怪人は少女とともに復讐する(脚本)
〇中東の街
ボス・キロス「緊急会議を始める」
ソード「いえっさー」
ボス・キロス「おい、ダクリュオン席につけ。お前についての会議だ」
ダクリュオン「俺について?」
ボス・キロス「なんのことだか分かっていないようだな」
ダクリュオン「今日は戦闘中ミスをしていないし・・・」
ダクリュオン「というか俺は今まで一度もミスをしていない」
ダクリュオン「会議にかけられることなどないはずだ」
ボス・キロス「そりゃあミスはしないだろうなあ」
ボス・キロス「お前の取り柄はボディーの硬さだけ」
ボス・キロス「盾役として突っ立っているだけなんだから」
ダクリュオン「・・・っ!」
ボス・キロス「優秀なヤツを他のギルドから引き抜いた」
シザー「ヒィ! ヒィヒー、ヒィ!」
ボス・キロス「「当然ダクリュオンよりも役に立つ自信がある」と言っている」
ダクリュオン「くっ・・・!」
ボス・キロス「そういうわけで今日からお前の分のメシはない」
ソード「じゃあな〜、ダクリュオン」
ダクリュオン「お前! 10年以上も一緒に戦った仲だというのに・・・!」
ソード「行かないで〜、とか言って欲しいのか?」
ダクリュオン「クソッ! 覚えていろ!!」
ボス・キロス「フハハ!」
〇市街地の交差点
───── グゥ・・・ ─────
ダクリュオン「クソッ! ハラがへった」
──── タッ タッ タッ ────
ダクリュオン「ん? 足音・・・」
ダクリュオン(食い物が入っていそうだな。・・・よしっ)
ダクリュオンが少女に向かって駆け出した時──
玲奈「はっ!」
_「か、か、怪人を轢いちまったぁ!!」
玲奈「あ、あ、あ、ありがとう。助けてくれて」
ダクリュオン(俺が飛び出したんだが・・・)
玲奈「えっと、アリガトウ、ワカリマスカ?」
ダクリュオン「馬鹿にするな」
玲奈「おお、通じてる」
ダクリュオン「無事でよかった」
ダクリュオン(食い物が)
玲奈「怪人っていいヤツもいるんだね! 知らなかった」
ダクリュオン(単純なヤツだ)
玲奈「車にぶつかって、体とか平気?」
ダクリュオン「フンッ」
ダクリュオン「お前たち人間はそんなモロさでよく生きていられるな」
玲奈「・・・」
玲奈「生きてられないよ」
ダクリュオン「ん?」
玲奈「体も心もモロモロだから、頑張らないと生きていけない」
少女の目から涙が落ちる。
ダクリュオン(なんだ・・・? この感覚は・・・)
ダクリュオン(体が、熱くなっていく・・・)
ダクリュオンは少女の涙に触れた。
玲奈「慰めてくれてるの?」
ダクリュオン「ナグサメテとはなんだ」
玲奈「うまく言えないけど・・・」
玲奈「慰めてもらうと、気持ちが穏やかになるの」
ダクリュオン「であれば、お前もそれで俺をナグサメテくれ」
ダクリュオン「ハラが減っているんだ」
ダクリュオン「どこか隠れる場所を知らないか」
玲奈「たしかあっちに古い倉庫があるよ!」
ダクリュオン「よし、しっかりつかまっていろ」
ダクリュオンは少女を抱えて走った。
玲奈「ひーっ!」
〇荒れた倉庫
ダクリュオン「プハー、食った食った」
玲奈「全部食べちゃった・・・私の分が・・・」
ダクリュオン「俺は名をダクリュオンと言う」
玲奈「私は玲奈。ダクって呼んでいい?」
ダクリュオン「好きにしろ」
ダクリュオン「それよりレナがさっき目から流したものはなんだ?」
玲奈「涙のこと?」
ダクリュオン「ナミダと言うのか。もう一度出してみてくれ」
玲奈「いつでも出せるものじゃないんだよ」
ダクリュオン「いつなら出る」
玲奈「いつ、って言われても」
ダクリュオン「ナミダを見たとき、体の中が熱くなった」
玲奈「熱く?」
ダクリュオン「体の底から力が湧いてくるような・・・」
ダクリュオン「あれがなんだったのか知りたいんだ」
玲奈「・・・涙は悲しいときに出るの」
ダクリュオン「カナシイ、とはなんだ?」
ブルー「ここにいたか怪人め!」
ブルー「善良な人間の車を破壊するなど言語道断!」
