負け犬が月に千回吠えたなら

澤井 軽野

負け犬ドッグの1000敗チャレンジ(脚本)

負け犬が月に千回吠えたなら

澤井 軽野

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〇ビルの裏
ルーズドッグ「や、やめてくれ!」
野良ヒーロー「フン、D級か」
ルーズドッグ「助けてくれ!」
野良ヒーロー「報償金無し──労力に合わんな」
ルーズドッグ「バカめ!隙ありィ!」
野良ヒーロー「貴様!」
ルーズドッグ「ギャァア!!」
野良ヒーロー「愚か者め!」
ルーズドッグ「──」
ルーズドッグ(──行ったか?)
ルーズドッグ「イテテ」
ルーズドッグ「ったく」
ルーズドッグ「マジでスルーしやがって」
ルーズドッグ「1敗逃すところだったぜ」
  カウント
  986敗
ルーズドッグ「よし!」
ルーズドッグ「残り14敗!」
犬養 輪(いぬかい りん)「コラッー!またお前か!」
ルーズドッグ「ヤベッ!面倒な奴が来やがった」
犬養 輪(いぬかい りん)「待てー!」

〇ビルの裏通り
ルーズドッグ「ハァハァ」
負川 犬(おいかわ けん)「ったくあの女」
負川 犬(おいかわ けん)「撃ってこねぇから敗北稼げねえし」
負川 犬(おいかわ けん)「いい迷惑だぜ」
負川 犬(おいかわ けん)「最強への道を邪魔しやがって!」

  怪人因子
  20年前、突然ごく一部の人間にのみ発現したそれは
  人間を全く別の何か──
  『怪人』に変貌させた

〇テレビスタジオ
「怪人化は後天的な要因で──」
「違う!遺伝的な要因だ!」
「怪人は人間と違う」
「別種だ!」

〇荒廃した国会議事堂の大講堂
  世論は怪人の存在を許さなかった
  人間とは別種と位置付けられた怪人は
  法の対象とならず
  人間だった頃の権利は剥奪され
  害獣として駆除対象とされた

〇地下の避難所
  だが、怪人は怪人で集まり
  独自の社会を形成していった

〇岩山
  怪人因子が現れる前は
  世はヒーロー番組ブーム

〇CDの散乱した部屋
負川 犬(おいかわ けん)「いけェ!」
負川 犬(おいかわ けん)「また負けた」
  俺が『特別』に感じ憧れたのは
  ヒーローでなく怪人の方だった

〇CDの散乱した部屋
  だから怪人因子が世界に現れた時
負川 犬(おいかわ けん)「人間が本物の怪人に──!?」
負川 犬(おいかわ けん)「じゃあ」
負川 犬(おいかわ けん)「俺も怪人になれるかも知れねーじゃん!」
  俺は狂喜した

〇病院の診察室
医師「検査結果が出ました」
負川 犬(おいかわ けん)「どうだった!?」
医師「どうぞこちらへ」

〇地下の避難所
負川 犬(おいかわ けん)「ここは?」
負川 犬(おいかわ けん)「すげえ!」
負川 犬(おいかわ けん)「本物の怪人!」
医師「検査の結果」
医師「貴方は怪人因子を保有している事が判明しました」
医師「以後、人間としての権利は剥奪されます」
負川 犬(おいかわ けん)「マ、マジか!!」
負川 犬(おいかわ けん)「やったあぁあ~!!」
医師「喜んでるの──? 変わった子ね」
医師「ともかく、貴方は今後怪人として生活してもらいます」
医師「新怪人は怪人協会に登録され」
医師「能力を一つ付与する改造手術を受けられます」
負川 犬(おいかわ けん)「の、能力」

