怪人と喫茶店と私

紫彩

始まりか終わりか(脚本)

怪人と喫茶店と私

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〇レトロ喫茶
  時は令和より、ずっと後のお話。
  空飛ぶ車や、どこにでも行ける扉――なんてものはないけど、それでもまあまあ科学が発展した世界。
  カラン、といつもは聞こえない音が店の中に響いた。
神開 千歳「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
  そんな世界で、私、神開(じんかい)千歳(ちとせ)は喫茶店を開いていた。

〇黒
  神開、この名字のため、子供のころはかいじんかいじんとよくからかわれた。
  だけどある日から、言われなくなった。
  本当に、現れ始めたから。

〇センター街
  いつ、何処から、なんてのはわからない。
  ひょこ、と現れ始めた。
  分かるのは元は普通の人間だった、ということと──
  現れた怪人が暴れまわるということだけ。
神開 千歳「はぁ、重い・・・」
  でも私には関係ない。潰れかけの喫茶店と、今持っているこの多い荷物をどうするか、そんなことで頭が一杯だった。
  そんな時だった。
  きゃあああ!
神開 千歳「えっ、なに?」
  若い女性のような声の悲鳴が後ろから突然聞こえた。
  声がした方へ、向いてみるとそこには──
  ──怪人がいた。
???「・・・」
  現れた怪人は、無言で、何も喋ることなく暴れ始めた。
  炎の玉や、光線を無差別に放っていた。
神開 千歳「嘘・・・怪人?」
  私は突然現れた怪人に、目を奪われていた。
  恐怖か、混乱か、はたまた魅了されたか。分からないが、一歩も動くことが出来ずにいた。
  次々に、壊れていく建物。次々に壊されていく人々。
  くそ、怪対課はまだかよ!
神開 千歳「怪対課?」
  聞きなれない言葉に首をかしげていると、突然大きな揺れとともに、轟音が響いた。

〇センター街
???「・・・」
  現れたそれは、まるでロボットのようだった。
  いや、ロボットなのだろう。怪人は大きいが、それでも2メートル程度の大きさだった。
  しかし、ロボットは怪人の2倍、4メートル弱あった。
  睨み合う2つの人ならざるもの。
「・・・・・・・・・」
  声も出さずに2つの人ならざるものは戦い始めた。
  怪人は先程から放っていたビームをロボットに放つが、
???「・・・」
  ロボットには全く効いていない様子だった。
  次は炎の玉をロボットに放ち続けるが、それを食らいながらも、怪人の方へ歩き続けた。
  そして──
  ──殴った。
???「・・・!」
  ロボットのパンチが効いたのか、一瞬怯む。
  その隙を見逃さなかったロボットは連続で殴り続けた。
  連続で殴られた怪人は、ロボットの猛攻に耐えられず、吹き飛ばされた。
神開 千歳「・・・は?」
  私の横に。
???「・・・!」
神開 千歳「えっ、ちょっ──」
  おもいっきり吹き飛ばされた怪人は、私に気付いたようで、何を思ったか、私を掴み──
  ──逃げた。

〇ビルの裏通り
神開 千歳「──────きゃああああ!!!」
  どすっ、と衝撃が身体の中を駆け巡った。
  どうやら、私は人気のないところに連れ去られたらしい。
???「・・・・・・」
神開 千歳「な、なんで・・・?」
神開 千歳「人質のつもり?」
神開 千歳「だとしたら、意味無いように見えるけど? あのロボットじゃ、ついてこれなさそうだったし・・・」
???「・・・・・・」
神開 千歳「何か、言いなさいよ・・・ そして帰してよ・・・」
???「・・・喜べ」
神開 千歳「は?」
???「お前は、適合者だ」
  目の前の怪人は、急に喋り始めた。
神開 千歳「てき、ごうしゃ?」
???「そうだ。お前も、上位の存在になれる」
神開 千歳「な、なに言ってるの!?訳の分からないこと言わないでよ!」
神開 千歳「──げほっ!」
  怪人は目にも止まらぬ速さで、私に近づき、腹を殴った。
神開 千歳「げほっげほっ────」
神開 千歳「──あ"あ"!?」
  めまいがする。吐き気がする。
  いたい
  いたい
  いたい

