エピソード32(脚本)
〇洋館の一室
僕たちは現場記録から出る。出ると言っても、精神だけが入っていたから、魔法陣から手を離しただけだ。
レストルア「それで、なんでしたか?」
僕が勧めた椅子にレストルアは腰掛けながら、そう問いかけてくる。
その正面に僕が座ると、ジョマが僕の隣に座った。機嫌を直したようではなさそうだけど、話に混ざるつもりの様だ。
ロク「あんまりなじみが無いから聞きたいんだけど、ガラスの加工について・・・・・・というより、物の加工についてかな」
レストルア「物の加工ですか・・・・・・どうしてまた?」
僕の疑問の意図を計りかねたのだろう。レストルアは不思議そうな顔でそう聞いてくる。
物の加工には、熱を利用する場合が多い。現在は魔法を使って火を起こしているだろう。使わない理由がない。
魔法は使い勝手が、かなり良いだろうから。でも、魔法がなかった時代はどうしていたのだろうか。
火を起こすのに、何か道具を使っていたのではと、僕は考えた。
それによって、魔法を介さず、火を起こせるのではと。当然魔力紋は残らない。
僕はその辺の話を、掻い摘んで問いかけて、レストルアの言葉を待つ。
レストルア「ロクは・・・・・・魔法史は苦手でしたか?」
クスクスとレストルアが笑う。苦手も何も、その分野を知らない。
というかそういうのがあるのに、ジョマは知らなかったのか。僕はジョマに視線を送る。
ジョマ「・・・・・・なんですか」
ロク「ジョマも、魔法史は苦手?」
ジョマ「魔法を使うのに、歴史は関係ありませんね」
まぁそうだけど。自信たっぷりに言うジョマに、レストルアは呆れた顔を見せた。
僕はそれほど呆れていない。合理的ではある。確かに歴史を知らなくても魔法は使える。
レストルア「まぁいいでしょう」
講義を始める合図の様に、一度咳払いをして、レストリアは言葉を続ける。
レストルア「産業史はそのまま、魔法史と言い換えられます」
ジョマ「別もんでしょうが!」
ジョマが、意味の分からないクレームの声をあげた。レストルアは無視すると決めたのか、一瞥もせずに話を続ける。
レストルア「先ほどロクは、魔法がない時代、物の加工はどうしていたのかと聞きましたが」
指を一本立てて、レストルアが続けた。
レストルア「勘違いが一つあります」
ロク「勘違い?」
レストルア「そう、前提が間違っていると言いますか・・・・・・おそらく、ロクは順序を勘違いしています」
ジョマ「勿体ぶるのやめてください! さっと言うですよ!」
続きを待つジョマが、耐え切れなくなったのか、文句を口にする。レストルアは一度ため息をつくと、口を開く。
レストルア「そもそも、魔法の発見があったから、産業が始まりました」
僕はレストルアのその言葉で、色々と理解する。そういう事か。
レストルア「なので、ロクの疑問に答えるのなら・・・・・・魔法がない時代に産業はありません、」
レストルア「なのでその観点から言えば、魔法無しで火を起こす方法はありません」