心中道中(脚本)
〇黒背景
────続いてのニュースです
都内で新たに14人が意識不明の状態で発見されました──
──共通点がないんですよねー
誰も意識が回復してないんでしょー?
原因はなんでしょうねー──
──現在起こっているこの現象
原因究明を急いでいるとの事です
続いて、本日下野動物園でパンダの赤ちゃんが────
〇雑踏
繁華街
真(たまには違う道を と思ったけど間違いだったな)
真(人が多いのは知っていたけど...)
真(・・・ウットウシイ)
──
真(仕事で疲れてるのにな 早く抜けて この道はもう通らない、そうしよ)
一人で頷きながら自分を納得させ、ペースの落ちていた足を再び早める
ドンッ!
真「った!」
パシャ
明「・・・」
一瞬
男はしっかりと真を見る
真が動けず棒立ちしている間に
男は去り際に肩をぶつけていった
真(え)
真(なに今の)
真(うわっ、服びちょびちょじゃない! 普通何か声かけるでしょ!?)
真(しかも肩ぶつけたのわざとでしょ!)
真(なんなのもう あんなのにぶつかるなんて)
真(サイアク)
────
真「はあ...」
真(早く帰ろ)
落ちた傘を拾い閉じると、束ねもせずに早足に歩き出し帰路についた
〇女の子の部屋(グッズ無し)
「何これ?!」
脱衣所から真のぎょっとした声が響いた
その直後
真は意識を手放した
チッ、チッ、チッ、チッ───
静かに、部屋の時計の針が進んでいく
雨は降り続き、真は部屋に戻らない
〇林道
「はっ、はっ、はあっ」
ラク「も、もう無理〜」
ラク「ヘマしたなー、見つかるなんて」
こっちの方に行ったぞ!!!
ラク「うわわわわ もう追いついてきたの!?」
ラク「僕よりずっと怪物じみてるよなあ」
ラク「あ! そんなこと言ってる場合じゃないや! 早く逃げないと」
ラク「誰のところに行こう? メイのとこは今開いてないし・・・」
ラク「ん?」
ぴくりとラクの耳が反応する
ラク「あ! 新しい人きた!!」
ラクは言い終わらないうちに走り出した
新しく来た人のところへ
〇テクスチャ3
ザザザザザ──
途切れる事なく鳴り続けるノイズ
上下すらできていない空間に
1人
怪人が存在している
真「・・・・・」
真「ん」
真(あれ、いつのまに寝てたっけ)
真「・・・え?」
真「な、なに、ここ」
目の前に見たこともない景色が広がり
耳には自分の声すら掻き消されそうなノイズで満たされている
真「・・・? なに、これ」
視界の端に揺れている赤い光に触れようと
左目の方に手を伸ばす
真「!!!!!!」
真「な、え、手が」
自分の手を見てわなわなと震える
真「!」
はっと体を起こして自分の体を確認する
真「・・・・・」
真の嫌な予感は的中し、手だけでなく体も自分のものとは思えない姿になっていた
強張りうまく動かない両手を震わせながら、そっと自分の顔へ持っていく
真(・・・・)
真(なによこれ、夢?)
真(でもさっき起きた、はず...)
真(こういうのなんていうんだっけ 起きてもまだ夢のやつ)
ゾクッ
真(なんか気持ち、ざわざわする...)
真(・・・・・)
真(ううん、それよりも これ夢だよね?)
真(こういう時ってどうしたらいいんだろう、 夢の中って何すれば...)
真(どこかに行く?でもどこに ここ何もなさそうだし)
真があたりを見渡そうと立ち上がった時
ラク「あーー!! いたいたー! やーーっと見つけた!!」
真「は?」
ノイズ音に邪魔されながらも
この場に相応しくない明るい声と共に
犬のような怪人が現れた
ラク「もうやったら広いんだもんここ!! 目印っぽいのもなにもないし! ノイズうるさくて君の音も聞こえないし」
真(何こいつ...)