〇黒
  コワセ、コワセ、コワセ

〇ビルの裏通り
???「歓迎しよう。新たなる同胞よ」
  ・・・・・・
  コワシタイ、コワシタイ、コワシタイ
  コワシタイ、コワシタイ、コワシタイ
  コワシタイ、コワシタイ、コワシ──
  ──違う、違う、違う
  そんなこと、そんなこと、そんなこと
???「そんなこと・・・」
???「・・・なに?」
チトセ「考えていない!!!」
???「──ぐっ!?何をする!」
  頭が、痛い。
  よく分からないけど、感情が上手くコントロールできない。
  けど、
チトセ「お前が、何かしたってことだけ確かだ・・・」
???「襲ってくるとは・・・予想外だった」
???「・・・!ここは、退かせてもらおう」
  そう言って怪人は、何処かへ逃げ去った。
チトセ「・・・はぁ、はぁ、なんだったの?あれ・・・」
  いまここには私しかいないし、落ち着こう──そう思っていると、後ろから大きな音がした。

〇ビルの裏通り
  振り替えると、そこには、さっき見かけた大きなロボットだった。
チトセ「──あ、怪人ならあっちの方へ・・・」
  と言った瞬間、私の見た目はどうなっているか考えた。
  身体は、よく見えない。が、腕は着ていた服とは違う。鎧のような見た目だ。
  そして右手に持っている剣。
  途中から折れていて、折れている場所から、何か赤い炎か煙か稲妻かが出ている。
  もしかして、もしかしてだけど、これって怪じ──
チトセ「きゃっ!?」
  間一髪、右手に持っている剣で防げたが──まずい。
???「・・・」
  完全に怪人だと思われている。
  この状態の相手に対して、人間ですと言っても、聞いてくれるのか?
  いや、絶対隙だと見て攻撃してくる。
  じゃあどうするか。
チトセ「ごめんなさい!」
  逃げる、これしかない!

〇屋上の端(看板無し)
チトセ「・・・・・・はぁ」
  なんとか、ここまで走って、飛んで、逃げれたものの・・・
チトセ「どうすれば戻るの・・・?」
  この身体は戻らないままだった。
チトセ「おもいっきり念じてみたり、とか・・・なーんて」
神開 千歳「・・・は?」
  戻った。
  ・・・
神開 千歳「・・・えぇ」
  どうして、こんなことに・・・
神開 千歳「・・・あ、荷物」

〇レトロ喫茶
神開 千歳「ただいま・・・」
  そう言っても、返ってくるものはなにもない。
神開 千歳「どうしちゃったんだろ、私」
  あの怪人に何かされたのか、怪人になってしまった。
  今の私には、いや人生で見ても無理なあの運動。
  壁を走ったり、ビルを軽々と飛び越えるジャンプ。
  そして、謎のパワー。
  昼まではあんなに重たかった荷物が、軽々と持ち運べた。人間の姿でも。
  でも・・・怪人は気になる。けど、あの怪対課とかいう人達も気になる。
神開 千歳「よいしょっと・・・」
  私はパソコンを取り出し、調べてみることにした。
  あまりテレビとか見ないのがいけないのか、これからはちゃんと情報を調べよう。
  そんなことを考えながら、調べてみると、いろいろ出てきた。
  怪対課。正式名称は怪人対策課。
  数年前からある国直属の組織らしい。
  なのに、なぜ『課』とつくんだろう。
  その理由は、一応警察の一部だから、らしい。
  怪対課は、名の通り怪人を対策、対抗するため、設立された組織。
  兵器やらなんやらを作っているため、一部の国民からは反感を買っているらしい。
  昼に見たあのロボットとかが、主な例だ。
  いろいろ調べて、ふと思った。
  私には関係のない話なのではないかと。
神開 千歳「・・・あー、もう、寝よう。考えていてもしょうがないや」
  私は持って帰った荷物を最低限だけ片付けて、店の奥にある自室に戻って寝た。

〇黒
  とおい、とおい、むかしのきおく。
  私の母と父は、喫茶店を開いていた。
  とても、とても、優しい人達だった。
  口癖は、2人揃って『自分の思うようにやりなさい』だった。
  どうすればいいの、なんて聞いても、そう言うのだから、ある意味、厳しい人達だった。
  高校生の、あの日に、消えてしまったけど。
  怪人に、殺された、らしい。
  2人で買い物に行ったときに、運悪く。
  この世界では、普通のこと、らしい。
  多分、泣かなかった。でも、凄く悲しかった。

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コメント

  • 身勝手に改造されて怪人になって、受け入れ難いのに他人を守るために自ら怪人になるのを選ぶ、なんかすごくかっこいいなぁと感じました!

  • いきなり怪人になってしまって、戦うのは…「自分のわがまま」って言ってますけど、あの子のためですよね。
    自分と同じめに遭わせたくないと思ったんでしょうか。

  • 怪人とたたかうのは、私のわがままと言っているけど、幼い子供を守ろうとした勇気だと思う。怪人の適合者になりたい人など、いるのか怪人に聞いてみたい気がする。

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