読切(脚本)
〇オフィスのフロア
金曜日の午後三時ごろ。
あと少しで楽しい休日ということもあり、
オフィス内が休みに向けてラストスパートに入る中──
ブーッ、ブーッ
斗真のスマートフォンが振動した。
周りから見えないように、
斗真はそっとトークアプリを開く。
『今週は自分達の担当なんで、明日十時にタロ公前で待ち合わせっす。都合悪い人は連絡よろです』
斗真「・・・『行けます』っと」
斗真はそれだけ返事をして、トークアプリを閉じた。
〇一人部屋
翌日。
斗真「よし。 下っ端用の服も小道具も持ったし、あとは行くだけだな」
斗真は荷物の入った大きなリュックサックをぽんと叩いた。
平日はごく普通のサラリーマンとして働く斗真だったが、毎週土曜日だけは別の顔を持つ。
この地球の平和を脅かす『ダークネスシュヴァルツ』の一員として、正義を気取る奴らを相手に戦っているのだ!
ちなみに『ダークネスシュヴァルツ』は日本全国で50支部あり、毎週3支部ほどが活動している。
今週は斗真の所属する支部が活動担当になったというわけなのだった。
斗真「前回はヤスさんが『頭』だったんだよな。 そろそろ回ってきそうで嫌だなぁ・・・」
斗真は所属する支部の中でも一番のベテラン戦闘員の顔を思い浮かべた。
正義の味方との戦闘が担当制なら、もちろん怪人とその下っ端役もランダムだった。
そろそろメインの怪人役が回ってきそうで、斗真はため息をつく。
斗真「『頭』は着ぐるみ重いし、思いっきり殴られて痛いしであんま好きじゃ無いんだよなぁ・・・」
斗真がぼやいていると、それに応えるように出発時間のアラームが鳴る。
もう一度大きくため息をついて、斗真はリュックサックを背負って家を出た。
〇川沿いの公園
斗真「あ、ヤスさん早いっすね」
ヤス「おうよ! 斗真もな!」
昨日送られてきた集合場所に行くと、ヤスさんが既にいた。
斗真「今日はどうします?」
ヤス「そうだな、あちらさんとの接敵は正午の予定だ。 今日の『頭』は・・・」
斗真「ごくり」
ヤス「斗真だな」
斗真「ですよねー・・・」
ヤス「はははっ、そう嫌がるな。 一応花形なんだしな」
斗真「でも重いし、痛いですし」
ヤス「まぁまぁ、終わったらラーメンでも奢ってやるよ」
斗真「へーい・・・」
残念だがやはり予想通りになってしまった。
斗真はもそもそと『頭』のガワを着込んでいく。
斗真「よいしょ、っと・・・」
ヤス「おー、まあまあ様になってきたな」
斗真「やっぱ暑いですよ」
ヤス「がんばれ」
斗真「うぃ〜」
ヤス「んじゃあ俺もちょっくら着替えてくるわ、」
斗真「はーい。 いってらっしゃい」
ヤスは下っ端の中間管理職Aの衣装を取りに、離れた。
斗真「暑いなぁ。早く正義の味方来ないな。 ・・・あーでも早く来てもこっちの準備出来てないしな」
そんなことをぼやきながら斗真が空を見上げた、その時だった。
怪人さん「・・・」
不思議なくらいもやが渦巻いたと思ったら、中から怪人が現れた。
斗真「・・・えっと?」
怪人さん「ふむ。 先客がいたか」
斗真「あ?お仲間です? どーも、お疲れ様です」
怪人さん「ああ」
似たような格好の怪人に、同業者だろうと斗真は会釈した。
怪人も厳しい口調ながら斗真に返した。
まさか同じ怪人に、地球という小さな星で会えるとは思ってもみなかったのだ。
斗真「あれですよね、場所被るのって珍しくないです?」
怪人さん「うむ、確かにそうだな。 私も同郷の者に会うのは初めてだ」
斗真(え、なんか口調とかカッコいいな。 そういう設定なんかな?)
