和風怪人 玄龍

坂井とーが

和風怪人 玄龍(脚本)

和風怪人 玄龍

坂井とーが

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和風怪人 玄龍
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〇黒背景
  誰からも忘れられ、ここで朽ちていくのだろうか──
陰陽師「決してこの社から出てはならぬ」
陰陽師「社の聖域にいる間は、結界がお前の姿を覆い隠す」
陰陽師「だが、一歩でも外に出れば、異形の姿は人の目に映り、世に混乱をもたらすだろう」
  言われるまでもない。
  人に疎まれ、忌み嫌われるのはもう沢山だ。

〇古びた神社
  あれから幾度季節が巡っただろう──
玄龍「ん?」
???「『きせき』神社・・・」
  人の子か。
  こんな山奥の社に何の用だ?
???「『きせき』の神様。どうかお願いです」
???「私の家族を殺した怪人をやっつけてください」
玄龍「!!」
玄龍「お前も家族を失ったのか」
???「誰!?」
???「あ・・・」
玄龍「俺のことが見えているのか?」
???「狐の、お兄さん?」
玄龍「・・・俺が恐ろしくないのか?」
???「うん」
???「う、ううっ」
???「家族が、みんな死んじゃったの・・・」
玄龍「・・・」
玄龍「何があった?」

〇血まみれの部屋
  私の名前は有希(ゆき)。
  あの日、家に帰ったら──
有希「お母さん!? お兄ちゃん!?」
憤怒の怪人「・・・」

〇古びた神社
有希「私ひとりだけ助かったの」
玄龍「何者なのだ、その怪人は」
有希「――お父さん」
玄龍「何?」
有希「私のお父さんなんだって」

〇おしゃれなリビング
お父さん「ういー、ヒック」
お父さん「俺の研究はすごいんだぞ。 強大な力を持つ、殺生石の研究だ」
お父さん「その力で、普通の人間を超人に変えてやる。 成功したら俺は有名人だ!」
お母さん「ねぇ、今月の食費が──」
お父さん「うるせぇ!」
お母さん「うっ」
お父さん「俺をバカにしてるのか!?」
  お父さんは狂ってた。
  だから怪人になっちゃったんだって。

〇古びた神社
有希「お願い、狐のお兄さん。 悪いお父さんをやっつけて」
有希「この神社の神様は、『厄祓い』をしてくれるんでしょ?」
玄龍「俺はここから出られぬ決まりだ。 昔、そのような約束をした」
有希「そう・・・。約束なら、仕方ないね」

〇古びた神社
有希「・・・」
玄龍「帰らぬのか?」
有希「帰るところがないの。怪人の娘なんて、誰も引き取りたくないんだって」
  異形の怪人を産んだ女など、
  穢(けが)れている──
玄龍「・・・ならば、ここで暮らすか?」
有希「!!」
有希「うん!」

〇黒背景
陰陽師「決して人の世と交わりを持つな」
陰陽師「お前が再び人と言葉を交わすことがあるならば──」
  出会ってしまった。
  二度と交わりを持たぬと誓ったはずが・・・

〇古びた神社
有希「私の荷物、これで全部なの」
有希「ご飯にしましょ」
玄龍「俺はものを食わぬ」
有希「えー」
有希「・・・」
玄龍「・・・では、少しだけもらおう」
有希「うん!」
玄龍「・・・うまいな」

〇祈祷場
有希「お部屋はひとつしかないのね」
有希「じゃあ半分に分けて、あっちは私の部屋。 こっちは狐のお兄さんの部屋」
玄龍「俺の名は玄龍(げんりゅう)だ」
有希「げん・・・」
有希「玄お兄ちゃん!」
玄龍「お兄ちゃん・・・」
有希「お布団はないのね」
玄龍「俺は眠らぬ。布団など必要なかったのだ」
有希「じゃあ、これがお布団で」
有希「これが枕ね」
有希「パジャマにお着替え~」
有希「じゃじゃーん」
玄龍「なぜこちらに来る? お前の部屋はあちらだろう」
有希「今日は玄お兄ちゃんのお部屋で寝るの」
玄龍「・・・かまわぬ。だが、俺には触れるな」
有希「どうして?」
玄龍「俺は不浄のものだからだ」
有希「?」

