おい、ハチ公

電導虫

読切(脚本)

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〇ハチ公前
  ガヤガヤとした街中。
  年が明けてもココだけは変わらない。
  そして、変わらない男もまたここにひとり。
「よお、あけおめ」
男「ん? んあ、なんだお前か」
男「あけおめ。今年もよろしくな」
  新年初めての挨拶だってのに、いつものノリの変わらない。
  まあそれはコッチも同じか。
「それで・・・こんなところでいったいなにしてんだ」
「また例の待ち合わせか?」
男「なんだ、そのまたかよみたいな態度は」
男「まあ当たりなんだけどな」
「はぁ〜。懲りない男だね〜」
男「うるせえうるせえ。お前には関係ないだろ」
  この友人は何を隠そう、マッチングアプリにハマっている。
  しかもなんと、この男はやけに惚れっぽいのだ。
  そんな人間がマッチングアプリにのめり込んでしまうと・・・
  出会う気もなくユーザーをアプリに引き留めるだけの存在、サクラに騙されるのだ。
  それでこうして待ちぼうけを喰らっているわけである。
「今日はもうどれくらい待ってる?」
男「2時間ってところだな。多分もうすぐ来るぜ」
「・・・それはもう来ないと思うぞ」
  もはや天才的アホの領域。
  周りは見てて飽きないというが、正直痛々しくて見てられない。
  でも今回は待ち合わせに来ないサクラなだけまだいい。
  最悪の場合、美人局だったり結婚詐欺まがいの人間が来る。
  『行為』までこぎつけたのに、強面の男が乱入してきて逃げ出したこともザラだ。
  全裸のまま逃げ出して、助けの電話をかけられた時はどうしたものかと・・・。
「新年早々騙されてんじゃねえよ。年が明けてから、今日で何回目だ」
男「まだ今日は来ないと決まったわけじゃないだろ」
男「でもそうだなあ・・・」
男「サクラが3回、美人局が1回だな」
  マジかよ。今年入ってからまだ1週間だぞ。
  コイツは笑ってごまかしているが、笑いごとではない。
男「は〜あ。まあ仕方ないよな」
男「オマエの言うとおり、これ以上待ってても意味なさそうだな」
男「それじゃ俺は行くわ。また学校でな」
  そう言うと、アッサリ去っていく。
  切り替えが早いというかなんというか・・・。
  ・・・。
  話す相手がいなくなって、ひとりになる。
  ふと、よく待ち合わせに使われるハチ公の銅像を見つめてみる。
  ハチ公は来ない相手を待ち続けたという。
  ・・・まるで今さっきまでの状況そっくりじゃないか。
「なあ、ハチ公」
女「私はあとどれだけ待てばいいんだ?」

コメント

  • 彼女はこの彼が自分に振り向いてくれるのをずっと待っているんですね。「待つ」という行為の象徴であるハチ公をモチーフとした切ない「待ち人」のストーリーだということがラストにわかる仕掛けがしゃれてます。

  • 待ち合わせ場所でよく使われるハチ公。
    そんなハチ公だからこそ色々な人の待ち合わせを見れる。
    無事に出会えることがほとんどかもしれませんが、出会えなくて寂しそうな姿から、怒ってる姿、そんな風景までもが日常的なのかもしれませんね。

  • この可哀そうな男子の話相手はてっきり男の子と思っていたので、最後それが女の子でしかも彼女も待ち人だというのにびっくりでした。ハチ公が見守ってくれている、みんな色々あるけどいい出会いしたいですね!

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