ブルー「我々正義のヒーローが成敗する!」
玲奈「違うよ!」
ブルー「人質か!」
玲奈「この怪人は私を守ってくれたの!」
ブルー「怪人が人間を助けるはずはない! 早くこちらへ!」
玲奈「きゃっ! 引っ張らないで!」
ブルー「いくぞ怪人!」
ダクリュオン「フンッ、微塵も効かん」
ブルー「なにっ! ならばこうだ!」
ダクリュオン「つまらんな」
ブルー「逃すな!」
〇廃倉庫
ダクリュオン「しつこいヤツらめ・・・テヤッ!」
ブルー「うわぁっ!」
───── ペチッ・・・ ─────
「・・・」
ブルー「・・・なんだ? こいつ弱いのか?」
ダクリュオン「なっ・・・! 怪人をナメるな!!」
─── ペチペチペチペチペチッ ───
「・・・」
ブルー「それがお前の本気ならばこちらの勝ちだ!」
ダクリュオン「おっ・・・俺の体は鉄壁だ!」
ブルー「捕らえてしまえばいいだけのこと!」
レッド「一生牢獄にいてもらう」
ダクリュオン「やっ・・・! やめろっ!」
ブルー「大人しくするんだ! お前に勝ち目はない!」
ダクリュオン「離せ!!」
ブルー「さあ、あと少しだ。しっかり縛れ」
レッド「了解」
ダクリュオン「クソッ!」
その時──
玲奈「ダクを連れて行かないで!」
ダクリュオンの目に、玲奈の涙が映った。
ダクリュオン「熱い・・・! 力が・・・!」
ダクリュオン「ウオォーッ!!」
レッド「うわあっ!」
ブルー「力を隠していたのか!」
レッド「ぐわぁっ!」
ブルー「くっ・・・油断した」
ダクリュオン「この俺が、ヒーローを倒した・・・!」
玲奈「ダク! とどめを刺しちゃだめ!」
ダクリュオンは玲奈の腕を強くつかんだ。
玲奈「痛い! なにするの!?」
ダクリュオン「俺にはレナが必要だ。無理にでも連れていく」
玲奈「そんなことしなくても、私はダクについて行く」
ダクリュオン「なに?」
玲奈「もう帰るところがないし・・・」
ダクリュオン「なるほど。クビになったのだな?」
玲奈「クビ?」
ダクリュオン「俺も同じ状況だから聞かずとも分かる」
ダクリュオン「それで、レナを追い出したヤツを倒しに行くのか?」
玲奈「倒す!?」
ダクリュオン「追われた居場所は取り返さなければなるまい」
玲奈「ううん」
玲奈「私は新しい居場所を探す」
ダクリュオン「フフフッ」
玲奈「え?」
ダクリュオン「レナは新しい旅路の相棒に怪人を選ぶのか?」
玲奈「怪人っていうか、ダク」
ダクリュオン「おかしな人間だ」
ダクリュオン「だが俺には都合がいい。行こう、レナ」
〇中東の街
ボス・キロス「つまらん冗談はよせ」
ソード「あの情報屋の話がガセだったことはありませんぜ?」
ボス・キロス「じゃあお前は信じるんだな?」
ボス・キロス「ダクリュオンが一人で3人もヒーローを倒したと」
ソード「・・・」
ソード「ハッハハハ! 想像もつかねえや」
ボス・キロス「その情報屋初のガセネタだ」
ソード「違いねえです」
シザー「ヒィ!」
ボス・キロス「なんだ」
シザー「ヒィヒィ!」
ボス・キロス「ダクリュオンが近くまで来ている?」
シザー「ヒィ、ヒヒーィ」
ボス・キロス「人間の女を一人連れている?」
ボス・キロス「役立たずが役立たずを連れているな!」
ボス・キロス「片付けろ」
ソード「承知」
〇けもの道
怪人のアジトへの道中──
ダクリュオン「昨日は話の途中で寝てしまった」
玲奈「怪人って案外静かに寝るんだね」
ダクリュオン「続きを聞かせてくれ。カナシイという言葉について」
玲奈「もういいよ」
玲奈「いろいろ思い出して悲しくなるし」
ダクリュオン「いいではないか」
ダクリュオン「カナシイとナミダが出るのだろう?」
ダクリュオン「ナミダを出して俺にもっと力をくれ」
玲奈「そう言われると涙が引っ込む」
ダクリュオン「・・・」
玲奈「だからね、ダク」
玲奈「涙は自由にあやつれないから」
玲奈「いざっていう時に、私、役に立たないかもしれないよ?」
ダクリュオン「レナ、これを見てくれ」
玲奈「わっ!」