斗真「そういえば、他に人見えないですけど。 俺らは支部で動いてますけど、そっちは自由行動な感じなんですか?」
怪人さん「む、そうだな。基本は一人行動が多いな」
斗真「すごいっすね。 一人だと袋叩きにされません? ヒーローの攻撃とか痛くないです?」
怪人さん「敵に遅れを取るつもりはないのでな」
斗真(か、カッコいいー!)
そうこうしていると、着替えを終えたヤスが帰ってきた。
ヤス「よう、待たせたな」
斗真「おかえりなさい」
ヤス「・・・お?みない顔だな?」
斗真「あ、こちら支部は違うけど今日一緒になる人みたいです。 なんかカッコいいんですよ!」
怪人さん「うむ。よろしく頼む」
ヤス「一緒に?」
ヤスはメモ帳をパラパラとめくる。
二、三回ほど繰り返して、首を傾げた。
ヤス「うーん、やっぱどことも共闘の予定なんてないな。 なぁアンタ、どこの支部だ?」
怪人さん「支部?星の名前でいいのか? それならば我が母星はメリウム星だ」
「・・・ん?」
怪人さん「?」
ヤス「ちょいと待ってくれ。 俺が言ってるのは何市支部かってことだ。 それかせめて所属県だけでも教えてくれ」
怪人さん「ケン? よく分からないが、この星ではそういった括りで星々を纏めて呼んでいるのか?」
「・・・」
ヤス「斗真、来てくれて悪いが今日のバトルは無しな」
斗真「うっす」
ヤス「あとそっちのアンタも場所変えて話そうか。 ここじゃ目立っちまうし」
怪人さん「・・・確かに敵地で目立つのは得策ではない。 従おう」
ヤスが場を纏めて、3人はひとまず斗真の部屋に向かった。
本日は正義のヒーローの不戦勝だった。
〇一人部屋
斗真宅に着き、荷物を下ろして3人は顔を突き合わせる。
ヤス「うっし。じゃあはじめっか。 俺は梶浦康則。ヤスって呼んでくれ」
斗真「俺は白山斗真。斗真でいいよ」
怪人さん「うむ。我はザラシュヴァイツァーだ」
斗真「え、名前かっこいいな! でも長いからザラでいい?」
怪人さん「構わん」
斗真「さんきゅー」
ヤス「んじゃあ、まずこっちの説明な。 俺たちは毎日どこかしらで出現するヒーローを迎え打つ怪人アルバイトの人間だ」
ヤス「俺らと違ってヒーローはどこに出てくるか分からん。 だから出現前日くらいに出現予測の出た支部で対応することになっている」
斗真「地域ごとに支部は出来ていて、俺もヤスさんも同じとこで働いてるんた。今日はたまたま二人だったけど、もっと人数はいるよ」
怪人さん「ふむ」
怪人ザラは顎に手を当てて考え込んでいるらしい。
ヤスが声をかけた。
ヤス「聞きたいことはあるか?」
怪人さん「うむ。 まず、お前たちは人間という種族、ということで合っているな?」
ヤス「おーよ」
怪人さん「アルバイト、というのは仕事に従事するということで合っているか?」
斗真「そうそう、合ってる合ってる。 やっぱり星とか違うと文化も違うんだなー」
怪人さん「ヒーローが出現する、というのは? ヒーローはお前たちと同じ人間ではないのか?」
ヤス「それがなぁ。 正直俺らにも詳しい事は分からなくてな」
ヤス「ただいきなり出現するってのは本当だ。 一瞬前まで何もいなかったところにいきなり出てくるんだ」
斗真「人間は何もないところから出てきたりしないからな」
怪人さん「・・・なるほど」
ザラはうんうんと何度か頷いている。
それから顔をあげ、こちらを覗き込んでいた二人を見返した。
怪人さん「ではこちらの話を。先程言った通り、我が母星はメリウム星という。お前たちから見れば私は異星人と言ったところだろう」
怪人さん「メリウム星は、自らをヒーローと名乗る異星人どもから侵略を受けた。私を含む何名かは支援を求める為他の星へと逃げ延びたが、」