見知らぬ犬らしき怪人の登場に唖然としてる真をよそに、その怪人はハキハキと明るく話す
ラク「ねえ!」
ラク「君はここに来たばかりだよね?」
ラク「ひとりぼっちで不安じゃなかった?」
真「あーうん 不安、だったかも」
ラク「そーだよね!!」
ラク「もう大丈夫だよ! 一緒にいこう!」
真「え、あの!」
真「えーとどこに? というかあたなは?」
ラク「そうだ!まだ何も言ってなかった! ごめんね!」
ラク「でも、まずはここを出よう! どうも空間が安定してないみたいだから」
ラク「あ!僕のことはラクって呼んでよ! ここを出たら色々説明するからさ!」
ラク「ちょっと待ってね!」
そう言うと、ラクはその場でしゃがみ
犬のように穴を掘り出した
真「は!?」
ラクが掘った場所には底の見えない穴ができていた
ラクの行動にはもちろん
まさかこんな場所に穴ができるなんて思ってもみなかった真は、次々目の前で起こる事に頭をクラクラさせていた
真(意味が分からない・・・)
ラク「さっきメイの世界が開いたの分かったんだ! だからそこに行こう! メイが全部説明してくれるはずだよ!」
ラク「僕のあとについてきてね!」
言い終わると、主人公が口を挟む隙もなく穴に飛び込んでしまった
真(え、私もこの穴に落ちろっての!?)
真(ていうかメイって何!?)
騒がしいラクがいなくなり
一人になると、鳴り続けているノイズがうるさく感じる
真「・・・」
真「ま、まって!!」
完全にラクのペースに押されてしどろもどろになっていたが、勇気を出して真も穴に飛び降りた
〇テクスチャ
ドシンッ!
上から落ちてきた真はお尻から着地した
真「いたー...」
ラク「大丈夫!?」
真「うん、なんとかね」
メイ「来たばかりで悪いが早速説明するぞ」
真「え?」
ラク「メイ!いきなりすぎだよ!」
メイ「時間がないんだ」
真「待ってよ!何がなんだか」
メイ「元に戻りたいだろう?」
真「!」
メイ「だったら急がないと手遅れになる 必要な事は話すから大人しく従ってくれ」
真は思う事もあるがしぶしぶ頷いた
メイ「軽くラクから状況は聞いた」
メイ「さっきまでお前がいた場所は お前の心の中だ いわば精神世界みたいなものだ」
メイ「そして今からもう一度戻ってもらう」
真「え、何で?」
メイ「空間も不安定でノイズも酷い お前の心が蝕まれていってるせいだ それを放っておけば」
メイ「死ぬ」
真「え」
ラク「まだ死ぬわけじゃないよ!」
メイ「殆ど死んでいるようなものだろ お前もニュースで見たことないか」
メイ「意識不明の状態で回復の見込みがない ってやつ」
メイ「お前も今なりかけてる」
真「そんな」
メイ「完全にそうなる前に手を打つ」
メイ「意識がなくなる前に体にアザが発生するんだ」
メイ「今日繁華街でぶつかっただろ あの時にお前の首に少しだけアザが見えた」
真「あ」
真は脱衣所の鏡で
不気味なアザを見た事を思い出した
そして繁華街でびちょびちょになった事も
真「あんただったの!? その後わざと肩ぶつけたでしょ!」
メイ「印を付けたんだ すぐに向かえるように」
メイ「ラクの方が早かったみたいだがな」
メイ「とにかく、もう一度お前の心に戻って 原因を消さなければならない」
一呼吸おいて、メイは真の方へ向き合う
メイ「自分の心の内に呼びかけるんだ」
メイ「お前自身の力でないと入れない 心を落ち着かせコントロールしろ」
真「コントロールしろって そんな簡単に言わないでよ!」
メイ「自分自身に呼び掛ければいい 心を蝕んでいるやつを消しに行くとな」
メイ「必ず応えてくれる」
メイに真っ直ぐ見つめられ
真は息を吐きながら、観念したように首を振った
そして目を瞑り、胸に手をあて深呼吸をする
真(私の、心)
真(私の心は私だけのもの 誰にも侵されはしない)
真(今、助けに行くよ)
主人公から炎が噴き出し、ラクとメイも包んでいく
〇テクスチャ3
真「で、できた?」
メイ「ああ、やるじゃないか」
ラク「僕たちも連れてこれるなんてすごいや!」
メイ「いるぞ、あれだ」
メイの視線の先を辿ると
光の塊が浮いていた
メイ「あれを消すんだ」
真「え、あれを?」
メイ「ここはお前の心の中」
メイ「さっきみたいに心に呼び掛ければ あれも消せるはずだ」
真「で、でも」
真(あれが、私の心を蝕んでいるものなの?)
