第二話 魔王様、名前を知る(脚本)
〇要塞の廊下
問.モテる男の条件とは?
イケメンであること?
頭がいいこと?
友達が多いこと?
年収?学歴?身長?
紳士的なタイプより俺様系?草食系が好きな女子もいる?
これは全男子にとって永遠の問題であり、きっとこの問いに決まった答えなんて無い。
何故ならモテというのは十人十色、千差万別。
相手による、その時代によるとしか言いようがないからだ。
天音(・・・というのは、あくまで『人間』の男の話)
モブ魔族女子生徒A「カオス様! 魔力測定の結果、圧勝の一位だったんですよね?流石です!」
モブ魔族女子生徒B「歴代最高クラスの魔力に相応しい堂々たる態度、カッコいいですわ」
モブ魔族女子生徒C「はわわぁ、魔力が強すぎて傍にいるだけで畏怖を感じてしまうわ!なんて尊い存在!!」
魔王カオス「・・・当たり前だ、この程度で満足するつもりはない」
「きゃああぁぁぁぁ!強欲で素敵ぃーー!!」
どうやら魔界において魔力は、人間で例えると顔面偏差値と知力とトーク力と筋力と人望の全てを凝縮したくらいの価値があるようだ
魔族の男は魔力が高いほどにモテる。
ちなみに欲深さや傲慢さ、威圧感やプライドの高さもカッコいい要素として数えられるらしい
天音(人間のボクからしたらそんな面倒な奴、 いくら能力が高くても関わりたくないけどなぁ)
モブ魔族女子「あそこにいるのカオス様じゃない? 噂通り、魔力が溢れていてカッコいいわ!」
モブ魔族女子「眩し過ぎて成仏しそう~~」
先日行われた魔力測定の結果が張り出された為か、今日は女子達が色めき立っている。
ちなみにこの魔力測定は男子生徒しか行わない。魔界では男女での役割差別化が大きく、女子に魔力は必要ないとされているからだ。
天音(そして、この変な風潮のせいでボクは女装なんてさせられているのだ)
天音(当たり前だけど人間のボクに魔力なんてものはない)
天音(そもそも魔力って何?RPGで言うMPみたいなモノ?どうやって測定したの?という感じだ)
入学試験でも魔力測定でもその他試験でも男子魔族はよく魔力を参照される為、魔力ゼロの人間なんて一瞬でバレてしまう。
しかし女子生徒なら魔力に自信のある有志以外は測定を免除されるので潜入が可能というわけだ。
天音(ちなみに同期のスパイ仲間はどう見ても男だったから、潜入を断念したんだよね・・・)
天音(認めたくないけど、スパイ候補の中でボクだけが唯一女装が似合ったんだよな・・・)
モブ魔族女子生徒C「カオス様かっこいぃ・・・あぁ、第三夫人でもいいから私を選んでくれないかなぁ」
モブ魔族女子生徒B「無理に決まっているじゃない、カリスマ溢れるカオス様の夫人となる方は気品と知性と高貴な血筋を兼ね備えている必要があるもの」
モブ魔族女子生徒B「私達みたいな凡魔は秘書にすらなれませんわ」
モブ魔族女子生徒C「だよねぇ──」
魔王カオス「ふむ、吾輩の妃に・・・か、」
魔王カオス「確かに歴代の大魔王妃は血筋の良き者に限ることが多かった」
魔王カオス「だが、吾輩は真に能力があり、吾輩を支えるに相応しい女史がいれば家柄関係無く妻にしたいと思っている」
モブ魔族女子生徒C「えっ!?それって私達にも・・・」
モブ魔族女子生徒B「過去の常識に囚われない自由な思考が素敵ですわ、激エモですわ」
モブ魔族女子生徒C「エモってなぁに?」
うーん、ここからじゃ聞こえないけどなんか盛り上がってるな。
ていうかあの騒ぎの中心にいるデカい魔族に見覚えが・・・
魔王カオス「はっ!!!」
天音(うわ、こっち見た)
奴は周りの女子生徒を押しのけてズカズカとボクの目の前にやってくる
魔王カオス「・・・ひ、久しぶりだな」
天音「いや、昨日会ったばかりだけど」
このひと際厳つい見た目の魔族は、あろうことか初対面のボクに告白してきた頭の可笑しい奴だ。
悍ましい魔族に恐怖しない訓練は積んできたが、流石に男から告白される訓練はしていなかったので、昨日はかなり動揺してしまった
天音(恐怖を感じると人間バレしやすくなるし、 なるべくコイツとは関わりたくないな。冷たく接しておこう)
天音「つーか、もう会いたくなかったんだけど」
魔王カオス「ふっ、そうだな」
天音(な、なんか喜んでないか!?)
天音(魔族のくせに男で人間のボクに告白をするなんてとんだ異常性癖野郎だとは思ったけど・・・)
天音(邪見にされて悦ぶなんて、本当にヤバい奴じゃないか!気持ち悪い!鳥肌が立つ!!)
