別の木に移動し遠くへ去っていった
麻衣「海神さん?」
その黒い影は怪人から下位人、海神になった生き物か
麻衣にニッコリとほほ笑みかけて、その生き物は直に二人から走り去る
正「大丈夫か」
麻衣「おじいちゃん、酷いよ。海神さんは助けてくれたのに撃つなんて」
正「そう、なのか」
果歩「そう、かもしれない」
麻衣「海神さ~ん、ありがとう~」
麻衣は海神が走りさった方に大声で叫んだ
〇森の中の沼
撃たれたその生き物は傷口を手で押さえながら湖の中に姿を消していった
人間も怪人も悪い生き物であってはならない。本来、人間も怪人も全ての生き物は解人であるべきであろう
彼らは怪人から下位人、そして海神に変化していったわけではなく、ずっと同じ存在だったんですよね。どれも人間側の立場や都合で一方的に名付けた呼び名ですものね。怪人に限らず多様性の受容が叫ばれる昨今では、まず我々は考え方の改人や解人となって、みんなが快人となる社会を目指すのが理想ですね。
怪人だろうが人間だろうが、確かに理解し合うことが大切ですね。
もちろんお互いのテリトリーがあるわけで、それを犯したら戦いになりかねないですね。
弱肉強食の頂点に、人間は慣れすぎたのでしょうか…。
最後の言葉がすべてを物語っていた。
生きるものは、命があり、上下の違いはない。
人間とて、永遠の命などない…だからこそ争いのない世界でいきたい。