狂愛リフレイン

gaia

4話 過去(脚本)

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〇黒
  落ちて行く。
  突き飛ばされて落ちて行く。
  冷たい階段と壁の間をぶつかりながら、俺は長い階段をピンボールみたいに落ちていった。
  ズキズキと頭と、頭から生暖かい液体が頬を伝った。
  恐らくこれは俺の血だろうな、と考えることもできないくらい痛みが脳を支配する。
  「お前が悪いんだ!!ゴミカスが!」
  怒号と女の子が泣き叫ぶ声。
  耳に残って離れない。
  ダダダという足音。
  俺に駆け寄ってきて、「お兄ちゃん!」「お兄ちゃん!」と叫ぶ妹を、俺はなんとか守ろうとした。
  「頭から血が出てる!お兄ちゃん!」
  「てめぇが妹の教育をしっかりしねえから、一人でタバコも買ってこれねえ役立たずのクズカスのままなんじゃねえか!」
  怒号に俺は何か言い返そうとする。
  俺が学校に行っている間、学校に行っているはずの妹は、家で麻雀をしているアイツの買い出しに行かされていたのか。
  「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、私が悪いの!お兄ちゃん死んじゃう!」
  「言って聞かねえようなやつは殴ってもいい!馬鹿だから死んでも仕方ねえんだよ!」
  そんなことはない。
  こいつの言っていることは全て間違っている。
  絶対に屈しない、俺はこんなやつなんかに。
  「役立たずだから馬鹿な母親にも置いてかれちまったんだろうよお前らは!」
  お前の暴力に耐えられなくなったからだ。
  何かを得るために暴力、恐怖で支配するような人間を、好きになるやつなんかいない。
  俺の意識は霞のように遠くなって行く。
  もしかしたら俺はこのまま死ぬかもしれない。

〇教室
  ふとまつりちゃんの顔が浮かんだ。
まつり「何そのあざ、大丈夫?」
  まつりちゃんはいつも俺に話しかけてきて俺の周りをチョロチョロしてくる。
  俺は、妹しかいらない。妹を守るために生きている。
  妹を守ることだけが俺の生きる理由なんだ。
雄太「俺に構うんじゃねえよ」
  いつも一人の俺は、まつりちゃんを突き放した。
  何もかもむしゃくしゃして、どうしようもない。
  でも死ぬという選択肢は俺にはなかった。
  妹がいるから、俺は生きている。

