840ぶんの1

木春詩野

2.雨の歌(脚本)

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〇黒
  部外秘
  西暦二〇二〇年五月一日。
  東京都■区■■にて、「家族が昨晩から帰ってこない」と都内公立高校に通う十六歳の少年、春夏冬初穂が警察に訴えた。
  少年の証言より、彼の養父母及び、義妹が失踪したと判明。
  ■■署生活安全課■■■■警部は、事件・事故の両面を検討に入れた上で、失踪事件として取り扱うこととした。
  が、
  少年は一人暮らしをしていたことが発覚。
  少年の虚言ということで、捜査は打ち切り。それにともない、捜査資料は廃棄したことを当方で確認済。
  追記
  同署生活安全課■■■警部補は少年の証言を重く受け止め、独断でセカイ保全委員会へと連絡。
  なおこの行為は規律違反と認められ、同年六月一日付で■■■警部補は生活安全課から異動。同署総務課の配置となる。
  この通報により、委員会は七期生、八月朔茨を派遣。
  本事件をQ案件と認定。
  西暦二〇二〇年六月十日 セカイ保全員会事務局記
  同年六月十二日 検閲済

〇警察署の入口
初穂「あ、あのさ・・・じゃなくて、 あの、ですね」
茨「無理しないでください 敬語はじゃなくて大丈夫ですよ」
初穂「え、でも・・・」
茨「学年も年齢も同じです 問題ありませんよ」
茨「私のは、なんというか・・・ただの癖ですから」
初穂「じゃ、じゃあ遠慮なく」
初穂「気になってたんだけど」
初穂「セカイ保全委員会って、なに?」
茨「・・・」
初穂「あ、もしかして、聞いちゃいけないこと聞いちゃった・・・?」
茨「いえ、そういうことでは・・・」
茨「ああ、よかったです ちょうど来ました」
初穂「え」
茨「ここで説明するのは、ちょっと難しいんです」
茨「なんというか、私ではちょっとうまく説明できなくて、ですね・・・」
茨「なので、それはこれから行く場所で説明いたします」
茨「迎えが来ましたので行きましょう」
初穂「俺も!?」
茨「ええ」

〇車内
ドライバー「茨さま、遅くなりました」
茨「いや、ちょうど良かったよ ありがとう」
ドライバー「で、その、そちらの方が・・・」
茨「ああ、彼だ」
  その会話の真相はわからない。
  ついでにドライバーはサングラスをしていて、視線が向いている先もわからない。
  だから、とりあえず──
初穂「春夏冬初穂っす」
ドライバー「かしこまりました、初穂さま」
初穂「え、さま付け・・・」
茨「はは、少し驚きますよね」
初穂「う、うん 病院の待合室でくらいしか、さま付けで呼ばれたことないから」
ドライバー「茨さま」
茨「・・・ああ、わかった」
茨「・・・これからお連れするのは、セカイ保全委員会の本部になります」
初穂「俺を、だよな?」
茨「ええ、初穂さんをお連れする先です」
茨「・・・」
茨「もちろん、無理に、というわけではありません。今から引き返していただいても構いません」
茨「どう、されますか」
  俺は高級そうな革張りのシートの下で、ぎゅっとこぶしを握り締めた。
初穂「──連れていってほしい」
初穂「俺、バカだからさ 全部を理解できるかはわからないんだけど」
初穂「でも、きっとそのなんちゃら委員会っていうのが、みんながいなくなったことを説明してくれるんだよな」
茨「ええ」
初穂「それなら」
初穂「──連れていってほしい」
茨「・・・」
茨「わかりました」
初穂「あ、でもさ、ひとつお願いがあるんだ」
茨「私に叶えられるものであれば、何なりと」
初穂「そんな大したことじゃないよ」
初穂「ただ、俺のことは呼び捨てにしてほしい」
初穂「初穂、って呼んでくれ」
茨「・・・!!」
茨「はい、わかりました」
茨「では、初穂と。 ・・・私のことも、茨とお呼びください」
初穂「おう、茨な」

〇車内
ドライバー「では、発車します」

〇入場ゲート

〇施設内の道

〇ビルの地下通路
初穂「ここが・・・」
茨「ええ、私たちが所属する「セカイ保全委員会」の本部になります」
茨「正確には東京本部というかたちですが」
初穂「東京・・・? ってことは、他にもあるのか?」
茨「日本でしたら、あとは大阪に。 そこは大阪本部という名前になります」
茨「ほかの国でも名前は少しずつ違うでしょうが、同じ活動をしている団体があります」
初穂「へぇ」
茨「初穂、こちらです」
茨「この部屋で先生がお待ちです」
  ごくり、と唾をのんだ。

〇小さい会議室
  扉を開けると、そこは殺風景な会議室だった。
和邇「やあ、いらっしゃい 君が春夏冬初穂くんだね」
  そしてそこには、スーツを着崩した男性がいた。
  彼が「先生」だろう。
初穂「あ、はいっす あ、春夏冬初穂っす」
和邇「あははー そんなに緊張しなくたって大丈夫だよ」
和邇「オレは和邇虎太朗(わにこたろう)」
和邇「虎に太いに朗らかって書いて、こたろうだ」
和邇「ワニなのかトラなのかよくわからないだろうけど、気楽にニコちゃんとでも呼んでくれ」
和邇「よろしくね、はっつん」
初穂「え、ニコちゃん!? はっつん!?」
和邇「はははは 君、面白いね。リアクションが最高だよ!!」
茨「先生」
和邇「ああ、バーラー、お疲れだったね」
茨「いえ、それよりも初穂で遊びすぎですよ」
和邇「お、バーラーが呼び捨てなんて珍しいね」
初穂「え、今度はバーラー!?」
茨「先生の癖なんですよ」
初穂「あだ名で呼ぶのが・・・?」
茨「ええ ちなみに、先生のことをニコちゃんと呼んでいる人は誰もいませんよ」
和邇「ちょっと、バーラー!! いくらなんでも、ネタバレが早すぎない!?」
茨「というより、このままでは何日かかっても説明が進まないでしょう」
和邇「ま、それもそっか」
和邇「さて」
和邇「じゃあ、説明を始めようか」
和邇「この「セカイ」の仕組みについて」

コメント

  • 衝撃的な事象が起こった第一話から続いて、真相と繋がりのありそうな「セカイ保全委員会」に微かに光が当たった第二話ですね。次話でこの説明が行われるのか、楽しみです。

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