街を射す『闇』

春島傑郎

読切(脚本)

街を射す『闇』

春島傑郎

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〇黒
  人類の約0.2%が超人となった世界。
  力を善行に使う者はヒーロー、悪行に使う者は怪人と呼ばれた。
  いつしかヒーローや怪人は当たり前となり、現代ではビジネスとして成立している。

〇黒
  ・・・・・・
  くたびれたアパートで、怒号と悲鳴、酷い物音がしていた
  「おい待ってくれ。もうやめてくれ!!」

〇血しぶき
  聞くに絶えない断末魔。
  
  男は泣き崩れる事しか出来なかった。

〇店の事務室
  小汚い事務室に着信音が鳴り響く。
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「もしもし。何の用だ?」
  『相変わらず愛想の無い。仕事の依頼だよ』
  声の主は古い仲の仲介業者だ。
  俺みたいな弱小事務所にとっては必要な存在だが、その分仕事の質は悪いことが多い。
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「内容は?」
  『昨夜、三丁目のアパートが襲われた。
  その犯人を見付けて欲しいそうだ』
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「ここは怪人事務所だぞ? そんな事はヒーローに頼むのが筋だろう?」
  『その辺のヒーローには荷が重そうでな。
  大手に頼む予算もないそうで、お前に回したって流れだ』
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「面倒だ。断る」
  『まぁ聞けよ。被害者は一般の住人が数人と、元ヒーローのグローマンだ』
  グローマンはヒーローでありながら怪人とも親しくする珍しい奴だった。
  地域住民からも人気で、俺の数少ない飲み仲間でもある。
  『一般住民は軽傷だが、グローマンは死んだそうだ』
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「命懸けで住民を守ったてとこか。 引退しても変わらん奴だ」
  『そろそろ依頼人が来る頃だ。詳細はそいつに聞いてくれ』
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「受けるとは言って──」
  プツリと電話は切れた。
被害者「黒川さんの事務所で良いでしょうか? 例のアパート襲撃の件で伺ったのですが」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「はぁ・・・ 調査にあたり犯人の特徴と動機を頼む」
被害者「引き受けてくれるんですね! 動機はアパートから立ち退きさせる為の脅迫行為だと皆言っています。 都市開発に邪魔だとか・・・」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)(よくある話だな)
被害者「風貌は黒くて、獣のような・・・ 角があって鬼みたいな怪人でした」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「それでお前はどうしたい? そいつに復讐でもするか?」
被害者「復讐だなんてそんな・・・ 悔しいのは確かだけど、僕達は元の生活を取り戻したい」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)(怪人の出る幕じゃねぇんだよな・・・ まぁいいか・・・)
  こうして黒川は渋々と調査を開始することとなった。

〇個別オフィス
  とある大手怪人事務所にて──
秘書「日野様。 アポ無しで面会希望の方が来ておりますが、追い返しましょうか?」
日野郷(ひの ごう)「僕みたいな大物にアポ無して舐めてんか? なんて奴?」
秘書「黒川瑛二と名乗っているそうです」
日野郷(ひの ごう)「アイツかぁ!通してええよ」
秘書(えぇ!?珍しっ)
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「忙しい所、悪いな。聞きたいことがある」
日野郷(ひの ごう)「なになに? 面倒事は大歓迎やで」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「三丁目のアパート襲撃の犯人を追っている。 情報が欲しくてな」
日野郷(ひの ごう)「しょうもな。 何があったかは把握してるけど、関与してへんし、ウチの者でもないで」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「怪人が事を起こして、お前が知らないなんて事があるのか?」
日野郷(ひの ごう)「知らんもんは知らん そんな話やったら帰れや」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「お前の身内だったら加減してやるつもりだったんだがな」
秘書(ちょっとこのオッサン何者なの? 闇の三柱と渡り合った大怪人の社長を煽るなんて・・・)
日野郷(ひの ごう)「その言い方やと、どっちゃせぇ僕の身内でも手出すゆうことやんか。 あんまイキってると──」
炎帝「燃やすぞコラァ」
秘書(ぎゃー!!変身しちゃったじゃん 熱い熱い、お肌が〜)
炎帝「丁度ええやん。ムカついたし昔の決着つけよや」
秘書「落ち着いてくださいよ こんな所で暴れたらオフィスが滅茶苦茶に」
炎帝「じゃかましい!俺に指図すなボケェ」
秘書(パワハラ怖い〜 給料良いから我慢してるけど限界かも・・・)
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「──いや、お前とは相性が悪いからな。 今日は帰るよ」
日野郷(ひの ごう)「なんやおもんな」
  黒川は扉に向かう。
日野郷(ひの ごう)(ほんま腑抜けたなぁこいつ なんか萎えてもたわ)
日野郷(ひの ごう)「・・・・・・」
日野郷(ひの ごう)「そいつ怪人やないんちゃうか?」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)(なるほどな)
  黒川は片手を軽く挙げ、部屋を出た。
日野郷(ひの ごう)「怒ってごめんな。後でバッグ買ったげるから許して」
秘書「やった! じゃあ今度、領収書持ってきます〜」
秘書(ムカついたから2個くらい買ってやる!!)
日野郷(ひの ごう)(にしても確かに気になるな。 僕の方でも調べてみるか)