〇祈祷場
玄龍「ようやく静かになったな」
有希「お母さん、お兄ちゃん・・・」
玄龍「泣いているのか」
  俺が守ってやれればいいのだが・・・

〇古びた神社
  しかし、人の子は人の世でしか育たぬ。
  こんな日々がいつまでも続くわけがない。

〇祈祷場
  いつかは人の世に帰さねばならぬ。
  明日には──

〇古びた神社
  明日こそ──
有希「あっ」
玄龍「どうした?」
警察官「動くな! 手を上げろ!」
玄龍「俺の姿が見えているのか?」
  そうか。結界が解けてしまったのだな。
  この娘に気を許したせいで・・・
有希「やめて!」
有希「玄お兄ちゃんは悪い人じゃないの!」
警察官「お嬢ちゃん、危ないから離れなさい!」
有希「いやだ!」
玄龍「有希、もういい。行け」
有希「玄お兄ちゃん!?」
玄龍「お前の生きる場所は、ここではない」
有希「ッ──」
有希「・・・わかった」
警察官「どうします? 撃ちますか?」
警察官「待て。奴に後ろを向かせてからだ」
有希「!!」
有希「玄お兄ちゃん、逃げ──」
有希「え・・・?」
玄龍「何事だ!?」
憤怒の怪人「有希は誰にも渡さんぞ」
有希「お父さん!?」
憤怒の怪人「有希は俺の血を引く娘だ。 優れた怪人になる素質がある」
有希「いや! あたしは怪人になんてなりたくない!」
玄龍「その子を離せ!」
憤怒の怪人「フン、非科学の怪人か」
憤怒の怪人「ハアッ!」
玄龍「くっ」
玄龍「しまった!!」
  決してこの社から出てはならぬ
玄龍「今さら、そんな誓いなど──」

〇荒廃した街
玄龍「知らぬ間に、人の町はこのような変貌をとげていたのか」
玄龍「だが、この荒れようはなんだ?」
???「きゃあああ!」
怪人「ゲヘヘ。追いつめたぞ」
女性「誰か、助けて!」
玄龍「なんと惨い・・・」
警察官「やめろ、怪人ども!」
  俺も奴らの同族だと思われているのか・・・
警察官「うわっ!」
女性「イヤーッ!」
女性「え・・・?」

〇公園通り
玄龍「どこだ!? どこにいる!?」
玄龍「有希!!」

〇SHIBUYA SKY
有希「!!」
有希「玄お兄ちゃーん!!」

〇公園通り
玄龍「有希の声だ!」

〇SHIBUYA SKY
憤怒の怪人「いい景色だろう」
憤怒の怪人「俺をバカにした奴らは全員死ぬんだ」
有希「だからお母さんとお兄ちゃんを殺したの!?」
憤怒の怪人「そうさ。 あいつらは俺の研究を理解しなかった」
憤怒の怪人「お前は違うよな、有希」
憤怒の怪人「お前は俺たちと共に怪人となり、新しい世界を作るのだ」
玄龍「見つけたぞ!」
玄龍「有希を離せ!」
憤怒の怪人「貴様は、神社にいた怪人か」
憤怒の怪人「科学の洗礼を受けていない怪人など、恐るるに足らん」
憤怒の怪人「殺してしまえ!」
玄龍「次はお前だ!」
憤怒の怪人「バカめ。殺生石の欠片を取り込んだ程度の力で、この俺に勝とうなどと──」

〇渋谷スクランブルスクエア
  かなわなかった──

〇黒背景
  俺は死ぬのか。
  大切な人を守ることもできずに──
???「・・・六郎」
???「六郎!」

〇古民家の居間
母「六郎、あまり無理をしないで。 具合が悪いんだから、寝ていなさい」
六郎「そんなわけにはいかないよ、母さん」
六郎「働きに出られないんだから、せめて家のことくらい──」
六郎「うっ」
母「六郎!」
六郎「大丈夫」
六郎「・・・なんだか外が騒がしいな」