〇研究装置
医師「どんな能力をお望みで?」
負川 犬(おいかわ けん)「俺は怪人が倒されてもパワーアップして復活してくるのが好きなんだ」
負川 犬(おいかわ けん)「そんな感じので!」
医師「わかりました」
医師「では必要敗北数は?」
医師「発動までに必要な敗北数が多い方が」
医師「発動時のパワーも強大になります」
医師「ただ、完全に死亡すると復活できません」
医師「必要敗北数が多いと、発動前に死亡するリスクが高くなります」
負川 犬(おいかわ けん)「何回でもいいの?」
医師「理論上は」
負川 犬(おいかわ けん)「千回」
医師「──は?」
負川 犬(おいかわ けん)「千回!敗北千回だ!」
医師「──私の話聞いてました?」
医師「千回も生き残れるわけないでしょう」
負川 犬(おいかわ けん)「でも、千回生き残れば俺が最強だろ?」
医師「もし成功すれば、国の一つや二つは滅ぼせるでしょうね」
負川 犬(おいかわ けん)「俺の、俺の時代が来た──!」
医師「フゥ」
医師「わかりました」
医師「では改造カプセルへ」

〇荒れた公園
  それから俺は
  4敗

〇飲み屋街
  怪人として細々と暮らしつつ
  427敗

〇センター街
  最小限のダメージで負ける技術を鍛え
  682敗
  順調に敗北を重ねた

〇入り組んだ路地裏
  そんな中──
犬養 輪(いぬかい りん)「手を頭の後ろに回して地面に伏せなさい!」
ルーズドッグ「は?」
ルーズドッグ「怪人だぞ?撃てよ」
犬養 輪(いぬかい りん)「いいから手を頭の後ろへ!」
ルーズドッグ(攻撃してくれねぇと敗北にならねーんだが)
ルーズドッグ「何する気だ」
犬養 輪(いぬかい りん)「貴方を連行します!」
ルーズドッグ(何だこいつ)
ルーズドッグ(面倒クセッ!)
犬養 輪(いぬかい りん)「待ちなさい!」

〇線路沿いの道
  それ以来

〇街中の道路
  行く先々に奴が現れ

〇市街地の交差点
  敗北数は停滞した

〇渋谷駅前
負川 犬(おいかわ けん)(だがついに千敗も目前)
負川 犬(おいかわ けん)(このクソみてーな生活もあと少し)
負川 犬(おいかわ けん)(俺が最強!一番特別になるんだ!)
アナウンサー「次のニュース」

〇荒廃した国会議事堂の大講堂
総理大臣「政府は怪人の基本的人権の確立に向け」
総理大臣「憲法改正案を──」

〇渋谷駅前
負川 犬(おいかわ けん)(ケッ)
負川 犬(おいかわ けん)(さんざ怪人を狩っておいて何が人権だ)
負川 犬(おいかわ けん)(ま、怪人なんてイカれた奴しか居ねえから)
負川 犬(おいかわ けん)(無理もねぇが)
負川 犬(おいかわ けん)(怪人と人間の共存なんて無理なんだよ)

〇倉庫の裏

〇地下の避難所

〇荒れた小屋
フラン「よォ負け犬」
ルーズドッグ「ども」
フラン「相変わらずD級か?しけてんなァ」
フラン「能力未発動の奴はどうも人間臭くていけねェ」
ルーズドッグ「サーセン」
ルーズドッグ(うるせェよマッチ棒)
フラン「俺はこないだ銀行襲ってよ」
フラン「そろそろB級に上がれそうだ」
ルーズドッグ「すげぇ!」
ルーズドッグ「さすがッス先輩!」
ルーズドッグ(くだらねェ)
ルーズドッグ(人間が決めた脅威度ランクに嬉々として乗っかるあたり)
ルーズドッグ(ホント怪人てのは誇りも信念もねェ)
「元老院より通達」

〇西洋の円卓会議
怪人長老「人間の政府に怪人に人権を与えようという動きがあるが」
怪人長老「元老院としては特に対処はしない」
怪人長老「人権を得て人間として生きたいという怪人は」
怪人長老「好きにするがいい」
怪人長老「以上」

