入れ替わりアフター

憑五郎

エピソード2『偽りの親友』(脚本)

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〇教室
  彼女との出会いは入学式後に教室に入って行われたオリエンテーションだった──
  学校生活における注意事項について書かれた大量のプリントが配られる。携帯の持ち込みは禁止なのか・・・
  携帯が使えれば僕と入れ替わってる彩華莉ちゃんと連絡が取れるのに・・・
  身だしなみに関する規定も多くて、本当に伝統あるミッション系の女子校って感じがした。
  周りを見渡すと、女子校だから当たり前だが、教室にいる生徒は全員女子だ。
  本当は僕は高校生でもなければ女子でもない、彼女達とは年齢が一回り違うおっさんなのに・・・
???「あの・・・」
島垣 彩華莉「わぁ!?」
  僕が困惑していると、隣の席の女子が話し掛けてきた。
桂川 静保「はじめまして、桂川 静保と申します」
島垣 彩華莉「は、はじめまして、僕・・・じゃなくて私は島垣 彩華莉です」
  2時間前に覚えたばかりの自分の名前を言う。
  それにしてもすごくきれいな子だなぁ。目鼻がパッチリしていて、長いサラサラした髪も上品で美しい・・・
  いけない、いけない、男の目で見てしまった・・・
  目をそらすと、彼女の筆箱についてるキーホルダーが目に入った。
島垣 彩華莉「あれ?それってもしかしてファンシーパティシエールのキャラ?」
桂川 静保「ファンシーパティシエール知ってるの!?」
  ファンシーパティシエールとは、魔法界から来た妖精と共に、主人公の女の子が一流のパティシエを目指して奮闘するアニメだ。
  女の子向けアニメだけど、キャラがかわいくて観てたんだよなぁ♪
島垣 彩華莉「うん、中学の頃にリアルタイムで観てたよ♪」
桂川 静保「え・・・リアルタイム?」
  あ、そうか。この子達にとっては生まれる前のアニメになるのか・・・
島垣 彩華莉「あ、えっと、再放送だったかな」
桂川 静保「すご~い!! 私の大好きなアニメなの!でも、昔のアニメだから知ってる人いなくて!知ってる人に会ったの初めてだよ!!」
  たしかにマイナーなアニメだから知っている人がいないのも無理ないかも・・・
桂川 静保「ねぇ、"彩華莉ちゃん"って呼んでいい? 私のことも"静保"って呼んでいいから♪」
島垣 彩華莉「う、うん、いいよ♪」
  こうして僕らは世代と性別を超えた友達になった──

〇通学路
  学校から解放された僕は急いで僕と入れ替わってしまった彩華莉ちゃんと連絡を取り、合流した。
  僕らは元に戻ろうと、入れ替わってしまった場所で何度もぶつかってみたが、結局ダメだった・・・
小住 悠司「ごめんね、おじさん・・・ 私のせいで・・・」
島垣 彩華莉「いいよ。それより今後のことについて考えよう」
  とりあえず僕らは元に戻る方法が見つかるまで、お互いになりすまして生活することにした。
  そのために、毎晩メールで今日起きたことを報告し合い、情報交換することにした。

〇更衣室
  それから僕と静保ちゃんは日に日に仲良くなった。
  静保ちゃんは『赤毛のアン』や『若草物語』が好きで、今時こんな純真な子がいるのかと驚いた。
  あと、アンティークな雑貨やお菓子作りが好きで、将来はパティシエになりたいと言っていた。
  僕も読書好きだし、内向的で、どこか僕らは波長が合った。次第に僕らは一緒に過ごす時間が多くなった。
  それは初めての体育の授業の日だった──
桂川 静保「どうしたの彩華莉ちゃん? 早く着替えないと授業始まっちゃうよ」
島垣 彩華莉「あ、うん、えっと・・・」
  僕は図らずも彼女の着替えを見てしまった。彼女の肢体は白く透き通っていて、思わず見とれてしまった・・・
桂川 静保「どうしたの? 顔が真っ赤だけど、どこか具合でも悪いの?」
島垣 彩華莉「あ、ううん、なんでもない!なんでもない!」
島垣 彩華莉「早く着替えなきゃね♪」

〇グラウンドのトラック
桂川 静保「彩華莉ちゃん、一緒に走ろ♪」
島垣 彩華莉「う、うん♪」
  静保ちゃんと仲良くなればなるほど、僕は罪悪感を覚えた。本当の僕はおっさんなのに・・・
  まるで女装して静保ちゃんを騙しているような気分だ。
  さらに言えば、本来の彩華莉ちゃんの性格だと静保ちゃんとここまで親しくなれなかっただろう。
  つまり僕は彩華莉ちゃんと静保ちゃん、二人の人生を歪めていることになる。
  慣れとは恐ろしいもので、最初は入るのに緊張していた女子トイレや女子更衣室も、一ヵ月経つ頃には何とも思わなくなった。
  僕になった彩華莉ちゃんも、持ち前のギャルのコミュ力(?)を発揮して、下手したら僕よりもサラリーマン生活に適応していた。

〇アパートの台所
島垣 彩華莉「アハハッ、サラリーマン生活懐かしい~♪」
島垣 彩華莉「上司にキャバクラに連れて行ってもらった時は楽しかったなぁ♪」
小住 悠司「おっさんか・・・」
小住 悠司「ところで、ファンシーパティシエールってアニメ知ってる?」
島垣 彩華莉「なにそれ?」
小住 悠司「だよねー」
島垣 彩華莉「そういえば一回入れ替わってる時に昼に街で会ったことあるよね」
小住 悠司「そういえばそんなことあったなぁ・・・」

〇住宅街の公園
  それは僕が2年生の時の課外授業だった。2人一組になり、街の史跡を巡り、レポートを完成させるという授業だった。
  僕が静保ちゃんと一緒に街を回っていると、仕事を抜け出してサボっている彩華莉ちゃんと出くわした。
小住 悠司(あっ!おじさん!)
島垣 彩華莉(あっ!彩華莉ちゃん!)
桂川 静保「彩華莉ちゃんのお知り合い?」
島垣 彩華莉「う、うん。親戚のおじさんなの♪ ごきげんよう叔父様♪」
小住 悠司「二人ともかわいいねぇ♡ デートかな?」
島垣 彩華莉「はあっ!?」
桂川 静保「ウフフ♪おもしろい叔父様ね♪」
島垣 彩華莉「そ、そうでしょ♪ 普段はまともなんだけど、二日酔いになるとこうなっちゃうの♪」
  本当は僕がおじさんで、おじさんの中身が本物の彩華莉ちゃんなんだけどね・・・
小住 悠司「(小声で)あたし酔ってないんだけど?」
島垣 彩華莉「(小声で)酔ってることにしてくれ! これ以上僕の印象を下げないでくれ!」

〇空
  入れ替わって二年経つ頃には、僕は女子校生活に、彩華莉ちゃんはサラリーマン生活にすっかり適応していた。
  同時にうっすらと、もう一生元には戻れないのではないかと思い始めていた──

次のエピソード:エピソード3『運命の再会』

コメント

  • 2人の環境適応能力が高すぎて驚きです!
    それにしても着替えシーンが、、、元が男性だと緊張したりイロイロあったりしますよねw

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