火傷

あざみりか

エピソード1(脚本)

火傷

あざみりか

今すぐ読む

火傷
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇病室
光代「はー・・・・・・今日も夜勤辛いなあ・・・」
  光代は、いつもの様に病室の見回りをしていた。
  初めの頃はこの真っ暗で不気味な病院を見回りするのは怖かったが、3年が経った今では何も感じなくなっていた。
  この暗闇にもすっかり慣れてしまい。時には暗闇の中でひっそりと変顔をするのが趣味になっていた。
  その日の見回りもいつもの様につつがなく終わりを迎えようとした時だった。
???「ううう・・・」
  光代の耳に、うめき声が聴こえた。
光代「・・・・・・誰?」
  光代はうめき声のする方に懐中電灯の光を当て、声のする方に向かっていった。
  うめき声は、大火傷をして入院している老人の病室からしていた。
  面会謝絶の札の掛かるドアをノックして病室に入る。
  中では、老人がうつ伏せで眠っていた。
光代「田中さん!どうしたんですか?」
田中「うぅぅぅぅぅぅ・・・・・・」
  田中は痛みを堪えながら何とか言葉を発しようとするが、言葉はただのうめき声に代わった。何とか腹に力を込めて言葉を出す。
田中「せぇ・・・・・・なぁ・・・・・・がぁ」
光代「背中・・・・・・ですか?」
  光代は背中を見て、首を傾げた。
  背中には、火傷が無かった。
  そこは火傷になっておらず、白い肌があるだけだった。
  まるでカサブタの様だった。
  そしてそのカサブタは、まるで背骨を中心にして羽根を広げる蝶に見えた。
田中「いぃ・・・・・・だぁ・・・・・・い」
光代「痛いんですか!?」
  田中は必死で自分の背中の痛みを訴えるが、光代はますます首を傾げた。
  そこには、火傷が無いのだ。
光代「もしかして・・・・・・幻視痛?」
  そう思った光代だったが、自分1人で判断するわけにはいかないと思い、ナースコールに手を伸ばした。
田中「ぉぉっぉ・・・・・・」
  何かを吐き出すような感覚が、田中の体を支配していた。
  田中は、そこで自分の痛みの正体に気付いた。
  体内にある『何か』が、背中の瘡蓋を引き剥がそうとしているのだ・・・・・・。
  バキッ・・・・・・ベキッ・・・・・・グチャッ・・・・・・
  骨が折れる音がして、光代が田中の方を見ると、そこには背中に穴を開けた彼の姿があった。
  呆然とする光代の目の前に、背骨を中心にして白い肌を羽の様に広げた蝶が、赤い心臓を静かに動かしていた。
  蝶は赤い燐粉を撒き散らしながら、病室を飛び回り窓を突き破ると、夜の闇に消えていった。

コメント

  • 飛んで火に入る夏の蝶……?

  • 情景描写に圧倒されました。なぜ田中は火傷を負ったのか、その火傷とは、そしてどこへ向かったのか、想像をびんびんと刺激される物語に感服です。

  • 想像してみました。脱皮して羽ばたく老人。
    あまり趣味ではありませんが、ファンタジーな感じがして私はとても好きです。不思議な感じが尚更。

コメントをもっと見る(7件)

成分キーワード

ページTOPへ