第二十一話「忘れ去られた世界の君へ」(脚本)
〇地下の部屋
基地に戻って手当てを受けた後、
セナは救護室の中で眠り続けた。
俺はベッドに横たわるセナの手を
じっと握っていた。
セナは意識を失う直前、言った。
〇黒背景
神崎セナ「私の・・・特別な力が弱っている」
城井奏太「いいから。もう喋るな」
神崎セナ「向こうの世界と、こちらの世界をつなぐ ゲートを開くことができるのは・・・ あと一回だけだ」
城井奏太「!?」
神崎セナ「奏太・・・よく考えて決めてほしい」
〇地下の部屋
城井奏太「セナ・・・俺は、どうしたらいいんだ?」
神崎セナ「・・・・・・」
〇地下の避難所
救護室から出ると、
たくさんの兵士たちの姿があった。
あの戦いの後、各地に散らばっていた
兵士たちが基地に帰還したのだ。
仲間同士で抱き合いながら、互いの生存を
喜び合っている兵士たち──
それを見ると、初めてここに来てから
続いてきた長い戦いが、
一つの区切りになったようにも思える。
柊ノボル「思ったより元気そうじゃないか」
振り返ると、
小さく手を上げて笑う柊の姿があった。
城井奏太「・・・なんだ、柊か」
柊ノボル「なんだとはなんだ。これでも お前の無事を願って待ってたんだぞ」
城井奏太「ごめん」
柊ノボル「それはそうと、春斗の亡骸だけどな・・・ どこにもなかったよ」
城井奏太「そうか・・・」
柊ノボル「兵士の多くは犠牲になったが、代わりに統制を失った多くのデフィジョンやアビオは瓦礫の下に消えた。俺たち人間の勝利だ」
城井奏太「でも、あの戦いで世界中に散らばっているデフィジョンが消えたわけじゃないんだろ?」
柊ノボル「当たり前だろ。だが大きな一歩になる」
城井奏太「大きな一歩・・・」
柊ノボル「中核となるデフィジョンのアジトを 潰したんだ」
柊ノボル「その戦果は拡散され、 世界中の人間を勇気づける」
城井奏太「・・・うん」
柊ノボル「俺はセナさんと共に、最後の一匹に なるまでデフィジョンを駆逐してみせる」
城井奏太「ああ。きっとできるよ」
柊ノボル「それに、お前だっているしな」
城井奏太「・・・・・・」
柊ノボル「なんだ、どうした?」
城井奏太「・・・あのさ、柊」
柊ノボル「?」
城井奏太「・・・いや、なんでもない」
〇暗いトンネル
兵士の墓標が並んでいるトンネルへと
向かった。
無数の墓標の中に、
春斗と彩音さんの名前を見つけた。
城井奏太「春斗・・・彩音さん・・・ごめん。 でもおかげでセナを救い、デフィジョンの アジトを破壊することができたんだ」
俺の言葉に墓標は何も答えない。
城井奏太「セナはこの先も人類の先頭に立ち、 いつかこの星から完全にデフィジョンを 駆逐してくれると思う」
腰のレーザーガンをゆっくりと
墓標の前に置いた。
城井奏太「でも俺は・・・」
一人の兵士が慌てて駆け寄ってきた。
兵士1「大変です! セナさんが・・・!」
城井奏太「!?」
〇地下の部屋
救護室に戻ると、セナがいたはずの
ベッドがもぬけの殻になっていた。
城井奏太「セナは!?」
兵士1「それがわからなくて。 食事を届けに来たら消えていて」
城井奏太「・・・っ!」
兵士1「まさか。誰かに連れ去られたり──」
城井奏太「いや・・・多分大丈夫だと思う」
兵士1「?」
ベッドの脇に、
セナの兵士服がきれいに畳んである。
城井奏太「これがあるっていうことは、 もしかして・・・」
〇荒廃した街
俺は一人でバイクを飛ばして
廃墟の街を走った。
セナならきっと、あそこにいる。
〇池のほとり
バイクを停め、長い坂道を登っていく。
夕陽が広い地平線の向こうに沈み、
辺りを一面のオレンジに染め上げる頃──
私服に着替えたセナの後ろ姿を、
視界に捉えた。
城井奏太「ここにいるような気がしたんだ。 傷はもう大丈夫なのか?」
神崎セナ「人間だったら、とっくに死んでたさ」
そう言うとセナはいたずらっぽく笑った。
神崎セナ「・・・正直に言えば、 助かるとは思っていなかった」
城井奏太「?」
神崎セナ「相手は何重にも罠をしかけていた。 私は捕らえられ、隊はほぼ全滅・・・ 完全に力負けだった」
城井奏太「でも、セナはまだ生きている」
神崎セナ「・・・・・・」
城井奏太「それ以上の勝利はないさ」
セナは小さく笑ったが、
その表情は憂いを帯びていた。
神崎セナ「戦いはまだ終わっていない。 デフィジョンはまだ世界中にいる」
城井奏太「ああ」
神崎セナ「だから・・・奏太の力が必要なんだ」
城井奏太「・・・・・・?」
神崎セナ「今度は嘘じゃない。 あの戦いではっきりとわかったんだ」
セナは俺のほうに向きなおり、
スッと手を差し出した。
神崎セナ「全てのデフィジョンを駆逐するまで、 協力してほしい」
城井奏太「・・・・・・」
セナの手をじっと見つめた。
三年前の嵐の夜、明確な意志で俺の手を
振り払った時と、たいして変わらない。
細くて白い小さな手だった。
この手に世界の命運が委ねられているかと思うと、セナの背負っているものの重さに足がすくみそうになる。
だが・・・俺はセナの手を取らなかった。
神崎セナ「・・・奏太? なぜだ?」
城井奏太「考えたんだ。俺さ・・・子どもみたいに、 セナセナって叫び続けてた」
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最後の笑顔はずるい。。。
長かったけど、楽しませてもらいました。