入れ替わりアフター

憑五郎

エピソード1『始まりは突然に・・・』(脚本)

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憑五郎

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〇二階建てアパート
  僕の名前は小住 悠司。36歳、独身。
  平凡なサラリーマンだ。
  親からは「あんたもそろそろ結婚したら」と言われてるが、人見知りでこれといった取り柄のない僕は一生独身だろうと悟っていた。
  そういえばこの前、上司にも「そろそろ結婚したらどうだ」と言われたけど、そんなに恋とか結婚とか大切かなぁ?
  ま、いいや。今夜はある人に呼ばれて、仕事帰りにとあるアパートにやってきた。
  
  ピンポーン

〇アパートの台所
島垣 彩華莉「うぃーーす!」
  ドアが開くと、パジャマ姿の女の子が現れた。彼女の名前は島垣 彩華莉。あいかわらずギャルっぽい軽いノリだ。
島垣 彩華莉「ま、入って入って♪」
  彼女は缶ビール片手にすっかりできあがっていた。まったく、これじゃあどっちがおっさんだかわからん・・・
  前に来た時は部屋は散らかっていたけれど、今はほとんどダンボールにまとめられていてスッキリとしていた。
島垣 彩華莉「なんか飲む?」
小住 悠司「水でいいよ」
島垣 彩華莉「アハハ~ せっかくだから飲みなよ~ ビールもあるよ♪」
小住 悠司「いいよ、水で。 それで、いつ引っ越すの?」
島垣 彩華莉「あさって♪」
  彼女は女子大を卒業し、県外への就職のため、最後の春休みを引っ越しの準備に費やしているところだった。
小住 悠司「そっかぁ。さびしくなるね」
島垣 彩華莉「アハハ、大丈夫大丈夫 車で4時間だからそんな遠くないって♪」
小住 悠司「大学の卒業式は終わったの?」
島垣 彩華莉「もちろん♪ おじさんが女子大を選んだせいで出会いが少なくて大変だったんだからね~♪」
小住 悠司「だ、だってあの時は元に戻れるかわからなかったから・・・」
島垣 彩華莉「アハハ♪ 冗談☆ 冗談☆」
  年齢も性格も職業も違う僕と彼女が仲良くしている光景を不思議がる人がいるかもしれない。彼女は親戚でも恋人でもない。
  彼女との出会いは今から5年前にさかのぼる──

〇通学路
  その日の朝、僕はいつものように出勤のために歩いて駅に向かっていた。
  そこに住宅街の曲がり角から彼女が猛ダッシュで飛び出して来たのだ!
  気づいた時にはもう遅かった。お互い思いっきりぶつかって吹き飛ばされた。
  いてて・・・
  お尻に激痛が走る
  体を起こすと、正面に見覚えのある人物が倒れていた。
  えっ・・・僕?
  なんで目の前に僕がいるんだ!?
小住 悠司「なんで目の前にあたしがいるの!?」
  もう一人の僕も僕を見て驚いていた。
  一体何が起きたんだ!?
  そういえばさっきから股がスースーする。僕は違和感を覚えて自分の体を見下ろした。
島垣 彩華莉「なんじゃこりゃあ!?」
  僕は女の子の制服を着ていた。それもただ着ているのではなくて、体も縮んでいて、完全に女の子になっていた。
  胸に手を当てると、ほのかに膨らみがあった。逆に股間を触ってみるとあるべきはずの物が無い!
小住 悠司「ウソ・・・なんであたしに付いてるの・・・」
島垣 彩華莉「もしかして・・・」
小住 悠司「あたし達・・・」
「入れ替わってる――!?」
  これが僕らの出会いだった──

〇通学路
島垣 彩華莉「ど、どうしよう・・・」
小住 悠司「おじさんごめんなさい! あたしこれから高校の入学式なんです! あたしの代わりに出てもらえませんか?」
島垣 彩華莉「えぇっ!?」
島垣 彩華莉「ぼ、僕が入学式に・・・?」
小住 悠司「はい!」
  切羽詰まった様子だったので、とりあえず連絡先を交換して、僕は彼女に教えてもらった場所に向かった。

〇名門校の校門(看板の文字無し)
  僕は彼女に教えてもらった場所にたどり着いた。入り口には『私立聖音女学園 入学式会場』と書かれた立て看板があった。
  よかった、合ってた・・・
  ・・・って、女子校!?
  僕が戸惑っていると、校門にいた女性が近づいて来た。
教師「あなた、新入生?」
島垣 彩華莉「は、はい・・・」
教師「何やってるの!? とっくに式は始まってるのよ!!」
島垣 彩華莉「す、すみません・・・」
教師「初日から遅刻とはいい度胸ね。 よほどうちでやっていく自信がおありなのかしら?」
教師「とにかく来なさい!!」
島垣 彩華莉「は、はい!!」
  なんで僕が怒られなきゃいけないんだ~
  理不尽すぎる・・・
  僕は女教師に連れられて、体育館へ入った。

