怪人フレルージュの戯言(脚本)
〇アパートのダイニング
子供「うわーん! たすけてー!」
子供「あづいよぉー! やだよぉー!」
〇中規模マンション
「おい、ヤベーだろ! 子供がいるぞ!」
「消防車まだかよ!?」
「誰か助けに行ってやれよ!」
「行けるわけねーだろ!」
「・・・くそぉっ!」
〇アパートのダイニング
子供「・・・だれ・・・か」
子供「たす・・・け・・・」
怪人「今助けます!」
〇中規模マンション
「・・・んん?」
「どうした?」
「今、なんか中から出てこなかったか?」
「気のせいだろ? ・・・それより、子供の声・・・聞こえなくなっちまった」
ウー! ウー!
ピーポーピーポー!
「やっと来た・・・」
「今頃来ても遅いんだよぉ!」
「・・・くそぉっ!」
〇ゆるやかな坂道
怪人「はぁっ、はぁっ・・・」
怪人(気を失いましたね・・・)
怪人(命に別状はなさそうですが、 さて・・・どうしましょうか)
記者「見つけたわ!」
記者「その子をどうするつもり!?」
怪人「おや、これは不覚です」
記者「火事もあなたがやったの!?」
怪人「私ではありません」
怪人「・・・が、それを証明する方法もありません」
記者「それじゃ信じられるわけないでしょ!」
怪人「そうでしょうね」
怪人「・・・何を言っても、所詮怪人の戯言ですから」
記者「戯言?」
怪人「えぇ、まぁとにかくこの子は返します」
怪人「もう関わりあいにならないことを祈ってますよ」
記者「あっ!ちょっ!」
記者「なんなのよ」
記者「まぁ、写真は撮れたし、これを使うことにならなくてよかったとしましょう」
記者(・・・変な怪人)
〇オフィスのフロア
編集長「メイコ君、怪人放火事件のスクープご苦労だったな」
メイコ「はい、ありがとうございます」
メイコ「えっと・・・ですが、確かに重要な容疑者ですが怪人が犯人と決まったわけでは・・・」
編集長「何を言っているんだ! 他に誰がいる? 君だって疑ってただろう?」
メイコ「え、ええ、 それはもちろん怪しいと思ってますが・・・」
編集長「じゃあいいじゃないか」
編集長「これは君の、そして我が社のスクープだ!」
編集長「記念に持って帰るといい」
メイコ「ありがとうございま・・・」
メイコ「ちょ、ちょっと待ってください! 私が書いた記事と違います!」
編集長「おや、そうだったかね?」
編集長「だが紛れもなく君の写真、君のスクープだ。 その功績を横取りする気はない。 気を悪くしないでくれ」
メイコ「・・・」
メイコ「・・・はい」
〇荒廃した街
怪人(やってくれましたね)
怪人(ただでさえこの怪人街を出たら目立つというのに)
メイコ「見つけたわ」
怪人「あなたは・・・」
怪人「ここは『怪人』の街。 あなた方『一般人(コモン)』が来るところではありませんよ」
メイコ「中に入るつもりはないわ」
メイコ「区域の入口付近でもし見かけたら、くらいの気持ちだったけど、運がよかったわ」
怪人「運・・・ そうですね、”スクープ写真”も撮れたようですし」
メイコ「あ・・・見たのね・・・ それを謝ろうと思って来たの」
メイコ「写真は確かに私の撮ったものよ」
メイコ「記事も、私が書いたものが載るはずだった。 そこでは犯人か救世主か特定はしてなかったの」
メイコ「勝手に内容を変えられていたの」
怪人「・・・そうですか」
怪人「それを言ってあなたはどうしたいのですか? 『良いですよ、気にしないで』という言葉を期待しているのですか?」
メイコ「そ・・・それは・・・」
怪人「どうぞお気になさらずに。 それが『一般人』の普通の考え方ですよ」
メイコ「・・・」
怪人街の住民「『一般人』め! 死ねぇーーー!!」
メイコ「ひぁっ・・・!!」
怪人「やめなさいっ!」
怪人街の住民「ぐうっ!」
メイコ「・・・な、なんで!?」
怪人「ここは『一般人』に恨みを持っている人達も多くいます。 ですからこんなところに来るべきでは──」
メイコ「そうじゃなくて!」
メイコ「危険な目に合う覚悟はあった。 あなたはどうして恨んでいるはずの私を助けてくれたの?」
怪人「そんなに不思議ですか?」
怪人「・・・犬に嚙まれたことがあり、犬を嫌っている人がいたとします」
怪人「でも今、その人の目の前で犬が川で溺れそうになっています」
怪人「そんな時、あなたならどうします?」
メイコ「・・・助けようとするわね」
怪人「それと同じです」
怪人「私は私たちを排斥しようとするあなた方は嫌いです」
怪人「ですが、あなたは危険と分かっているのにわざわざ謝りに来た」
怪人「それで悪い人ではないことはわかります」
怪人「そんな人が目の前で大けがをしそうだから助けた。 何ら不思議ではないと思います」