怪人さん「メリウム星の住人は惨殺され、誇った文化は跡形もなく破壊された。 ・・・私は、同胞を見捨ててきたのだ」
斗真「・・・そんな、」
怪人さん「気休めは要らん。この星に辿り着いたのはあくまで偶然だった。戦力も無く、支援も見込めないならすぐ発とうと思ったが」
怪人さん「お前たちのヒーローの話を聞いて気が変わった。私は地球に残り、そのヒーローとやらを調べてみようと思う」
斗真「そっか。 ・・・その、月並みなことしか言えないけど、がんばれ」
怪人さん「ああ」
室内は重苦しい沈黙に包まれた。
斗真が困った顔でヤスを見ると、ヤスはううんと唸る。
ヤス「ザラ、だったな。アンタの辛い事情は分かった。ヒーローについて調べるのはいいが、アテはあるのか?」
怪人さん「いいや。 そもそも先程この星に来たばかりで何も分からない」
ヤス「なるほどな。 だったら一つ提案があるんだが」
怪人さん「む?」
二人の目がヤスを見る。
ヤス「お前さんもウチでアルバイトしないか? 席は有り余ってるし、近いところのヒーローの出現予測なら見れるし」
斗真「良いっすね。 俺も『頭』回ってくるの少なくなるし!」
怪人さん「・・・それは有難いが、いいのか?」
ヤス「おう!」
斗真「へへ・・・ 異星人の友達とか今度自慢しちゃお」
怪人さん「・・・」
怪人さん「すまないな。 恩に切る」
ヤス「おうよ!」
怪人ザラはそっと目を細めた。
斗真「あ、でもヤスさん。ザラの家どうします? 一人で部屋借りるのは無理だろうし、事務所の空き部屋とか?」
ヤス「ん?そんなもん斗真の部屋に決まってんだろ?」
斗真「ふぁ?!」
ヤス「まだ人間も地球のことも分かんねぇんだし、諸々教えてやれって!」
斗真「はぁ・・・」
怪人さん「迷惑か?」
斗真「あっ、えっ、いや、」
ヤス「ほらー、捨てられた子犬みたいな声出してるぞ」
斗真は3秒だけ悩み、それを吹っ飛ばすように両頬を自分でビンタした。
斗真「あーもう、分かりましたって! いいですよ!俺が人間ってもんを教えてやりますから!」
ヤス「決まりだな。 そんなわけでお前ら今日から同棲な」
怪人さん「同棲?」
ヤス「一緒に住んでちちくり合うことだな」
怪人さん「ちちくり合うとは?」
ヤス「おっ、なんだぁそれ聞いちまうか? ちちくり合うってのはなぁ──」
斗真「あああー!もう!ヤスさんは帰って!!」
ヤス「あっはっは! そうだな、邪魔者は早々に退散するか!」
斗真「もー!」
ヤスはささっと荷物をまとめて、ひらりと帰っていった。
怪人さん「・・・斗真。 もう一度聞くが、迷惑ではないか?」
斗真「ん?ああ、大丈夫。 アンタが大変なのは分かったし。 それに一人暮らしは寂しかったりするし」
怪人さん「寂しかったり?」
斗真「・・・ん、そうだな。うまくいえないけど、誰かにそばにいてほしいような気持ち、かな」
怪人さん「ふむ、そうか。 そのくらいなら私にも出来そうだ」
斗真「うん、まぁ。 なんて言うか、その。よろしく」
怪人さん「ああ。 こちらこそよろしく頼む」
こうして、斗真と怪人の共同生活が始まることになった。
意外とシビアな始まりにびっくらぽん(古い)です。
続き、続き、続きをちょうだい♪
あー、こんな設定もあるんだと、衝撃的でした。斗真と怪人は、どうなっていくんだろうと、妄想族になりました。
怪人さんも、ヤスさん斗真も自然に打ち解けていった感じがとてもよかったです。目的が一致したときの団結心ってすごいですね。いきなりの同居は大変でしょうが、怪人さんはとても礼儀正しい感じだし、きっとうまくいく予感がします。