仮初めの太陽

椎名つぼみ

【読切】仮初めの太陽(脚本)

仮初めの太陽

椎名つぼみ

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〇雑踏
  ちょっと前まで、僕ら『怪人』は
  背中を丸めて歩き、息をひそめて暮らす
  そんな日陰の存在だった──

〇劇場の舞台
リポーター「やりました!!️ 快挙です!!️」
リポーター「怪人として初めて、ノーベル化学賞を受賞されました!」

〇テレビスタジオ
司会者「今日のゲストは、怪人初の飛行士となったこの方です!!️」

〇クリスマスツリーのある広場
リポーター「人気女優の熱愛! お2人はいつからお付き合いを?」
「・・・」

〇東京全景
  ティラミス、ナタデココ、
  タピオカ、マリトッツォに続く──
  世は空前の『怪人ブーム』

〇グラウンドのトラック
「セッツ ゴー!!」
「おっ」
女子「松本センパイ頑張って~!!」
「松ギンさん、はやーい♥️」
「ゴール!! 学年記録だ!!」
松本 ギンガ(当然だ。 僕は積んでるエンジンが違う)
田中「はぁ、はぁ。 さすがだな、マッツー。 息切れ1つしないなんて!」
鈴木「マジ、速すぎッ! なのに、涼しい顔しちゃってさ」
松本 ギンガ(息も乱れない、汗だってかかない)
松本 ギンガ「まあ、『怪人』だからさ」
松本 ギンガ(ん)
松本 ギンガ「田中くん、右足ひねったね。 保健室に行こう」

〇教室
先生「松本、やったな! 今回も1位だ」
田中「うっわー、マジか。 どうやったら満点なんかとれんだよ?」
鈴木「すっげーな、相変わらず。 今回の範囲そうとう広かったぞ」
松本 ギンガ(これくらいは可能だ。 CPUもSSDも最新のものを組み込んでる)
松本 ギンガ「まあ、『怪人』だからね」
松本 ギンガ(ん)
松本 ギンガ「鈴木くん、もしかして相似苦手? 良かったら教えるよ」

〇学校の校舎
女子「え、彼女? ナイナイ! だって松本くん、怪人だよ?」
男子「キモっ! 松本の奴、イキんなっつーの」
男子「怪人がスタメン? あり得ねーだろ」
先生「なあ君、この解答だけど。 まさかフィールドスコープを使って──」
松本 ギンガ「・・・」

〇雑踏
  こんな僕が、今じゃ学校一の人気者。
  怪人が日当たりを望めるなんて、誰が想像しただろう。
松本 ギンガ(嬉しいかって?)
  いや。恐怖でしかないよ。
松本 ギンガ(僕は何1つ変わってないんだから)
  あの頃に戻されるのは、いつ?
松本 ギンガ(覚悟しとかなきゃ。 また1人になっても、傷つかないように)

〇警察署の食堂
松本 ギンガ「よいしょ、っと」
松本 ギンガ「おばちゃん、ここに置いとくね」
学食の人「さすがだね! 重いのに」
松本 ギンガ「まあ、『怪人』なので」
学食の人「はい、これお礼!」
女子「やだー! 自販機のお茶、売り切れてる~」
松本 ギンガ「あ、良ければコレ」
女子「松本くん、でもぉ」
松本 ギンガ「気にしないで。 怪人は水分をとらなくても動けるから」
女子「ありがとう」
松本 ギンガ(ん?)
女子「やったぁ! 松ギンの写真、うまく撮れた♥️」
松本 ギンガ「君たち、それは・・・」
女子「ねえ、これ見たよ!」
松本 ギンガ「あ、頼まれて撮った雑誌」
女子「怪人特集、サイコーだった!」
女子「うん、うん。 そのボディカラー、次に来る色?」
女子「松本くんと同じワックス、私も買おうかな」
松本 ギンガ「いや。これは別に──」
???「何なのアレ!?」
松本 ギンガ(んん?)
佐倉 あかり「モデルってなに? 何で彼が国宝級イケメン扱いで、騒がれてるわけ?」
佐倉 あかり「松本センパイなんて、 今も昔も普通に『怪人』だっつーの!」
女子「ちょっと、あかり! 声大きいよ」
佐倉 あかり「だって、おかしいじゃん。 みんな流行りに踊らされてさー」
松本 ギンガ(『アンチ怪人派』か)
松本 ギンガ(いるんだよね、たまに。 こういう冷静な目をもってる人がさ)
松本 ギンガ「ちょっと、君──」
佐倉 あかり「げっ、ヤバッ」
女子「す、すみません! ほら、あかりも謝って!」
佐倉 あかり「えー。何で」
女子「だって、先輩怒ってるじゃん!」
松本 ギンガ「・・・」
松本 ギンガ「いや。後ろ危ないよ、って。 ラーメン持った人が通るから」
佐倉 あかり「え?」
松本 ギンガ(イキってると思われたか。 少し露出を控えよう)
佐倉 あかり「あ・・・」

