あなたが殺してくれたから

夕顔

読切(脚本)

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〇シックなバー
愛「ねえ、私と──」
愛「死んでくれない?」
  ── あなたが殺してくれたから ──
十夜「え?」
愛「ごめん、ビックリするよね」
愛「あのね、好きな小説でそんなシーンがあるの」
十夜「ああ、なんだ。小説の話ね」
愛「年の離れた男女が心中を図るんだけど、 結局死ねなくてね」
愛「その小説では女性が年上なんだけど。 私たちと逆で」
十夜「ふぅん それで、急になんで小説の話?」
愛「小説の話がしたかったっていうか、心中の話」
十夜「心中の話・・・ねぇ」
愛「前さ、死ぬならどんなシチュエーションがいいかって話したじゃん?」
十夜「ああ、うん。したね」
愛「トウヤは孤独死は嫌だって言ってたでしょ?」
十夜「そう言えばそんなこと言ったね」
愛「私もあの後考えたんだけど、 確かに孤独死は嫌だなって、思ったんだ」
十夜「うん。それで?」
愛「好きな人と、死にたいなって」
十夜「それは、旦那さん?」
愛「それがさ、よく考えたんだけど 旦那は家族愛だなぁって」
十夜「家族愛?」
愛「そ、恋愛感情じゃないなって」
十夜「それってどうなの?」
愛「確かに愛してはいるんだけど、この人と死にたくはないなって思っちゃったんだよね」
十夜「結婚するとそうなっちゃうのかねぇ」
愛「よく言うよね、恋人じゃなくて家族になるって」
愛「本当にそうだった。 セックスも、キスも、恋人だった頃みたいに出来なくて。断られちゃってさ」
十夜「例に漏れず、ってこと」
愛「うん、そうだったみたい」
十夜「それで? アイは誰と死にたいって思ったの?」
愛「トウヤ」
十夜「俺?」
愛「うん」
十夜「なんで俺なの? そんな関係になったこと無いのに」
愛「トウヤはね、手が届かない気がするの」
十夜「手が届かない?」
愛「何て言うか、私なんかが触れちゃいけないような・・・憧れ、みたいな」
十夜「憧れ、ねぇ・・・ アイからそんな感情向けられたことない気がするんだけど?」
愛「トウヤは皆のモノで、誰かに縛られちゃいけないって言うか・・・伝えるの難しいな」
十夜「学園のアイドル的な?」
愛「そうそう!それ!」
十夜「自分で言ってて恥ずかしいんだけど」
愛「あはは、でもね、ホントそんな感じ」
十夜「顔が良いわけでも、カリスマ性があるわけでもないと思うんですが」
愛「トウヤって、本当に自信ないよね 愛されてるのに」
十夜「俺の場合、愛されてるって訳じゃないと思うけどね」
愛「じゃあどんな感じ?」
十夜「俺の持ってる人脈とか、仕事とか そう言うのに人が集まってる感じ」