〇荒れた小屋
フラン「何だァ?今の」
フラン「人間として生きたい怪人なんざ居るかよ」
フラン「特別な力を持って」
フラン「好き勝手楽しんでるのによ」
ルーズドッグ「ですねェ」
ルーズドッグ(怪人てのは短絡的で快楽主義者)
ルーズドッグ(人権を認めるという事は)
ルーズドッグ(裏を返せば人間の法に従えという事)
ルーズドッグ(怪人には無理な話よ)
フラン「それより派手に暴れて一花咲かせてェよな」
フラン「オメーもDランクでうかうかしてる場合じゃねェぞ」
フラン「実はここだけの話」
フラン「進化できる方法てのが最近噂になっててよ」
フラン「何でも人間の子供を喰うと」
フラン「劇的に能力が上がるとか」
ルーズドッグ「子供を喰う?」
ルーズドッグ「オエッ」
フラン「ま、さすがにキモくて実行する奴はなかなか居ねぇわな」
ビム「──詳シク聞カセロ」
フラン「今言った通りだ」
フラン「それ以上は俺も知らん」
ビム「──」
ルーズドッグ「ビムさんどうしたんスか?」
フラン「あいつもC級長いからな」
フラン「B級に上がれなくて焦ってんだろ」

〇荒れた倉庫
負川 犬(おいかわ けん)「腹減った」
負川 犬(おいかわ けん)「俺も銀行でも襲うか?」
負川 犬(おいかわ けん)「でもC級になると報償金付くからな」
負川 犬(おいかわ けん)「そしたら人間も確実にとどめを刺しにきて」
負川 犬(おいかわ けん)「敗北稼ぎが難しくなる」
負川 犬(おいかわ けん)「また適当な肉でもかっぱらうか」
負川 犬(おいかわ けん)「騒がしいな」
負川 犬(おいかわ けん)「大部隊に出くわすとヤベェ」
負川 犬(おいかわ けん)「この姿で行くか」

〇市街地の交差点
犬養 綱美(いぬかい つなみ)「い、いや」
犬養 綱美(いぬかい つなみ)「来ないで!」
負川 犬(おいかわ けん)(ビム!?)
負川 犬(おいかわ けん)(あいつまさかマジで子供を)
負川 犬(おいかわ けん)(キモッ!)
負川 犬(おいかわ けん)(しかし奴が強くなると面倒だな)
負川 犬(おいかわ けん)(ここは邪魔しとくか)
犬養 綱美(いぬかい つなみ)「助けて」
負川 犬(おいかわ けん)「どいてろガキ」
負川 犬(おいかわ けん)「お行儀悪いぜあんた」
ビム「ナンダキサマ」
ビム「ケス」
負川 犬(おいかわ けん)(テメーの能力はバレてんだよ)
負川 犬(おいかわ けん)(目が赤く光ったら──)
負川 犬(おいかわ けん)(ビームってな!)
ビム「グッ」
負川 犬(おいかわ けん)(おっと)
負川 犬(おいかわ けん)(ついでに1敗稼ぐか)
ビム「グハッ」
討伐隊員「大丈夫か!」

〇市街地の交差点
  敗北数988
負川 犬(おいかわ けん)(イテテ)
「綱美!」
犬養 輪(いぬかい りん)「大丈夫!?」
犬養 綱美(いぬかい つなみ)「お姉ちゃん!」
犬養 輪(いぬかい りん)「ゴメン」
犬養 輪(いぬかい りん)「怖かったね」
犬養 綱美(いぬかい つなみ)「あの人が助けてくれたの」
負川 犬(おいかわ けん)(ゲッ!あいつ)
犬養 輪(いぬかい りん)「ありがとうございます!」
負川 犬(おいかわ けん)「いや、別に」
負川 犬(おいかわ けん)(俺に気付いてない?)
負川 犬(おいかわ けん)(この姿で会うの初めてだったか)
負川 犬(おいかわ けん)「うっ」
犬養 輪(いぬかい りん)「大丈夫ですか!?ケガが──」
負川 犬(おいかわ けん)「いや」
負川 犬(おいかわ けん)「腹が減って」
犬養 輪(いぬかい りん)「私の家近いんで」
犬養 輪(いぬかい りん)「何かご馳走します」
負川 犬(おいかわ けん)「飯?」
負川 犬(おいかわ けん)「くれ!」