〇電車の座席
松本 ギンガ「・・・」
松本 ギンガ(久しぶりに、ちょっとヘコむな)
  否定されるのなんか、慣れてるはずなのに。
  みんなに期待されるのが嬉しくて、光が差す場所に立ちすぎた。
松本 ギンガ(気持ちを改めよう)
幼女「じー」
松本 ギンガ(うっ、何かめっちゃ見てくる)
松本 ギンガ「ニカッ」
幼女「ふぇ~」
松本 ギンガ(ひぃ~!!)
松本 ギンガ(おっ。少し混んできた)
松本 ギンガ(2つ先のドアに、妊婦さん発見!)
松本 ギンガ(席を譲りたいが、機械音は出せない。 ビームも迷惑だ)
松本 ギンガ(とりあえず、僕が席を立てば──)
松本 ギンガ「あ、そこは!」
松本 ギンガ(おじちゃん、あんたの為じゃ・・・)
佐倉 あかり「ねえちょっと、そこの席譲ってくんない?」
男「なに?」
松本 ギンガ(あれ、この子はアンチの)
佐倉 あかり「この人はね、妊婦さんに席を譲りたくて立ったの。 だからイイでしょ?」
男「う、うむ」
佐倉 あかり「さあ、どうぞ。こっちへ」
妊婦「ありがとう、2人とも」
松本 ギンガ「い、いえ」
松本 ギンガ(何で分かったんだ。 まさかこの子に、行動予測システムが!?)
「・・・」
佐倉 あかり「あの」
松本 ギンガ「はい!?」
佐倉 あかり「昼間のことなんですけど」
松本 ギンガ「え? ああ、あれ? 気にしてないよ! 君は間違ったことは言ってない」
松本 ギンガ「たしかに、僕はずっと『怪人』だ。 何も変わってないからね」
松本 ギンガ(変わったのは、世間の見る目)
佐倉 あかり「でも私、センパイのこと傷つけちゃいましたよね?」
松本 ギンガ「え!?」
佐倉 あかり「あの時、そんな風に見えたから」
松本 ギンガ(な、何なんだ。 心理察知システムもセットアップ済みか!?)
松本 ギンガ「あはは、いや~まさか。 怪人はそんな柔にはできてないよ!」
松本 ギンガ「傷つく? そんな機能はついてないさ。 強く逞しいのが『怪人』! そもそも怪人の僕が、そんな感情を──」
佐倉 あかり「ああ、そうですか? じゃあイイってことで!!」
松本 ギンガ「へ?」
佐倉 あかり「思ってたんですけど。 センパイっていつも怪人、怪人、うるさいですよね!!」

〇警察署の食堂
「腹へった~」
松本 ギンガ(さすがに食欲ない)
鈴木「あれ、マッツー飯は?」
松本 ギンガ「あー、『怪人』はエコだからね! 僕は手持ちのコレで」
鈴木「相変わらずストイックだなぁ。 これ以上、体つくってどーすんだよ」
田中「シックスパック、あんま見せつけんなよ! マジで俺らヘコむから」
松本 ギンガ「いや、普通だよ。怪人ってさ──」
佐倉 あかり「うっわ~、出た!!️ また『怪人節』ですか?」
松本 ギンガ「げっ! アンチの君!」
佐倉 あかり「何ですか、アンチって。 昨日、せっかく仲良くなれたのに」
松本 ギンガ(えっと、どこで? まったく分からない)
田中「マッツー誰だよ、その可愛い子! やるな~、いつからだ?」
佐倉 あかり「ふふ。昨日からです♥️」
松本 ギンガ「え!? 何が!?」
田中「ほっほぉ! 1年女子いいね~」
田中「じゃあ、今日は俺ら向こう行くわ」
松本 ギンガ(何か、とんでもない誤解が)
「・・・」
佐倉 あかり「ねー、センパイ」
松本 ギンガ「ん?」
佐倉 あかり「私たち、ホントに付き合いません?」
松本 ギンガ「え!? どこに!?」
佐倉 あかり「そのトボケ方、古っ! 恋人になりましょうって、言ってるんですけど」
松本 ギンガ「な、何で僕と・・・(アンチなのに)」
佐倉 あかり「実はセンパイのこと前から見てて、もっと知りたかったんですよ」
佐倉 あかり「何で足が早いのか、何で成績がいいのか、 何で力持ちなのか」
佐倉 あかり「何でいつも、他人に優しいのかって・・・」
松本 ギンガ「え? それは怪人だから。 怪人たる所以で──」
佐倉 あかり「はぁ? また『怪人』ですか? そんなのどーでもイイんですけど!?」
松本 ギンガ「ひぃ!!️」
佐倉 あかり「怪人っていう前に、センパイは『松本ギンガ』じゃん!!」
佐倉 あかり「私はあなたのことが知りたいんです!!」
松本 ギンガ「え・・・」

