5話 ループ❸(脚本)
〇勉強机のある部屋
?「...きて......」
?「起きて雄太!」
雄太「......ん?」
午前7時半、かけておいたはずの目覚ましは鳴らなかったらしい。
まつり「あー!やっと起きた!」
目を覚ますと、頬をぷくっと膨らませた幼馴染の顔がそこにあった。
まつり「もー!いつまでたっても降りてこないから起こしにきたんだよ!」
寝ぼけ眼で冷静に考えると、俺は今遅刻一歩手前の危機に直面しているらしい。
まつり「もー!急いで支度してよね!」
雄太「わかったよ!」
急いで服を脱ぎ出すと、まつりは驚いて顔を背けた。
まつり「ちょっと!私が出て行ってからにしてよ!」
ぷんぷんと部屋を出て行ってしまうまつりを尻目に俺は急いで着替えて部屋を飛び出した。
あれ......?
こんなやりとり、前もあったっけ?
でも、俺よく遅刻するし......。
〇おしゃれな玄関
雄太「いってきます!」
みこ「行ってらっしゃい!」
弟「行ってらっしゃい!」
弟「きをつけてねー!」
雄太「おう!」
みこ「お兄ちゃん、朝ごはんは?」
雄太「あー、ごめん!明日は必ず食べるから!」
みこ「今日、早起きして朝ごはん手伝ったのに......」
雄太「ごめんって!明日は必ず食べるから!」
みこ「うん......行ってらっしゃい」
俺は妹に謝ると、急いで家を飛び出し外で待っているまつりの元へと向かった。
朝ごはんを食べていかない←
朝ごはんを食べていく
〇教室
まつり「みんなおはよう!」
いつもの日常。
変わらない毎日。
だけど何かひっかかる。
クラスメイト「ねえ、隣のクラスの子が番幅神社でお参りして恋が叶ったらしいよ!」
まつり「えー!」
俺は外したままのイヤホンを握りしめながら何故かその話に耳をそばたてていた。
まつり「えー?本当?」
番幅神社は、この町で有名な縁結びの神社だ。
クラスメイト「縁結びで有名な神社なだけあるよね!願えば叶えてくれるんだって!」
まつり「どんなお願いしたのかな?」
クラスメイト「いやーでも、噂では番幅神社って縁結びの神社って言われてるけどさ......実際は」
まつり「え?」
縁結びの神社なんて、女子が好きそうな話だ。
俺とは縁がない話だ。
しかし。
俺は、イヤホンを耳に戻さなかった。
なんだか妙な胸騒ぎがしたからだ。
普段の俺だったら絶対に、まつりが縁結びの話をしていることに嫉妬して、すぐ目を逸らしていたはずだった。
まつり「ね、それさ......」
この妙な胸騒ぎは、まつりがどうして番幅神社について知りたがっているのかが、気になっているからだろうか。
クラスメイトがコソコソと話していた為、イヤホンを外していても声は聞こえなかった。
顔を青くしているまつりを見ながら、俺は今日まつりと一緒に帰ることに決めた。
〇学校の下駄箱
まつりは、金曜日生徒会だろうから玄関で待つことにした。
帰ってから聞けばいいことなのだが、俺は早く聞かなくてはいけないという妙な胸騒ぎに襲われて、
腕を組んで邪魔にならないところに立っていた。
あれ......あいつ生徒会の
素通りしていく生徒たちを見て、俺は首を傾げた。
今日は生徒会のはずなのに何であの人、帰ってるんだろ......?用事とか?
まつり「あれ?雄太......?」
雄太「え?まつり......?」
まつり「どうしたの?誰か待ってるの?」
雄太「いや、お前を待ってたんだよ」
まつり「えっ!?私を......?」
雄太「うん、一緒に帰りたくてさ」
まつり「えっ......?私、今日たまたま生徒会がなくなったんだけど」
まつり「それを知らなかったらずっとここで私を待ってたってこと?」
雄太「そうだけど」
まつり「ええええっ!?雄太、どうしたの今日......」
雄太「そんなことより、今日はまつりに話したいことがあるんだ」
まつり「えっ!?えっ......え?」
妙にそわそわして、髪の毛を直したりしているまつりの手をとって、俺は玄関を出た。
〇学校の校舎
あれ?
周りの生徒たちが、俺たちをジロジロ見ている。
クラスメイト「付き合ってるの?」
クラスメイト「俺は認めないぞ......!ただの幼馴染だったはずだ!」
まつり「雄太......?」
俺は、ぎゅっと握っているまつりの手をパッと離した。
雄太「あっ、いや、あの、違うんだ!これは!」
まつり「何が違うの?」
上目遣いで俺を見つめるまつりに、俺は心臓が別の意味でもドキドキしてきた。
雄太「お、俺はまつりに今日聞きたいことがあって」
まつり「うん、なに?」
周りの生徒たちがじっと俺たちを見つめている。
俺は自然に耐えられなくなって、またまつりの手を掴んで逃げるように校舎から離れた。
〇古びた神社
雄太「ここまでくれば大丈夫だろ」
ハァッ、ハァッ、息を切らしながら階段を登っていると、まつりがはたと立ち止まった。
まつり「雄太、聞きたいことってなに?」
まつり「こんな、人気のないところに連れてきて」
雄太「あ、いや......」
俺は、さっきまでの自分の行動を思い出した。
話したいことがあるから、ずっと待ってたとか。
人気のないところにいくために手を繋いで走り出したり、噂もされてたし
まつり、俺が告白すると思ってる......!?