愛「それはトウヤが持ってるものなら、トウヤの力じゃないの?」
十夜「俺自身が求められてる訳じゃ ないから・・・かな 褒めて欲しいし認められたい」
愛「トウヤは寂しがり屋だね、あと欲張り」
十夜「アイに言われたくはないけどね」
愛「あはは ・・・ねえ、結局さ」
十夜「ん?」
愛「私と死んでくれる?くれない?」
十夜「・・・それ、小説の話じゃなかったの?」
愛「言ったじゃん、心中の話だって」
十夜「・・・ああ、そういう事ね ・・・本気で言ってるわけ?」
愛「結構本気」
十夜「俺は誰のモノにもなっちゃいけないんじゃなかったの?」
愛「私も欲張りだって、知ってるでしょ」
十夜「そうでした。・・・心中ねえ」
愛「あ、変な奴だって思ってるでしょ」
十夜「それは別に思ってないよ、ただ俺なりに考えてるだけ」
愛「考えて、くれるんだ・・・」
十夜「そりゃあね。 本気なんだろうなって思ったし、 人が真面目に話してくれてるのに、 茶化すのは違うでしょ」
愛「・・・うん、やっぱりそういうとこ」
十夜「何?」
愛「嫌いじゃないなって」
十夜「好き、じゃないんだ?」
愛「一応まだ人妻なもんで」
十夜「それなのに一緒に死のうは言ってくれちゃうのね」
愛「あはは、確かに」
十夜「・・・アイさえ良いなら俺は構わないよ」
愛「え?」
十夜「一緒に死んでも」
愛「・・・まさか承諾して貰えるとは」
十夜「本気だったんでしょ?」
愛「本気は本気だけど、玉砕覚悟だったもので」
十夜「アイらしいね、自分に自信がないんだ」
愛「お互い様でしょ、トウヤには言われたくない」
十夜「うん、お互い様」
愛「・・・OK貰えなかったら、一人で死のうと思ってた」
十夜「そうかなあって思ってたよ。 ・・・アイはなんで死にたいの?」
愛「わかんない、けど、生きたいと思った時に死ぬのは嫌だなって」
十夜「あー、それはなんかわかるかも。 死に際くらい自分で選びたいよな」
愛「私はそれが最近ずっと続いてて」
十夜「うん」
愛「・・・実はね、離婚届と指輪、置いてきたんだ」
十夜「それは旦那さん驚くだろうね」
愛「自分勝手に死を選ぶのに、あの人と同じ墓には入れないなって」
十夜「俺は巻き込んでも良いんだ?」
愛「・・・巻き込んで、いいのかな」
十夜「アイが、そうしたいと思ったんでしょ?」
愛「わかんない・・・ でも、死ぬならトウヤと一緒がいいなって」
十夜「ねえアイ、海行こっか」
愛「え?」
十夜「この時間からだったらタクシーかな。 手配するからこれ飲んだら行こう」
愛「え、なんで海?真っ暗だよ?」
十夜「夜の海、嫌い?」
愛「いや、好きだけど・・・」
十夜「でしょ? じゃあ行こう」