〇渋谷駅前
佐倉 あかり「失言のペナルティとして、買い物につき合って下さい」
松本 ギンガ(なぜだ)
佐倉 あかり「わー、あれキレイ」
松本 ギンガ「ふむ」
松本 ギンガ「似合う。 ウエストを3cm、丈を5cm詰めれば、君にピッタリだ」
佐倉 あかり「え?」
佐倉 あかり「わー、あれ美味しそう!」
松本 ギンガ「カロリー480、果汁35% 痩せ気味の君には悪くないな」
佐倉 あかり「・・・」
佐倉 あかり「センパイ、そういう情報いいですから」
松本 ギンガ「え、そうなの!? 分析データが欲しくて、僕を呼んだのかと」
佐倉 あかり「何でそーなるんですか。 ただ一緒に楽しみたいだけなのに」
松本 ギンガ「僕と・・・楽しむ?」
松本 ギンガ「ハッ!」
松本 ギンガ「あかりさん、ちょっとこっちへ!!」
佐倉 あかり「え!?」
「アハハ! ウケる~」
松本 ギンガ(ふぅ)
佐倉 あかり「今の知り合いですか?」
松本 ギンガ「あ、ゴメン。中学の同級生。 過去にちょっとイヤなことあって」
松本 ギンガ「トラウマ、って言うのかな?」
松本 ギンガ「ほら怪人ってメモリが大きいからさ。 事細かに記憶してて・・・」
佐倉 あかり「・・・」
松本 ギンガ(また『怪人節』が!!)
松本 ギンガ「えっと、いやこれは」
佐倉 あかり「私がその記憶、上書きしましょうか?」
松本 ギンガ「え?」
  チュッ♥️
松本 ギンガ「おでこにキス? えー!?」
佐倉 あかり「はい、完了です」
佐倉 あかり「万が一あいつらの顔がチラついたら、今日の私を思い出して下さいね!」
松本 ギンガ「あかりさん・・・」
松本 ギンガ(な、何だ。この胸の高鳴りは)

〇学校の下駄箱
佐倉 あかり「おはようございま~す、センパイ!」
松本 ギンガ「あ! おは・・・」
佐倉 あかり「今日もお昼休み、楽しみにしてます」
松本 ギンガ「え・・・」

〇渡り廊下
佐倉 あかり「センパイ、部活お疲れ様。 一緒に帰りましょ!」
松本 ギンガ「え」

〇学校の屋上
佐倉 あかり「センパイ、楽しかったです。ではまた!」
鈴木「仲いいな~、2人は」
田中「早く付き合っちゃえよ!」
松本 ギンガ「い、いや。僕なんか」
松本 ギンガ(好きな女の子、気のおけない仲間。 こんな日がずっと続けばいいのに)

〇東京全景
  でもそんなささやかな望みは、長くは続かなかった。
  『怪人ブーム』の終わり──。
  その切っ掛けとなる事件が、僕とは関係のないところで起きてしまう。

〇銀行
リポーター「人質をとって暴れている、犯人の詳細が分かりました!」
銀行強盗「金だー!!」
リポーター「怪人です! 怪人が凄まじい力で、刃物を片手に金庫を開けています!!」

