エピソード11(脚本)
〇大教室
生徒「どういうこと?」
生徒「10年前の生徒を・・・泉先生が?」
生徒「本当かよ・・・信じらんねぇ」
生徒「岡本瑞穂って誰・・・?」
周囲が騒然としている中でも、佐崎は泉先生を見据えて問い詰める。
佐崎「泉先生答えてください。 昨晩、カメラを差し出すようにメモを残したのは泉先生ですよね?」
佐崎「ツブッターの投稿を見て、慌てて埋めて隠したカメラを回収しに来たんでしょう?」
佐崎「それを、写真部に目撃された恐怖から部員のカメラも回収したかった・・・違いますか?」
泉「・・・・・・」
・・・やめだ、やめやめ!
理事長「こんなの茶番だ!もう終わりにしろ!」
周囲がざわつく中、理事長が急に立ち上がり大声を上げた。
そして、沈黙を守っている泉先生を連れて部屋から出ていこうとする。
佐崎「待って下さい!まだ話が終わっていません!」
理事長「こんなふざけた写真撮ってなんの嫌がらせだ! この学校の評判を落としたいのか!?」
理事長が声を荒げると、佐崎の引き止める言葉も聞かず泉先生と共に出ていってしまった。
やむ無くして、写真部のプレゼンは強制終了される事となった。
視聴覚室から皆が退室する中、佐崎だけは壇上に立ったままマイクを離さなかった。
小田「佐崎・・・なんかよく分からないけど、終わったんだ。もう部室に帰ろう」
俺が諭すと、佐崎は黙って壇上から降りた。それから部室に帰るまでの間、誰も一言も発しないままだった。
〇学校の部室
「あの理事長、ほんっとムカつく!まだまだ話足りなかったのに!」
井上「よかったぁ。 いつもの佐崎ちゃんにようやく戻った」
小田「なぁ佐崎、俺たちにも話してくれないか? お前・・・何か企ててんだろう?」
高月「・・・私から話すよ」
高月「佐崎さん、色々とありがとう」
佐崎「お礼を言われる筋合いはありません。まだ成し遂げていませんから・・・これだと、先生が辞めるか、廃部になっちゃう・・・」
小田「えっ・・・、辞めるってどういう事ですか・・・」
井上「俺たちは廃部の知らせしか聞いていませんよ!?」
高月「まぁまぁ落ち着いて。事情は追って話すから」
高月「先生はね、10年前についてずっと言及していたんだよ」
〇教室
10年前に消えてしまった瑞穂の行方にずっと不信を抱いていたんだ。
当時うちのクラスでは、いじめが起こっていて・・・先生も注意はしていたんだけど、見えない所で横行していたらしくて
・・・助けられなかったんだ。
相談を受けていたにも関わらず、私は守ってやれなった。
〇理科室
当時の私はまだ新米でね、クラス全員と打ち解けられる教師を目標に掲げていたんだ。
そのせいもあって、休みがちな瑞穂となんとか距離を縮めようと気にかけてばかりいた。
関係の構築を模索している中、放課後の補修中に瑞穂から声をかけてくれたんだ。
瑞穂「先生はカメラがお好きなんですね」
高月「あぁ・・・よくわかったね」
瑞穂「とても大切そうに磨いていたので、見ていてなんとなく・・・」
高月「忙しくてほとんど使う機会がない分、せめて手元には置いておこうと思ってね。学校に持ってきてしまったんだ」
高月「趣味が高じて一眼レフまで買ってしまったけど・・・写真部がないのが惜しいよ」
瑞穂「・・・じゃあ、私つくりますよ? 写真部」
高月「えっ・・・? べつに先生に気を遣わなくてもいいんだよ」
瑞穂「高月先生。 私がもし部を作ったら・・・顧問になって頂けますか?」
高月「それは、喜んで申し受けるけど・・・ もしかして、君も写真が好きなのかい?」
瑞穂「・・・はい。先生と同じ一眼レフも持っています」
高月「本格的じゃないか、それは初めて聞いたな。 普段は何を撮っているんだい?」
瑞穂「景色ばかり撮ってます。自分の目で見てる世界が、カメラを通すとすごく美しくて・・・撮影した写真を眺めるが好きなんです」
瑞穂「いっそのこと写真の世界に飛び込んでしまいたい・・・そんな気分になるんです」
高月「カメラと触れあっている時は、嫌な事があっても忘れさせてくれるから、先生もたまに現実逃避で同じ事を考えるなぁ」
瑞穂「先生は何を撮られているんですか?」
高月「私は人ばかり撮っているよ。自分がいつ何処で誰といたか・・・証として残しておきたくてね」
瑞穂「証ですか・・・素敵な考えだと思います」