〇寂れた村
六郎の兄「隣の村が怪異にやられたんだと」
六郎の兄「大勢殺されて、土地も穢(けが)された。あの村はもう終わりだ」
村の衆「この村もいつ襲われるか・・・」
長老「皆の衆。 山神様に生贄を捧げるのじゃ」
長老「さすれば、怪異を退ける力を授けてくださるじゃろう」
六郎の兄「ですが、長老」
六郎の兄「山神様の御神体は、怪異を生み出す源と同じ、殺生石の欠片なのですよ」
長老「背に腹は代えられん」
村の衆「でも、誰を生贄にするんだ?」
六郎の兄「──六郎だ。あいつは体が弱くて働きもせん役立たずだかなら」
母「待って! 体が弱くても、六郎は私の大事な息子よ!」
母「あなたにとっても、大事な弟でしょう?」
六郎の兄「俺に役立たずの弟はいない」
六郎の兄「母さんも、そんな奴など見捨ててしまえ!」
六郎の兄「さぁ来い、六郎!」
母「行ってはなりません!」
六郎「・・・行くよ」
母「六郎!?」
六郎「母さん。俺、役立たずでごめん」
六郎「やっと皆の役に立てるなら、たとえ生贄としてでも、俺は嬉しいよ・・・」
母「嫌よ・・・」
母「行かないで、六郎――!」

〇怪しげな祭祀場
六郎の兄「ここにこもって命を捧げろ。逃げるなよ」
六郎「俺には逃げる理由がないよ、兄さん・・・」
六郎の兄「やっと厄介払いができたな」

〇怪しげな祭祀場
  飢えと渇きで、頭が朦朧とする。
  そろそろ死ぬのだろうか──
  ――人間
六郎「!?」
  その身を我に捧げるというなら、
  我もそなたに体をやろう
  殺生石を宿す肉体──
  この力が欲しかったのだろう?

〇黒
「ウオオオオオ!」
  これからは『玄龍』と名乗るがよい

〇寂れた村
「ぎゃあああ! 怪異が出たぁぁ!」
六郎の兄「山神様、お助け下さい!」
六郎の兄「や、山神様・・・?」
六郎「俺だよ、兄さん」
六郎の兄「六郎か!?」

〇集落の入口
母「六郎は力持ちになったねぇ」
六郎「・・・玄龍。そう名乗るようにと、山神様に言われたんだ」
六郎「やっと母さんに楽をさせてやれるよ」
村の衆「見ろ。怪人が畑仕事をしているぞ」
六郎の兄「汚らわしい。怪人の畑に作物が育つものか」
「・・・・・・」

〇寂れた村
  なぜ俺は忌み嫌われるのだ?
  ようやく村の役に立てた。怪異から村を守れる力を得たというのに──
村の衆「ああ、血の臭いだ。汚らわしい」
長老「近辺の怪異は去った。もう村も安泰じゃ」
長老「玄龍や、村を出て行ってくれんかのう?」
六郎「なぜですか!? 俺は村を守り、村に尽くしてきたというのに──」
長老「村に異形の怪人を置いておくわけにはいかんのじゃ。わかってくれ」
六郎「そんな・・・ 俺はどうすればいいのだ・・・」
六郎「火の手!?」
六郎「この方角は、まさか──」

〇古民家の居間
六郎「ああ、母さん──!」
母「六郎、生きて・・・」
六郎「なぜだ? なぜなのだ!?」
六郎の兄「穢れを祓うにはこうするしかなかった。 お前も早く村を出て行け」
六郎「兄さん!? なぜ実の親を!?」
六郎の兄「あれは俺の母さんじゃない」
六郎の兄「異形の怪人を産んだ獣腹(けものばら)の女だ。穢れている」
六郎「ッ──」
六郎「黙れ!」
六郎の兄「うわぁぁ!」
六郎「そんなに俺が憎いのか?」
六郎「俺が村にどんな災いをもたらしたというのだ!?」
六郎「ただ異形の姿を持つというだけで──」
六郎「俺は人間だった! 母さんも人間だったんだ!」

