あやまちかざし

まて井

罪、滅ぼし(脚本)

あやまちかざし

まて井

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〇黒背景
  僕は放り出された
  伸びた影から
  意識の中から
  膨大に広がる闇から
  引きちぎられたのだ。

〇草原
???「・・・」
???「僕は・・誰だ?」
クルミ「化物じゃないのか?」
???「うわあ!誰だお前!」
クルミ「おっと失礼、」
クルミ「私は来未信乃(くるみしなの)」
クルミ「あの正義の体現者と名高いあの、あの私だ!」
???「は、はぁ・・」
クルミ「ふふっ、そういうことじゃないよね」
クルミ「私がここにいるのは、ここに何もないから」
???「?」
クルミ「この辺ね、ある日突然建物も人も消えちゃったんだ」
クルミ「しかもここに何があったかについては覚えてなくて」
クルミ「でもなんとなく忘れちゃいけないことのような気がして」
クルミ「ここにいてみたわけよ」
クルミ「そしたら、厨二病の化物がこんなところで かっこつけて──」
???「ない!厨二病でもない!」
???「僕は・・」
???「わからない、自分が誰なのか」
???「少し前に意識が生まれて」
???「記憶が全く無くて」
???「知識だけで自分が成り立っているような、」
???「そんな感じだ・・です」
クルミ「そっか」
クルミ「いいよ敬語は使わなくて、なんか変だし」
クルミ「なら、今から君はどうするんだ?」
???「僕は・・」
  突然、学校の鐘の音が響いた

〇学校の校舎
???「うわあ!なんだこれ!?」
クルミ「学校じゃないのか?」
???「いやそうなんだけど!」
???「いきなり現れた!目の前に!」
クルミ「確かに、それは不思議だよね」
クルミ「よし、行ってみようか一緒に」
???「ああ、そうだな──」
???「って行くわけないだろ!」
クルミ「いやぁだっていきなり現れたんだよ?」
???「だからいきなり現れたんだよ!?」
クルミ「なら行くしかないだろ」
???「なんで!?」
???「何があるかわからないし──」
クルミ「だから何があるかわからないんだろう?」
クルミ「行くしかないんだって!」
???「だからなんで!?」
クルミ「私はここに何があったのかを知りたくて来た」
クルミ「それが学校だというなら、この学校は私にとって重要な何かかもしれない」
???「だからって僕も行く必要は・・」
クルミ「君が現れてすぐ学校も現れたんだ」
クルミ「君が誰かというのも学校が関わっているのかもしれない」
???「学校が僕にとっても重要な何かかもしれないってこと?」
クルミ「うん、あくまで推測だけどね」
クルミ「それに君はこれからどうするか特に決まってないんだろ?」
クルミ「なら悪い話じゃないはずだ」
???「でも──」
クルミ「知りたいんだろ?なら前に進んでみてもいいんじゃないか?」
クルミ「さあ行こ行こー!」
???「おいちょっと待てってー!」

〇まっすぐの廊下
クルミ「侵入成功!」
クルミ「窓が開いてて良かったね!」
???「ねっ!じゃないわ!」
???「幽霊とか出てきたらどうするんだよ!」
クルミ「大丈夫だってぇ〜」
クルミ「いざとなったら君がその手に持ってる物騒なやつでどうにかすればいいだろ?」
???「幽霊は斬れないでしょうが!」
クルミ「君それ本気で言ってたのか・・」
クルミ「?」
クルミ「ねぇ、あれはなんだろう?」
???「?」
???「・・・」
クルミ「うわぁっ!」
???「くっ、いきなりなにするんだ!」
???「・・・」
???(くそっ!こいつらって斬れるのか!?)
???(でももうやってみるしかない・・!)
???「ええい!」
???「斬れた・・いや、吸収したのか?」
???「はっ、お前大丈夫か!?」
クルミ「うん、なんとかギリギリかわせたみたい」
???「そうか、良かっ──うっ・・」

〇高い屋上
  ・・・
  ここは・・屋上?
  あいつは──
???「さようなら、みんな」
  何してるんだ!
  そこから落ちたら死ぬぞ!

