第2話 決裂(脚本)
〇殺風景な部屋
雲井青「これ・・・・・・日本刀ですよね?」
月澤朔也「そう・・・・・・だよね・・・・・・」
山上栄「何でこんな物を・・・・・・?」
夕波音「・・・・・・」
柿沼豪「ははは・・・・・・運営さん、俺たちに殺し合いをさせたいとか・・・・・・?」
――殺し合い。
その言葉が発せられた瞬間、その場の空気が張りつめた。
田中「我々は、別に皆様に殺し合いをさせたいわけではございません。 先程、こう申し上げたはずです」
田中「「これを実験中にどう使うかは、皆様の自由です」と――」
田中「何か、ご質問がある方は?」
会場は、しーんと静まり返ったままだった。
田中「・・・・・・では、皆様を実験を行う施設までご案内いたしますね」
こうして、朔也たちは部屋を移動させられた。
――これから何が行われるのだろう。
参加者の胸には、重い不安が芽生えていた。
〇空
月澤朔也「(もう夕方なのか・・・・・・)」
朔也たちは、さっきまでいた部屋を出て、実験が行われる施設を目指していた。
月澤朔也「(外の風が気持ちいい)」
ふと周りを見回してみると、朔也たちがさっきまでいた建物が目に入った。
二階建ての、古びた建物だった。
月澤朔也「(そしてあれが、実験を行う施設か・・・・・・)」
目の前には、塔のような形をした建物が建っていた。
白く光るその建物は、夕日に赤く染まっている。
柿沼豪「ほぇー、立派な建物だな」
山上栄「1,2,3・・・・・・5階建てだね」
雲井青「何か、灯台みたいな見た目ですね」
夕波音「・・・・・・」
田中「それでは、中にご案内致します」
〇施設の展望台
月澤朔也「(すげぇ・・・・・・広い)」
塔の中に入った朔也たちは、エレベーターに乗り、3階へと向かった。
そこには、大きな窓があるホールのような場所があった。
雲井青「綺麗な空ですね!」
月澤朔也「うん・・・・・・」
田中「それでは、この施設の説明をさせていただきますね」
田中「1階は食堂になっております。 食事の準備は我々が致しますので、朝は8時、昼は12時、夜は19時に食堂にお越し下さい」
田中「2階は男性の宿泊スペース、4階は女性の宿泊スペースとなっております。 個室がありますので、お一人一室お使い下さい」
田中「そして、ここ3階が、多目的ホールとなっております。 皆様、ご自由にお使い下さい」
田中「そして、5階ですが・・・・・・そのうち用途をご理解いただけると思いますので、ここでの説明は割愛させていただきます」
田中「この施設内には鍵が5つ隠されています。 施設の外に通じる扉は、5つの鍵全てがそろわないと開きません」
田中「扉が開き、外に出られる状態にある参加者が全員外に出た時、実験の終了となりますので、頑張って鍵を探して下さいね」
田中「それでは、皆様の幸運をお祈りしております」
そう言うと、田中は去って行った。
見た感じ、ホールは清潔で過ごしやすそうだ。
――皆が日本刀を持っていることを除けば。
雲井青「田中さん、行っちゃいましたね・・・・・・」
山上栄「あの、提案なんだけど」
山上栄「取りあえず、日本刀はここに集めて置いておくことにしない? こんな物騒なもの、個室に持ち込みたくないし」
柿沼豪「俺もさんせーい!」
雲井青「この刀、よく切れそうですもんね」
月澤朔也「(皆、常識人みたいで良かった・・・・・・)」
山上栄「・・・・・・そもそも、使うこともないでしょう。 鍵さえ見つかれば、一人二億円ずつ貰えるんだから」
夕波音「・・・・・・もし、二億円で満足出来ない人がいたら?」
月澤朔也「え?」
夕波音「田中の言ったことを思い出せ。 「外に出られる状態にある参加者が全員外に出た時」実験の終了になると言ってた」
夕波音「それはつまり、「外に出られない状況になる人もいる」ということにならないか?」
夕波の言葉は、一瞬にして場を凍り付かせた。
――外に出られない。
それは、考えたくもないことだ。
夕波音「それに、田中はこうも言ってた」
夕波音「我々が用意させていただいている報酬の総額は10億円。 それを、外に出て来られた方々に、等しく分配させていただきます」
夕波音「つまり、外に出られる人が少なければ少ないほど、外に出た人間は多くの報酬を得られるシステムというわけだ」
柿沼豪「俺は、二億円あれば、それでいいっす」
雲井青「私は、お金なんてどうでもいい」
山上栄「僕は、金欲しさに人を殺す奴が許せない」
夕波音「あなたは?」
月澤朔也「俺?」
月澤朔也「俺は・・・・・・働かないで暮らしていければそれでいいや」
柿沼豪「なーんだ! 皆、二億円貰えればそれでいいんじゃないすか!」
山上栄「やっぱり、ここは平和的にいくべきだ。 皆で協力して、鍵を探しましょう」
夕波音「・・・・・・いつまで呑気でいられるかね」
夕波音「人を殺すのは、意外と簡単だ」
月澤朔也「(夕波さんって、何か怖いな・・・・・・)」
