だーくひーろー ~Da Ark HERO~

セーイチ

正義と道義(脚本)

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〇渋谷駅前
  甲高い叫び声が響き渡る
  「怖がらせてしまってゴメンなさい・・・」
  私は心の中で謝罪しながら、ターゲットに突き入れた右手を握り込んだ
…「ぎゃばぁっ!」
  眼前の男性が、潰されたカエルの様な叫び声を上げる
…「がっ・・・あっぁ・・・」
  男性は全身を痙攣させながら、絶望に満ちた瞳で私を見詰めていた
  私が右手を引き抜くと、男性の体は糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちる
  再び響き渡る悲鳴、そして怒号
  遠くからサイレンも聞こえてきた
  ココは夕暮れ時の歓楽街
  当然の様に人通りは多く、通報されるのも想定内
  私は、人を殺しているのだから
ジャンヌ「長居は無用ね」
  私は軽く膝を曲げると、力強く大地を蹴る

〇屋上の隅
  常人では有り得ない跳躍力で、私はビルの屋上に降り立った
  眼下を見渡せば、多くの野次馬が私にスマホを向けている
  中には、歩道の遺体を撮影してる人も居た
ジャンヌ「精々拡散して下さい」
  私は無数のカメラに背を向け、建物の屋上を飛び渡りながら現場を後にした
  予め防犯カメラが設置されている場所は特定済み
  私は何事もなく帰宅する事が出来た

〇女性の部屋
聖結愛「ふぅ・・・」
  食事と入浴を終え、自室に戻った私はPCの動画サイトを開く
  トップページには、早くも同じ内容の動画が溢れていた
  「怪人ジャンヌ現る!」「またも天誅!」「今回のターゲットは婦女暴行犯!」
  その中で、私はテレビ局の公式動画をクリックした
  動画の中では、著名な女性アナウンサーが神妙な顔で原稿を読んでいる
アナウンサー「本日18時頃、〇〇市内の繁華街にて吾妻ユウジさんが殺害されました」
アナウンサー「吾妻さんは、先日の公判で無罪判決を受け釈放されたばかりで・・・」
  アナウンサーのコメントと共に、現場から逃亡する怪人の姿が繰り返し流された
聖結愛「流石に殺害映像は使われないか・・・」
聖結愛「まぁ即BANだろうしね」
アナウンサー「今回の事件ですが、ここ半年間で起こった連続殺人事件の容疑者」
アナウンサー「通称「ジャンヌ」と呼ばれる人物の犯行と思われますが、この点に関してどう思われますか?」
  アナウンサーが、有識者と言う名のテレビタレントに話を振る
タレント「そーですねー、僕が思うに・・・」
  大阪弁のイントネーションが抜けきらない、奇妙な標準語
  私はそっと動画サイトを閉じた
聖結愛「さてっと」
  私は学校から出された課題を開き、黙々とキーボードを打ち込んでいく
  暫くするとスマホが鳴り、画面に母の名前が映し出された
聖正美「もしもし、結愛ちゃん?」
聖正美「ニュースで知ってると思うけど、また例の事件が起きちゃって」
聖正美「ゴメンね、今日は帰れそうも無いの」
聖結愛「うん、そうだろうと思った」
聖正美「ちゃんと戸締りはしてね、玄関にはドアチェーンも忘れずに」
聖結愛「もう子供じゃないんだから、わかってるよ」
聖正美「そうね、結愛ちゃんなら大丈夫よね」
聖結愛「朝食はいる?」
聖正美「おねがいします!」
聖結愛「了解」
  私は通話を切ると、再び課題に取り掛かった
  私の名前は、聖結愛(ひじり ゆあ)
  ただの女子高生
  刑事の父と検事の母との間に産まれた私は
  幼い頃から両親に「清く正しく生きるべし」と教育を受けて来た
  学校では、中学から現在まで風紀委員を務め
  プライベートで参加したボランティアは数知れず
  カツアゲされている友人を助ける為、上級生の男子とケンカした事も有る
  映画でもマンガでも、勧善懲悪モノが大好きだ
  両親から教え込まれた価値観だけど、私はそれに疑問を感じた事はない
  人として正しく生きるべきだ
  弱き者は護るべきだ
  悪は駆逐するべきだ、と
  しかし、世の中には清く正しく生きていても報われない人達が居る
  ただ生きているだけで傷付き、命を奪われる人も居る
  そして、罪無き人々を傷付けながら、安穏と生きながらえる人間も
聖正美「法の限界」
  検事である母が、以前そんな言葉を口にした
  世の中には、法で裁けない悪が存在するのだと
  ショックだった
  敏腕検事と呼ばれる母の力を持ってしても、罰せられぬ悪人が居る
  母と同じ検事を目指していた私にとって、それは受け入れがたい真実だった
  優秀な母でも無理なら、私には尚更不可能じゃないか?
  私に、罪無き人達を護る事なんて出来ないんじゃないか?
  そんな事を悶々と考えていたある日の深夜、彼女は現れた
…「ほほぉ~君かぁ~」
  彼女は寝ている私の顔を覗き込んでいた
聖結愛「・・・誰?」
  私は不思議と落ち着いていた
  見知らぬ少女が、突然私の部屋に現れたと言うのに
案内人「僕は案内人さ」
聖結愛「案内?何の?」
案内人「君を正しき道へと案内する、コーディネーターさ」
案内人「君は悩んでいる、苦しんでいる、正しく生きたいのに、それを邪魔する者がいるからだ」
  そう、私は悩んでる
  私は、どうすれば正しく生きられるのか
  どうすれば、か弱き人々を助けられるのか
案内人「僕は、その手伝いをしに来たのさ」
  少女は懐に手を入れ、何かを取り出した
  それは、占い師が使うような水晶玉だった
案内人「君に力を貸そう」
案内人「この力は、普通の人間ではとても扱い切れない」
案内人「強大な力に支配されてしまうからね」
案内人「でも君の様な清く正しい心の持ち主なら、きっとコントロールできると思うよ」
  少女が水晶玉を差し出した
  水晶玉は、まるで意志を持っているかの様に浮遊し、私の胸元に吸い込まれて行った
聖結愛「あっ・・・」
  途端に全身が熱くなる
聖結愛「あっ・・・あっ・・・」
  呼吸が乱れ、動悸が起こる
  燃え上がりそうな程の熱に耐えながら、私は全身が激しく隆起していくのを感じていた
案内人「良いぞ、やっぱり君には才が有ったんだ」
案内人「悪と戦う才が!」
  やがて体の熱が収まると同時に、全身に力が漲っていくのを感じた
  ふと、部屋の隅に置かれた姿見を見る
  そこに映し出されたのは、ベッドに腰かける異形の怪人
ジャンヌ「何、コレ?」
案内人「それが君の力さ、悪と戦う為のね」
ジャンヌ「コレ、どう見ても私が悪人なんだけど?」
案内人「君だってわかっているだろう」
案内人「人の手で裁けない悪を駆逐するには、何が必要か」
案内人「そう、何者にも屈しない圧倒的な暴力」
案内人「その暴力を得る為には、その姿が必要なのさ」
ジャンヌ「ダメ、暴力なんて・・・」
案内人「今更何を言ってるんだい?」
案内人「君は過去に友達を助ける為、自分よりも大きな相手に暴力で立ち向かっているじゃないか」
ジャンヌ「・・・」
案内人「刃物と同じさ」
案内人「使い方次第で人を傷付ける事も、逆に助ける事も出来る」
案内人「だからこそ、僕はこの力を正しく使ってくれる人に」
案内人「清く正しい心の持ち主に渡さなければいけない」
案内人「君の様な、心の持ち主にね」
案内人「そして君は、暗躍する悪を駆逐するヒーローになるのさ」
案内人「暴力を持って正義を貫く、立派なヒーローにね!」
  そこで、私は意識を失った