〇まっすぐの廊下
???「・・はっ、待って!」
クルミ「君!大丈夫か!」
???「え、あ、僕は・・」
クルミ「気を失っていたんだ」
???「そうか僕は──」
???「この学校は危険だ!早く逃げないと!」
クルミ「・・・」
クルミ「すまない、私は逃げたくない」
???「でも!」
クルミ「これは私のわがままで」
クルミ「君に助けてもらった立場で無理を言っているのはわかってる」
クルミ「それでも・・」
クルミ「それでも私は知りたい」
クルミ「失った記憶が本当に大切なものなら」
クルミ「知らないままでいたくないんだ」
クルミ「だから私はここにいる」
クルミ「戦ってくれないか?」
クルミ「私の為に」
クルミ「君の為に」
???「・・・」
???「・・見たんだ」
クルミ「?」
クルミ「な、何をだ?」
???「屋上・・」
???「そこに何か手がかりがあるかもしれない」
クルミ「?」

〇階段の踊り場
クルミ「そうか、私が屋上から・・」
クルミ「ならなおさら知らなくてはな」
クルミ「私はここにいるのだから」
クルミ「・・ありがとう、本当に」
???「僕も自分が誰かを知りたい、お互い様だ」
クルミ「うん」
クルミ「まずは職員室に行こう、見たところ扉は全て施錠されているようだ」
クルミ「ならきっと屋上の扉も施錠されている」
クルミ「職員室に行けば屋上の鍵があるはずだ」
???「でもそうだとしたら、職員室の扉も施錠されているんじゃ・・」
クルミ「ふっふっふ♪」
クルミ「その鍵なら私が持っているのだ〜!」
???「どこでそれを!?」
クルミ「なんか持ってた!」
???「そんな適当な・・」
クルミ「校内図によると職員室は2階だ!行こう!」

〇事務所
  ・・・
クルミ「あった!」
クルミ「よし!屋上に行こうか──って」
クルミ「来たみたいだね、また」
???「・・・」
???「行くぞっ!はあっ!」
???「よし!なんとか──」
???「うぅ、またっ・・」

〇事務所
  ・・今居た職員室だ
???「クルミ先生、本当に大丈夫かい?」
???「何か困ったことがあれば言ってくれよ」
???「いえ、全て私のしたことですので」
???「責任は全て私に取らせてください」
???「そうか・・」
???「ならせめて、無理をし過ぎないように」
???「はい──」

〇事務所
???「はっ・・」
???(今のはどういうことだったんだ?)
クルミ「大丈夫か?」
???「あ、あぁ平気だ」
クルミ「そうか、良かった」
???「行こう!屋上に!」
クルミ「そうだな♪」

〇屋上の入口
クルミ「この先が屋上、だね」
クルミ「!!」
クルミ「後ろ!」
???「うっ、あっぶな!」
???「喰らえ!はああっ!」
クルミ「!!」
クルミ「私・・記憶が・・!」
???「くっ、うあぁ・・」

〇教室
  ここは・・教室?
???「大丈夫、私がなんとかします」
???「だから信じてください」
???「なんとか、してみせるから・・・」
  僕に向かって話しかけてるのか?
  なんとかするって何を?
  まだわからないことが
  それだけじゃ、待っ──

〇屋上の入口
???「待って!!」
???「・・戻ったのか」
???(なんか、景色が色づいてはっきり見える気がする・・)
???「あれ?あいつがいない・・」
  屋上の扉が開いていた
???(気を失っている間に先に行ったのか?)
???(・・とりあえず行ってみるか)