〇ダイニング
犬養 輪(いぬかい りん)「狭くてすみません」
負川 犬(おいかわ けん)「お前こんな凄い家に住んでんの?」
犬養 輪(いぬかい りん)「普通だと思いますけど」
負川 犬(おいかわ けん)(人間の家ってこんな綺麗だっけ)
犬養 輪(いぬかい りん)「どうぞ」
負川 犬(おいかわ けん)「いつもこんないいモン食ってんの!?」
犬養 輪(いぬかい りん)「普通だと思いますけど」
負川 犬(おいかわ けん)(生きててよかった~!)

〇ダイニング(食事なし)
負川 犬(おいかわ けん)「こんなに食ったの初めてだ」
犬養 輪(いぬかい りん)「よかった」
犬養 綱美(いぬかい つなみ)「また食べに来なよ!」
負川 犬(おいかわ けん)「いいのか」
犬養 輪(いぬかい りん)「綱美も喜んでるし」
犬養 輪(いぬかい りん)「ぜひ」
負川 犬(おいかわ けん)(すげェ)
負川 犬(おいかわ けん)(人間ってスゲー!)

〇ダイニング

〇ダイニング

〇ダイニング

〇ダイニング(食事なし)
犬養 輪(いぬかい りん)「今日は何がいい?」
「肉!肉!」
犬養 輪(いぬかい りん)「じゃあケン買い物手伝って」

〇街中の道路
通行人「怪人の人権?」
通行人「法整備が進んどるって」
通行人「あんな得体の知れんモン」
通行人「一緒に生活できるかぃ」
犬養 輪(いぬかい りん)「ひどい」
犬養 輪(いぬかい りん)「怪人だって元は人間なのに」
負川 犬(おいかわ けん)「そうか?」
負川 犬(おいかわ けん)「定説通り別種だろ」
犬養 輪(いぬかい りん)「でも言葉が通じるのに」
負川 犬(おいかわ けん)「言葉は通じても話は通じねぇ」
負川 犬(おいかわ けん)「怪人なんてクズばっかだ」
負川 犬(おいかわ けん)「殺られる前に殺るべきだな」
犬養 輪(いぬかい りん)「そんな!」
犬養 輪(いぬかい りん)「私は知ってるよ」
犬養 輪(いぬかい りん)「怪人にも、本当に悪い事はできない」
犬養 輪(いぬかい りん)「優しい人がいるって」
負川 犬(おいかわ けん)(こいつ──)
負川 犬(おいかわ けん)(そんな下らねぇ理由で撃たないのか?)
負川 犬(おいかわ けん)「あのなぁ」
負川 犬(おいかわ けん)「お前の妹が殺されかけたんだぞ?」
負川 犬(おいかわ けん)「あの時、お前が先に着いてたらどうするつもりだったんだよ」
犬養 輪(いぬかい りん)「それは──」
負川 犬(おいかわ けん)「いいか」
負川 犬(おいかわ けん)「怪人に対して正しい対処はただ一つ」
負川 犬(おいかわ けん)「迷うな、撃て」
負川 犬(おいかわ けん)「それができなきゃ全て奪われるぞ」
犬養 輪(いぬかい りん)「でも──!」
負川 犬(おいかわ けん)「もういい」
犬養 輪(いぬかい りん)「──」

