隷嬢グリード

電導虫

読切(脚本)

隷嬢グリード

電導虫

今すぐ読む

隷嬢グリード
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇モヤモヤ
  産まれようとしていた。
  強大な力、恐るべき精神性、計り知れない成長性。
  産まれることを止めようとする者の声が聞こえる。
  黙れ。もう遅い。
  既にキサマらごときに止められる存在ではなくなった。
  俺は、無敵の、怪人だ──!!

〇研究所の中枢
グリード「・・・あ?」
  いったいどうなってやがる。
職員「規定値をなにもかもオーバーしています! 危険です!」
職員「学院長! 至急、この怪人の消去命令を!」
  俺を見て、慌てふためくアホな人類。
  ここまではいい。
  だが──
  俺を見て動じない女がふたりもいるのが気に食わねえ。
学院長「いいえ、消去はしないわ」
学院長「どんなに強力でも、この怪人は無害だもの」
グリード「ああ? この俺が無害だと?」
グリード「ギャハハハハハ! そいつは傑作だぜ!」
グリード「なら、ちょうどいい」
グリード「最強怪人グリード様の被害者第一号はオマエで決まりだァッ!」
学院長「そう、グリード。強そうな名前ね」
学院長「でもね、あなたは私に触れることすらできない」
グリード「なっ・・・!?」
  女の言う通りだった。
  俺は女に暴力を振るうどころか、近づくことさえできない。
学院長「不思議に思うのも無理はないわ」
学院長「でも、あなたの本体が暴力を望んでないのだから仕方ない」
グリード「本体、だとォ?」
学院長「ええ。あなたの本体は、そこにいるか弱い女子生徒よ」
  ・・・おいおい、嘘だろ。
  こんな弱々しいメスのガキが俺の本体だとォ!?

〇劇場の舞台
学院長「皆さん、テミス女学院へのご入学おめでとうございます」
学院長「皆さんもご存知の通り、世界を脅かした怪人たちは既に駆逐されました」
学院長「更に再び怪人が現れないよう、人類は怪人が生まれるプロセスを解明──」
学院長「怪人はなんと、人間の負の感情が集まると誕生することが判明したのです」
学院長「人間から負の感情を消すことは不可能」
学院長「だけどせめて、上に立つ者だけは正しくあらねばいけません」
学院長「そこで、このテミス女学院に導入されたのが怪人育成プログラム──通称『怪人ライジング』!」
学院長「既に入学生たちには怪人を召喚してもらいました」
学院長「召喚した怪人は皆さんの心から生み出されたモノであり、感情の動きに直結してます」
学院長「怪人は皆さんの心の動きや感情の揺れに強く反映されます」
学院長「もし負の感情に支配されたり、自分の欲望のことばかり考えた場合・・・」
学院長「制御を失った心と同様、怪人も暴走するでしょう」
学院長「怪人が暴走するような強欲で自己中心的な人物は当学院にはふさわしくありません」
学院長「怪人が暴走した場合、即刻の退学処分とします」
学院長「──ですが、心配する必要はありません」
学院長「当学院の卒業生はいずれも国の運営を担う者たち」
学院長「その卵である皆さん──世界の将来を任される者がこんなことでつまづくわけがありませんから」
グリード「・・・」
  ──実にムカつくことに。
  あの女の言う通り、俺たち、つまり怪人はとっくに負けちまってるらしい。
  そして今や人間の心を推し量る為の道具だ。
  まったくもって情けねえ。
アナウンス「──ここで新入生代表からの挨拶です」
アナウンス「代表生、壇上にお上がりください」
エリ「・・・はい」
  俺の本体があんなガキなんて未だに信じられねェ。
  俺たち、怪人の強さは本体となってる人間の欲望の大きさに左右される。
  人間の欲望次第では力だけじゃなく、特殊能力まで身につけられるそうだが・・・。
怪人「・・・」
  俺がよほど目立つのか、他のガキの怪人どもがジロジロ見てくる。
  うざいことありゃしねェ。
  雑魚は失せろ──そう、軽く殺気を出して威嚇してやる。
怪人「ひっ!」
  あっという間に目を背け、人間のガキの背後に隠れやがった。
  こんな腰抜けばかりじゃ、人間どもに負けたのも納得だな。
  まあ俺が強すぎるってのもあるかもしれないが・・・。
  だが、それだけに納得がいかねェ。
  本体の人間が強い欲望を持っているほど、怪人の力は強大になる。
  つまり・・・
  あのエリとかいう名前のガキが俺の力の強さの源ということだ。
  あんなおとなしそうなガキがそんなに強い欲望を持っているって?
  ありえねえな。
アナウンス「これにて入学生代表の挨拶を終わります。ありがとうございました」
  ガキは礼儀よく一礼をすると、自分の席へ戻ろうとする。
  ただただついていくしかないのが屈辱だ。
女子生徒「ねえねえ見た? あの代表生徒の怪人!」
女子生徒「あんな今にも暴走しそうなヤバい怪人、初めて見たわよ」
女子生徒「首席合格だかなんだか知らないけど、退学者第一号はこれで決まりね」
  妬みか嫉みか知らんが、陰口を叩くガキが数名。
  ククク。これはチャンスじゃないか。
エリ「・・・」
グリード「なあ、俺の本体サマよォ」
グリード「一言、俺に命じてくれればいいんだぜ」
グリード「あのムカつく女を襲えってな!」
エリ「・・・!」
グリード「なんだ? 学院の連中が怖いか?」
グリード「安心しろよ。全員を敵に回しても俺たちが勝つ」
グリード「俺たちは無敵だ」
グリード「さあ命じてくれよ!」
エリ「やめなさい、グリード」
エリ「どんな風に惑わそうとも私は動じない」
グリード「・・・チッ」
  つまらない上に食えない女だ。
  このままだと退屈で仕方ねェ・・・。

