正義も悪も背負えるからこそ意味がある~怪人がヒーローに至るまで~

やゆ

読切(脚本)

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〇黒
  俺は今日、ヒーローによって殺される
???「オラ、とっとと歩け!!」

〇謎の施設の中枢
  連れてこられた場所は、中心に青く光る柱が輝く実験室の中心部だった。
  
  俺達の世界と人間界を繋ぐ唯一の場所──
博士「ほう、今度の怪人は実に醜い。やはり、怪人はこうでないとな。無様な死を期待してるぞ?」
博士「お前は怪人なんだ。下品に笑えよ。ま、でも、お前の場合は醜いからそれで十分か」
アドリ(だったら、なんで俺を殴ったんだよ。意味なく暴力を振るえるほど、俺達を馬鹿にしてんのか)
  理不尽な暴力を不満に思うが、俺達はこの人間に逆らえない。
  理由は二つ。
  
  一つは俺達の家族が人質に取られてること
サバト「あまり、調子に乗るな。言っておくがコイツはお前よりも遥かに強い」
アドリ「サバト・・・・・・」
  もう一つはサバトが人間に付いているから。
  俺達の頼れる兄のような存在だったのに、今では人間の忠実な下僕に成り下がっていた
アドリ「サバト! お前は本当にこれでいいのか!? お前のせいで何人の戦士が死んだと思ってるんだ!?」
アドリ「ガハッ」
サバト「五月蠅い。 今、この場でお前を殺しても良いんだ。そうしないだけありがたく思え」
  斬撃で切り裂かれた。
  信じられない。サバトが俺に剣を振るうなんて──
博士「仲間割れはその辺にしてください。せっかくの怪人が傷だらけで現れたら、迫力は半減ですからね」
博士「ただ、君はサバトくんを見習った方がいい。君たちは私たち人間に負けたのですから」
  人間界と俺達の世界は別々だった。
  交わることのない世界。
  だが、人間はその壁を越えて現れた。
  怪人たちは強固な身体を用いて戦ったが、人間たちが持つ化学兵器には無意味だった。
  拳が届くよりも早く内側から破壊した
アドリ「だったら、なんでこんなことをするんだ! 支配したいなら支配すればいいだろう!」
  怪人達は一人ずつ人間界に連れてこられ、暴れるように指示され──『ヒーロー』に殺される。
  
  俺にはその意味が分からなかった
博士「そんなのは簡単だ。 『ヒーロー』は正義で、『怪人』は悪という構図を創るためなんだからな」
アドリ「だから、その意味が分からないんだよ!」
  博士は身体の内から湧き出る苦渋を体外に排出するように、唾液を吐き出した。
博士「今の人間は『多様化』を盾に関係ないことまで騒ぎ立てる。 だから、今一度、分かりやすい『正義』と『悪』を教えてやるんだよ」
  話を聞いても理解が出来ない。
  だって、人間界のために俺達は利用されてるだけなんだから
博士「さ、話はここまでだ。 さっさと決めるんだな。 俺に従って自分が死ぬか。俺に逆らい家族共々一緒に死ぬか」
  研究室の画面に俺達の世界で囚われている家族が映し出される。
博士「このボタン一つで殺せるんだが、押してみようか?」
  指先が赤いボタンに触れる。
アドリ「分かった! お前の言う通り戦うから――家族だけは助けてくれ!」
  人質を取られ、サバトには勝てない。
  
  だから、俺に出来ることは従うことだけだった。

〇おしゃれな通り
アドリ「俺は怪人アドリさまだぁ!! 全員、皆殺しだぁ!!」
  俺は雄たけびを上げながら建物を破壊する。
  なるべく、人間たちを巻き込まないように注意しながら・・・・・・
博士「うーん。 どうせなら、もっと人間を殺してもいいんだけどな。 ま、暴れてくれるだけ良しとするか」
  頭の中にムカつく声が響く。
  人間を気遣う俺を馬鹿にしたような声色だ。
アドリ(人間にだって家族がいるんだろ? だったら、殺せるわけないじゃんか)
  それでも俺は暴れ続ける。
  
  すると──
ヒーロー「そこまでだ!!」
  自信に満ちた声と共に、鎧を纏った男が現れた。
  
  この姿は良く知ってる。
  
  だって、こいつに殺されるように指示されてるから
ヒーロー「よくも街を破壊してくれたな! 俺がお前を倒してやる!!」
民衆「「うおお!!」 「いいぞ!!」 「こんな怪人、ぶっ倒してくれぇ!!」」
  民衆の希望に満ちた声が、瓦礫となった街並みを駆ける。
  分かりやすい『正義』に声を荒げる姿は、餌を前にした獣みたいだ
アドリ(真実を知ってるから、そう見えるだけなんだろうな)
  俺もお前も、あの博士に利用されてるだけだ。
  