〇屋上の隅
  例のアパートの立ち退きで、都合の良い有力者は、最近ご活躍の政治家先生だ。
  ひとまずこいつに的を絞ろう。
  問題は実行犯をどう割り出すか。
  日野のアドバイスからヒーローに絞って探ってみるか。
  政治家先生と懇意にしているヒーローも粗方調べたが、割と数がいる。
  今回の件で絡んでる奴はだれか?
  はたまた全員か?
  とりあえず政治家先生をつついてみるか。

〇ビルの裏通り
  ターゲットの行動を暫く監視した黒川は、ついに接触を試みる。
黒川瑛二(くろかわ えいじ)(いつも通りならそろそろ出てくるな)
豪鬼「あれっ!?」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「随分なご挨拶だな」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)(聞いていた特徴と一致するな。 まさか自分から出てくるとわ)
豪鬼「運良く避けられたみたいだな」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「日頃の行いかな? 俺は一般人なんだ。手荒な真似は勘弁してくれないか?」
豪鬼「いや、お前は始末するように言われている」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「言われている? 例の政治家先生か?」
豪鬼「政治家?」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)(あまり賢くはなさそうだな。 こいつの裏にいるのは政治家ではないか──)
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「おっと。 やめてくれよ」
豪鬼「なんで当たらない? なんか変だぞお前」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「冥土の土産に教えてくれ。 グローマンを殺ったのはお前か?」
豪鬼「グローマン? あぁ、あの老いぼれヒーローか。 大した事なかったぜ」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)(・・・・・・)
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「よし。殺してみろ」
豪鬼「なんだ急に? ボコボコにしてやるぜ」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)(物理攻撃特化の変身か。 そこそこ早いが、これにグローマンがやられるとも思えん)
豪鬼「ちょこまかと〜」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「グローマンとやったときは人質でも取ったか?」
豪鬼「なんだぁ?お前もあそこにいたのか?」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「・・・・・・」
豪鬼「・・・? そろそろ観念して殺されるんだな」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「いや、もうチャンスはない」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「日が落ちるからな──」

〇ビルの裏通り
豪鬼「日が落ちたからって──」
豪鬼「・・・・・・ぐぅえ」
豪鬼「お前やっぱり怪人か? 人型でなんでそんなに強い?」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「年季が違うんだ。 観念して雇い主を吐け。 そしたら生かしてやる」
アパート襲撃犯「言います・・・ ヒーローの迅雷に雇われました」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)(迅雷・・・ 確か新人王候補のヒーローか。 悪い噂は聞かないが)
アパート襲撃犯「僕のヒーロー参入を後推ししてくれる約束だったんだ」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「ヒーロー? 自分に適正があると?」
アパート襲撃犯「変身すると見た目が恐くなるのがネックですかね?」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)(ダメだこいつわ)
アパート襲撃犯「迅雷との約束は守れなかったから、おじさん僕に仕事くれない? この際、怪人でもいいや」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「・・・」
アパート襲撃犯「僕腕には自信あるんだ。 何だってやるよ」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「・・・・・・」
アパート襲撃犯「え!?だめ?」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「いや、いいぞ。 今度うちの事務所に来い」
アパート襲撃犯「やったー!! ありがとうおじさん」
アパート襲撃犯「本当かなあいつ」
  黒川を訝しむ彼の影から、鋭利な刃物の様なものが飛び出した。
  それは彼の胸部を勢いよく貫いた。
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「今度があればな」