〇教室の教壇
  入学式終わってすぐにガッツリ授業とは難儀なことだ。
  流石はエリート女学院と言ったところか。
  授業の内容もレベルが高い。
  授業中、怪人は怪人同士で仲良くしてる。
  エリに混ざるよう言われたが、雑魚の馴れ合いには興味がねェ。
  だが暇ではあるので、本体のエリを観察してみることにした。
  じっくり観察してみればみるほど、俺の本体であることが疑わしくなる。
  滅私奉公。そんな言葉がよく似合うヤツだ。
  頭が良く、運動神経も良い。たゆまぬ努力の結果だろう。
  それを驕りもせず、ひけらかすこともしない。
  それどころか授業についていけない生徒を教えて助けている。
  ・・・間違いない。コイツは正真正銘の善人だ。
  怪人である俺とは致命的に相性が合わない。
  そして誰かを助ける善人が強い欲望を秘めているわけもない。
  それが俺が出した結論だった。

〇教室の教壇
グリード「間違いだ」
エリ「えっ・・・」
  放課後、ひとりで残っているエリに俺の観察結果を告げる。
グリード「今日一日、オマエを見ていて分かった」
グリード「オマエは善人だ」
グリード「己の欲望など無く、他者の為に尽くす」
グリード「そんな人間が俺の本体であるわけがねェ」
エリ「・・・」
グリード「だからなにかの間違いだ」
グリード「俺の本体は別にいる」
グリード「俺を解放しろ。さもなくば・・・」
グリード「どうなっても知らんぞ?」
  そう言って俺はエリの細首に手をかける。
  少しでも力を入れれば折れてしまうような、そんな状況にも関わらずエリは俺から視線を逸らさない。
エリ「そんなことはできないようになってるはず」
グリード「分からんぞ。俺は強い」
グリード「全力を振りしぼれば、人間の決めたルールなぞ破れるかもしれん」
エリ「やりたければやればいい」
エリ「でもグリード、どうして私があなたの本体じゃないなんて言えるの」
グリード「さっきも言っただろう!」
グリード「俺は最強で無敵の怪人だ!」
グリード「そんな俺の本体は・・・」
グリード「自分の欲望の為に平気で世界征服しちまうような人間なんだよ!」
エリ「・・・そう」
エリ「なら、グリード」
エリ「──やっぱりあなたは私の怪人だわ」
エリ「だって私ほど自己中心的な人間、世界中のどこにもいないもの」
グリード「あ・・・?」
  エリの確信めいた宣言に戸惑いが生まれる。
  いったいコイツはなにをもって、そんな断言を・・・。
生徒「みんな逃げてえ!」
生徒「怪人が・・・」
生徒「怪人が暴走したのよ!」
グリード「・・・!」