  『ヒーロー』も『怪人』も記号として扱われてるだけだと、言いたくなるが──
アドリ「お前が俺に勝てると思うなよ?」
  口に出した言葉は全く違うモノだった。
  ガンっ!
  キーンっ!!
アドリ(ああ、くそ。 こいつ、弱ぇーな)
  ヒーローは弱い。
  普通に戦ったら圧勝する。
  
  それでも──
アドリ「グハっ」
  避けれる拳を受けて、痛くない打撃によろける。
ヒーロー「今だ!! 貴様の悪の魂を、正義の炎で消去する!!」
  ヒーローが腰を落として力を込める。
  右足に炎が集まっていく。
  
  必殺の蹴りに、怪人が苦手とする成分が込められている。
アドリ(そんな隙だらけの攻撃、当たるわけないだろうが・・・)
ヒーロー「うおおおおお!」
  跳躍し、俺の胸目掛けて蹴りを放つ。
アドリ「ぐああああ!!」
  正面から蹴りを受ける。
  痛みが胸から全身に伝わっていくが──
ヒーロー「な、なに!? 俺の必殺技が効かないだと!?」
  胸の炎は静かに消え、痛みは風に流れて消えていった。
博士「おっと、これは予想外だな。 まさか、必殺技を正面から受けれる身体を持ってるとは。 困ったな・・・」
「仕方がない。 一度、撤退だ。ヒーローの必殺技を改良するから、それまで待機だ。 怪人らしく撤退してくれ」
アドリ(怪人らしくってなんだよ)
  だが、従う以外に選択はない
アドリ「今日はこの辺にしてやろう。次戦うときは命はないと思えよ?」
ヒーロー「待て! 逃げるな!!」
  逃げるなって、よくそんな言葉が言えるモノだ。
  俺は呆れながら研究室に帰るのだった

〇謎の施設の中枢
博士「いやー、まさか、必殺技を正面から受けれる怪人がいるとわな。 サバトだけかと思ってたわ」
アドリ「そんなことはどうでもいい。 俺は一度は戦ったんだ。家族を開放してくれないか!?」
博士「あー、うん。 それは無理だよ。ヒーローに殺されるまでが君の仕事だろ?」
  あくまでも、俺の命と引き換えに家族を開放するらしい
アドリ「だったら、もう一度家族に会わせてくれ! 次に戦うまでの期間だけでもいいから!!」
博士「え・・・。それは・・・。うん。無理かなぁ・・・」
アドリ「なんでだ!」
  問い詰める俺を嘲笑いながら、サバトが現れた
サバト「はっきり言ってやればどうだ? お前の家族はもう殺したってな」
アドリ「なに・・・・・・?」
  今、なんて言った?
  俺の家族を殺したって言ったのか?
博士「あー、もう言わないでよね。 デリカシーがないんだな、お前は」
  平然と博士は笑う。
  なんでだ?
  俺は言う通りにしていたのに、なんで家族を殺したんだ!?
アドリ「うおおおおおおお!!」
  家族がいないなら、こいつに従う理由はない!
  俺が・・・!!
  俺が殺してやる!!
アドリ「グハっ!!」
サバト「怒りで俺がいることを忘れたのか?」
博士「サバト、ナーイス」
  こんな状況でも、サバトは人間の味方をするのか?
  お前だって俺の家族と付き合いはあったじゃないか!!
アドリ「どうしてだよ・・・・・・」
  サバトは返事代わりに斬撃を繰り出した
サバト「お前には分からないさ。 だから、せめて――俺の手で死ね」

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コメント

  • 人間にも怪人にも敬意や同情心を持つことのない博士のようなマッドサイエンティストが一番の怪物ですね。ラストでヒーローを自身に取り込んでハイブリッドな復讐の権化となったアドリの姿は頼もしくもありながら、どこか悲哀に満ちた存在にも見えました。

  • 怪人が人間に操作されて戦う。それが家族を人質に取られているから。なんて悪い人間なんでしょうか。こんな人間はやっつけて下さい。正義の怪人さん。

  • 人間の冷酷さが憎く悲しいストーリーでした。悪も正義も紙一重、でもこのヒーローのように懐にある良識のようなもので、意味もなく相手を攻撃できない、そんな温かさも感じられてよかったです。

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