魔王カオス「どうだ、あれから吾輩を拒んだ事を後悔しているだろう?吾輩は一度の失態を赦さない器ではない、今日はもう一度チャンスを・・・」
天音「え、何日考えようと無理なんだけど!?」
魔王カオス「んなぁっ!!????」
天音(なんで此奴こんなに自信満々なんだよ。モテ故自信? ちょっと人間のボクには理解できない)
魔王カオス「わ、吾輩をだぞ?」
天音「いや、てゆーか誰だよお前。昨日が初めましてだっただろ」
魔王カオス「・・・なんだと!!?」
変な奴に付きまとわれたな、もしかして芸能魔(?)とかなのか?
新聞部「お話し中すみません!カオス様!」
カメラみたいな物を持った魔族がボク達の間に割って入って来た。
自意識過剰ヤバ男に困っていたボクにとっては助け船だ。
新聞部「こんばんは!学校新聞部です!! 魔王カオス様、魔力測定の結果が現大魔王様の在学時よりも高い結果だったとお伺い致しました!」
新聞部「このニュースを聞いて学外の魔族達もカオス様は歴代で最も優れた大魔王になると噂しております!」
新聞部「学生時代のお父上の成績を上回ったご感想と、 今後の大魔王君臨への意気込みを是非お願いいたします!!」
・・・え?今何て言った?魔王?大魔王の父上?
魔王カオス「む、今忙しいのだが・・・」
新聞部「申し訳ございません!ですが次期大魔王であるカオス様のご活躍は魔界全体が注目する事ですので!!」
天音(魔界全体が注目・・・って)
天音「ちょ、ちょっと待て!!」
新聞部「なんですか?この小さいの!!!」
天音(お前よりは小さくない! って、そんなことはどうでもいい)
天音「おい、お前まさか・・・魔王なのか?」
魔界の王である大魔王。
その息子が魔王と呼ばれる事は知っていた。
けれど、魔界に友達のいないボクにそれ以上の情報を得る手段は無かった。
魔王カオス「知らなかったのか、世間に疎い奴め。 自由なのだな、そんなところも愛おしい」
天音「は?」
魔王カオス「・・・ふっ、 まさに吾輩こそ魔王族の後継者。魔王カオスだ」
魔王カオス「偉大なる父上を超える事は勿論、歴代のどの大魔王にも出来なかった偉業を成し遂げんとする野望を持っている」
魔王カオス「吾輩にとって過去の父上を超えるのは、野望の一歩に過ぎないな」
魔王カオス「・・・こんなもので良いか? 満足したら去れ、吾輩は今忙しいのだ」
新聞部「は、はいっ!素敵なコメントありがとうございます!!よっしゃー!新聞部総出で最高の一面を作るぞ!!」
魔王カオス「・・・・・・」
天音(え?いやいやいや。嘘だろ。大魔王って人類の為に絶対殺さないといけないやつで、コイツは放置したら次の大魔王になるってこと?)
魔王カオス「・・・さて」
天音(な、なんか距離が近くね?)
魔王カオス「吾輩はこうして丁寧に自己紹介をしてやったのだ。そろそろお前の名前くらい教えてくれても良いだろう?」
頭が追い付かない。つまりはこいつの父親が、人間界をめちゃくちゃにした悪の親玉。
天音(人類から幸せも未来も全て奪い去った極悪非道大魔王・・・の息子がコレ)
天音(・・・・・・宿敵である大魔王の息子。 近付くと危険そうだけど、役に立つかもしれないか?)
天音(駄目だ。予想外で頭が混乱してる。 これじゃあ直ぐに答えを出すのは難しい。今はこの場を凌ごう)
天音「・・・天音(あまね)」
天音「天音。ボクの名前だ。それ以上教える事なんかない」
天音「じゃ、じゃあな」
スパイとして、人類の為に危険な魔界に身を置く者として、ボクはどうするべきか。
今はただ安全な場所で考えたい。目の前の問題から逃げるようにボクはその場を去る。
天音(ボクは人間界の希望なんだ。 自分で判断して、最善の選択肢を選ばないと・・・)
天音(大魔王の息子かぁ。 近付くべきか、避けるべきか・・・)
〇要塞の廊下
──────数時間後
魔王カオス「・・・・・・」
モブ魔族女子生徒A「あれ?魔王様?こんなとこで固まってるよ」
モブ魔族女子生徒C「ほんとだ、何考えてるんだろー?でも、お悩みの姿も絵になるぅ」
モブ魔族女子生徒A「きっと、 魔界の行末に想いを馳せてるんだよー」
魔王カオス「・・・・・・・」
魔王カオス「ハッ!?」
魔王カオス(あまりの嬉しさに気絶してしまった。 ふむ、どうやらもう去ってしまったようだな)
魔王カオス(まるで幻想世界の風の如き掴みどころの無さ。浮世離れした性格と見た目にそぐわぬ凛々しい態度)
魔王カオス(そして魔界のどこを探しても無二と言い切れる愛らしい見た目・・・)
魔王カオス(そんなミステリアスな彼女の名前をやっと知ることが出来た)
魔王カオス「ふっ・・・・・・あまね、か」
魔王カオス「・・・名前まで、美しいじゃないか」
天音ちゃん(?)のいろんな感情、思惑とか何やらが表層化されてきましたね。それに気付かず一途な恋心を抱くカオス様、見ていて可愛く思えてきますw