〇教室
松本 ギンガ(捕まって良かった)
松本 ギンガ「みんな、おはよう!」
女子「松本くん、来たよ! ほら、よく見ると凶悪なカオしてる」
女子「やっぱ怖いよね、怪人。 ママがもう関わっちゃダメだって」
松本 ギンガ(この雰囲気・・・知ってる)
松本 ギンガ「あ、落ちたよ。君の・・・」
松本 ギンガ「え!?」
松本 ギンガ(ああ、そうか。 戻ったんだな、あの頃に)
「あ、マッツー」
松本 ギンガ「お、おはよう」
「おはよ・・・」
「・・・」
松本 ギンガ(2人とも観たんだな、テレビ)
佐倉 あかり「センパイ、おはようございます!」
松本 ギンガ「あ、あかりさん!」
佐倉 あかり「今日、スマホ忘れちゃって。 連絡できないんで来ちゃいました」
松本 ギンガ(この子は、あのニュースを見てない?)
松本 ギンガ(僕といたら、彼女まで白い目で見られる・・・)
松本 ギンガ「もう僕には、会いに来ないで欲しい」
佐倉 あかり「えっ!?」

〇学校脇の道
松本 ギンガ(元に戻るだけじゃないか)
  1人で勉強をして、1人で昼食をとる。
  じっと息を潜めて終わる、学校生活。
松本 ギンガ(傷つかない覚悟、してたはずなのになぁ)
  毎日が楽しくて忘れてしまった。
  怪人の僕は、どうやって歩けばいいんだっけ?
「センパイ!!」
佐倉 あかり「どこ行くんですか! 待って!」
松本 ギンガ(あかりさん・・・ そんな場所を走っちゃ危な──)
松本 ギンガ「あかりさん!!」

〇病室のベッド
松本 ギンガ(う・・・ココは?)
佐倉 あかり「センパイ! 気づいた・・・センパイ・・・」
松本 ギンガ(そうか、トラックに体当たりして)
松本 ギンガ「あかりさん、大丈夫?」
佐倉 あかり「それは、こっちのセリフです。 私を守って・・・センパイ痛くないですか?」
松本 ギンガ「ハハッ。僕は怪人だからね。 こんくらい何とも──」
佐倉 あかり「違うでしょ?」
松本 ギンガ「え?」
佐倉 あかり「人間より強くたって、痛いものは痛い! 体も、心も!」
松本 ギンガ「あ、あかりさん?」
佐倉 あかり「私、中学が一緒で・・・」
佐倉 あかり「実はその頃から知ってるんです、センパイのこと」
松本 ギンガ「な!?」
佐倉 あかり「今よりも『怪人』は生きづらかったと思う。 でもあなたは変わらず、強く優しかった」
松本 ギンガ「・・・」
佐倉 あかり「だから私、再会した時に言いましたよね。 松本センパイは「今も昔も怪人だ」って」
松本 ギンガ「あ・・・」
佐倉 あかり「『松本ギンガ』が素敵なのは、今に始まったことじゃない」
佐倉 あかり「中学からずっと、私の憧れでした!」
佐倉 あかり「だから、サヨナラみたいに言わないで」
松本 ギンガ「あかりさん・・・」
  インフルエンサーでなくても、『怪人』の僕を見てくれる人。
松本 ギンガ(そんな人いたんだ)
  彼女となら前を向いて生きていける。
  いや、共に生きていきたい。
松本 ギンガ「ありがとう。 たった1人、君がいてくれるだけで幸せだ」
佐倉 あかり「ふふっ。私だけじゃないですよ」
松本 ギンガ「え・・・」
「マッツー!! 無事で良かった!!」
松本 ギンガ「鈴木くん、田中くん!」
佐倉 あかり「見てる人は、ちゃんと見てます。 センパイの真の姿」
松本 ギンガ「みんな・・・」

〇雑踏
  僕が僕であるかぎり
  もう怖くない──

コメント

  • とても良かったです!
    見た目や先入観に左右されないこと、それが誰より信じられなくなっていたギンガくんの心が癒される過程が自然で感情移入できました。
    ブームと関係ない人柄の良さ、コンプレックスから怪人を連発して謙遜しようとしてしまう癖、怪人である以前の魅力が納得で、あかりちゃんのムーブに気持ちがストンと落ちました😊
    素敵な作品をありがとうございました💕

  • 私も松ギンさんと、性格的に似ている部分があるので、凄く共感できました。

    「不幸慣れ」とでもいいましょうか。職場の仲間や友達との良好な人間関係が、かりそめのように思えてしまって、いつしか己の実態に幻滅する日が来るんじゃないかと不安にかられたり。要は圧倒的に自信が足りないんですね。

    種族の壁を超えて評価された松ギンさんは、きっと小生意気な彼女さんが、聖女のように見えたことでしょう。果報者ですね。

  • 怪人ブームという設定からの終盤までの展開が面白かったです🤗
    松ギン君の素直さが周りに良い影響を与えてて、ほっこりしました。
    素敵な作品でした🙌

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