高月「まぁ、趣味に理由をつける意味なんてないんだろうけど」
瑞穂「好きという気持ちは言葉に表せない感情を兼ねますからね」
瑞穂「表すとしたら、自分を保つ有意義な時間でしょうか。大事な時間がないと自分が壊れてしまいそうになりますから・・・」
高月「自分だけのために好きな事をする時間は、忙しくても作りたいと思ってるから気持ちは分かるよ。なんだか君とは話がよく合いそうだ」
高月「カメラ好きの仲間が増えて、先生嬉しいよ」
瑞穂は引っ込み思案でね。
あまり前には出ない生徒だった。
彼女から声をかけてくるなんて初めてだった。一人の生徒が心を開こうとしている・・・それがなによりも嬉しかったんだ。
今思えば、写真部を立ち上げる前から被害にあっていたのかも知れない・・・
瑞穂は自分のいた世界が淀んで見えていたからこそ、フレームを通した世界に惹かれていたんだと思う。
〇まっすぐの廊下
泉「たかつきせーんせっ!」
高月「あぁ、泉か。何か用かい?」
泉「聞きましたよ~? 写真部の顧問するんですよね。最近瑞穂ちゃんばっかりずるいです」
高月「先生はいつでもクラスのみんなを気にかけているよ」
泉「じゃあ、私のいる放送部に来てくださいって言ったら来てくれますか?」
高月「それは・・・」
泉「ほらっ、ウソばっかり。 私も個別の補修お願いしてるのに・・・いつになったら日程合わせてくれるんですかぁ?」
高月「君なら大丈夫だろう? 理科のテストも満点だったじゃないか。問題なんて全然・・・」
泉「それも瑞穂ちゃんだったら、補習につくんですよね?」
高月「そうは言ってないだろう?」
泉「先生が担当だから頑張れるんです。 私、高月先生が勉強を教えくれるのずっと楽しみに待ってるんですよ?」
泉「瑞穂ちゃんばかり優遇しないでください!」
当時の泉は明るくてクラスの人気者だった。私には何の問題もないように見えた。
・・・ただ、私を振り回すような言動には何度か困ってけどね。
〇学校の部室
小田「もしかしたら、泉先生は高月先生に好意を持っていたのかもしれませんね」
高月「それでも私は教師だ。 当時の私は、クラスの一人一人と上手く関係を築こうと必死だったんだ」
高月「・・・でも、誰とでも打ち解けられる教師なんていないのかも知れない。あの時理想を掲げていた自分は青二才で若かった」
高月「いじめの発端は、一人の生徒に関わりすぎた私の責任なんだよ」
高月「そして、ある日を境に瑞穂は消えてしまった」
高月「それからの私は臆病になってしまってね・・・生徒を干渉しないようになったんだ」
高月「私自身もその分割りきって私情は持ち込まないように努めてきた」
高月「距離感の掴み方は未だに分からないけれど、分からないなりに考えて君たちとも過ごしてきたつもりだよ」
高月「でも、今回の件で部のみんなには迷惑をかけてしまって申し訳ないと思っている」
佐崎「私、嬉かったです。 腹わって相談してくれたこと・・・信用されてるって思えたから」
小田「高月先生あっての写真部ですよ。辞められたらこっちが困ります」
井上「最初から俺にも言ってくれたらよかったのに~」
高月「君たちが写真部にいてくれて良かったと、心から思っているよ・・・本当にありがとう」
佐崎「だからっ!お礼はまだ早いですよ!」
高月「ああ、そうだったね・・・」
〇理科室
最後に目撃されたのは、放課後に理科室向かう姿だったが、学校側に聞いても知らないの一点張りでね。
不信に思った私は証拠を探し始めた。生徒たちの動向もよく観察した。
そして見つけたんだよ・・・うちのクラスの生徒だった泉のロッカーから一つのカメラをね。
それは、瑞穂のカメラだった。
その中身は、いじめられている最中の瑞穂とまるで記念写真を撮るかのように笑顔で写る泉の姿が何枚も残されていた。
・・・泉は瑞穂をいじめていた主犯だったんだ。
・・・絶句したよ。あんなに成績優秀なあの子が、まさか裏でこんな酷いことをしていたなんて・・・
〇学校の部室
小田「学校に告発しなかったんですか?」
高月「それでも、泉は理事長の娘だったからね。そう上手くはいかなかったよ。カメラを提出した所で学校から圧をかけられたんだ」
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