格安の宿(スチルが怖いのでご注意ください)(脚本)
〇黒
これは、私がまだ一人旅を趣味としていた頃の話です。
ある夏の日に、私はK市の山奥の温泉を訪れました。
宿泊先は小さな民宿でした。
当時社会人1年目だった私には金銭的な余裕がなく、1泊3000円という格安の宿を選んだのです。
〇林道
その民宿は、周囲の建物からも離れた山奥にありました。
私「あれ? 道に迷ったかな」
電波も通じない山奥なので、紙の地図だけが頼りです。
私「この辺かな・・・?」
〇寂れた旅館
私「あ、あった」
私(格安だから心配してたけど、なかなか趣があるじゃない)
私「こんにちは。予約していた田中です」
女将「お待ちしておりました。中へどうぞ」
〇古めかしい和室
私「わぁ、雰囲気あるなぁ」
私「まるで田舎のおじいちゃんの家みたいですね」
私「私、こういうところに泊まりたかったんです」
女将「それはようございました」
女将「どうぞごゆるりと。 本日のお客様は田中様お一人ですよ」
私「貸し切りですか!? ラッキーですね」
女将「お風呂はご自由にお入りください。 お食事は7時にお持ちします」
私「あれ? 食事なしの素泊まりプランで予約したはずなんですけど」
女将「あら、そうでしたね。では、お食事はサービスさせていただきます」
女将「私としても、久しぶりにお客様がいらして、とても嬉しいのですよ」
このとき、おかしいと思うべきでした。
3000円で温泉に食事までつく民宿など、経営が成り立つわけがありません。
しかし、予算に余裕がなかった私は、その好意を疑いもせずに受け取ってしまったのです。
私「じゃあ、お言葉に甘えます!」
〇露天風呂
私「んんー! 温泉気持ちいいー!」
〇古めかしい和室
女将「お食事のご用意ができました」
私「・・・ん?」
一見おいしそうな食事なのですが、かすかに生臭いにおいが漂ってきます。
女将「どうかなさいましたか?」
私「い、いえ。いただきます」
しかし、ご馳走になっているのですから、文句を言える立場ではありません。
私はできるだけにおいを気にしないようにして、食事を平らげました。
〇古めかしい和室
日中、観光地を歩き回っていたせいか、すぐに眠気に襲われました。
私(早いけど、寝ようかな)
〇古めかしい和室
私「・・・・・・」
私「うーん・・・」
何かをこするような音が聞こえて、目が覚めました。
私「時間は・・・」
私「・・・2時か」
中途半端な時間に目覚めてしまったものです。
それから音が気になって眠れなくなった私は、静かに布団を抜け出しました。
〇古いアパートの廊下
私(女将さん、まだ起きてるのかな?)
廊下に出て様子をうかがうと、厨房の方から人の気配がします。
私(朝食の仕込み? 私しかお客さんがいないのに、申し訳ないな)
私(もう休んでくださいって言いに行こう)
私(・・・あれ? 音がするのに、電気がついていない)
私は真っ暗な厨房を覗き込みました。
今度ははっきりと、生臭いにおいが鼻を突きました。
私「あ、あ・・・」
そして、私は見てしまったのです。その厨房にあったものを──
〇広い玄関(絵画無し)
私は必死で逃げました。
私「開かない!?」
私「誰か、開けて! 助けて!」
〇古いアパートの廊下
私「嫌だ。お願い、来ないで!」
私「どこか、出口は!?」
私「ああああああ!!」
〇黒
〇林道
私は窓ガラスを破り、無我夢中で外に飛び出しました。
荷物はすべて置き去りで、かろうじて右手にスマートフォンを握りしめているだけです。
私「はぁ、はぁ」
私(・・・もう、追ってきてないよね?)
私(どこか、夜を明かせるところに──)
〇黒
〇黒
〇黒
〇林道
気がつくと、私は道の脇の茂みに横たわっていました。
私「・・・・・・」
それは、予約していた民宿からのメールでした。
この度は予約を無断でキャンセルされたため、
キャンセル料のお支払いを要求します
私「キャンセル? じゃあ、私が泊まったあの民宿は──」
なお、今回の件につきまして
真偽不明の噂を流す行為は違法であり、
そのような書き込みをされた場合には──
私「・・・・・・」
それ以上、メールを読む気にはなれませんでした。
〇黒
あの夜、私が見たものは何だったのでしょう。
あれからいくらか調べてみましたが、あの民宿はどこにも存在しないようなのです。
もしあのとき目を覚まさなければ、私はいったいどうなっていたのでしょうか。
鳥肌が立ちました。ほんっとに怖い。だけど何度でも読みたくなる中毒性。スチル、効果音、そして作者様の語彙力。さまざまな要素で何度でも読みたくなる作品を構成していてすごい!参考にしたくなる作品です。
スチル怖いですねー! 環境音も、ここまで怖くなるとは!!
イヤホンして読んでて、マジで途中ビビりました。スチル怖かったです。