ダクリュオン「一度得た力は失われないらしい」
ダクリュオン「だからもうレナは必要ない」
玲奈「えっ?!」
ダクリュオン「だが、レナには大きな力をもらったから」
ダクリュオン「それに見合うものを渡さねばなるまい」
玲奈「見合うもの?」
ソード「ダクリュオン〜、なんの用っ・・・!」
ソード「ウはぁ・・・っ!」
シザー「ヒィ〜ッ!」
ダクリュオン「フンッ! ざまあみろ」
玲奈「・・・」
玲奈の足元にはダクリュオンに倒された怪人が転がっている。
玲奈「怪人の血も、赤いんだね」
ダクリュオン「怪『人』だからな」
玲奈「・・・」
ダクリュオン「怪人は元々、人だったらしい」
玲奈「・・・そうなの?」
ダクリュオン「作り話だろうがな」
ダクリュオン「誰も人だった時の記憶がない」
玲奈「・・・」
ダクリュオン「この先は怪人のアジトだ」
ダクリュオン「俺から離れないようにしつつ、うまく隠れろ」
玲奈「わ、分かった」
〇中東の街
ボス・キロス「のこのこと逃げ戻ってくるな!」
シザー「ヒィ!」
ボス・キロス「もう一度行ってダクリュオンを仕留めてこい」
シザー「・・・」
シザー「ヒィ〜!」
ボス・キロス「チッ! 逃げやがった」
ボス・キロス「ダクリュオン、よく来たな」
ダクリュオン「・・・」
ボス・キロス「すごい力を手にしたそうじゃないか。うわさは届いている」
ボス・キロス「歓迎するぞ」
ボス・キロス「お前の代わりに雇ったヤツをちょうど今追い返したところだ」
ダクリュオン「俺はキサマの元へ帰ってきたわけではない」
ボス・キロス「フンッ! 俺様が受け入れてやると言っているのに生意気な」
ボス・キロス「ダクリュオンごときが調子に乗るなよ?」
ダクリュオン「好きに言え」
〇中東の街
ダクリュオン「いくぞ!! ボス・キロス!」
ボス・キロス「・・・っ! こんな力をどうやって・・・!!」
ボス・キロス「くぅう・・・っ、熱い・・・!!」
ボス・キロス「頭の毛が燃え尽きそうだ! 馬鹿野郎!!」
ボス・キロス「ハァーーーーッ!」
ダクリュオン「・・・」
ダクリュオン「・・・」
ダクリュオン「俺の体が鉄壁だということを忘れたか」
ボス・キロス「ハッ・・・!」
ダクリュオン「わずかだが俺の攻撃はキサマに効いているようだな」
ボス・キロス「ぐぬぅ・・・」
シザー「ヒィ!」
ボス・キロス「逃げたんじゃなかったのか」
玲奈「離して!」
ボス・キロス「これは、例の人間の女だな!?」
ダクリュオン「レナ!」
ダクリュオン「おのれ!!」
シザー「ヒイィ〜!」
ボス・キロス「ほう? この人間がそんなに大切か」
ダクリュオンは玲奈に手を伸ばしたが──
ボス・キロス「そうはさせない!」
玲奈「・・・っ!」
ダクリュオン「クソッ!」
ボス・キロス「この人間の命が惜しければ」
ボス・キロス「二度とここへは来ないと宣言しろ」
ボス・キロス「そのままここを出て、森を抜けたら人間を返してやる」
ダクリュオン「断る」
ボス・キロス「フンッ! やはり人間にそこまでの価値はないか」
玲奈「そんな・・・!!」
ダクリュオン「俺はこのアジトを奪いに来たのだ!」
ダクリュオン「のこのこと引き下がりはしない!」
ボス・キロス「めんどくせぇ野郎だ!!」
ボス・キロス「本気でツブす!!」
ボス・キロス「ウラアッ!」
ダクリュオン「ここを俺と、レナの居場所にするのだ!」
玲奈「ダクと・・・私の?」
ボス・キロス「テアァッ!!」
ダクリュオン「レナ。ここは案外いいところだ」
ダクリュオン「水が綺麗なところが特にいい」
ボス・キロス「ヌオラッ!!」
ダクリュオン「きっとレナもここを気に入る」
ボス・キロス「さっきからなにをゴチャゴチャ言っている!!」
ダクリュオン「ナミダをもらったかわりに、俺は居場所を渡そう!!」
玲奈「私の、居場所を・・・?」
玲奈「・・・」
玲奈「嬉しい・・・!」
玲奈「ありがとう・・・! ダク!」
その時、玲奈の目から──
ダクリュオン(・・・体の底から力が湧いてくる!)