〇女性の部屋
  寝覚めたのは、何時も通りベットの上
聖結愛「・・・夢?」
  そう思い、水晶玉の吸い込まれた胸元に触れる
聖結愛「熱っ!」
  胸元だけ、火傷しそうな程に熱くなっていた
  そして後に知った、昨夜の事が夢ではなかったのだと・・・

〇女性の部屋
聖結愛「良し、課題終わり」
  私はPCの電源を落とし、戸締りを確認してからベットに潜り込んだ
  まだまだ、やらねばならない事は山積みだ
  休める時に、しっかり休んでおかないと
  瞼を閉じると、私は瞬く間に夢の世界に誘われた

〇綺麗なリビング
  翌朝、私は何時も通り仏壇の前で両手を合わせた
  仏壇には、にこやかな父の写真が置かれている
  刑事である父が亡くなったのは半年前
  殉職扱いだった為、父は二階級特進
  遺族にも、それなりの保証をして貰えた
  母の収入も有り、寂しくはあるけれど金銭面で不自由はしていない
  私は父に感謝しながら、キッチンへ向かい朝食の準備を始めた
  同時にインターフォンが鳴る

〇シックな玄関
聖正美「ただいま~」
  ドアチェーンを外すと、疲れ顔の母が飛び込んで来た
聖結愛「お帰り、お母さん」
聖結愛「朝食はもうチョット掛かるから、テーブルで待ってて」
聖正美「ゴメンね~結愛ちゃ~ん」
  私はフラフラと奥へ向かう母を見送り、扉の施錠をしてからリビングに向かった