〇階段の踊り場
  今日も早く帰ろうと、階段に差しかかったとき。
まつり「やめてよ!」
  まつりちゃんがクラスのいじめっ子たちにまた絡まれている。
  いつも俺には関係ないから無視しているし、面倒くさいから向こうの階段から通ろうかな。
いじめっ子「親は子に似るって話知ってるかー?」
雄太「......」
  俺は踊り場の前の突き当たりで立ち止まった。
いじめっ子「エッチな店で働いてた母ちゃんが男と逃げたんだろ?」
いじめっ子「うわー、お前もエッチな血が流れてんじゃん」
まつり「違うよ!お母さんは、絶対迎えに来るって言ってたもん!」
いじめっ子「親がろくな人間じゃないと子供までそうなっちゃうって俺の母ちゃんが言ってたぜ」
  ナンダソレ。
  俺に言ってるのか?俺は頭に血が昇って目の前が真っ赤になりそうだった。
雄太「おい」
いじめっ子「なんだよお前、いつも一人でぶつぶつ言ってるキモイやつじゃん」
雄太「どけよ、通れないだろ」
いじめっ子「おい、こいつあれだよ」
いじめっ子「は?」
いじめっ子「妹をいじめてた下級生をボコボコにして川に突き落としたって噂じゃん」
雄太「そんなことしてないけど」
いじめっ子「いつも死ねとか殺してやるとかぶつぶつ言ってるしよ」
いじめっ子「こいつはガチでやばそうだから近寄らないようにしようぜ」
いじめっ子「は?下級生にしかイキれないの?ただのザコじゃん」
いじめっ子「てかまつりを庇ってさ、できてんのお前ら?」
雄太「別に庇ってないけど、ただ邪魔だからどけって言ってるだけだけど」
いじめっ子「テメェ友達もいねえくせに俺に調子乗ったこと言ってんじゃねえぞ!」
いじめっ子「そういう態度がムカつくんだよ!」
  ドカッ!
  胸ぐらを掴まれて顔をグーで殴られた。
  なんだこいつ、アイツより全然弱いじゃん。
いじめっ子「何笑ってんだよ!気色悪りぃ!」
いじめっ子「やめようぜ、もう行こうよ」
まつり「先生呼んできたよ!」
いじめっ子「まずい!行こう!」
いじめっ子「お、おう!覚えとけよ!」
  俺は先生になんでもありませんとただそれだけ伝えた。
  面倒ごとになって、前みたいに親を呼んで話を、なんてこと言われたら嫌だからだ。
  先生もまつりちゃんがいじめられてるのを見て見ぬふりしてるような人間だから
  赤くなっている俺のほっぺを見ても俺がなんでもないといえばすんなり笑顔でどっか行った。
  大人はみんなクズだ。
まつり「ごめんね、ごめんね......大丈夫?」
雄太「別に平気」
雄太「殴られるのにはなれてるから」
  気を使わないでほしくて言ったのに、まつりちゃんは余計に泣き始めた。
まつり「そんなこと言わないでよ!雄太くん本当は優しい人なんだから!」
雄太「は?」
まつり「私知ってるよ!下級生の妹ちゃんがいじめられてた時も助けに行ってたし、泣いてる妹ちゃんを手を繋いで帰ってたじゃない!」
雄太「俺には妹しかいないからだ、妹を守れればそれでいい」
まつり「自分がそんなにボロボロになって言わないでよ......毎日毎日殺してやる、また殴りやがったってボソボソ言ってるよね」
まつり「妹ちゃんを守るために下級生の子にキツく言ったら変な噂立てられちゃったんでしょ?」
雄太「......」
雄太「別に俺は平気だって」
まつり「じゃあなんで泣いてるの?」
雄太「は?」
まつり「本当は辛いんでしょ、悲しいんでしょ、痛いんでしょ、我慢しなくていいんだよ」
雄太「まつりちゃんには関係ないよ」
まつり「お兄ちゃんだからってこと、ないんだから」
まつり「雄太くんは、雄太くんで優しくて素敵な人だよ」
まつり「私も守ってくれてありがとう」
雄太「別に」
まつり「雄太くんが今度酷いこと言われたら、また先生を呼んできて私が助けてあげる」
雄太「それは余計なお世話だよ」
まつり「顔痛いでしょ、保健室で冷やすのもらってこよう?」
  まつりちゃんは、俺の手を握った。
  妹より少し大きくて温かい手と、ピンと背が伸びた後ろ姿。

〇学校の廊下
  いつもなら振り解くのに、その力強い姿に俺は正しい方向に導かれている気がして身を任せていた。
雄太「俺さ」
まつり「うん」
雄太「アイツに殴られた時も、妹がいじめられていたのを見た時もさ」
まつり「うんうん」
雄太「頭に『殴る』とか、『殺してやる』って選択肢が出たんだ」
雄太「まるで、ゲームみたいにさ」
雄太「でもさ」
雄太「いつも殴ってくるアイツと同じには、なっちゃダメだって思って」
雄太「絶対手は出さないようにしようって決めたんだ」
  俺はなんでこんな話をまつりちゃんに話してるんだろう。
まつり「強いね、雄太くんは」
雄太「え?」
まつり「結局弱い人って言い返す力がないから暴力に頼ってるだけなんだよ」
まつり「雄太くんは冷静に、そこにある選択肢じゃなくて」
まつり「暴力に頼らないって選択肢を選べた」
まつり「それが人として強いってことなんだよ」
  あの暴力親父より、人として強い......?
まつり「大丈夫だよ、私の前では泣いたっていいんだからね」
雄太「泣いてないし」
まつり「もう一回泣くところみてるんだから」
  俺は本当に久しぶりに、笑顔になった。

〇黒
  「何......笑ってやがる」
  俺は知っている。
  心の弱い人間こそ、対話を放棄して暴力に頼るんだ。
  「てめぇ!本当に俺のことを舐めやがって!」
  アイツは、笑ってる俺に向かってズンズン近づいてくる。
  俺は妹を庇いながらも、笑っていた。
  まつりちゃん、俺はこんな奴に屈しない。
  暴力なんかには、絶対に屈しないから。

次のエピソード:5話 ループ❸

コメント

  • とてもヘビーな家庭環境の過去話ですね!雄太とまつりも心の痛みがむき出しに描かれてますね。このエピソードがどうループに関わってくるのか楽しみです!

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