〇高い屋上
???(ここは・・やっぱり夢で見た屋上だ)
クルミ「わっ!!」
???「うわあああ!!!」
???「ってお前かよ!」
クルミ「ふふっ、私だけど?」
???「なんなんだよ!もう!」
クルミ「なんなんだって、驚かせたんだけども?」
???「なんでだよ!?」
クルミ「なんとなく♪」
???「・・・」
???「ふっ・・」
???「なんだよそれ、」
クルミ「・・・」
クルミ「私、思い出したんだ全部」
???「そうか・・」
クルミ「とはいっても、大体の内容は君がさっき言ったのと同じだけどね」
クルミ「私は確かにここから飛び降りて死んでいる」
クルミ「そして何故かここにいる」
クルミ「誰かに造られたのか、自分で怨霊になって出てきたのか、わからないけどね」
???「・・・」
クルミ「ふぅー」
クルミ「うん」
クルミ「私はねぇ、」
クルミ「できた人間じゃないけれど」
クルミ「できる人間なんだぜ?」
クルミ「正義の体現者と名高いあの私だからな」
???「・・・」
クルミ「辛かったけれど」
クルミ「苦しんだけれど」
クルミ「悲しいけれど」
クルミ「ここにいる」
クルミ「君のおかげなんだ」
???「!!」
クルミ「ありがとう、少年」
???「だめだ!待って!!」
  彼女は屋上から飛び立った
  必死に腕を伸ばした
  彼女の腕を掴んだはずだった
  僕の手は彼女の腕をすり抜けた
  そのまま、彼女は飛び降りていった
  必死に気持ちを抑えて
  必死に考えた
  僕は誰なんだろう
  なぜここにいるのだろう
  彼女を助けるためについてきたはずなのに
  結局何もわからないまま彼女は飛び降りてしまった
  知らないままで終わってしまった
  気を失っている時に見たのと同じ結末で
  何故こうなってしまったのだろう
  そうした考えを考えて、鑑みた答えは、
  単純で、難解なものだった
???「・・・」
???「結局何も、変わらなかった・・」

〇高い屋上
  突然日が昇った
  強い日の光が僕を貫いた
  そして・・
  僕は消滅した

〇黒背景
  ・・・
  ここは、どこだろう
  暗くて何も見えなかったが、僕は導かれるように前に進んだ

〇謎の扉
  いきなり目の前に扉が現れた
  何故か自分には、その扉が懐かしく思えた
  僕は全く躊躇わず、まるで当たり前かのように扉を開けていた

〇一階の廊下
  恐ろしいほど静かだった
  僕は無意識に階段を登っていた

〇部屋の前
  扉の前に立ち止まった
  扉を開けて前に進む

〇白
ショウ「・・・」
ショウ「・・ようこそ、僕の意識の中へ」
ショウ「いや、おかえり・・か」
ショウ「僕はショウ、君を観ていた」
???「やっぱり君は・・」
???「僕・・なんだな」
ショウ「うん、それは少し違う」
ショウ「君は僕の影だ」
ショウ「そして日光に消された」
ショウ「わざとやったのか?」
影「そうだな、ほぼ賭けだったけど」
ショウ「ということは、」
ショウ「君は自分が影だと気付いていた?」
影「なんとなくはな」
影「そしてあの学校も影だった」
ショウ「まあ間違いではない」
ショウ「影だったというか、面影だったというか、」
ショウ「君が影だったからこそ、学校の面影が現れたのだと推測している」
影「なるほど?」
影「度々出てきた人影の化物も学校の面影の一部だったということか?」
ショウ「まあ生徒や先生無くして学校とは呼べない」
ショウ「学校が持つ想い出みたいなものだ」
影「そういうものなのか」
影「・・最初に人影に襲われた時」