山上栄「とにかく! ここに日本刀はまとめて置いておこう。 そして、実験が終わるまで誰も触らないように!」
こうして、朔也たちは、ホールに日本刀をまとめて置いた。
夕波音「・・・・・・これで、自衛の手段が一つ失われた」
月澤朔也「(いや、マジで怖いわ・・・・・・。関わらないようにしよう・・・・・・)」
〇古い畳部屋
日本刀をホールに置いた朔也たちは、何となく解散という形になり、各々が個室へと向かっていった。
皆、一度一人になる時間が欲しかったのだろう。
月澤朔也「(静かな部屋・・・・・・)」
朔也は、男性陣で話し合って決めた自分の部屋に入ると、溜息を吐いた。
朔也の頭の中は、色んな情報が絡み合ってしまっている。
月澤朔也「(これからどうなるんだろうな・・・・・・)」
月澤朔也「(一人になったらなったで、色々余計なことを考えちゃうもんだな・・・・・・。少し、建物の中を歩いてみるか)」
朔也は、目的もなく、建物の探索をすることに決めた。
何もしないでいるというのは落ち着かない。
せめて、今自分がいる場所について、詳しく知っておきたかった。
〇施設の展望台
月澤朔也「(取りあえず、多目的ホールを詳しく見ておくか)」
朔也は、取りあえずさっきまでいた多目的ホールを探索することにした。
視界の端に、まとめて置いた日本刀が飛び込んで来る。
朔也は気持ちが暗くなって、そっと日本刀から目を逸らした。
山上栄「月澤君・・・・・・だよね」
月澤朔也「山上さん・・・・・・? どうしてここに?」
山上栄「何だか、落ち着かなくて。 月澤君は?」
月澤朔也「俺も同じです」
山上栄「こういう時、却ってじっとしてると疲れるよね」
月澤朔也「ですよねぇ」
月澤朔也「・・・・・・って、山上さん、何書いてるんですか?」
山上は、くたびれた黒い手帳に、何やらペンを走らせていた。
山上栄「ああ、これはね、色々メモしてるんだ」
山上はそう言うと、朔也に手帳の中身を少し見せてくれた。
月澤朔也→若い男、黒髪
雲井青→若い女、茶髪
柿沼豪→若い男、金髪
夕波音→若い女、黒髪
1階→食堂
2階→宿泊スペース(男性)
3階→多目的ホール
4階→宿泊スペース(女性)
5階→不明
月澤朔也「うわぁ・・・・・・山上さんって、几帳面なんですね」
山上栄「メモを取るのが癖になっちゃってるだけだよ」
月澤朔也「それにしても・・・・・・5階に何があるのか、気になりますね・・・・・・」
山上栄「ああ、本当に気になる。 すぐにでも行きたいところだけど・・・・・・」
月澤朔也「すぐに行くんじゃ、ダメなんですか?」
山上栄「何があるのかわからないところには、出来るだけ全員で行った方が安全だ。 明日、全員がそろってる時に行こう」
月澤朔也「(慎重な人だな・・・・・・)」
朔也は山上と話しているうちに、不思議と気持ちが落ち着いてくる気がした。
山上は真面目で優しそうな雰囲気で、一緒にいると安心感を覚えた。
山上と話しているうちに、探索がどうでもよくなってしまった朔也は、個室に戻ることにした。
月澤朔也「それじゃあ、山上さん。 明日、皆で5階の探索に行きましょうね!」
山上栄「そうだね」
朔也と山上は、こうして別れた。
朔也はすぐに個室に戻り、夕食の時間までうとうとして過ごした。
その間、山上が何をしていたかは知らない。
〇古い畳部屋
「キャーァァァ!」
誰かの叫び声で、朔也の睡眠は一気に途切れた。
朔也は飛び起きると、慌てて個室を出た。
〇明るい廊下
柿沼豪「何があった・・・・・・!?」
柿沼も、部屋から飛び出して来た。
月澤朔也「俺にも、何が何だかさっぱり・・・・・・」
雲井青「誰か! 山上さんが・・・・・・」
月澤朔也「雲井さん・・・・・・? 山上さんが、どうしたの? ・・・・・・って血?」
2階に駆けこんで来た雲井の服には、べったりと血が付いていた。
――これは、ただ事ではない。
朔也の背筋に、冷たいものが流れた。
雲井青「多目的ホールで・・・・・・山上さんが・・・・・・」
柿沼豪「青ちゃん、落ち着いて!」
そうは言っても、雲井が落ち着くわけがなく、朔也は何が起きているのかわからなかった。
月澤朔也「とにかく、多目的ホールに行ってみよう」
朔也は、柿沼と雲井と一緒に、多目的ホールに向かった。
〇施設の展望台
月澤朔也「何だよ・・・・・・! これ・・・・・・」
柿沼豪「そんな・・・・・・」
多目的ホールに着くと、とんでもない光景が目の前に広がっていた。
ねっとりと広がる血だまり。
そこに横たわる、山上。
そして、その背中には、大きな刀傷。
――山上栄は、何者かに殺されていた。
夕波音「・・・・・・だから言ったのに」
山上の傍らで佇む朔也たちの背後から、夕波の声が聞こえてきた。
さっそく第一の犠牲者が出てしまってますね。内部犯か外部犯かも謎で、そもそも「実験」の具体的内容も不明のまま。今後の展開が気になりますね。