〇おしゃれなリビングダイニング
聖正美「う~~〜」
  母は呻きながら、だらしなくテーブルに突っ伏していた
聖結愛「お仕事お疲れ様」
聖正美「いや〜、この歳で徹夜は厳しいわ」
  母は「美しすぎる検事」としてテレビに出演したくらいの美人さんだ
  しかし今は疲労の為か、普段より肌は荒れ髪の毛もボサボサ
  しかし、それは母が職務に邁進している証しでもある
  そんな母は私の誇りだった
聖結愛「捜査は順調?」
聖正美「それがサッパリ」
聖正美「アレだけの目撃者がいながら、容疑者の正体は謎のまま」
聖正美「何だか犯人は本当に怪人なのかと思っちゃうわ」
  母は現実主義者だ
  ビルを飛び越える様なパフォーマンスを見せても、犯人は未だに着ぐるみか何かだと思っているらしい
聖正美「今回の被害者も、過去に証拠不十分で不起訴になった殺人事件の容疑者」
聖正美「しかも一部じゃ犯人確定、有罪に持ち込めなかった検察側を無能と批判する記事もあった事件・・・」
聖正美「これじゃあ、またジャンヌを英雄視する連中が出てきちゃう」
聖正美「もう、本当にメンドクサイ!」
聖結愛「お母さん、無理しないでね」
聖正美「無理くらいするわ・・・」
聖正美「ジャンヌは、お父さんの仇なんだから」
聖結愛「そっか・・・」
聖正美「お父さんの無念を晴らすまでは、お母さん頑張るから」
聖結愛「・・・お母さん、ジャンヌの事を憎んでる?」
聖正美「そうね、ジャンヌは明らかに我々司法に挑戦してる」
聖正美「それに、お父さんは最初の被害者を護ろうとしただけ」
聖正美「ジャンヌは英雄なんかじゃない、ただの殺人鬼よ!!」
聖結愛「・・・そうかな?」
聖正美「どう言う事?」
聖結愛「お父さんは本当に被害者を護ろうとしただけなの?」
聖正美「・・・結愛ちゃん、何を言っているの?」
聖結愛「私知ってるんだ、お父さん最初の被害者からお金を貰ってたんでしょ?不正を見逃す代わりに」
  母の顔がサッと青ざめる
聖結愛「その不正のせいで、自殺した人もいたんだって」
聖正美「結愛ちゃん・・・どこでそんな話を・・・」
聖結愛「そして、お母さんも悪い事してるよね?」
聖正美「な、何?何の話?」
聖結愛「証拠を捏造したり、裁判を優位にしようと、裁判官の人と不倫したりしてたよね?あ、今もだっけ?」
聖正美「!?」
聖結愛「それで無実の人を有罪にして、凶悪犯に逃げられちゃ意味ないよね」
聖正美「どうして・・・何で・・・」
聖結愛「やっぱりね、身内から奇麗にしないとダメだと思うの」
聖正美「なっ何よ、その姿・・・」
聖正美「結愛ちゃん、アナタは・・・」
ジャンヌ「お母さん、サヨウナラ」
聖正美「い、いや・・・」
ジャンヌ「二人の遺産は、必ず正義の為に使うね」
聖正美「嫌ァアアアーー!!」
ジャンヌ「・・・」
ジャンヌ「さて、まずは元の姿で外に出て・・・」
ジャンヌ「次にジャンヌの姿で玄関の防犯カメラに映る、と」
ジャンヌ「さ、急がないと学校に遅刻しちゃう」
ジャンヌ「朝食は諦めよう」
ジャンヌ「お母さん、エアコンは入れておくね」
聖結愛「発見が遅れたら、お母さんが腐っちゃうかも知れないから・・・」

〇モヤモヤ
案内人「フムフム、記念すべき10人目は母親かぁ」
案内人「やっぱり僕の眼に狂いはないね」
案内人「アノ娘なら、立派なヒーローになってくれそうだ」
案内人「世界を導く、ダークヒーローに・・・」

コメント

  • 香水はほんの少しだけクサイ匂いを混ぜると良い香りが一層引き立つそうです。それと同様に、正義もほんの少し悪の要素が混ざることでより一層完璧な形に近づくのかもしれない。正義の遂行のため多少の汚物にまみれること(両親の殺害)も厭わない結愛は真のダークヒーローなのかも。ただ、「少しの悪」がバランスを欠いた時、一気に正義とは逆の方向に流されそうな危うさもありますね。

  • 結愛さんの気持ち、ちょっとわかる気がします。
    人の持つ「正義」はあやふやなものなんですよね。
    彼女のご両親のように。
    自分の手を汚してまで正義を持つジャンヌがかっこよく思えます。

  • 正にダークヒーローというネーミングがぴったりなジャンヌです!事実を知りながらもこうして実行に起こせないものがほとんどだと思う中、彼女の飛びぬけた行動力、真の正義感に脱帽でした。

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