メイコ「犬・・・ね。 あはは、そうね」
怪人「もういいでしょう。 帰りなさい。また危険な目にあいたくなければ」
メイコ「そうね──。 でも最後に、もしよかったら名前を聞かせて」
怪人「・・・ 本名は自分でも知りません。 ですが、私を育てた人はこう呼んでました」
怪人「『怪人フレルージュ』と・・・」
メイコ「あ、待って!」
メイコ(・・・行ってしまったわ)
メイコ(ここにいても危ないし・・・帰ろう)
〇荒廃した街
フレルージュ(おかしな人でしたね)
フレルージュ(私も名前を聞いておけば良かったでしょうか)
フレルージュ「・・・」
フレルージュ「はは・・・何を」
フレルージュ(名前を聞いたからってどうなるというんでしょう)
「ミライ様が・・・て・・・を・・・さ」
フレルージュ(内容はよく聞き取れなかったが『ミライ様』と言っていたな)
フレルージュ(最近この名前をよく耳にしますね)
フレルージュ(ここ最近多発している怪人達の事件に関係しているかもしれません)
フレルージュ(試しに後をつけてみますか)
〇港の倉庫
フレルージュ(いかにも怪しいですね)
「ありがたいねぇー、ミライ様に直接お会いできるなんて」
フレルージュ(かなりの人数・・・聞こえてくる話から初めてくる怪人も多そうですね)
フレルージュ(私は夜闇に紛れられませんし、ミライ様に会いに来たということにして、付いて行ってみますか)
〇廃墟の倉庫
フレルージュ(ここは、今は使われていない倉庫でしょうか・・・?)
フレルージュ(50人くらいはいそうですね)
フレルージュ(これだけの怪人が集まっていると知られたら、それだけで大事件ですね)
怪人「サァ、皆注目してくれ」
怪人「ミライ様、どうぞ」
ミライ「やぁ、みんな。ようこそ」
フレルージュ(『一般人』!?)
ミライ「いやぁ~、しっかし集まったねー。 壮観壮観」
ミライ「今日は初めての人が多いようだから念のため言っておくけど、僕も怪人だからね」
ミライ「ま、こんな感じで水が操れるけど、それよりこの頭脳の方が僕の武器かな」
ミライ「普段はこの見た目を活かして『一般人』として生活してるけどね」
ミライ「さて、あまり時間をかけて警察が来ても面倒だから本題に入るよ」
ミライ「僕らを排除しようとする『一般人』たちに復讐したくない?したいよね?」
ミライ「昨日の火事だってせっかく良いところまでいったのに、被害者ゼロだって」
フレルージュ(あの火事は意図的な犯行だったのか)
ミライ「だから、もっと大きな事件起こしちゃおうかなって思ってるんだけど、どう?」
いいぞいいぞー!
ミライ「あはは、ありがとう」
ミライ「でね、今日は仲間を集めに来たんだ」
ミライ「念のため、『一般人』への恨みの強さを見る、とっても簡単なテストだけさせてもらうよ」
ミライ「おい」
怪人「ハッ」
怪人「オイ、こっちだ!」
ミライ「こいつは、昨日の火事の記事を書いた記者だ」
ミライ「何の証拠も無しに怪人が犯人だと断定した記事だったよ」
ミライ「全ての怪人がこういった事件を起こす予備軍だってさ」
メイコ「違っ・・・それは私じゃなくて──」
ミライ「うるさい!」
ミライ「こういう記事がどんどん怪人の立場を悪くしていくんだ」
ミライ「そう思わないか? この記事に犯人として写真で載っているフレルージュ君」
ミライ「そんなに驚かないでくれよ。 言っただろう? 僕は頭脳が武器なんだ」
ミライ「あの写真は君が男の子を救った写真だろ」
ミライ「なのに君は犯人にされた」
ミライ「腹が立つよねぇ?殺したくならない?」
ミライ「だからテストは簡単だ。 この女を殺しなよ」
ミライ「あぁ、後始末は気にしないでいいよ。 僕らがちゃんと処理しておくから」
フレルージュ「・・・」
フレルージュ「・・・分かった」
ミライ「ふうん、素直だね」
フレルージュ「逃げます。しっかり掴まっていてください!」
フレルージュ「はっ!」
ミライ「ま、そうなるよね──」
フレルージュ「くっ!」
怪人「ヤハリ、ミライ様の予想通り」
怪人「逃さぬ!」
フレルージュ「ぐぅぅっ・・・!!」
フレルージュ「はあぁっ!」
ミライ「ふぅん、人一人抱えて、思ったより粘るね」
フレルージュ「・・・はぁっ、はぁっ・・・」
メイコ「・・・! ひどい怪我・・・」
メイコ「それに・・・半身の火傷もどんどんひどく・・・」
フレルージュ「怪人の力には対価が必要ですからね」
フレルージュ「私の半身は一般人に近いので、力を出すために火力を上げるほどこうなります」
メイコ「なんで・・・こんな迷惑をかけている私のためなんかに」
フレルージュ「あなたのため?」
フレルージュ「はははっ!」
フレルージュ「それは違います」