〇海辺
愛「・・・寒い、ね」
十夜「この時期だから余計にね」
愛「・・・それで、なんで海?」
十夜「死に場所、二人が好きな場所が良いかなって」
愛「・・・トウヤは、何も準備しなくて良いの?」
十夜「うん。 普段からやりたい事も全部やってるからね」
愛「そっか・・・」
十夜「アイが死にたいって気持ちが いつまで続くかも分かんないでしょ?」
愛「・・・でも」
十夜「じゃあ行こっか」
  手を取られ、海へと砂浜を歩いていく
愛「トウヤ、なんか変」
十夜「そう?俺はアイの願いを叶えたいだけだよ」
愛「最後に優しくするのってズルいと思う」
十夜「俺はいつだって優しいよ」
愛「・・・よく言う」
十夜「ずっとね、アイの事好きだなって思ってたんだ」
愛「え?」
十夜「でも人妻だしね。 この気持ちは仕舞っておこうって思ってた」
愛「・・・」
十夜「そしたらアイの方から心中しよう、なんて提案でさ。正直嬉しかった」
  その声を聞きながら
  太ももまで海に浸かった足は、冷たくなっていった
十夜「さっき俺の事憧れだなんて言ってたけど、アイこそ俺の憧れだったんだよ」
  服に染み込んでくる海水が温度を奪っていくはずなのに
  トウヤの言葉が、じわじわと暖かく心に染みた
十夜「でもね」
  トウヤは真っ直ぐこちらを見て
十夜「これは恋じゃない、お互いに」
  私にそう、微笑みかけた
十夜「アイだって本当は気付いてるんでしょ?」
十夜「ここで抱き締めても、キスをしても、俺達の心の隙間は埋まらないんだ。 お互い求められたいだけ、寂しかっただけ」
十夜「不完全な二人が惹かれ合うのは、都合が良かったからなんだよ」
愛「・・・なんで」
十夜「俺達は、物語の登場人物にはなれない」
愛「そんな気持ちで、言ったんじゃない」
十夜「アイ、そんなんで隙間を埋めようとしちゃいけない」
愛「違う」
十夜「こっちを見て、ちゃんと俺の目を見てごらん」
愛「・・・」
十夜「君が愛してるのは、間違いなく旦那さんなんだよ。 俺にその代わりはできない」
愛「じゃあ、どうしてここまで連れてきたの」
十夜「アイの願いを叶えるため」
愛「トウヤは結局私の事なんてっ!!」
十夜「わかってるよ」
愛「っ!! それなら!!」
十夜「だから、この気持ちを終わらせてあげよう?」
  腰まで感覚がない程に冷えて、そこで足を止めた
十夜「ここで死ぬのは、空っぽな俺達だ。 隙間を埋めるのは、お互いじゃない」
愛「トウヤ、私は」
十夜「アイ、大好きだよ」
愛「・・・うん」
  トウヤは、変わらず笑顔で諭してくる。
  でも、好きだと言ったその口は
  寒さでか震えていた。涙がこぼれた。
愛「トウヤは、やっぱり優しくない いつも正しいことばかり言うんだもん」
十夜「ごめんね、でも俺はいつだってアイに笑っていてほしい」
愛「ごめんねトウヤ、私バカだった」
十夜「うん。知ってる」
愛「失礼・・・」
十夜「ごめんごめん」
愛「・・・でもね、変わらず寂しいし、認めて貰いたい。私は一人で居たくない」
十夜「うん」
愛「求められていたい、愛されたい」
愛「あはは、口に出すと本当に欲張りだ」
十夜「そんなアイだから、生きていてほしいと思うんだよ」
愛「・・・うん、ごめん」
十夜「ねえ、アイ」
愛「何?」
十夜「幸せになってね、俺のお願い」
愛「・・・善処する」
十夜「あはは 叶えてはくれないんだ?」
愛「幸せって、難しいもん」
十夜「そうだね、難しい」
愛「ねえ、トウヤの幸せって何?」
十夜「アイが幸せになること」
愛「お父さんみたいな事言うね」
十夜「せめてお兄ちゃんにしてよ」
愛「・・・私、頑張るね」
十夜「うん。ありがとう、アイ」
十夜「さ、そろそろ本当に凍死しちゃうから戻ろうか」
  ずっと繋いでいたトウヤの手は冷えきっていた。
  私の手も感覚が無くなりかけていたから、お互い様なのだろう。
愛「ねえ、トウヤ」
十夜「ん?」
愛「私も大好きだよ、恋じゃないけど」
十夜「うん、知ってる」
  ──あの頃の私はもう姿をみせない
    あなたが殺してくれたから

コメント

  • アイさんは愛されたくて、満たされたくて、たまらないんだなぁと思いました。
    本当は旦那さんにそれを満たして欲しいのかな?と。
    結婚って形でそれが実っても、まだ欲しい、出来れば言葉に出して欲しい、ってのいうのが女心ですよね。

  • 幸せとは、愛とは、家族とは、夫婦とは、生きるとは、皆考えるも明確な答えが出ない難しいテーマに向き合った野心的な作品に感じました。軽口のアイの発言内容に、彼女が深く思い悩んだ跡が見られ、私自身も知らずに見解を求められているようでした。

  • 人生に困惑する人、奇しくも自殺に追い込まれる人、アイちゃんのように最後の最後にこうして自分の葛藤をおもいっきりぶつけられる存在がいればいいのにと思いました。私は晩婚で結婚生活10年ほどですが、燃え上がっていた時期が懐かしくもあり、主人を家族のように感じることへ喜びも覚えています。タイトルがとても好きです。殺すという言葉がいきています。

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