雄太「ち、違うんだよ、まつり......!」
まつり「違うって......?」
雄太「俺が、まつりに聞きたかったのは朝まつりが話していた、この番幅神社のことなんだ」
まつり「え?」
雄太「番幅神社の本当の意味の話をしてただろ? そのことをクラスメイトから聞いたんだよ」
まつり「う、うん......」
明らかに眉毛が下がるまつりに、少しだけ罪悪感を抱えながら、俺は続けた。
雄太「話を聞いてさ、気づいたことがあるからまつりを待っていたんだよ」
まつり「そっか......」
振り返ると、残念そうな顔でまつりが立っていた。
泣きそうな程悲しい顔をして、まつりは口を開いた。
まつり「気づいちゃったんだね......」
まつり「でも、悪くないんだよ、私だって気持ちわかるもん」
まつり「私、酷いことをされたのだって許してるから、何も言わないで」
まつり「そもそも、私が全部悪いんだよ......でも、これは仕方ないことなの.......」
雄太「まつりが悪いって......?」
まつり「私があの時あんなことを言わなければ、きっとこんなことにはならなかったんだよ」
雄太「ど、どういうことだよ」
雄太「俺がクラスメイトに聞いたのは番幅神社が本当は縁結びの神社じゃないってことしか聞いてないぞ!」
〇古びた神社
ぽつと、俺の肩に雨粒が当たった。
雄太「さっき玄関で聞いたんだ」
雄太「朝まつりが話していた、一緒に生徒会をやっている女子に」
〇学校の下駄箱
雄太「ちょっといいかな?」
クラスメイト「なに?雄太君?」
クラスメイト「まつり待ってるの?」
雄太「そうだけど」
クラスメイト「きゃー!」
雄太「って、そんなことどうでもいいだろ!」
クラスメイト「で、どうしたの?生徒会なら今日ないよ?」
雄太「え?」
クラスメイト「先生が急用でね」
雄太「ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
雄太「朝話していた番幅神社の話なんだけど、番幅神社の本当の意味ってなんなんだ?」
クラスメイト「あぁ、朝の話?何で?」
クラスメイト「聞いてたんだ、雄太君は神頼みしなくてもいいんじゃない?」
雄太「そういう話をしてるんじゃなくてな!って、どういう意味だよそれ!」
クラスメイト「はー、まつりも大変だね」
クラスメイト「教えないよ」
雄太「は?」
クラスメイト「まつりに、口止めされてるの、雄太君には絶対言わないでって」
雄太「なんだよそれ......」
〇古びた神社
雄太「俺には言わないでって、どういうことだよ」
まつり「......」
まつり「......」
まつり「言わない」
まつり「なんだ、まんまと喋っちゃった」
雄太「誤魔化すなよ!」
雨が強くなっていく。
俺の感情が昂るのと同じように。
雨がどんどん強くなっていくが、俺は傘をさすことも忘れてまつりに詰め寄った。
雄太「まつり!」
〇古びた神社
まつりは、堂の前の賽銭箱を背にして俯いていた──。
ギィと、お堂の真ん中の扉が開いた。
意味が、わからなかった。
雄太「まつりー!!!!!!」
まつり「へ?」
〇古びた神社
まつりの腹が、赤く染まっていく。
お堂の中から、黒いフードのやつが出てきてまつりの腹を突き刺したのだ。
愕然とする俺に、そいつはまつりの腹からぐちゅりと包丁を引き抜くと、今度は俺に向かって襲い掛かってきた。
雄太「まつり!!!」
意味がわからない、意味がわからない、意味がわからない、意味がわからない。
〇古びた神社
雄太「あっ」
あっ、そう思った時にはもう遅かった。
俺は、神社の階段から足を滑らせ、また頭から石段にダイブしていた。
ガンッガンッと頭に固い石を叩きつけながら落ちていく俺を、
黒いフードのやつは階段の上から見つめていた。
雄太「まつり......!」
あぁ......俺はいつも死ぬ間際まつりの名を呼んでいる気がする。
雄太「また守れなかった......」
少しして、酷く血のついた黒いフードのやつはまだ息のある俺の元へと歩いてきた。
雄太「番幅神社の本当の......意味は?」
血走った目でそいつを睨みつけながら問いかけた。
番幅神社は、縁結びの神社なんかじゃない
雄太「そいつは、聞き覚えのある声で続けた」
祈りに来た人間の恋路の邪魔をするような人間を何度も何度もこらしめて、
意中の相手への恋心を諦めさせる、屈服させる.....それが番幅神社の本当の意味。
ソイツはそう言って、包丁を振り上げた。
雄太「何でまつりを殺すんだ......!」
そこで俺の意識は途絶えた。
またも繰り返される悲劇、しかし、少しずつ明らかになる神社の真相にドキドキしてしまいます。そして犯人の正体は不明のまま、とっても気になります!