いつかの夏の、ちょっとした出来事

夕顔

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〇実家の居間
  ──ピューーーーー!!
  昔ながらのヤカンが、沸騰を知らせる。
佳澄「よいしょっと・・・」
  重い腰を上げて、コンロの火を止めにいく。
  布越しに蓋を取り、引出しから麦茶を取り出して熱々のヤカンにそれを放り込み、先ほどの定位置に戻った。
「にーちゃーん!カスミにいちゃーん!」
佳澄(今座ったところなのに・・・ 放っておけば帰るだろうか)
「にーちゃーん!いるんでしょー! スイカ持ってきたー!」
佳澄「はぁ・・・」
  そんな重たいものを持たせたまま
  この暑い中帰らせるのも心が痛むので、仕方がないから玄関に向かう。
佳澄「アキラ、おはよう」
明良「やっぱり居た! 居留守使おうとしたでしょー? それに、『おはよう』じゃなくて『こんにちは』! もうお昼だよ?」
佳澄「いいんだよ、起きた時間におはようで」
明良「ダメな大人ー!」
佳澄「それよりスイカ」
明良「カスミにいちゃん、本当にスイカ好きだよねえ」
佳澄「ちげぇよ。重たいのずっと持ってて大変だろ」
明良「はいはい、そう言うことにしておいてあげる」
佳澄「本当生意気なちんちくりんだな」
明良「ちんちくりんっていうなー!」
佳澄「ちんちくりんはちんちくりんだろ」
明良「昼過ぎまで寝てるダメな大人に言われたくないですぅ」
佳澄「はいはい。 それで?上がってくんだろ?」
明良「うん!おっ邪魔しまーす!」

〇実家の居間
佳澄「ほい、麦茶。 冷えてるのこれで終わりだからお代わりは熱いのしかないぞ」
明良「いただきまーす!夏はやっぱり麦茶だよねー」
佳澄「お前ジュースより麦茶のが好きだもんな」
明良「うん! ジュースは喉乾くからあんまりかなー」
佳澄「ガキらしくねー」
明良「ウチだってもう小4だよ?大人だもん」
佳澄「そう言うところはガキだな」
明良「なんだとー!」
佳澄「すぐ怒るとこもガキ」
明良「うぐっ・・・ ふん!立派なレディになって、 カスミにいちゃんをぎゃふんと言わせてやるんだから!」
佳澄「おーおーそれは楽しみなこって」
明良「好きになっても相手してあげないんだからね!」
佳澄「天地がひっくり返ってもねーよ」
明良「失礼なっ!!」
佳澄「15も離れてるんだぞ? 手出したら俺が捕まるんだよ」
明良「16歳になれば結婚できるんでしょ?」
佳澄「結婚はできても手が・・・ あー、なんでもねぇ」
明良「なに?」
佳澄「・・・スイカでも食うか、切ってくる」
明良「なんだよー!気になるー!」
佳澄「お前がもう少し大人になったらな」
明良「むー!大人だってばー!!」

〇実家の居間
佳澄「それで?今日は何の用事で来たんだ?」
明良「あ、そうそう!忘れてた!」
明良「学校でね、猫が迷い込んじゃって里親探してるんだ! カスミにいちゃん、一人暮らしだし飼えないかな?」
佳澄「猫ねぇ」
明良「猫嫌いだっけ?」
佳澄「いや、好き嫌い以前に関わったことがねぇな」
明良「この辺、野良猫多いのに?」
佳澄「昔から動物に好かれなくて寄り付かねーのよ」
明良「ふぅん・・・じゃあダメかぁ・・・」
佳澄「・・・今その猫はどこに居るんだ?」
明良「ウチんちにいるよー。 すっごい可愛いんだけど、お祖母ちゃんがアレルギーだから飼えなくて」
佳澄「そうか・・・ じゃあ今日アキラ送る時に会ってみるかな」
明良「本当!?」
佳澄「まだ飼えるかはわかんねーぞ」
明良「うん! でもカスミにいちゃんが興味持ってくれて嬉しい!」
佳澄「・・・怖がられなきゃいいんだけど」
明良「きっと大丈夫だよ!人懐っこくて可愛いし!」
明良「あ・・・でもお金とかいっぱいかかっちゃう・・・」
佳澄「そこは何とかなるだろ。 一応売れっ子脚本家だぞ?」
明良「にいちゃんって、ダメな大人なのに仕事だけは凄いよね」
佳澄「うるせぇ」
明良「学校でもね、今やってる『カレンジャー』すっごい人気なんだよ!」
佳澄「お、そうなのか」
明良「レッドが天然で、皆に振り回されてるのが可愛いって友達と話してたんだー!」
佳澄「戦隊物なのに花がモチーフってところがミソなんだよ」
佳澄「まあ、従来の戦隊物に比べてアクションが少ないから男の子向けでは無くなったけどなぁ・・・」
明良「男の子たちもコントみたいで面白いって言ってたよ?」
佳澄「そうか・・・ 現役小学生にウケてるなら良し、かな」
明良「ウチはねー、効果音をレッドが口で言っちゃってるのが面白かったなー」
佳澄「あそこな、予算が本当に無かったんだよ」
明良「え?!そうなの?!」
佳澄「これ内緒な」
明良「えへへ・・・ うん!内緒!」

〇実家の居間
佳澄「さて、そろそろ帰れ。送ってくから」
明良「えー・・・もうそんな時間?」
佳澄「俺に猫、会わせてくれるんだろ?」
明良「そうだった!早く帰ろ!」
佳澄「はいはい、先に靴はいとけ」
明良「はーい!」
佳澄「あ、そういえば」
明良「ん?なにー?」
佳澄「今日のピンクの服、似合ってるぞ」
明良「!!」
明良「・・・えへへ、ありがと!」
  にいちゃんは、いつも言えない所に気が付いてくれる。
  そんなカスミにいちゃんを大好きなのは、内緒!

コメント

  • のどかな風景と空気を感じさせてくれる作品でした。
    田舎の感覚って、なんだか和みます。
    あきらちゃんのほのかな恋心がかわいかったです。
    幼くてもちゃんと見てるんですよね。

  • のどかな田舎の風景に夏の風物詩が加わり、セミの鳴き声まで想像しながら読みました。いいですねえ、彼女くらい年齢で、こういう優しいお兄ちゃんに好意を抱くこと大人へ少し近づいた気持ちにさせられますね。彼女が大人になった時、きっと良い思い出として残っているでしょうね。

  • なんだか、じんわりくるイイ話でした。こういう話好きです。

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