ダクリュオン(破裂しそうなほどのエネルギーが!!!!)
ダクリュオン「これで終わりだボス・キロス!!」
ボス・キロス「なんだっ!?」
ボス・キロス「ウガアアアッ・・・!」
ボス・キロス「この・・・俺様が・・・」
ボス・キロス「・・・カハッ」
ダクリュオン「やった・・・!」
ダクリュオン「やったぞーーーー!!」
〇空
アジトでの穏やかな日々は過ぎ
ひと月ほど経った頃──
〇中東の街
ダクリュオン「本当に行くのか」
玲奈「うん。旅に出る」
ダクリュオン「結局、『悲しい時のナミダ』と『嬉しい時のナミダ』しか効果はなかったな」
玲奈「タマネギ切ったりワサビ食べたり大変だったよ」
ダクリュオン「それが出ていく理由ならば謝ろう」
玲奈「違う違う」
ダクリュオン「・・・」
玲奈「ダク、ありがとう」
ダクリュオン「ん?」
玲奈「涙は嬉しい時にも出るって思い出させてくれて」
ダクリュオン「俺はなにもしていない」
玲奈「あくびをした時とか、大笑いした時とか」
玲奈「涙は悲しい時だけのものじゃないよね!」
ダクリュオン「レナが大笑いした時の涙はとても心地いい」
ダクリュオン「ここに留まってはくれないか?」
玲奈「・・・ダク」
玲奈「怪人は、どうしてもヒーローと戦わなくちゃならないの?」
ダクリュオン「当然だ。我々はそのために在る」
玲奈「私ね、最近」
玲奈「ダクが涙の力でヒーローと戦うのがやるせないの」
ダクリュオン「ヤルセナイ、とはどう言う意味だ?」
玲奈「なんていうか・・・もうここでは大笑いできそうにないんだ」
ダクリュオン「ヤルセナイから?」
玲奈「そう・・・」
ダクリュオン「そうか」
ダクリュオン「これからもレナの居場所はここにあることを忘れるな」
玲奈「うん・・・! ありがとう!」
玲奈「それだけで私、頑張れる!!」
ダクリュオン「さらばだ。レナ」
シザー「ヒー?」
ダクリュオン「ああ、行った」
シザー「ヒイ」
ダクリュオン「ん?」
ダクリュオンは自分の頬をつたう雫をぬぐった。
ダクリュオン「雨か?」
ダクリュオン「違うな」
ダクリュオン「なにかが足りないような気持ちだ」
シザー「ヒィ?」
ダクリュオン「胸の辺りがぽっかりくり抜かれたような・・・」
シザー「ヒィ!?」
ダクリュオン「レナであればこの気持ちをなんと言うか言葉を知っていただろうな」
シザー「ヒィ〜イ」
ダクリュオン「・・・」
シザー「・・・」
ダクリュオン「こうしていても仕方がない。ヒーロー狩りの準備をするぞ」
ダクリュオンは玲奈が消えていった方へ向かい、叫んだ。
ダクリュオン「レナ!」
ダクリュオン「きっと、また会おう!!」
〇空
END
玲奈から人間の感情を一つ一つ学んでいくダクリュオンの姿が健気でした。ラストで初めて流した涙の感情はダクリュオンだけの宝物ですね。
レナとダクリュオンの出会いは偶然ではなく必然だったんだと思うほど、二人の気持ちが徐々に近づき、分かり合える存在になったことがとても嬉しかったです。
とてもハートフルな物語ですね!ダクが玲奈の涙を通じて、人間とその感情を少しずつでも理解しようとする過程が細やかに描かれていて胸を打ちます!