〇まっすぐの廊下
???「・・・」
クルミ「うわぁっ!」

〇白
影「あの時確かに、あいつの体に攻撃が当たっていた」
影「なのに怪我一つしていなかった・・」
影「攻撃がすり抜けていたからだろう」
影「そしてあいつが飛び降りた時、」
影「僕はあいつに触れなかった」
影「さらにもとから僕と学校は概形が揺らめくように歪んでいた」
影「だから僕は幽霊か影か何かだろうと考えた」
影「まあ確信はしていなかったけれど・・」
ショウ「まあ大体当たりだ」
影「一つ聞きたいんだが・・」
影「ならなんであいつは、影でないのに影である学校の上を歩けたんだ?」
ショウ「さっきも言った通り、生徒先生無くして学校 とは呼ばない」
ショウ「そして、あの学校は既に来未信乃を先生として迎え入れている」
ショウ「ただそれだけだ」
影「そうか・・」
ショウ「さて、」
ショウ「君は真実を知りにここに来たんだろう?」
ショウ「なら教えるべきだな」
ショウ「学校を消したのは僕で」
ショウ「先生を、来未信乃を創ったのも僕だ」
ショウ「まあどうやってと聞かれても、頑張ったとしか言えないが」
ショウ「僕の知識を持っている君ならわかるはずだ」
影「確かに膨大な知識量だ、」
影「でもそんなことが可能なのか?」
ショウ「できる」
ショウ「想像力と時間さえあればな」
影「そんなわけあるか」
ショウ「それより、もう一つ僕が消したものに気づいていたのだろう?」
影「朝・・だな」
ショウ「そうだ」
影「まあ夜に学校の鐘の音は聞こえないだろ」
ショウ「君は学校が元に戻っていることにも気がついていた」
ショウ「そして先生の記憶と学校が紐付いていたことを鑑みて、先生と朝を紐付けて、」
ショウ「朝を取り戻した」
ショウ「そして、」
ショウ「自分の正体が影だと願って自分を殺し」
ショウ「死ねば主である僕の所に戻れると賭けた」
ショウ「想像力がすごいのは君だ」
影「・・・」
ショウ「僕は自分の為に先生を創り」
ショウ「その先生を守る為に学校と朝と自分を消した」
ショウ「他にも色々消した」
ショウ「僕を含め全て先生を死から遠ざける為に」
ショウ「でも影は創れなかったし、消せなかった」
ショウ「何を消しても影は残るし、何を創ってもそこに影は無かった」
ショウ「その結果消した僕の影である君は学校と朝を取り戻しここに来た」
ショウ「結局先生も飛び降りてしまった」
ショウ「それは先生が決めたことだから仕方ないのだけれど」
ショウ「僕は過ちを犯し、君に償わせてしまった」
ショウ「もうすぐ消える意識だが、せめて謝罪を させてくれないか」
影「・・・」
影「・・いやだ」
ショウ「なっ!?」
影「僕はここに提案をしに来たんだ」
ショウ「提案?」
影「ああ、僕は君を取り戻したい」
影「あいつを、来未信乃を助ける為に」
影「知らないままで終わりたくないんだ」
影「戦ってくれないか?」
影「僕の為に」
影「君の為に」
影「あいつの為に」
ショウ「・・・」
ショウ「ふっ・・」
ショウ「なんだよそれ、」

〇黒背景
  こうして僕は放り出された
  伸びた影から
  意識の中から
  膨大に広がる闇から
  引きちぎられたのだ。
  そして──

〇高い屋上
ショウ「・・・」
ショウ「さてと、」
ショウ「どう過ちを飾ろうか!」

コメント

  • 自分が誰か不明な時は行動も手探りだったのに、それが分かってからは「影」でありながら確固たる意志でショウの提案を拒み、戦い続けることを提案する主人公。改めて、人としての存在意義は姿形ではなくアイデンティティと記憶が作り出すものだということが分かった気がします。

  • 自分が別の世界を創造したことで影をも生み出したというところがとても興味深かったです。結果的にその自分の分身であるような影が新たな性質を帯びたということが、後書きにかかれた様に、すこし大人になった気分だったのでしょうか。

  • 私たち人間は何かを創り出すとき、理想的な未来を予測してうみだすけれど、それがすべてシナリオ通りにいくとは限らない。そんな現実と夢の狭間を垣間見れてとても興味深かったです。

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