〇柔道場
  道場にて汗を流す風間青年。
  彼のヒーローネームは迅雷。
風真 迅(かざま じん)「ふぅ・・・」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「道場付きの事務所なんて凄いな。 流石は若手ナンバーワンてとこか」
風真 迅(かざま じん)「どうやって入ったんです? 警備が居たはずですが」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「潜入に向いてる能力でな 俺が誰かは分かってるんだろ?」
風真 迅(かざま じん)「嗅ぎ回っている弱小怪人。 いや、彼を倒したのなら弱小ではないですね」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「あっさり吐くんだな。 特大スキャンダルだぜ?」
風真 迅(かざま じん)「彼が失敗した時は元々、自分で始末を付けるつもりでしたから」
迅雷「残念ですが、死人に口なしというやつですよ」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「くっ・・・」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)(速いな・・・ 剣の召喚に特大の身体能力向上てとこか)
迅雷「なぜ変身しない?」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「・・・・・・」
迅雷「戦意喪失か? 悪いが容赦しない」
迅雷「はぁーーーーー!!」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「はぁ・・・はぁ・・・ 流石にこのままじゃ無理か」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「・・・・・・」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「あんまり人に言うんじゃねぇぞ?」

〇柔道場
迅雷(──辺りが暗くなった?)
迅雷「この悪寒は・・・・・・」
迅雷「・・・・・・!!!?」
迅雷「馬鹿な!!!? その姿は!!!? 元闇の三柱の────」
常闇「お喋りの前にケリを付けようか?」
迅雷「・・・・・・・・・」
迅雷「ふぅ・・・ふぅ・・・ うわぁーーーーー!!!!!」
迅雷(消えた!?)
  うしろだ
迅雷「がはっ!!」
迅雷「夜が更ける程に強くなり、影から影への移動 、影からダークマターを生みだすだったか?」
常闇「えらく詳しいな」
迅雷「教科書で習うんだよ・・・ 闇の三柱の一人、大怪人”常闇”てな」
迅雷(力の差は歴然。全力の一撃にかける。 もし生き残れたら、先生とは縁を切って、やり直そう)
迅雷「これで最後だ!!いくぞっ!!」
  迅雷の渾身の一振に拳を合わせた常闇。
  剣は砕け散り、そのまま拳は迅雷の胸部にも炸裂した。
迅雷「罰を与えてくれるのはヒーローとばかり思っていたが──」
風真 迅(かざま じん)「──まさか怪人とはな。 それもとんだ大物・・・・・・」
常闇(気を失ったか)
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「次は政治家先生の番だな」
  いや〜流石やなぁ
日野郷(ひの ごう)「期待のルーキーが手も足も出んとは」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「お前まさかずっと尾けてたのか?」
日野郷(ひの ごう)「まぁそんなとこ。 その子殺さへんの?」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「更生のチャンスをやる。 根っからの悪党とは思えん 悪いのは──」
日野郷(ひの ごう)「例の政治家先生や。 迅雷君も可哀想やね。 子供の頃から面倒見てもろた恩を利用されて」
日野郷(ひの ごう)「いっぺんでも悪事手伝ったら一生それで揺すられて、ええように使われるだけやのに」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「本人は一度きりだとでも思っていたんだろう」
日野郷(ひの ごう)「まぁなんにせよ政治家先生はもう僕の手駒や」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)(今回の件で、弱みを握ったてとこか)
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「お前だけ美味しい思いをするのは感心しないな いくつか要求したい」
日野郷(ひの ごう)「ええもん見れたし、飲んだるわ」

〇黒
  翌日、ニュース速報にて都市開発の見直しが発表された。
  これによりアパートの立ち退きの件も無くなる。
  アパート襲撃の件は、街の有力者の私財で、被害が全額補填されるという美談となった。
  迅雷の負傷による活動休止も報道され、誰の仕業かと世間の注目を集めたが、真実は闇の中である・・・

〇立ち飲み屋
  黒川のスマホが震える
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「なんだ?」
  『愛想の無い奴だ。この前はうまくやってくれたようで』
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「久々に骨のある仕事だったよ」
  『それで一つ誤情報があったようでな。もう着くからそのまま居てくれ』
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「切りやがった。何なんだ?」
グローマン「よぉ〜」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「なっ!!!? グローマン!!!?」
グローマン「生きてるよ〜 俺は身体が伸縮するから死んだように見えたみたいだな」
グローマン「死んだと思って泣いたらしいな?」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「泣いてねぇわ!!」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)(あ・・・ でも一人殺っちまったな)
グローマン「さぁ飲むぞ〜 入院してた分までなぁ」
黒川瑛二(くろかわ えいじ)「お・・・おーー!」

〇黒
  終

コメント

  • グローマンのオチで笑いました。
    シリアスでニヒルな主人公がまさかの脇役に持っていかれるとは。
    キャラがそれぞれ個性的で、面白かったです。

  • 「実は強い主人公」
    いいですね、そういうの好きです!
    最後にグローマン出てきたの良かったです!

  • 普段やる気がなさそうというか…いざというときまで力を見せないキャラクターってすごくかっこよく見えますよね!
    最初から力を見せびらかすと三下に見えますしね笑

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