〇荒れた小屋
ルーズドッグ(考えてみりゃ怪人てのは)
ルーズドッグ(思ってたのと随分違ったな)
ルーズドッグ(俺が憧れた怪人は)
ルーズドッグ(もっと骨があって特別だった)
ルーズドッグ(だが実際はどいつもクズばかり)
ルーズドッグ「ハッ」
ルーズドッグ「先輩、あれは」
フラン「最近よく見かける奴だ」
フラン「何か薄気味悪いんだよな」
ルーズドッグ(ヤバい)
ルーズドッグ(A級とかS級とかそんな次元じゃねェ)
ルーズドッグ(ケタ違いの怪人──)
ルーズドッグ(いや、あれはもう魔神だ!)
ルーズドッグ(関われば殺される!)
フラン「何だ青い顔して」
ルーズドッグ(──だが千敗達成すれば?)
ルーズドッグ(そうだ、そうすれば俺の方が強くなる)
ルーズドッグ(ぬるま湯に浸かりすぎた)
ルーズドッグ(早く、早く千敗達成するんだ!)

〇飲み屋街
  敗北数992

〇ゆるやかな坂道
  敗北数993

〇おしゃれな住宅街
討伐隊員「D級か」
討伐隊員「あと少しすればお前も人間の仲間入りできたかもな」
  998敗
ルーズドッグ「──人間の仲間か」
ルーズドッグ「千敗すれば、力に飲まれて俺はもう──」

〇道玄坂

〇殺人現場
負川 犬(おいかわ けん)(魔神!)
負川 犬(おいかわ けん)(く、喰ってる)
負川 犬(おいかわ けん)(子供を!)
負川 犬(おいかわ けん)「バレた」

〇道玄坂
負川 犬(おいかわ けん)「グハッ」
負川 犬(おいかわ けん)「クソッ」
負川 犬(おいかわ けん)「やるしかねェ」
ルーズドッグ「ギャァァア」

〇道玄坂
  999敗
ルーズドッグ「ゲホッ」
ルーズドッグ「た、助かった」
ルーズドッグ「変身時の筋肉変形を応用し」
ルーズドッグ「多量の血を排出する」
ルーズドッグ「俺の必殺・超死んだフリ」
ルーズドッグ「あと1敗で俺の方が強くなる」
ルーズドッグ「だが──」


〇道玄坂
ルーズドッグ「喰ってやがった──子供を!」
ルーズドッグ「俺もあんな化物になるのか──?」
ルーズドッグ「子供──」

〇ダイニング(食事なし)

〇道玄坂
ルーズドッグ「まさか綱美も」

〇ダイニング(食事なし)
負川 犬(おいかわ けん)「綱美!」
負川 犬(おいかわ けん)「なんだ」
負川 犬(おいかわ けん)「居るじゃねえか」
犬養 輪(いぬかい りん)「ケン!」

〇川沿いの原っぱ
犬養 輪(いぬかい りん)「何かあった?」
負川 犬(おいかわ けん)「──あの街の灯」
負川 犬(おいかわ けん)「あの一つ一つの中で」
負川 犬(おいかわ けん)「人間が暮らしてるんだな」
負川 犬(おいかわ けん)「普通の暮らしを」
犬養 輪(いぬかい りん)「うん」
犬養 輪(いぬかい りん)「──わ、私達も」
犬養 輪(いぬかい りん)「一緒に暮らさない?」
負川 犬(おいかわ けん)「は!?」
負川 犬(おいかわ けん)「俺とお前が?」
犬養 輪(いぬかい りん)「うん」
負川 犬(おいかわ けん)「そ、それも普通なのか?」
犬養 輪(いぬかい りん)「そうだよ」
犬養 輪(いぬかい りん)「普通の事だよ」
負川 犬(おいかわ けん)「すげぇ」
負川 犬(おいかわ けん)「普通って」
負川 犬(おいかわ けん)「そんな特別なのか──?」
犬養 輪(いぬかい りん)「──何言ってるのよ、バカ」
  そうだ
  怪人なんて俺には向いてなかったんだ
  まだ間に合う
  人間として生きよう──