フレルージュ「私はただ目の前のか弱きものを救っているだけですから」
フレルージュ「ま、結果が伴わなければ、それこそただの戯言ですがね──」
ミライ「足手まとい連れた手負いのヤツにいつまで時間かけるのさ」
怪人「ハハッ、不覚の至り」
怪人「誰でもよい、捕まえろ!」
「待てー!」
フレルージュ「くっ!」
〇港の倉庫
メイコ「雨!?」
フレルージュ「・・・くっ・・・はぁっ、はぁっ」
フレルージュ(まずいな・・・ 火の力が弱まる)
ミライ「そう簡単には逃がさないよ?」
ミライ「おい──」
怪人「ハァッ!」
フレルージュ「ぐぅっ!」
怪人「イマだ!」
メイコ「きゃあ!」
怪人「ミライ様、捕らえました」
ミライ「うん、よくやった」
ミライ「キミも加勢してきなよ」
怪人「ハッ!」
メイコ「フレルージュ! 私のことは気にしないで逃げて!」
フレルージュ「ははっ! 私が『一般人』から名前で呼ばれ、なおかつ心配される日が来るとは思いませんでした」
フレルージュ「少し熱いですが、我慢してくださいね」
怪人「死ねぇ!!」
フレルージュ「はぁぁっっ!!」
フレルージュ「まだまだ行きますよ!!」
〇港の倉庫
「ぐああぁぁっ・・・!!」
〇港の倉庫
ミライ(雨の中でこの火の威力── どうなってんだこの怪人)
ミライ(予想以上にもほどがある)
メイコ(気がそれた!? チャンス!)
ミライ「ぐあっ・・・!!」
ミライ「く・・・はは、油断した」
フレルージュ「・・・っはぁ、はあっ・・・」
メイコ「大丈夫!? 今のうちに逃げるわよ!」
フレルージュ「ははっ、あなたも無茶をしますね」
メイコ「そんなことどうだっていいの、肩貸してあげるから、ほら!」
ミライ「完璧な計画がいくつかの予想外でこんなに簡単に崩されるなんて」
ミライ「フレルージュ・・・」
ミライ「最高だよ」
〇空
二人は怪人街の近くまで逃げ
追手が来ていないのを確認すると
メイコは急ぎ新聞社へと向かった
そして数時間後、
間もなく夜が明ける──
〇荒廃した街
フレルージュ「・・・」
フレルージュ(そんなに長く住んでいたわけではないのに、意外と愛着がわくものですね)
メイコ「待って」
フレルージュ「帰ったのではなかったですか?」
フレルージュ「こんな所にいたら危ないですよ」
メイコ「大丈夫よ。 これ持ってるからね」
フレルージュ「はは、そうでしたね」
メイコ「・・・行くのね」
フレルージュ「えぇ、ここは私を知る人が多くなりすぎました。 今回の件で私を非難する怪人も多いでしょう」
メイコ「これ!」
フレルージュ「新聞・・・ですか?」
メイコ「ええ、できたてのね」
フレルージュ「・・・」
フレルージュ「・・・ははっ」
この事件を通して社会の歪みを垣間見た。
怪人は一般人とは違うが、同じ人である。
悪を働く者もいれば、人を助ける者もいる。
互いに安寧な生活を守るためにも、互いを知る努力も必要なのだ。
フレルージュ「今までの記事を考えると、ずいぶんと怪人側に歩み寄った内容ですね」
フレルージュ「よく許しが出ましたね」
メイコ「ううん、また怪人を悪者にする内容に差し替えられたわ」
メイコ「だから、印刷直前に印刷部門に直接、急な変更って嘘ついて元のに差し替えなおしたの」
フレルージュ「は、はははっ! そんなことをしたら──」
メイコ「うん、クビ──でしょうね」
メイコ「でも、これが私の本気!」
メイコ「フリーでも何にでもなってスクープ取ってしぶとく生きてやるわよ!」
フレルージュ「ははっ、全くおかしな人だ」
フレルージュ「・・・名前を聞いてもいいですか?」
メイコ「ええ、もちろん」
メイコ「私はメイコよ」
フレルージュ「そうですか、覚えておきます」
フレルージュ「・・・あなたなら怪人と一般人の垣根を無くすきっかけとなれるのかもしれませんね」
メイコ「ん? なんか言った?」
フレルージュ「いえ、何でもありません」
フレルージュ「ただの──」
フレルージュ「──怪人の戯言ですよ」
読後感がこんなに爽やかな怪人ストーリーは初めてです。フレルージュは外側だけでなく内側も熱い男なんですね。だけどそれを大袈裟にアピールすることなく、飄々とした雰囲気があってユニークな存在感です。単純明快な悪の権化ではなく一癖あるミライや、漢気あふれるメイコなども魅力的なキャラクターでした。
フレルージュの生き方に共感を覚えます。
正義とか悪とか、全てを戯言の一言でかたずけてしまっているけど、心根の優しい怪人さんはどこに行く?
フレルージュの生き方、戯言がとても魅力的です。その冷静さにも尊敬の念
すら感じさせられました。本来なら交わるはずもない二人がこうして相手をリスペクトする姿は美しいです。