〇寂れた村
「ぎゃあああ! 怪人が出たぞ!」
玄龍「出て行け! 穢れているのは、お前らの方だ!」

〇荒野
  もう帰る場所はない。生きる意味も──
陰陽師「お前が村を滅ぼした怪人だな?」
玄龍「ああ、そうだ。俺を殺しに来たのか?」
陰陽師「あらがわぬつもりか?」
玄龍「もう、いい・・・」
陰陽師「そうか。ならば、この地に社を建て、お前の魂を鎮めてやろう」
陰陽師「その代わり、決して人の世と交わりを持つな」

〇神社の本殿
  それから数百年の時が過ぎた。
  俺は誰の目にも触れることなく、この社にあり続けた。
女性「悪しきものから守ってくださいますように」
玄龍「・・・よかろう。守ってやる」

〇黒背景
  やがて社はさびれ、人足も途絶えた。
  俺は、何のために存在しているのだ・・・
  有希──
  ようやく出会えた大切な人も守れずに、俺は朽ち果てるのか。
  ひとりで──
???「しっかり! すぐ手当てするからね!」
???「頑張れ、正義の怪人!」

〇荒廃した街
玄龍「!?」
女性「気がついた!」
玄龍「お前たち、なぜ・・・」
男性「俺たち、あんたが女の子を助けようとするところを見てたんだよ!」
女性「さっきは助けてくれてありがとう!」
警察官「誤射してしまって申し訳なかった。 怪我はしなかったか?」
警察官「諦めないで! 今度は私たちが守ってあげるから!」
  この者たちは、俺を見ていてくれたのか。
  異形の姿を疎まずに──
  ──ああ、力がみなぎってくる。
男性「大丈夫なのか!?」

〇SHIBUYA SKY
憤怒の怪人「生きていたのか。しつこい奴だ」
有希「玄お兄ちゃん!」
玄龍「俺は忌石(きせき)神社の祭神、玄龍!」
玄龍「厄祓いの神だ!」
  頑張れ! 玄龍! 玄龍!
  知らぬ間に世の中は変わっていた。
有希「助けて、玄お兄ちゃん!」
  大切な人が、俺の助けを求めている。
玄龍「俺は人々の思いに応える!」
玄龍「貴様のごとき災厄は、俺が祓ってくれようぞ!」
  見ろ! 玄龍が勝ったぞ!
有希「玄お兄ちゃん、ありがとう!」
有希「ぎゅーっ」
  あたたかい・・・
  ああ、社にこもって厄を祓い続けた日々。
  孤独に耐えて生き続けた数百年の時は、決して無駄ではなかったのだ。
玄龍「有希・・・」
有希「さぁ、お家に帰ろう」
玄龍「――ああ、そうだな」
  玄龍ー!
  ありがとなー!

〇黒背景
  人と世と交わりを持ってはならぬ。
  その約束は違えた。
  いや──
陰陽師「お前が再び人と言葉を交わすことがあるならば──」
陰陽師「それは、お前の姿を恐れぬ者が現れたときだけだ」
陰陽師「お前を恐れぬ人間だけは、お前の姿を見ることができる」
陰陽師「その人間が現れたとき、社の結界は解かれるだろう」
  有り得ぬ。
  そんな人間などいるはずがない
陰陽師「どうであろうな」
陰陽師「お前の寿命は長い。人が世代を重ねるうちに、世の中がどう変わるか」
陰陽師「それは我々にはわかるまい」
  ああ、そうだった。
  お前の言う通りになったな・・・

〇東京全景
  この時代でなら、俺はまた人として生きていけるのだろうか。
  大切な人と共に──

コメント

  • 女の子が健気で、かわいかったです!
    怪人と女の子の組み合わせは、やっぱりいいですね!

  • 獣腹という言葉を初めて知りました。難しいテーマを親しみやすい話で伝えていただき、有難うございました。

  • 世界が変わっているというワードがダブルミーニングなのがニクイ演出でいいですね!

    異形のヒーローの宿命を感じながらも、救いがあるエンドなのが心地よかったです。

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