〇繁華な通り
負川 犬(おいかわ けん)「家具なんてわかんねぇよ」
犬養 輪(いぬかい りん)「好きなの選べばいいんだよ」
負川 犬(おいかわ けん)「ハッ」

〇黒

〇繁華な通り
犬養 輪(いぬかい りん)「ケン?」
負川 犬(おいかわ けん)(魔神!)
負川 犬(おいかわ けん)(殺気が増してる)
負川 犬(おいかわ けん)(子供を喰って進化した?)

〇黒

〇繁華な通り
負川 犬(おいかわ けん)(近付いてくる)
負川 犬(おいかわ けん)(逃げ切れねェ)
負川 犬(おいかわ けん)(全員殺される!)
犬養 輪(いぬかい りん)「ケン、真っ青だよ?」
負川 犬(おいかわ けん)(いや)
負川 犬(おいかわ けん)(一つだけ方法がある)
負川 犬(おいかわ けん)「リン」
負川 犬(おいかわ けん)「見ろ」
ルーズドッグ「これが本当の俺だ」
ルーズドッグ「撃てよ」
犬養 輪(いぬかい りん)「知ってたよ、そんなの」
犬養 輪(いぬかい りん)「あんたみたいな変な人間、いるわけないじゃん」
犬養 輪(いぬかい りん)「私も今日はその話がしたかったんだ」
犬養 輪(いぬかい りん)「ケンが自分から打ち明けてくれて嬉しい」
ルーズドッグ「──知ってて、なぜ」
犬養 輪(いぬかい りん)「法改正されたんだよ」
犬養 輪(いぬかい りん)「あんたD級でしょ」
犬養 輪(いぬかい りん)「3年問題起こさずに福祉活動すれば、人権が認められるんだよ」
ルーズドッグ「俺が──人間に」
犬養 輪(いぬかい りん)「そうだよ」
犬養 輪(いぬかい りん)「だからさ」
犬養 輪(いぬかい りん)「一緒に頑張ろ?」
ルーズドッグ「フッ」
ルーズドッグ「前に言ったよな」
ルーズドッグ「怪人に対する正しい対応はただ一つ」
ルーズドッグ「迷うな、撃て」
犬養 輪(いぬかい りん)「何でそんな事」
ルーズドッグ「3年も大人しくするなんざまっぴらなんだよ」
ルーズドッグ「飯が喰えるからテメェらとつるんでただけで」
ルーズドッグ「暴れられねえなら用はねェ」
犬養 輪(いぬかい りん)「ケン」
ルーズドッグ「ホラ撃てよ」
ルーズドッグ「時間がねえんだ!早く撃てェ!」
犬養 輪(いぬかい りん)「あんたが何を考えてるかわからないけど」
犬養 輪(いぬかい りん)「私があんたを撃つわけないじゃん」
ルーズドッグ「──」
ルーズドッグ「だと思ったよクソヤロウ」
ルーズドッグ「ならこれでどうだァ!」
犬養 綱美(いぬかい つなみ)「キャッ」
ルーズドッグ「最近、怪人が子供を襲う理由知ってるか?」
ルーズドッグ「人間のガキを喰うと怪人は劇的に強くなる」
犬養 綱美(いぬかい つなみ)「ケ、ケン」
犬養 綱美(いぬかい つなみ)「痛いよ」
犬養 輪(いぬかい りん)「綱美!」
ルーズドッグ「妹が喰われる様を黙って見てろォ!」
ルーズドッグ「グハッ」
犬養 輪(いぬかい りん)「綱美!」
ルーズドッグ「へッ」
ルーズドッグ「や、やればできるじゃねェか」
犬養 輪(いぬかい りん)「ケン」
犬養 輪(いぬかい りん)「何で、何でこんな事」
ルーズドッグ「──」