メイ「まずいぞ!もう時間がない! 早く消すんだ!」
真「い、」
真「嫌よ!」
真「ここ、私の心なんでしょ!!?」
真「だったら!」
真「あれは私なんじゃないの!!?」
真「なんでそれを消さなきゃいけないの!!」
真「自分で自分を消すなんて絶対嫌!!!」
メイ「そんな事を言ってる場合か! 2度と人間に戻れなくてもいいのか!」
真「それでもよ!」
真「それに」
真はまっすぐ光を見つめる
真(だって、違うじゃない 絶対違う 自分で自分を消すなんて)
真(あれも”私”なんでしょ?)
真(だったらきっと)
真は正面から見据え、光へ進んでいく
メイ「どうするつもりだ! 戻れ!」
ラク「本当に死んじゃうよ!?」
真「大丈夫」
真「私はそんなやわじゃない!」
真は光に近づき
そっと抱きしめた
光をそっと包み
真も光に包まれていく
お互いに包み合い光が世界に広がっていく
蝕んでいた黒いモヤは
光にかき消されていた
〇幻想空間
そこは先程までと違い
幻想的な空間が広がっていた
真「ここは」
ラク「すごい!綺麗! こんなとこ初めて見た!!」
メイ「ああ、俺もだ こんな事になるなんてな」
メイは真へ向き合う
メイ「これがお前の答えなんだな」
真「うん だって私は私だもん」
真「ちゃんと向き合わなきゃ 私がかわいそうよ」
メイ「・・・なあ」
メイは真の方へ向き直るが
視線を中々合わせない
メイ「あー、その・・・なんだ」
・・・・・
メイらしくもなく、言葉に詰まりながら
視線を彷徨わせている
ラク「あ!僕分かった!」
ラク「仲間になって欲しいんだよ! でしょ?」
真「仲間?」
メイ「ああ、あの痣で意識不明になる現象 その根源を探してるんだ」
メイ「それでお前にも よかったら手伝ってもらえないかと 思ってな」
真「ふふ」
メイ「?」
真「あんなに強引に話を進めてたのに 今更そんな確認するなんて」
ラク「メイってばそれで言い淀んでたの?」
メイ「う」
真「ふふふ」
メイ「そ、そんなことより もう起きる頃じゃないか?」
真「そっか 私、ちゃんと戻れるんだ」
メイ「ああ 問題なく起きれるはずだ」
メイに言われ
気づくとあたりに白い霧が広がっていた
ラク「あ!それならまた現実で会おうよ!」
真「え?」
メイ「ああ、またその時に答えを聞かせてくれ」
真「え??」
ラク「じゃあ僕の番号言うから覚えておいてね! 絶対かけてよ!」
真「え、まっ」
ラク「僕の番号は────」
意識が遠のく中で
よく通る声が伝える番号を必死に記憶した
〇カウンター席
真は飲み物にも手をつけずソワソワしている
真(大丈夫だよね 騙されてるとかじゃないよね)
真(まあ来なかったら 一人でカフェに来たと思えばいいか)
真(いや、それよりもむしろ 来た時どうする!?)
真(変じゃないかな私!)
カランカラン
真が入り口へ目を向けると
二人の男が入ってきた
そのうち一人は見た事のある人物だった
その男は真に気付き、側に歩いてきた
「・・・」
楽「なーに黙ってるの二人とも!」
真「あ!」
真「君がラク、だよね?」
楽「そうだよー!よくわかったね!」
明「流石に俺と比べれば分かるだろ」
真「それもそうね」
楽「ねーねー!それよりさ! この後どうする?」
楽「僕パンダの赤ちゃん見に行きたい! 誰も予定決めてないでしょ? せっかくみんなで遊べるしさ!」
明「それは構わないが、それよりも 改めてちゃんと自己紹介しとかないか こうしてこっちで会うのは初めてだろう」
真「そうだね」
真「あなたそういう常識あったのね」
明「一言余計だ」
楽「まーまー!」
真「それじゃ、改めて」
はじめまして!
作中で出てきたパンダのニュースがラストにも繋がってほっこりしました。日常に戻ってきた安堵感を読者も共有できるいいシーンでした。果たして3人はこれから問題解決にどのようにアプローチしていくのでしょうか・・・。
真ちゃんがメイと指示に逆らってその光を抱きしめたシーンを想像し、とても感動しました。すごく勇気のいることだったと思うし、怖かったと思います。その行動から、彼女は一皮むけ、真の友情を手に入れたようですね。
凄く心あったかくなるお話でした。
自分自身、確かに嫌な部分も嫌な気持ちも自分自身なんですよね…自分も自分に当てはめたら言われるがままに消せなさそうです。