〇体育館の舞台
???「その頃、聖母マリアのお腹には──」
  演壇ではすでに校長先生だろうか?修道服を着た老シスターの話が始まっていた。
  僕は女教師に腕を引かれ、空いてる場所に押し込まれた。
  ふぅふぅ・・・
  校長先生は何か話していたが全然頭に入らない。5分くらい経つと汗が引いて少し冷静に考えられるようになった。
  彼女の方は大丈夫だろうか・・・
  会社には「風邪で休む」って電話するように言ったから大丈夫だと思うけど・・・
  それにしても当たり前だが、女子校だから周りにいるのは女子ばかり。この子達が生まれた頃、すでに僕は高校生だったのに・・・
  まさか、また高校――それも女子校に入学するハメになるなんて・・・

〇アパートの台所
島垣 彩華莉「アハハハ!!!」
小住 悠司「今だから笑えるけどさ 当時は本気で焦ったんだよ」
島垣 彩華莉「でも、おじさんがあたしの代わりに女子校に通ってくれてよかった」
小住 悠司「なんで?」
島垣 彩華莉「あたしバカだから公立全部不合格でさ。あの学校にまぐれで受かったんだけど、行きたくなかったの」
島垣 彩華莉「だってミッション系の女子校ってなんかダサいし、校則も厳しくて窮屈そうじゃん」
小住 悠司「ま、まぁね(僕はあんまり感じなかったけど)」
島垣 彩華莉「でも親がさ、「絶対行け!あそこ以外の学校に行くなら学費は出さん!!」ってうるさくて」
島垣 彩華莉「多分親はさ、あたしをあそこに入れて清楚な乙女にしたかったんだと思うの。でも、無理だってーの」
小住 悠司「へぇ~ そうだったのか」
小住 悠司「そういえば入れ替わってる間、君の親から「あなたをあの学校に入れて正解だったわ♪」って喜ばれてたよ」
島垣 彩華莉「でしょ? おじさんが入ってる時のあたしは清楚だったから、やっぱりおじさんが通って正解だったのよ♪」
  そう言われるとなんだか複雑な気分がした
  でも、彩華莉ちゃんが細かいことを気にしない、前向きな子で良かった。
  事故とはいえ、普通、人生で一番楽しい女子高校生時代を見ず知らずの男に代わられたら、恨みを持ってもおかしくない。
  僕も入れ替わったのが彩華莉ちゃんで良かった♪

〇アパートの台所
島垣 彩華莉「あ、そうそう おじさんにプレゼントがあるんだ♪」
小住 悠司「プレゼント!?」
島垣 彩華莉「じゃーーん♪」
小住 悠司「こ、これは・・・ 聖音の夏服じゃないか・・・」
島垣 彩華莉「そうだよ♪ おじさんが着てた制服だよ♪」
  たしかに事実だが、そう正面切って言われると恥ずかしい・・・
島垣 彩華莉「あたしさぁ、これ着て学校通ったことないんだよね~」
  たしかに僕らは入学式の日に入れ替わって、卒業式の日に元に戻ったからなぁ・・・
島垣 彩華莉「あたしにとってはなんの思い入れもないし、持ってても引っ越しの邪魔だから、おじさんにあげるよ♪」
小住 悠司「そ、それじゃあ・・・」
  しょうがなく、僕は制服を受け取った。
  今触ると、本当にこれを自分が着ていたのだろうかと思うぐらい小さい。
島垣 彩華莉「あと、はい、卒業アルバム♪」
小住 悠司「うわぁ 懐かしいなぁ♪」
  パラパラとめくるだけで、体育祭、文化祭、修学旅行・・・当時の雰囲気や思い出がよみがえってくる。写真の力ってすごい。
島垣 彩華莉「あ、これおじさんじゃない?」
  彩華莉ちゃんが指さす写真を見ると、そこには僕が映っていた。

〇教会の中
  それは教会の中を写した写真だった。この日のことは覚えてる。3年生の課外活動で近所の教会に行った時だ。
  カメラマンのおじさんにたまたま近くにいたという理由だけで引っ張り出されて、シャッターを切られた。
  信じられないかもしれないけど、左に映ってるのが僕で、右に映ってるのは──
  3年間同じクラスで、僕の親友だった女の子──
  つづく

次のエピソード:エピソード2『偽りの親友』

コメント

  • 定番(?)の入れ替わりシーンから、会社員・女子高生をそれぞれ行い抜いたというのは驚きですね。それまで様々な苦労やトラブルもあったでしょうが、もちろん異性間の入れ替わりなので性的なものも含めて、どう過ごしてきたのか続きが気になります!

  • 見も知らぬ同士が運命のいたずらか大変な目にあったはずなのに、なんだかお互いを思いやっている感じが読みながらとても心地よかったです。すでに一件落着しているみたいの二人にこれから何かに起こるのか、興味津々です。

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