〇黒
  カウント
  1000敗

〇繁華な通り
ルーズドッグ「グォォオ!」
犬養 輪(いぬかい りん)「ケン!?」
覚醒ルーズドッグ「ククッ」
覚醒ルーズドッグ「力が溢れる」
覚醒ルーズドッグ「世界は俺のモノだぁぁあ!」
犬養 輪(いぬかい りん)「ケン!」
犬養 綱美(いぬかい つなみ)「うぅ」
犬養 輪(いぬかい りん)「綱美!」

〇繁華な通り
犬養 綱美(いぬかい つなみ)「あれ、ケンは?」
犬養 輪(いぬかい りん)「傷が無い──?」
犬養 輪(いぬかい りん)「じゃあ、この血はケンの」
犬養 輪(いぬかい りん)「ケン──」

〇東京全景
覚醒ルーズドッグ「何処だ魔神」

〇センター街
魔神「ギ!?」
覚醒ルーズドッグ「フ」
覚醒ルーズドッグ「弱ぇな」
魔神「ギ」
覚醒ルーズドッグ「こんな奴を」
覚醒ルーズドッグ「特別と思ってたなんてな」
覚醒ルーズドッグ「消えろ」
魔神「ギィィ!」
覚醒ルーズドッグ「クク」
覚醒ルーズドッグ「ハハハ」
覚醒ルーズドッグ「これが『特別』か──」

〇ダイニング

〇荒廃したセンター街
覚醒ルーズドッグ「アオォォン」

  その日、人々は新たな脅威の咆哮を聴き
  その恐ろしさを口々に語った
  ただほんの一握り、こう言う者もあった
  あんなに哀しい声は
  聴いた事がないと──

〇西洋の円卓会議
通信の相手「試験体が倒された?」
通信の相手「人間と怪人の共通の敵が必要なのだ」
怪人長老「ご安心を」
怪人長老「試験体を倒した者を共通の敵とします」
怪人長老「計画に支障はありません」
怪人長老「──総理」

〇荒廃した国会議事堂の大講堂
総理大臣「今が肝心なのだ」
内閣総理怪人「──この国を怪人の国にするためにな」

〇近未来の会議室
隊長「本当に辞めるのか」
隊長「特別な個体が現れ」
隊長「団結が必要な時に」
犬養 輪(いぬかい りん)「あいつは特別な個体なんかじゃない」
犬養 輪(いぬかい りん)「あんな普通な奴いません」
犬養 輪(いぬかい りん)「大丈夫」
犬養 輪(いぬかい りん)「あいつは私が引っ叩いて元に戻します」
犬養 輪(いぬかい りん)「私はきっと」
犬養 輪(いぬかい りん)「あいつが本当に欲しかったものをあげられるから」
犬養 輪(いぬかい りん)(待ってて、ケン)

〇地球
ルーズドッグ「世界は俺のモノだ」
覚醒ルーズドッグ「アオォォン」

コメント

  • 満足度が高すぎる。
    ドラマとか、映画レベルですね。
    最後、切ないなあ。
    でも、ヒロインが諦めないのがイイ!
    ドッグがいつか人間に戻って、『普通の生活』を送れる気がします。

  • やっと読めた!そして凄い!
    IPとか色々吹っ飛ぶストーリーを読んでしまいました。詰め込み具合が半端ない。そして読み切りサイズを超えた後も気になる!バトルも涙もあって、BGMも効果音も作り込まれててお手本みたいな作りでした。ゴチになりました!

  • 人の温もりを知り、それを守るために敢えて最強の怪人への道を踏み出す…!
    ラストは人を守る怪人になると思いきや、人からも怪人からも恐れられる最強にして孤独な存在になるあたり、ぐっと来ました。

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