〇学校の体育館
  酷い状況だった。
  逃げる生徒たちを押し退けて、たどり着いた暴走現場。
  一人の生徒と一体の怪人が残されており、怪人は見境なく暴れている。
  暴走するとこんなにメチャクチャになるのか。
  怪人ライジングとやら、実は欠陥教育じゃねえのか。
女子生徒「誰か! 誰か助けて!」
  よく見ると、暴走した怪人の本体は入学式でエリの陰口を叩いてた生徒だった。
  器が小さい癖に嫉妬心に駆られるからだ。
グリード「なるほどな、エリ」
グリード「下手に悪口やイジメをすれば怪人が暴走する」
グリード「それが分かってて、さっきは放っておいたわけだ」
エリ「・・・」
グリード「さあ、あとは学院の連中に任せようぜ。アイツの退学はもう決まった」
女子生徒「お願い・・・! 逃げないで! 私を助けて・・・!」
女子生徒「こんなに頑張って入学したのに・・・こんなのってないよお・・・」
エリ「・・・待ってて」
エリ「必ず助けるから」
グリード「ハァ!? お、おい!」
  エリは恐れず怪人に近づく。
  だがそんなことをすれば、どうなるかは一目瞭然だ。
エリ「うぅ・・・」
  なんの武装も無しに人間が怪人に勝てる道理はない。
  ましてや相手は暴走した怪人だ。
  たった一撃でエリは吹っ飛ばされる。
女子生徒「ダメ! 来ないで!」
女子生徒「これじゃあ、あなたまで!」
エリ「大丈夫、だよ」
エリ「必ず、助ける、から」
  エリはフラフラと再び怪人に近づいていく。
  愚かな正義の味方め。いい気味だ。
  そのままやられてしまえ。

〇学校の体育館
エリ「うぅ、ぐっ・・・」
女子生徒「もうやめて! もう逃げてよお!!」
  何度目の特攻だろうか。
  このままだと学院の連中が来る前にくたばっちまう。
  だが、コイツの欲望の本質は理解した。
グリード「言ってみろ」
エリ「えっ・・・」
グリード「オマエの欲望を言ってみろ。俺がそれに応えてやる」
グリード「世界すら飲み込んでしまうようなオマエの欲望とはなんだ!」
エリ「・・・」
エリ「私の欲望は──」
エリ「私の欲望はみんなの願いを叶えること!」
エリ「みんなの欲望こそが私の欲望!」
  ああ、この底無しの大馬鹿野郎め。
エリ「だから今は、あの退学したくない子を救って! グリード!」
グリード「了承した」
  そこからの決着は一瞬だった。
  俺は暴走怪人の攻撃をかいくぐり、ヤツに一撃を喰らわせてやった。
  俺の腕が暴走怪人の胴体を貫通してる。
  だが死んだわけじゃねェ。
  エリの欲望はみんなの欲望。
  つまり俺の力の本質は、欲望の形である怪人の力を奪うこと──!
  気づけば力を失った怪人と生徒が腰を抜かしていた。
学院長「これはいったい・・・」
学院長「暴走した怪人がいたという話でしたが」
グリード「そんなヤツはどこにもいねェよ」
グリード「まあ俺が他の怪人を暴れさせるよう仕向けたかもしれんがな」
学院長「それじゃあ、あなたたちが暴走怪人?」
エリ「いいえ」
エリ「私は強い欲望を持っていますが、暴走などしておりません」
エリ「校則には反してませんよね」
学院長「・・・」
  ククク、そうこなくちゃな。
  オマエの言う通りだったよ。
  何故そんな欲望に至ったかは知らんが、
  オマエこそが俺の本体だ!

〇大広間
  翌朝、無罪放免となった俺たちに待ってたのは学院からの宣戦布告だった。
生徒会長「おめでとう」
生徒会長「令嬢を従える災厄級指定怪人──『隷嬢グリード』」
生徒会長「キミたちは四六時中、監視下に置かれることになった」
  テミス女学院の生徒会長。
  怪人の姿がまったく見えねェ。欲望が少しもないのか。
  生徒会長というだけあって、学院の理念の体現者というわけだ。
エリ「・・・」
グリード「ビビんな、エリ」
グリード「むしろ証明してやろうぜ」
グリード「こんな無機質な女なんかじゃなく、」
グリード「俺たちこそが人間だとな!」
エリ「・・・うん」
  さあ楽しませてくれよ、人類。
  無敵の怪人は今、ここに産まれたぞ──!

コメント

  • 「心に怪物を飼う普通の人たち」というタイトルの本を思い出しました。その怪物が具現化して怪人の姿で本体と対話したり暴走したりするなんて、すごい発想ですね。怪人の姿が見えないということは本心が見えない生徒会長、不気味です。

  • 学園物で怪人を使役するとは好みがどストライクで面白かったです!
    他の生徒達の怪人の話も見てみたいですね。
    そして百合……!

  • みんなの願いを叶える…果てしない欲望でしたね。ただ生徒会長もなかなかの人物そうで、続きが見てみたいです。

コメントをもっと見る(6件)

成分キーワード

ページTOPへ